長谷井宏紀監督「言葉の先にある“人”を感じること」『ブランカとギター弾き』ユニセフ特別試写会開催

映画
2017年07月26日

131310_01_R 7月29日(土)より公開される『ブランカとギター弾き』の試写会が日本ユニセフ協会主催で行われ、長谷井宏紀監督とフォトジャーナリストの安田菜津紀が登壇し、トークショーが行われた。

 MCの呼びかけで、本作の監督・脚本を担当した長谷井監督と世界中で貧困の問題を取材してきたフォトジャーナリストの安田菜津紀が登場。

 安田からフィリピンとの縁を聞かれた長谷井監督は「28歳くらいの時に友人が撮影したスモーキーマウンテンの写真を見て、少しヘビーな写真だったのですが、行ってみたいなという気持ちになりました。実際行ってみて、危ないと感じたこともありますが、子どもたちの輝いている力を感じましたね。彼らはプライドを持って仕事していて、遊んでいる。その姿を見て衝撃を受けました。自分が社会的にどこに属しているかを気にしない、たくましく走り抜ける子供たちを見て、なんて美しくて自由なんだと思い、そこからよくフィリピンに行くようになりました」と振り返った。

 すると安田は「この映画は北風と太陽のような話だなと思いました。北風と太陽が旅人のコートを脱がせようとするけれど、結局旅人は太陽の暖かさを受けてコートを脱ぐ。人がコートを脱いでくれるには太陽の熱のような暖かさが必要で、この映画からもその暖かい熱を感じることができました」と話した。

「フィリピンでの撮影中の様子は?」と安田から質問されると、長谷井監督は「街を歩いていると、至る所から僕の名前がコーキ、コーキって呼ばれて、食べ物が出てきて、あったかく迎えてくれる人たちばかりでしたね。フィリピンってすごいなって思うのが、一年前に5分しか会ってない人たちが、また覚えて声をかけてくれるんですよ」と当時を振り返った。

 また、映画の中で日常を切り取ったことについて長谷井監督が、「イマジネーションって人間の素晴らしい力だと思うんだけど、そのイマジネーションを飛ばせない現実がある。シリア、シリア人っていう言葉で止まっちゃってその先に行かない。男と女があり、家族ができ、家族が集まり街になり、区になり、県になり、国になる。その国が集まってできたのが世界。突きつめると人間社会、人がベースなはずなのに」と話すと、世界中で撮影・取材を続ける安田も「言葉で集団をのっぺらぼうにしてしまう。自分が取材を続けている難民も、もともと難民っていう人はいなかったはずなのに」と話し、「それでもこの作品を見てくれた人は、これからフィリピンのニュースを見た時に、ブランカだ、ピーターだって人の顔が浮かぶ。それって心と心の距離感が全く違うと思います」と続けた。

 また、安田から「フィリピンに何度も足を運んでいるのはなぜ?」と聞かれると、長谷井監督は「1つは映画を作るため。好奇心とか、見て見たいっていう欲求の中でフィリピンの子どもたちに出会った。そこで映画を作ろうぜっていう話になって、彼らは忘れているかもしれないけれど、自分は約束は果たさなければという気持ちがありました。この作品は縁の中で出来上がったということですね。今回は企画から仕上げまで10か月という短い時間の中での制作でしたが、現地の人たちと一緒に作り上げている、という思いがありました。プロデューサーに通訳を雇って欲しいって言った時『コーキには通訳はいらない。君のパッションが半減してしまうから』と言われて、それからダイレクトなコミュニケーションを大事にするようにしました。映画は言語を超える、“感じる”芸術だと思っているので、言葉はそんなに重要ではないんです。文化や見た目は決して同じではないけど、お腹が減ったら辛くなるし、大笑いしたり、馬鹿げたことを言ったりするのは一緒。みんな人間だから、どこを行っても物語は一緒。ボーダーを超えて感じることができるのは、映画の特に良いところ」と芸術論を熱く展開した。

 マニラの様子を聞かれると、「劇中でブランカとピーターが歌っているバーがあるんですが、実際ホビットハウスとして経営するバーで撮ったんですね。フィリピンはそういった人たちやいろんなジェンダーの人とかが雑多に生活し交わっているというところに愛があっていいなと思う。クルーにもいろいろなジェンダーの人がいて、それぞれお互いがエネルギーを発しあっている」とフィリピンの多様性についても言及。そこで、難民について取材をしている安田も「難民の受け入れについて考えるとき、違いに触れるってとても豊かなことで、楽しいことであるということに気づかされます」と話した。

 安田が心に残ったという、劇中のピーターが「みんな目が見えなかったら戦争しないのに」と話すシーンについて聞かれると長谷井監督は「映画にはいろいろな作品があってもいいと思う。でも人と何かをシェアするという意味で、自分が作るものは何か温かいものがいいなと思う。ピーターと時間を共にしていく中で、ピーターは感じるということを大切にしていると思った。人が感じ合っていれば、戦争なんかなくなるんじゃないか、言葉というものの先にある“人”というものを想像できなくて情報を飲み込むのではなくで、自分の中で解釈していく。ピーターはとても感じている人で、僕はそのセリフをピーターに言って欲しいと思った」と話した。

 安田も情報過多気味な現代について「今すごく情報があふれ出ていて、自分が立ち止まって思考してみる、感じてみる、というのが欠落しているなと思います」と話し、長谷井監督も「そのことに気づかされてくれたピーターと出会えて本当によかった」と言い、イベントは幕を閉じた。

『ブランカとギター弾き』
シネスイッチ銀座ほか7月29日(土)より全国順次公開

transformer.co.jp/m/blanka/

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