斎藤工インタビュー「THE BLUE HEARTSの7曲のライブビューイング、応援上映みたいな、そういう体感型音楽映画」

特集・インタビュー
2017年04月07日

日本を代表するロックバンド、THE BLUE HEARTS(ザ・ブルーハーツ)。2015年のバンド結成30周年を機に、奇跡の企画が実現。6人の監督が、THE BLUE HEARTSの名曲「ハンマー(48億のブルース)」「人にやさしく」「ラブレター」「少年の詩」「ジョウネツノバラ」「1001のバイオリン」をもとに自由な解釈で映像化。THE BLUE HEARTSの曲のように「がんばれ」と明日への一歩をそっと後押ししてくる珠玉の作品が並ぶ。その中の1つ、井口昇監督の「ラブレター」で主演を務める斎藤工さんにインタビューを行った。クラウドファンドでの映画化、またTHE BLUE HEARTSにまつわる思いなどを聞いた。

斎藤工インタビュー

◆製作から公開まで2年がかかりました。とても感慨深い作品になったのではないでしょうか。

そうですね。この映画は公開まで2年がかかりました。クラウドファンドのおかげで公開できた作品なので、先日もクラウドファンドをしていただいた方に対するお礼上映をしたんです。みんな暗闇の中にいたところから皆さんの力で公開できた作品というか、そのプロセスがクラウドファンドという現代的な手段を取り入れた作品で、観客の皆さんのおかげで公開にたどり着いた、感慨深い作品になりました。ただ撮影の記憶があんまりないんです…。短期間での撮影でもあり、僕だけじゃなくてほかの作品もMAX4日間ぐらいで撮影したんじゃないかな。自分の作品は客観的には見られないので、なんかこう心理的にはコンパスが狂っている状態なんで、どういう作品なのかがよくわからいないんです。ただタイムスリップしたり、手がはさみになったりとキテレツな描写がたくさんあるんですけど、井口監督が描く根っこの部分のドラマ性みたいなものは面白かったです。井口監督の「わびしゃび」という映画が基になっていて、僕が「わびしゃび」のファンなので、それで出演させていただくことになったというのが始まりでした。

◆ほかの5つの作品についてはどうでしたか?

THE BLUE HEARTSに対する同時代性みたいなものが皆さんある方たちだなってことは強く思いました。みんな第1希望の楽曲を軸に作られていて、展開の仕方、表現の仕方っていうのが6方向にきれいに向いているなって。こういうオムニバスってなんていうか、全部全力のものを見続けてしまうと疲れてしまうと思うんですけど、この映画ってそうではないんです。楽曲でいうと「ラブレター」みたいな曲が、どっかこう見る人の心の流れを変えるようなポジションにありますし。

◆6作品はさまざまだけど、THE BLUE HEARTSの曲はやっぱり、テーマはぶれないというか。斎藤さんはTHE BLUE HEARTSに対して、どんなイメージがありますか?

僕は小学校がシュタイナー教育だったので、J-POPとかに触れる機会がありませんでした。年代的にもTHE BLUE HEARTS世代より下というのもあるので、タイムリーにはあんまり認識してないです。それよりファッションとかカルチャー的なもので、THE BLUE HEARTSの存在の大きさみたいなものをほかのジャンルで感じることはあって、ちゃんと楽曲を聴いてなかったんです。ただある年代の方たちがTHE BLUE HEARTSに対して矢印が向き続けているというバイブルになっているというイメージでした。

斎藤工インタビュー

◆強烈な印象を残し続けているTHE BLUE HEARTSの曲を映像化。テーマ性が強く、青春時代のくすぶりを感じるものもありました。特に「ラブレター」に関してはノスタルジックな話でしたよね。劇中では音楽がノスタルジックな気持ちにさせましたが、斎藤さんにとってノスタルジックに思うときが教えてください。

記憶って結構、その人の都合に寄せているものだと思うので、同じ過去の経験でも人によって捉え方が違ったりすると思うんですけど、その人なりの編集をしていて、非常に本人の都合にあったものっていろんなものがノスタルジックと言えて、記憶全般に言えるんじゃないかなっていうのは思うんです。あの瞬間がノスタルジックだったなっていうよりは、その自分への蓄積の仕方がすでにノスタルジック的な行為な気がすごくしました。

◆音楽を聴くとふと思い出すようなことも?

そういう瞬間はいっぱいあるんですけど、でも自分が映画を作るときは音楽から決めていくんです。以前は大橋トリオさんの曲があって、そこに物語が派生していくっていうものだったし。長編に関しては「家族の風景」という曲がどうしても最後にくるという構成にしたい、お母さんの物語だから女性ボーカルのほうがいい。笹川美和さんがカバーされていたので笹川さんの「家族の風景」の権利を脚本が出来上がる前、キャストも決める前から交渉していました。なので、曲とともに何かよみがえるというか、曲とともに人って何かインプットしているんじゃないかなとは思うんです。その要素としてやっぱり音は映画の半分の役割を占めると言われていますけど、本当にそのとおりだなと思います。今回の現場でも「ラブレター」を何回も流していたんです。曲の持っている根本の部分を現場にいる僕らがリンクさせていくというか説明的じゃなくて心情がどっか寄り添うように意識はしていました。個々が感じるものを現場に持ち寄せるというような作りでした。

斎藤工インタビュー

◆斎藤さんは映画に関してコラムを書かれていますが、書く側、出演される側、そして映画を作る側としての映画の楽しみ方、アプローチの仕方は違うと思うのですがいかがですか?

書く側は1番無責任だなっていうことは思うんです。人の映画をひと言ふた言で評するって、これは何かとても無礼だなっていうのはずっと思っていて、とはいえそういう映画を紹介したりする中で、そこまですべてに愛情を持っているかと聞かれたらそんなことないですし、ただ人様の映画にああだこうだ言うんだったら、自分もそっち側の立場になってないとその資格はないかなと僕は思っているんです。映画が0から製作されて、そこから人に届くまでどれだけ大変かを知らない人が語っちゃいけないなとは思っていて、時間はかかりましたけど、やっと長編に。本数でいったら7本目ですけど、いろんなものに予算がかかるとか、そういう普段書く側や出る側だったら見なくてすんでいた部分を、配給さんを決めたり、劇場を決めたり、海外の映画祭にエントリーしたり、いろんなことをしている中で、そう感じています。

◆そういったことを経験されて、また映画評論を書くとなるとまた書き方も変わってきましたか?

もちろん。スクリーンに映ってもいない多分何日もメイクすらしてない現場の女の子がいたり、くたくたのTシャツを着た男の子がいたり、そういう方たちの努力というか、ひと言で評していくってなんて無責任なんだろうっていう、1つ見方の方向が増えたというか、フィルターが増えた感じはします。

◆逆に、見るときに大事にしていることはありますか?

ポイントで見ないことです。メモ片手にここはああだっていうことを見ている最中にしてしまうと、もう解剖でしかないので。今の状況で映画と向き合っているっていう現実を忘れさせてくれる映画がいい映画なんです。そうじゃなくて、もう資料として映画を見ていますっていう感覚がずっと抜けなかったら、それは不思議と人にも響かない作品が多くて。だからその辺の法則は僕の中で結構あったりします。

斎藤工インタビュー

◆映画はそのときの見た人の状況や感情によって捉え方が違ったりしますもんね。この映画はいろんな方向に向いた作品があって、さまざまな状況に合っているものがあると思いました。それでは最後にあらためてPRをお願いします。

日本の映画というか劇場の新しい在り方として音楽を聴きに行く、昔はそういう場所だったと思うんですけど、そういう空間が劇場で、ソフト化される前の映画を見に行くというよりは、そういう音の共有の場に劇場がなっている。音響的にも優れた環境で、THE BLUE HEARTSの6曲プラス最後に「青空」がかかるので7曲のライブビューイング、応援上映みたいな、そういう体感型音楽映画だと思います。THE BLUE HEARTSは、タイムリーで知らない僕より下の世代には多分もう二度と現れないかもしれないアーティストで、その方たちから見たら上の世代が熱狂している、今もなお、引っかかる、そこに心が動くっていう方たちの理由ももしかするとこの作品から感じ取れる、そういう日本史的な要素も含まれている作品な気もしています。何はともあれ、ぜひ劇場でそれを受け止めていただきたいと思います。

 

■PROFILE

斎藤工
●さいとう・たくみ…1981年8月22日生まれ。東京都出身。A型。2001年俳優デビュー。以降、数々のドラマや映画に出演しキャリアを重ねる一方、映画好きとも知られており、映画製作やコラム執筆などでマルチな才能を発揮している。2017年には映画「昼顔」(6月10日(土)公開)「蟲毒 ミートボールマシン」が公開予定。

 

■作品情報

「ブルーハーツが聴こえる」「ブルーハーツが聴こえる」
4月8日(土)より新宿バルト9ほか全国公開

監督:飯塚健、下山天、井口昇、清水崇、工藤伸一、李相日
出演:尾野真千子/市原隼人/斎藤工/優香/永瀬正敏/豊川悦司ほか

©WONDERHEAD/DAIZ

 
●photo/関根和弘