谷原章介インタビュー「抑えきれない苦しみがこぼれ落ちていく鏑木の姿を見守ってほしい」『犯罪症候群 Season2』

特集・インタビュー
2017年06月05日

貫井徳郎の3部作「失踪症候群」「誘拐症候群」「殺人症候群」を東海テレビとWOWOWの共同製作でドラマ化した『犯罪症候群』。フジテレビ系列で放送されたシーズン1では、妹の小百合を未成年者に殺された元刑事・武藤(玉山鉄二)が、復讐心に苦しみながら犯罪に立ち向かっていく姿が描かれた。そして、WOWOWで放送されるシーズン2では主人公が変わり、武藤の友人で小百合の婚約者だった刑事・鏑木(谷原章介)の心の闇に迫る。“復讐の是非”という重厚なテーマに挑む谷原章介さんに、作品の魅力や自身の近況についてお話を伺った。

谷原章介インタビュー

◆武藤から鏑木に主人公が変わる『犯罪症候群』のシーズン2が始まります。シーズン2はどのような作品になっているのでしょうか。

まず、地上波とBSが連動して共同制作するメディアミックスの作品に出演するのは初めてなので、僕自身とても楽しみにしています。やっぱり地上波と、お金を払って見ていただいているお客さんにだけお届けするBS放送とでは、表現できる幅が全然違うんですよ。なのでシーズン2は、より骨太で踏み込んだ内容を描いた作品になっていると思います。

◆今まで明かされることのなかった鏑木の本心や裏の部分がどのように描かれるのか、とても楽しみです。

はい。シーズン1のときは、鏑木は武藤に対して「俺は大丈夫だからお前のことを支えてやる。お前の十字架をちょっと俺が持ってやるよ」という感じで付き合ってきました。それは、同じ大切な女性を失ったことで、武藤の苦しみを鏑木は分かってあげられるということでもありますし、逆に「俺の思いを分かってくれるのは武藤だけだ」というシンパシーを鏑木が武藤に対して感じているからでもあります。なので、追い詰められて求道者のように警察を辞めて苦しんでいる武藤を救ってあげたいという気持ちもまた、鏑木の本心だと思います。いっぽうで、シーズン2では鏑木が背負っている十字架の重さがまざまざと見えてくるんです。実は鏑木は心にすごく深い闇を抱えていて、拭いきれない憎しみや怨嗟みたいなものがずっとある。シーズン1で武藤が小百合を殺した未成年の犯人を殴り続けるシーンがありましたが、あれは抑えきれない感情がうわっと発露した結果だと思います。でも鏑木はずっと抑え続けてしまった。ガス抜きができずに心の中に負の感情がどんどん溜まっていってしまったんです。それが鏑木にどのような影響を与えたのか、シーズン2ではそんな彼の影の部分を描くことになります。

◆脚本を読んだ感想を教えてください。

とても面白いです。役者としても、実際に演じて撮っていくことで分かることが増えてくると言いますか、撮影を通して発見することが多い本だと感じています。あと、僕はシーズン2の展開が固まる前、鏑木が小百合を殺されたことによってサイコキラーのような気がふれた状態になってしまうのか、それともプロの殺人者のような何も感じない冷たい方向になるのか、どちらにしても嫌だなと思っていたんです。けど、今回はそのどちらでもなかったんですよ。なのでとてもいい本だと思いましたし、視聴者の方にもシーズン2の物語を楽しみにしていてほしいです。

谷原章介インタビュー

◆シーズン2では“少年犯罪”という問題がより深く物語に関わってきます。

今作のためにあえて調べるということはしていませんが、日々気になっていることではあります。そういう事件のニュースに触れた際は、失われた命に思いをはせますし、最愛の人を失ってしまった人に思いをはせます。そして、自分の子供、身の回りにいる人々に被害が及ばないように注意深く見てあげなければいけないなと感じますし、僕自身も最愛の人を失うという思いをしたくない、今後他の誰にもそんな思いを経験してほしくないと願います。それはドラマとか関係なく、日々のことですね。究極的に言うと僕は演じているわけで、架空の中での当事者に近くはなっていますが、どこまでいっても実際の当事者にはなりえないじゃないですか。当事者の方たちの気持ちが分かると思ってしまうことは傲慢だと思うんです。なので僕ができるのは、悲しい思いをしてしまった方々の気持ちに寄り添っていたいと心がけるくらいなのかなと。

◆重たいテーマの作品に出演することで私生活に影響を与えたりするのでしょうか。

僕は現場に行って、そこでぐっと役に入り込む、掘り下げるという感じなので、基本的に役を引きずるということはありません。ただ重い作品に入るときは、どうしても気分が重くなることもあります。今まではシーズン1の鏑木の“表の顔”を演じることがメインだったので、これから“裏の顔”に入っていくとどうなるのか、実際に演じてみないと分からない部分ではありますね。

◆撮影現場の雰囲気はいかがですか?

とてもいいです。シーズン1のころは、玉山君や渡部(篤郎)さんと絡むことが案外少なかったですけど(笑)。でも撮影の合間に玉山君と役について話をしたりしました。あと、渡部さんとお話させていただくと、本当に肩の力が抜けていて、かっこいいなあって思いますね。

◆本作は“大人が楽しめるエンターテインメントドラマ”を目指した作品ですが、谷原さんが役者として“大人”になったと感じる瞬間を教えてください。

あまり変化を意識することはないですけど、やっぱり年を重ねて、いろんな現場や撮影を経験してきたことによって、台本の行間の掘り下げ方も変わったでしょうし、表現の引き出しも増えたと思います。そんな中、一番成長を感じるのは自分が考えてきた演技プランと全く違うものを他の演者さんが現場でぶつけてきたり、監督に提案されたとき、臨機応変に対処できるようになったことかもしれません。20代の頃は技術的な問題で十分に対応できなかったなと。もちろん相手の注文に応えることだけがいいとも思わないですし、自分も納得して芝居をしたいですから、ちゃんとお互いの意見を交換して、話し合いながら仕事をしています。

谷原章介インタビュー

◆どんな役者が理想だと思いますか?

うまく言えないですけど、理屈っぽいのは嫌だなと思います。演じていると「今の感じよかった」と思う瞬間があるんです。その瞬間って共演者も監督も周りのスタッフも「そうそう今のだよね、この台本で言いたいことって」という感覚を共有できるんです。そして、それはテレビを見ている皆さんにも伝わるんじゃないかなと。なので僕は、普通に積み重ねていくことで「ああ、そうそう」という感覚を共有できるところにたどり着ける、そんなお芝居をしたいなと思います。

◆ちなみに『王様のブランチ』のMCを卒業されて、生活や仕事にどんな影響がありましたか?

まだ終わってからそれほど経っていないので、何とも言えないですけど、体がとても楽ですね。番組のために映画を見たり、ドラマを見たり、本を読んだりしなくてもよくなりましたから。毎週土曜日の放送に向けて、下準備を10年間ずっとし続けてきたので、それがなくなったというのは単純に楽です。けど『王様のブランチ』はグルメもあれば、映画や本、クイズのバラエティショーみたいなのもあったりと、何でもありの番組だったので、そこで得たことはたくさんあったと感じています。僕がこれから10年間生きていく糧を、今までの10年間でいただいたなと思いますね。

◆では最後に、シーズン2を楽しみにされている方に向けてメッセージをお願いします。

シーズン1では武藤の悲しみに寄り添っていた鏑木ですけども、シーズン2では彼自身の抑えきれない苦しみがこぼれ落ちてきます。それを演じる僕も重い気持ちになるんですが、鏑木が武藤を支えたように、視聴者の皆さんにも鏑木を支えてもらえたらなと思います。

 

■PROFILE

谷原章介インタビュー谷原章介
●たにはら・しょうすけ…1972年7月8日生まれ。神奈川県出身。A型。俳優活動以外にも『王様のブランチ』で10年間MCを務め、現在は料理トーク番組『谷原章介の25時ごはん』(TBS)に出演するなど、幅広いジャンルで活躍中。


■放送情報

『犯罪症候群 Season2』『WOWOW×東海テレビ 共同製作連続ドラマ 連続ドラマW 犯罪症候群 Season2』
WOWOWプライム
6月11日スタート 第1話無料放送
毎週(日)後10・00



●photo/関根和弘 text/松田大介