伊藤沙莉インタビュー「今まで見たことのない私の表情がたくさん詰まってる作品に」映画「獣道」

特集・インタビュー
2017年07月10日

現在、連続テレビ小説『ひよっこ』(NHK総合ほか)では安部米店のさおりを好演中の伊藤沙莉さん。『THE LAST COP/ラストコップ』の栞役も記憶に新しい彼女が映画「獣道」で主演を務める。子役から活躍してきた彼女が、これまでのイメージを裏切る愛に飢えた少女・愛衣を熱演している。


私の新しい扉を開けられるなら、このチャンスは逃しちゃいけない

伊藤沙莉インタビュー

◆今回、『獣道』への出演を決めた理由は?

私にお話が来たこと自体、疑問だったんですが、台本を読ませていただき、とてもリアリティーあるお話で、シンプルに面白かったんです。今までやってきた役柄とは全然違うわけですが、私が愛衣を演じられるなら、彼女の一番の理解者でいたいし、愛衣を誰にも渡したくないと思ったんです。それでこんな面白い作品によって、私の新しい扉を開けられるなら、このチャンスは逃しちゃいけないって!

◆9歳から活動してきた伊藤さんにとって、ヤンキーから夜の世界で働き始める愛衣は、これまでのイメージを大きく裏切る役柄ですよね。

今、23歳ですが、どこかでまだ子供っぽいとか、おちゃらけているとか、誰かいじめているとか、役柄的にもそういう学生感みたいなイメージを持たれているので、もうひと段階、深みがある役をやってみたい気持ちはありました。この映画には、昔からのファンの人にとって、今まで見たことのない私の表情がたくさん詰まってると思います。些細なことでいうと、ヤンキー姿でたばこを吸っている姿だけでも「えー!」と思うかもしれないし、ラブシーンなど、ちょっとセクシーな私も見れますし。私もドキッとしたので、そこは期待してもらっていいかなと(笑)。とにかく私を見るだけで飽きない映画です。

『獣道』

◆キャラの外見だけでなく、内面の演技も難しかったのではないでしょうか?

私が日ごろ持っている感覚だけではできないことばかりでした。愛衣がどんな状況にあっても、愛に飢えているが故の寂しさみたいなものは、できるだけ出したつもりです。このことを忘れてしまうと、完全に軸がブレてしまうような気がしましたから。そういう縛りがある中で、いろんなお芝居をすること自体も初めてでした。

◆あまりにヘビーな役だったこともあり、クランクアップ後に愛衣から抜けることは大変だったのではないでしょうか?

これは共演した須賀(健太)君も言っていたことなんですけれど、私も監督のカットがかかった瞬間にパッと役柄から抜けられるほうなんです。だから、ずっと引きずるようなことはなかったんですが、愛衣への思い入れも半端なかったですし、なるべく孤独になる時間を作っていたので、撮影が終わっても「獣道」のことを考える時間は長かったですね。どこかで燃え尽き症候群みたいな感じになってました。

◆また、ヒップホップ・ユニット「餓鬼レンジャー」とのユニット「餓鬼連合」として主題歌「Miss Pen Pen」も歌うなど、まさに“初めて尽くし”の作品になりましたね。

私が主題歌を歌わせてもらえるときが来るなんて、思いもしませんでした(笑)。しかも、ラップって! MV撮影も初めてだったんですが、後ろにヤンキーを従えて、ラッパーのポチョムキンさんと街を練り歩いて歌っているんですよ。すごくカッコいい仕上がりなので、こちらも見てほしいですね。

◆ワールドプレミアとなった、イタリアの「ウディネ・ファーイースト映画祭」に参加されたときの感想は?

人生初めての海外というだけで、浮き足立っていたんですが、とにかくすごかった! 『フルハウス』など、アメリカのコメディドラマをよく見ていたので、何となく感覚は分かっていたんですが、ここまで海外の方のリアクションがすごいとは! 笑えるシーンでは手をたたいて爆笑してくれるお客さんの反応に、いちいち興奮していたら上映が終わっちゃいました。海外のお客さんからも「面白かったよ」と声をかけてくださったんですが、皆さん日本独特の文化として、ヤンキーや特攻服が好きなことにびっくりしました。とてもヘビーな話ですけど、もがく若者を描いた青春ブラックコメディなので、日本でも笑いながら見てほしいです!


「獣道」から十年計画で物事を考えたい

伊藤沙莉インタビュー

◆「幕が上がる」で共演の吉岡里帆さん、「トランジットガールズ」で共演の佐久間由衣さんといった友人たちの近年の飛躍は、伊藤さんにとって刺激になっていますか?

気づいたら、みんなの背中を見てる状況なので、「早っ」と思ってます。確かに刺激にもなっていますが、シンプルにうれしいです。でも、個人個人のペースはあると思うし、自信があるほうではないですが、どこか自分を信じてないとできない仕事だと思ってるし、100%信じてあげられる人なんて自分しかいないと思うので、変に焦らないつもりです。友人とはそれなりの期間を空けて会うことで、互いの成長も見えてくると思うんで、一緒に上がっていけたらいいなと。ただ、2人とも「ゼクシィガール」なのが気になります(笑)。

◆そんな中、「獣道」は伊藤さんのターニングポイントとなった作品と言えますよね。

そうですね。ただ、ここ2、3年でどうしたいというより、「獣道」から十年計画で物事を考えたいですね。「獣道」は今まで現場での作品に対する向き合い方が変わった作品なので、“ここからどうやって、どういう感じに私は変わっていくんだろう”といった気持ちを大切にして、どんどん突っ走っていきたい。でも、ガンダッシュとかできないんで、まずは競歩ぐらいのペースで頑張ります(笑)。

 

■PROFILE

●いとう・さいり…1994年5月4日生まれ。千葉県出身。A型。ドラマ、映画、舞台で活躍中。2017年は本作のほか、映画「一週間フレンズ。」「ブルーハーツが聴こえる」「ラストコップTHE MOVIE」と出演作多数。公開待機作に「榎田貿易堂」「blank13」などがある。

 

■作品情報

『獣道』『獣道』
7月15日(土)より全国順次公開

<staff&cast>
監督・脚本:内田英治
出演:伊藤沙莉、須賀健太、アントニー、吉村界人ほか

<story>
とある地方都市で生まれた少女・愛衣(伊藤沙莉)はいつも母の愛に飢えていた。そんなある日、信仰中毒の母親によって宗教施設に送られ7年もの間世間から隔離されて生活をすることになる。自分の居場所を探そうと教祖や信者たちと疑似家族を作り上げていく愛衣だったが教団が警察に摘発され保護される。既に違う宗教にはまっていた母の家にも、初めて通う中学校にも居場所はなかった。愛衣は社会からドロップアウトして万引と生活保護で生きるヤンキー一家やサラリーマン家庭などを転々として居場所を必死に探していた。愛衣の唯一の理解者であり、彼女に恋をする少年・亮太(須賀健太)もまた居場所を探す不良少年であった。亮太は半グレたちの世界で居場所を見つけ、愛衣は風俗の世界にまで身を落とす。やがて2人の純情は地方都市というジャングルに飲み込まれていく…。

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●photo/中村圭吾 text/くれい響