船越英一郎インタビュー「女性の怖さは三日三晩語れます(笑)」『黒い十人の女』主演

特集・インタビュー
2016年10月07日

飄々と風のように生きる1人の男をめぐる10人の女たちの愛憎と情念をサスペンスフルに描いた市川崑監督の映画「黒い十人の女」。その公開から55年を経た今、連続ドラマとして蘇った。父・船越英二に続き主人公の風松吉を演じる船越英一郎が意欲を語った。

女性の怖さに関しては三日三晩語れます(笑)

◆「黒い十人の女」のリメイクは船越さん自身の念願でもあったそうですね。

そうなんです。「リメイクするなら今だよ」と、各方面で叫び続けまして。決して不倫ブームに乗っかるわけではないですよ(笑)。もともとこの作品自体、映画からテレビというメディアの転換期にある種の風刺を込めて作られたんですね。刹那を切り取るテレビみたいな文化に毒されていると、この物語に出てくる登場人物みたいになっちゃうぞと。それから50年、テレビがインターネットに脅かされている今だからこそ、リメイクにふさわしいタイミングだと思ったんです。2時間もない映画を連ドラにすると聞いたときはまさかと思いましたが、バカリズムが脚本を書くと聞き、期待が膨らみました。

◆実際、今回の脚本を読んでどんなことを感じましたか?

女性のすてきさ、疎ましさ、滑稽さ、恐ろしさ。さまざまな面をうまく描いているなと思いました。共演の女性陣や女性スタッフからも、「何でこんなに女性の気持ちが分かるの?」と絶賛されているんです。またそれを心の中でつぶやくんじゃなく、登場人物たちに本音として堂々と口にさせるのも面白い試みですよね。

◆女性が苦手なイメージのあるバカリズムさんが女性の気持ちが分かるというのも面白いですね。

実は裏で、ものすごく女遊びしているのかもしれませんよ(笑)。まあ役者の世界だと『お酒が飲めないほど酔っ払いを演じるのが上手い』なんて言いますし、苦手だからこそ客観的に捉えられるってところはあるんでしょうね。

自分より相手を優先できる男はモテます!

◆ご自身が演じる風松吉にはどんな印象を持たれましたか?

基本的には映画版と同じですよね。特別ダンディーでもないし、すごく仕事ができるわけでもないし、時代の最先端を行っているわけでもない。要するに中身がない男なんです。ということは、僕は今まで割と主人公もストーリーテラーも兼ねるような分かりやすいお芝居をして来たんですけど、今回は違いますね。松吉は本当にコレというところのない男ですから。今回はフワフワと刹那を追いかけていこうと思っています。

◆松吉はどうしてどんどん愛人を増やしたんでしょう?

瞬間を生きる男ですからね、深くは考えていなかったんでしょう。特定の一人に固執することなく、そのとき自分を必要としてくれる人がいればいいという。それと男は愚かですから、相手が10人もいれば丸く収まる、もしかしたら愛人同士仲良くなるんじゃないか、なんて考えもあったのかもしれませんね。そんなこと、まずないんですけど(笑)。

◆そんな男にどうして女性たちは惹かれていったんでしょう?

何もない男なんですけど、女性が男に何を求めているのかを察する能力だけは長けているんですよ。だから女性の心の隙間にふっと入り込んでいける。ただ、女性たちも彼自身に心底惚れているというより、自分のアイデンティティーを確立するための存在に過ぎないんですね。だから10人の女それぞれが自分に都合のいい松吉を思い浮かべている。

◆願望をかなえてくれる異性って、確かにすてきかもしれませんね。

そうでしょうね。松吉は自分より相手を優先して、相手の欲求を満たすため自己を犠牲にしてくれますから。ただ、闇雲に相手の欲求を満たしているだけだと、ちょっとサボったとき罪悪感を抱いてしまうんですよ。僕なんかまさにその典型ですけど(笑)。そう考えると、時には相手を突き放してみせる冷たさもモテる男の条件かもしれません。

どんな酷い目に遭うのか、楽しみにしてください

◆中盤以降はどんなところが見どころになりそうですか?

中盤からは女性の危うさや脆さ、怖さみたいなものが描かれてくると思うので、ハラハラドキドキする展開になるんじゃないでしょうか。まだ台本は頂いていないので、「バカリズム頑張れ! 分からなかったら聞きに来い!」という感じです。女性の怖さに関しては三日三晩、語れますから(笑)。

◆女性のどんなところに怖さを感じますか?

怒ったとき、攻め続ける女性はあまり怖くないんです。でも溜めこんで爆発するタイプがいて、そっちは怖いですね。男は甘やかされると付け上がってどんどん大胆になるんですけど、溜めこんでいた怒りはある日ドンッと爆発する。そのときは怖いですよ(笑)。ただ、そういう女性も魅力的ではあるんですね。というか、どんな女性もそれぞれ魅力がある。暴れ馬みたいな女性はワクワクさせられるし、湖に浮くボートみたいな女性だったら一緒にプカプカ揺られてみたいし、心地良い羽布団のような女性だったらくるまれてみたい。男ってそういう生き物ですよね。

◆物語に登場する中で、一番魅力的だと思う女性はどなたですか?

いやぁ、選べませんよ。台本に書かれた女性像にそれぞれの女優さんがどういうイメージを乗せてくるのか、楽しみにしています。…ただ、美羽(佐藤仁美)だけはヤバイですね。自分を信頼させてどんどん裏切って行く、悪魔みたいな女性なんです。こういう女性に惚れてしまうとヤケドしますね(笑)。

◆今後の撮影ではどんなことが楽しみですか?

10人もの魅力的な女性に囲まれるのは、やっぱり男冥利に尽きますよね。逆に言えば誰よりも恐ろしい体験をする、ということでもあるんですけど(笑)、この男がどんな酷い目に遭うのか、皆さん楽しみにしていてください。風松吉と10人の女が激しいバトルの末にどういう結末を迎えるのか、見守っていただければと思います。
 

■PROFILE

船越英一郎インタビュー船越英一郎
●ふなこし・えいいちろう…1960年7月21日生まれ。神奈川県出身。B型。
’82年にドラマ『父の恋人』でデビュー。特に2時間ドラマの主演が多いことから“2時間ドラマの帝王”“サスペンスの帝王”と呼ばれる。現在、『船越英一郎 京都の極み』(BS日テレ)にも出演中。10月29日(土)公開の映画『デスノート Light up the NEW world』にも出演。


■番組情報

『黒い十人の女』
読売テレビ・日本テレビ系 毎週(木)後11・59~深0・54

http://www.ytv.co.jp/kuro10/
 
●photo/中田智章 text/小山智久