柄本佑、主演作で義父・奥田瑛二と共演「フラットに現場に入れた」

映画
2021年02月03日

映画「痛くない死に方」完成披露舞台あいさつ

2月20日(土)公開の映画「痛くない死に方」の完成披露舞台あいさつが行われ、 柄本佑、坂井真紀、宇崎竜童、奥田瑛二、高橋伴明監督が登壇した。

主人公の在宅医・河田を演じた柄本は「高橋伴明監督の作品に出させていただくことは、夢のようなものでした。しかも主役という立ち位置で出れて、僕としては非常に幸せいっぱいな作品です」とあいさつ。

在宅で父親を介護する智美役の坂井は「私も佑君と同じように、伴明さんの作品に出れて、とてもうれしく、佑君含め、大好きな役者さんたちの中に今ここに立てていることがすごくうれしいです」と感無量の様子。

末期の肝臓がん患者・本多役の宇崎は「(脚)本を読んだ時、面白いと思いました。本多という役は、ほとんど高橋伴明監督のキャラクターがそのまま生きている。僕は30代前半から伴明監督と酒場で付き合っているという仲なので、何を考えて生きているか、何をやらかしてきたかほとんど知っているので、そのままやればいいのだなと、一切芝居はせずに高橋伴明監督を体の中にそのまま持ち込んできてやらしていただきました。とても楽しく、あっと言う間に撮影が終わってしまいました」と語った。

河田の先輩の在宅医・長野役の奥田は「私は高橋伴明監督とは3本目で、前回の『赤い玉、』は、初老の男がこれからどう生きていくかという映画でしたが、今回依頼が来た時に、(マネージャーから)『映画のお話があります』『監督は誰だ?』『高橋伴明さんです』『あっ、分かった。そういうことで』と言い、『何がそういうことですか?』『だからやるってことだよ』『本は見なくていんですか?』『見なくていいんだよ』と。同世代を生きた者として、仲が良いということもありまして、『いいんだよ』と言うと、『一応本は読んでください』と言われ、本が届きました。『なんだおい、主役、息子じゃねえか』と。義理ですけどね。これじゃあ伴明がやるのなら、一生懸命やらなくちゃいけない。さらに、義理の息子が主演ということで、状況が違う感じに突入しました。普段いいかげんなわけではないですが、役柄も主役の先輩の役なので、今までにない、違う思いで取り組みました」と熱い想いを語った。

脚本と監督を務めた高橋監督は「この映画をやって何よりもうれしかったのは、ここに並んでいる俳優さんたちが参加してくれたことです。かつ厳しい条件の中で頑張ってくれました。乗り切ってくれたスタッフにも感謝したいと思います。頑張りは作品として出せたんじゃないかと思っておりますが、判断をするのは観てくださった方々なので、思ったままに人に伝えていただければと思います」と胸の内を明かした。

本作の前半は、父親のために、痛みを伴いながらも延命治療を続ける入院ではなく“痛くない在宅医”を選択したのに、父親が苦しみ続けてそのまま死んでしまう“痛い在宅医”のケースを描き、後半は、“痛くない在宅医”のケースを描いている。

この構成になった理由について高橋監督は「渡された原作が『痛い在宅医』というタイトルで、本作の前半戦の重い苦しい展開ばかりの内容でした。お話は作れると思ったんですけれど、自分的にはつらいと思いました。自分も65歳になった頃に、自分はどういう死に方をしていくんだろうということを考え始めまして、死に関する本を読むようになりました。在宅医の存在であるとか、日本尊厳死協会があるということは知っていたんですが、その苦しい前半戦に加えて、自分が今考えられる理想の死、こういう風に死んでいけたらなという思いを乗せたので、こういう構成になっています」と説明した。

原作者の在宅医療のスペシャリスト・長尾和宏先生の尼崎のクリニックに行って、往診に付いてまわったという柄本は「4軒くらいお宅に往診に行く際に一緒に行かせていただきました。長尾先生は、近所のおじさんが近くの道を通ったからちょっと寄ったというような感じで、目線を合わせるように座って話をするんですけれど、患者さんの腰なり手なりを握ってあげているんです。映画の後半、(河田が)患者さんに接する時に、触ってあげているということを取り入れました」と明かした。

柄本は、本作を『変身モノ』と呼んでいる理由について、「(坂井演じる智美の“痛い死”をきっかけに、奥田瑛二演じる先輩に師事する中で)服装から髪形から見た目からあれだけ変わるので、2年の時を経てガラッと人が変わるというところで」と説明。

自身の眼鏡を劇中で使用することを提案したそうで「前半は白衣を着て、髪を七三に分けていて、後半は長尾さんのスタイルに寄せ、(白衣は威圧感を与えるので)普通の格好に聴診器だけ持っていくというスタイル。衣装合わせが終わった時、伴明監督に『佑、眼鏡はかけなくていいよな』と言われて、『いいと思います』と答えたんですが、うちに帰って何かの時に頂いた眼鏡が目に入って、いい具合に冷たい感じがするなと思いました。後半白衣を脱ぎ、髪形がラフになるというのと、もう一つ眼鏡をコンタクトとすることで、変身前後で、高低差が出ていいかなと思って監督に写メを送ったら『いいよいいよ』と言っていただけました」と裏話を披露した。

坂井は、父親が苦しみ続けて死んでしまうという役柄で、後半の“痛くない死に方”と違い、つらいシーンが多かった。撮影中の様子を聞かれ「ひと事ではないシチュエーションですので、智美の役と同じような気持ちでいました。」と回想。

智美が柄本演じる河田を前に、病院から自宅に連れ戻した自分が殺したことになるのかと、自分を責めるシーンの撮影では、カメラが柄本向きの時は泣きまくったが、自分向きの時は抑えたそう。その理由について坂井は「時を重ねた部分がどうなっているのかというのが自分の中でありまして、先生にぶつけたい気持ちもあれば、全部出しちゃいたくても、涙が枯れているんだろうと思って、テストの時にそうやりました」と撮影当時の思いを振り返った。

宇崎は、柄本演じる河田が新たに担当することになる明るい末期がん患者役。本編の白髪は地毛だそうで、「何十年もやっているこの髪形なんですけれど、(白髪染めに)25分かかるんです。病人になってもするだろうかと思ったら、しないよねと。25分間で宇崎を偽装するんです。それはあまりにも病人らしくないなと思って、衣装合わせに白髪染めも何もとってバサバサの髪で行ったら、『それでいいじゃない』と言ったんで。あまり人にお見せしたことがないんですけれど、あれが私の本当の白髪です」と告白し、そのかわいらしさに、会場は爆笑に包まれた。

訪問看護師役の余貴美子とのシーンが恥ずかしかったそうで、最初は「言いたくありません」と恥ずかしそうに拒むも、「台本を読んだ時、一つだけ監督に、『あれ、お尻映さないでくれる?』とお願いしました。画面を見たらお尻は映っていなかったんですけれど、完全に余さんには丸見えだったんです(笑)。撮っている間中、恥ずかしかったです」と語った。

宇崎演じる本多が詠むユーモアあふれる川柳は、高橋監督が考えたそうで、特に気に入っている川柳を聞かれると「いうことを きかぬ嬶(かかあ)と 下半身」「丸はげの 主治医勧める 抗がん剤」という2句を挙げ、会場を沸かせた。

奥田が演じた長野は、柄本演じる河田の先輩という設定で、役者の先輩・後輩という実際の関係性にも近い。奥田は「我が一族にはすごい俳優ばっかりですから、そこは普通に(撮影に)入って行きました。婿だからどうしようということはなくて。違う気持ちになるんですよね。何もしない、邪魔しない。つまり役同士で存在する。それってなんだろうという新しい境地にドアをノックしたみたいな、一言では説明できないくらい、すてきな現場でした」と。

柄本は「以前奥田監督作品にも出させていただいたり、『赤い玉、』での共演もあったので、弟であったり、父であったり、妻であったり、役者さんをやっている方がいますけれど、一番ご一緒していると思いますので、フラットに現場にも入れました」と振り返った。

奥田は、衣装を自身の役のモデルである原作者の長尾先生に寄せたとのことで「ご覧の通り僕は八頭身でスタイルがいいんですけれど、そういう自我を出さないように衣装合わせに臨みました(笑)。最初に、高橋監督から『ジーパンだから、ここは』と言われ、ジーパンをはきました。かっこいいジーパンじゃありませんでした(笑)。シャツ、かっこいいシャツじゃありませんでした(笑)。何もムカっとせずに衣装合わせをしていたら、向こうから長尾先生がいらしたんですね。ちらっと黙礼をしたんですけれど、ずっと観察していたら、『なんだ意外と二枚目じゃないか。でもそれを俺が超えているから、高橋監督はちょっとファッションレベルを下げたんだな』というのが、本当の話です」とユーモラスに話し、会場を笑わせた。

長尾先生についてのドキュメンタリー『けったいな町医者』(2月13日~2月19日にシネスイッチ銀座ほか全国順次公開)のナレーションは、柄本が務めた。柄本は『けったいな町医者』の見どころについて「長尾先生一本です。楽しくて、おしゃべりがうまくて、愛情深くてという長尾先生が街を走り回って往診している姿が生き生きとしていて、楽しいんじゃないかと思います。ぜひ楽しんでいただければと思います」とアピールした。

最後に、高橋監督が「コロナ禍の中での上映が20日から始まりますけれど、当然のことながら、苦戦が予想されます。よって、もし観て損はないぞと思われたら、いつもより数倍力を込めて、観て来いと言っていただければと思います」と熱いメッセージを送り、舞台あいさつを締めくくった。

この記事の写真

作品情報

映画「痛くない死に方」
2021年2月20日(土)シネスイッチ銀座ほか全国順次公開

出演者:柄本佑 坂井真紀 余貴美子 大谷直子 宇崎竜童 奥田瑛二

監督・脚本:高橋伴明
原作・医療監修:長尾和宏
制作:G・カンパニー
配給・宣伝:渋谷プロダクション
製作:「痛くない死に方」製作委員会

公式サイト:http://itakunaishinikata.com/

©「痛くない死に方」製作委員会