INORANインタビュー「“こういう時だからこそ、音楽って必要でしょ”っていう」

特集・インタビュー
2021年02月17日

コロナ禍1人で制作し、2020年9月にリリースしたアルバム『Libertine Dreams』の続編にして、通算14枚目となるオリジナル・アルバム『Between The World And Me』を完成させたINORANさん。さまざまな制限を受けざるを得ない現在の社会情勢の中で、音楽人として自らのやるべきことを認識しつつ、尽きることのない創作意欲で生み出された新作について、じっくり語っていただきました。

「“いろいろあるけど、強く生きようよ”という想いは根幹にある」

◆昨年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で音楽活動だけでなく日常生活にもさまざまな変化があったと思うのですが、ご自身はいかがでしたか?

世界が揺れた2020年だったので、僕もみんなと一緒ですね。一変したとまでは言わないですけど、今までにはない経験をした中で価値観も変わったし、いろんなものが変わった1年だったなと思います。

◆生活スタイルや価値観にも変化があったと。

そうですね。移動の自由がないというのは僕だけじゃなく、現代に生きる人間として痛いところじゃないですか。最初は自由を奪われたなと思いましたけど、しょうがないことだから。あと、自分の選んだ職業というものは、こういうふうな状況になると無収入になってしまうんだなと…。それも含めて、“選んでいる”ということなんですけどね。

◆改めて、自分の選んだ職業がどういうものか実感したわけですね。

実生活としては、そうですね。でもそういう時だからこそ、逆の気持ちも芽生えてきて。“音楽というものに何ができるのか”を改めて考える機会をくれた時間だったなと思います。

◆その考えた時間も音楽に昇華されているのでは?

いろんなことを考えましたからね。例えば“田舎に住むか/都会に住むか”とか、今まで考えもしなかったことを考えた人もいるだろうし、自分にとっては価値観を見つめ直せた時間だったんです。前作と今作で合わせて21曲あるんですけど、どちらも同じくステイホームの時期に作ったんですよ。だから、やっぱりそういうものも曲に反映されているのかなと。

◆ステイホームの時期を曲作りにあてられた。

逆に“曲を作らなきゃ”と思ったんですよ。“こういう時だからこそ、音楽って必要でしょ”っていう、責任感や使命感みたいな何かに背中を押されて作り始めたというか。時間があるから人によってはいろんなことをするんでしょうけど、僕は曲を作っていたということですね。

◆そういう姿勢も現れているのか、作品全体にポジティブな空気感が漂っている気がします。

やっぱり聴いてくれる人たちに対して絶望感だとか、そういう嫌なものは与えたくないから。“いろいろあるけど、強く生きようよ”という想いは根幹にあるのかな。その根本は、昔から変わっていないと思います。

◆考える時間が増えることで思いつめて、暗くなったりもしない?

不安や恐怖、少しの怒りだったりいろんな感情が芽生えた時期はあったけど、それをポジティブな方向に変換させるのが音楽だと思うから。そういう部分は忘れないようにしていたし、自分の中で変換していたのかもしれない。やっぱり自分が生み出すものは、ポジティブでありたいですよね。

◆去年の4〜6月という期間にアルバム2枚分の曲を作られたそうですが、最初からそうしようと思っていたわけではなく、曲がたくさんできたので2枚に分けた感じでしょうか?

後者ですね。曲を作り始めた時に“アルバムを出そう”とは思っていたんですけど、(1枚の)アルバムに収録する大体の曲数を超えたところでも“まだまだ作ろう”という感じだったのでそのまま作り続けたんです。そうしたら30曲近くになって…、3日に1曲くらいのペースですよね。ただ、これだと1枚に収まりきらないので、“じゃあ二部作にしよう”とは思っていました。

◆作品ごとに何かコンセプトがあって、分かれているわけではない?

そうではないですね。前作の『Libertine Dreams』も含めて、ほぼ作った順番に曲が並んでいるんです。例えば前作のラスト曲(「Dirty World」)の次にできたのが、今作のM-1「Hard Right」で。本当に(曲を作った)時系列が、ほぼ曲順通りになっているんですよ。

◆単純に曲ができた順番に合わせて、2枚に分けられている。

でも季節も(制作期間の)3か月の間にもちろん変わっていくわけだから。特に2020年は状況が刻一刻と変わっていった中で揺れる部分もあったので、一色ではなくなるというか。結果としてアルバム自体が、そういう感じにはなっているんじゃないかな。

◆季節の移ろいが、バラエティ豊かな曲調に反映されているんですね。

あとはやっぱり同じことばかりやってもしょうがないので、自分を突き詰めていくというか。音質も含めて、自分をアップグレードしていくという作業が楽しかったですね。好きだったものも食べすぎると飽きてきちゃって、違うものを食べたくなるものじゃないですか。それと同じように曲調も、次に作る曲ではガラッと変わったりするし、普遍的な音の種類に関してもブラッシュアップしていった感じです。

◆そういう中で自然と異なるタイプの曲が生まれていったと。

シリアスな映画を1本見た後に、今度はコメディ映画が見たいなという感じに変わったりするじゃないですか。そういう感じで(曲調も)変わっていくものだから。たとえば6曲目(「Heart of Gold」)と8曲目(「Sinners on the Run」)の間にインスト(M-7「63′」)を挟んであるんですけど、その2曲も全然違うと思うんです。6曲目を作った後に、違うものが思い浮かんだのでインストを作ったというか。

◆ここでインストを挟んでいるのは、曲調が切り替わるという意味もあるんですね。「63′」もインストとはいえ、おまけ的な感じではなく、ちゃんと1曲としての存在感があるように感じました。

ただのインターリュードではないし、しっかり作りました。歌詞とか歌がないとはいえ、マイナス1ではないから。ちゃんと何かを想像できたり、景色が見えたりするようにはしていますね。

「“順応していく”ということがすごく重要」

◆今作の歌詞はご自身で書かれていないわけですが、作詞者の方にイメージは伝えられているんですよね?

アルバムのコンセプトと一緒に、曲の大体のイメージは伝えていて。例えばドラマや小説のように主人公がいたとして、その人が“荒れているところ”だとか“実を結びそうな恋愛に打ちひしがれている場面”だとか、そういう箇条書きのメモを渡したりはしています。あとは、サウンドの雰囲気に合わせて書いてくれた感じですね。

◆例えばM-2「Adrenaline Rush」の“人と同じにってみんな言うだろ? 俺だって試したさ でもつまらなかったさ(※和訳)”という部分のような、社会や世間に馴染めない感じは誰しもが抱えているものなのかなと思ったのですが、ご自身に重なるところもあったりしますか?

僕も共感する部分はあるし、直接的に(自分を)当てはめて考えるものが歌詞だと思うから。そうやって多くの人が共感できるという意味でも、この歌詞はすごく良いなと思います。本当は“自分はスペシャルだ”と思いたいものじゃないですか。でも“スペシャルじゃないのかな?”と思わされたのが、去年のステイホームの時間で。

◆自分という存在に向き合わざるを得ない時間だったわけですよね。

それでも“スペシャルだと言ってもらいたい”という葛藤は、みんなにあると思うんですよ。それを表面に一生出さない人もいるし、しょっちゅう出す人もいるわけで。「Adrenaline Rush」は、そういうところをうまい頃合いで落とし込めている歌詞だと思いますね。

◆“お決まりのじゃない(※和訳)”という歌詞は、音楽作りにも当てはまるところでは?

(歌詞の)主人公がどういう生き様かは知らないですけど、葛藤しながらも“信じていく”のは同じというか。“自分を信じるしかない”っていうところは、やっぱり基本じゃないですか。何事においても、それがスタートだから。そういう部分が出ている歌詞は多いと思いますね。

◆アルバムタイトルの『Between The World And Me』というのも、世界と自分との関係性についてなのかなと。そういうことを考える時間がステイホーム中に、誰しもあったと思うんです。

やっぱり、そういう影が少なからず落ちているアルバムだと思うから。歌詞を書いた2人も当然それを感じながら、書いたんだろうなというのが分かりますよね。たまたま目に止まった言葉だったんですけど、実は前作を出す前から“次はこのタイトルが良いな”と思っていたんです。

◆ご自身の中では、どういう意味合いで使われているのでしょうか?

この言葉をこれから噛み砕いていくというか、いつでもしっかりと考えながら生きていけるような言葉だなと思っています。だから今どうのこうのというのは、そんなにないですね。まだまだ勉強中だし、自分が生きている意味というのもわかっていないから。

◆世界もどんどん変わっていくし、自分も変わっていく。1つの答えだけがあるわけではないというか。

だから、“順応していく”ということがすごく重要で。そして、“問いを持つ”というか。何にでも“どうしてだろう?”とか、“これって今、俺に合っているのかな?”とか、そういうことを考える機会をくれた期間だと思うんですよ。問いの先には絶対に明るい方向に持っていく自分の思考と、ある程度の終わりを置くべきですけどね。そういう意味でも、“順応していく”ことは大事だと思います。

◆コロナ禍の影響もあって、前作・今作とお1人で制作されたわけですが、これまでのバンド形態でやるのとは違う面白さも感じられたのでは?

でも最近はたまたまバンドスタイルが定番化していただけで、こういう作品も経験上なんとなくは作れちゃうんですよね。ただ、これだけ振り幅を大きくしたというところで、追及の仕方と結果は面白かったと思います。こういう音じゃなかったら、ランディ・メリルという選択肢もなかっただろうから。

◆レディー・ガガやジャスティン・ビーバー、アデルといった数々のビッグネームを手掛けてきたランディ・メリルにマスタリングを依頼したことで、今の時代の音をより反映した作品になったように感じます。

そうですね。だから、ランディの功績はすごく大きいと思います。バンドサウンドだったら、もしかしたらランディじゃなかったかもしれないわけで。

◆とはいえ、今作の曲をバンド形態のライブでやるとなると、またアレンジも変わっていくわけですよね?

変わるでしょうね…。全く変わると思います。

◆そのイメージも、もう湧いている?

ないです! そこまで考えていたら、3日に1曲は作れないですよ(笑)。最初は“とりあえず、俺は動くぞ!”という気持ちだけでやっていましたから。音楽人として、こういう時だからこそ動いていくんだという感じでした。

◆本当に半年先のことも分からない時代になりましたが、そういう中でも良い未来を思い描けているのかなと。

元の状況に戻ることはたぶん当分ないので、さっきも話したように順応して生きていくことがすごく大事になるんじゃないかな。そこに文句を言ったって、何も解決しないから。まず先に進むことが大事なんじゃないかなと思います。そのために、新しい曲を生んでいくっていう。

◆このペースでいくと、どんどん新しい作品がリリースされていくことに…。

誰かが止めてくれないとヤバいですね。やれって言われれば、やりますよ(笑)。

◆楽しみです(笑)。昨年延期になったLUNA SEAのツアーやさいたまスーパーアリーナ公演の振替もあるでしょうし、2021年は忙しくなるのでは?

延期になってしまったこと自体はみんなに迷惑や心配をかけて本当に申し訳ないなと思っているんですけど、ライブをやれるタイミングが来た時にいつでも全力で行けるように準備はしておきたいですね。もちろんLUNA SEAに関しても新曲もあるだろうし、僕自身も行ける時にちゃんと動けるように曲を作っていくし、ライブの準備もしておくという感じです。

PROFILE

●いのらん…1970年9月29日生まれ。神奈川県出身。LUNA SEAのギタリスト。1997年よりソロ活動を開始。これまでにソロで13枚のフルアルバムをリリースするほか、LUNA SEAでも精力的な活動を繰り広げている。

リリース情報

14th Album『Between The World And Me』
2021年2月17日(水)発売

【完全生産限定盤 -LP SIZE BOX-】12,000円+税
【通常盤】3,000円+税
キングレコード

WEB

公式サイト:http://inoran.org/
公式Twitter:https://twitter.com/INORAN_OFFICIAL/
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text/大浦実千