峯田和伸「三浦さんはうそやダサいものをすぐに見破っていく。そこに共鳴できるから、一緒にいてすごく楽しいんです」舞台「物語なき、この世界。」

特集・インタビュー
2021年07月11日

峯田和伸さんが「物語なき、この世界。」で7年ぶり、二度目の舞台に挑む。作・演出を手掛けるのは、前回の初舞台作品や映画「ボーイズ・オン・ザ・ラン」でタッグを組んできた三浦大輔さん。人生にドラマを求める人間のエゴをあぶり出す今作に、峯田さんは果たしてどう立ち向かうのか。前作の思い出とともに、三浦作品の魅力や稽古前の意気込みを聞いた。

◆峯田さんにとって2度目の舞台出演となります。公式コメントでは前回を振り返り、“濃密だった2ヶ月間の暗闇”という表現をされていました。まずはこの言葉の真意を教えていただけますか。

前作(「母に欲す」)はもう7年前になりますよね。あの年の夏は暑くて、ちょうどサッカーのワールドカップが開催されていたんです。僕、ワールドカップが大好きで。でも、全く見られなかったんですよね。稽古から家に帰るころにちょうどテレビで放送されていたんですけど、帰宅するなりスイッチが切れたように寝ちゃって。で、朝起きて、稽古場に行って、室内で一日を過ごすということをずっと繰り返していて。せりふを覚えることにもいっぱいいっぱいでしたし、稽古や本番中に友達と会って遊ぶようなこともなくて。だから、今思い返しても“暗闇の2ヶ月”だったんです(笑)。

◆その経験を経てなお、よくもう一度舞台に戻ってこようと思われましたね(笑)。

僕、暗闇好きなので(笑)。

◆(笑)。ただ、「母に欲す」のパンフレットでは、対談の中で「もう舞台はやらない」という発言もされていました。

えっ、僕、そんなこと言ってました?(笑) うーん、でも、当時は確かにそんな感じだったのかも。きっと最初で最後くらいの気持ちでやろうと思っていたんだと思います。ただ、舞台が終わってからも三浦さんとは家が近かったこともあって、よく会っていたんですね。その会話の中で、“また一緒にやろうよ”ということもお互い言っていたんです。それで3年くらい前かな、はっきりと「やりましょう」と言われたのは。その時、僕は「本当にやるんですか!?」って返したものの、どこかうれしい気持ちもありまして。ほら、恋人と別れたりすると、その時はお互いやってられないという思いがあっても、時間がたって、自分自身も周りの環境も変わったりして、次第に許せてしまうことってあるじゃないですか。あんな感じですかね(笑)。数年たって、僕もまたやってみたいなという気持ちになっていったんだと思います。

◆峯田さんはもともと、一緒にお仕事をされる前から三浦さんが主宰する劇団「ポツドール」のファンだったと伺いましたが、どんなところに魅力を感じていらっしゃったのでしょう?

緊張感ですかね。観ているほうも息をのんでしまうような。客席からステージを観ていると、役者さんの立ち姿や表情から、本番に至るまでの稽古の様子であったり、“身をすり減らしながらやってきたんだろうな”というのが見えてくるようなんですよね。そうした緊迫感にいつも感動します。

◆7年前にご自身が実際に演出を受けた時は、どのような印象を持たれましたか?

すごく大変でした(笑)。でも、それだけのやりがいもありました。それに、絶対に手が抜けないなという緊張感もありました。というのも、こちらとしては、“きっとバレないだろうな”って思うこともあるんです。“一生懸命やってるように見えてるだろうな”って。でもそれが全く通用しなくて。すぐ、「そんなんじゃないよね」「今の本気じゃないよね」って言われるんです(笑)。絶対にうそが通らない。それは2人でご飯に行って、普通の会話をしている時でも同じなんですよね。上っ面なこととか、きれいごとを言えない空気があるというか。お芝居となれば、それがより顕著なんです。ちょっとカッコつけたことをしたり、オブラートに包んだような表現をすると、「なんかダサくない?」って指摘される。僕にもそういうことをダサいと感じるところがあって。共鳴できるんです。だから、こうしてステージに呼んでいただけるのかなと思いますね。

◆そうやって自分の全てをさらけ出してお芝居をすることに難しさや大変さは感じますか?

いえ、すごく楽しいです。それは、ちょっとおこがましいですけど、僕が音楽でやってきたことと近いからかもしれません。例えば、ライブで目の前いるお客さんと一緒に手を動かしたり、「みんなで歌おうぜ!」ってあおるのがダサいなというのが僕の中にあって。でも、やってる方って結構多いじゃないですか。で、盛り上がるじゃないですか。「一体感だ!」とか言って。けど、それって見せかけで、虚構なんじゃないかっていう思いが僕にはあって。そういうスタンスで音楽をやってきたから、三浦さんとも合うのかなって思います。

◆音楽の話題が出ましたが、峯田さんはミュージシャンとしてステージに立つことには慣れていらっしゃると思います。でも、役を背負って立つことにはどのような違いを感じますか?

他の皆さんがどうかは分かりませんが、僕は音楽でステージに立っている時も銀杏BOYZを演じている気がしますね。ステージでは全てをさらけ出すと言いつつ、やっぱり銀杏BOYZの峯田和伸を観に来ているお客さんがいて、それに合わせてどこかで銀杏BOYZの峯田として歌っているところがある。演劇の舞台もそれと変わらないんです。違いがあるとすれば、ライブのステージは自分がプロデュースをし、自分が作った曲を歌っている。その一方で、今回の舞台で演じる今井伸二役は三浦さんに委ねている。銀杏BOYZは委ねられないけれど、こっちは預けられる。その差があるくらいで、どちらもすごく楽しいです。

◆その三浦さんが今作で峯田さんに当てた役は売れないミュージシャンという設定です。現時点ではどのような役にしていこうとお考えですか?

稽古がまだ始まっていませんし(※取材時)、三浦さんともまだ具体的な話し合いをしていないので、これから詰めていこうと考えています。ただ、弁護士役とかではなく、ミュージシャン役なので、自分の中に経験のストックがある。そこからイメージは引っ張り出せるかなと思っていますね。それに、今井と少し境遇が似ている仲間が1人いるんです。最近あまり連絡を取っていなかったのですが、久々に会って話をしてみたいですね。そこから何かしらのヒントが生まれるかもしれませんので。

◆また、主演の岡田将生さんとは初共演になりますね。

すごく楽しみです。僕の中で岡田さんのイメージは“真ん中の人”。何色にも染まれる人という印象があります。反対に、僕は恐らく客観的に見ると1色だと思うので、そのバランスをしっかり考えていきたいですね。お芝居もバンドと同じで、それぞれの立ち位置が大事だと思うんです。ボーカルがこういうやつで、その隣でギターを弾いてるやつがこんな感じで、みたいな。僕はバランスが面白いバンドが大好きなので、もし岡田さんが青色に染まっていくのなら、僕は赤色になる。そういう感じで役を作っていきたいなと思っています。

◆なお、今回の舞台は「自分の人生をドラマチックに彩りたがる人間のエゴ」がテーマとなっています。峯田さんは人生にドラマは必要だと感じますか?

どこかでは必要なのかなと思います。やっぱりずっとリアルばかりだと苦しいですし、人生のどこかにファンタジー的な要素や瞬間が何割かはあったほうがいいのかなって。それに人って、時々自分の人生を意図的にドラマチックにしたがることがあると思うんですね。冷静になってみたら、さしてドラマチックなことが起きてないような時にも。けど、それを求めたがる気持ちは分かる気がします。

◆また、今作は新宿の歌舞伎町が舞台になっていますが、峯田さんにとって歌舞伎町の思い出といえば…?

新宿LOFTやライブハウス新宿ACB(アシベ)というライブハウスがあって、バンドをやり始めたころはよくライブをしていました。1990年代の後半ぐらいですね。お客さんがまだ20人くらいのころで。その当時は大体週末に歌舞伎町でライブをして、終わってから近くの安い飲み屋に入って、いろんなバンドマンと打ち上げをするというのが定番でした。

◆そのころの歌舞伎町には猥雑さがありましたが、今はちょっとなくなりましたよね。

そうですね。かなりきれいになりましたよね。ごみもあんまり落ちてないですし。コマ劇場のあたり(現・新宿東宝ビル)も、昔は夜に歩いていたら怖かったですけど、今は全然そんなことなくて。まさに、あの辺の人だかりを抜けてライブハウスに通っていたんです。合コン帰りの学生が道端で飲んでいたりしてね。僕はああいう集団に加わったことはなかったですけど(笑)。

◆(笑)。では最後に、今回の舞台で楽しみにしていることを教えてください。

「母に欲す」が7年前で、あれから三浦さんとはお互い40歳を超えました。あの時と比べて2人ともいろんな経験をしてきましたし、その中で残していったものや、変えていかなきゃって思ったもの、それに省いたり捨てていったものなどが、たくさんあったと思います。でも、残った根っこの部分はきっと今も同じだし、そこで三浦さんとはつながれると思いますので、今回の稽古でもどんな世界が生み出せるのかすごく楽しみにしています。ただ、もう暴力シーンはやりたくないですね(笑)。三浦さんが監督をした映画(「ボーイズ・オン・ザ・ラン」)でもそうだったんですが、暴力シーンの演出がすごいんですよ。「ここなら本気でたたいても痛くないですから」って、すげぇ分かってるなと思って(笑)。とはいえ、ホント、けがをしたくないので。…まぁでも、どうなのかなぁ。今回もやっぱりあるのかなぁ…(笑)。

PROFILE

峯田和伸
●みねた・かずのぶ…1210日生まれ。山形県出身。ミュージシャン、俳優。1996年にバンド・GOING STEADYを結成。解散後、銀杏BOYZとして活動をスタートさせる。2003年に主演映画「アイデン&ティティ」で俳優デビュー。最近の主な出演作に大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』などがある。

公演情報

COCOON PRODUCTION 2021「物語なき、この世界。」
2021711日(日)~83日(火) 東京・Bunkamura シアターコクーン
202187日(土)~11日(水)京都劇場

STAFFCAST
作・演出:三浦大輔
出演:岡田将生、峯田和伸、柄本時生、内田理央、宮崎吐夢、米村亮太朗、星田英利、寺島しのぶ / 増澤璃凜子、仁科咲姫、日高ボブ美、有希

STORY
売れない俳優を続ける菅原裕一(岡田)は、歌舞伎町の風俗店で、同じ地元からミュージシャンを目指して上京してきた同級生の今井伸二(峯田)と再会する。10数年ぶりに会った2人の間には気まずい空気が流れ、彼らに共通してあるのは夢への諦念だけだった。自分たちの人生にドラマなんて起こりえない”…。そう思った矢先、2人は偶然出くわした中年男性と口論になり、突き飛ばしてしまう。目の前には血まみれになった男性の姿が! 劇的な展開に昂ぶる2人。しかし、果たしてこの世の中にドラマは存在するのだろうか

photo/映美 text/倉田モトキ styling/入山浩章 衣装協力/Sasquatchfabrix.、Onitsuka Tiger

 

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