藤木直人「過去の自分の罪と向き合う姿と、娘を強く思う父親としての在り方。この2つをしっかりと丁寧に表現していきたいと思った」ドラマ『黒鳥の湖』

特集・インタビュー
2021年07月24日

724日(土)よりWOWOWで放送がスタートする『連続ドラマW 黒鳥の湖』。この作品で、藤木直人さんは18年前に犯した罪に再び苛まされる主人公を演じている。現在人気急上昇中の推理作家・宇佐美まことが描く世界に藤木さんはどう対峙したのか。その胸中を伺った。

◆最初に台本を読んだ時の印象はいかがでしたか?

怒涛の展開だなと感じました(笑)。普段、ミステリー小説を多く読むほうではないのもあってか、“これ、どうなるんだろう!?と全く先が読めなくて。しかも、ドラマをご覧になる方にとっては、キャストが豪華なだけに余計に真犯人が予想しづらいと思うんです。事件の裏に隠されたいくつもの秘密が明らかになっていく様子もとてもスリリングですし、これは最初から最後まで楽しめる作品だなと思いました。

◆台本を読ませていただきましたが、本当にどの登場人物も怪しいですよね。

物語は、僕が演じる(財前)彰太が18年前に関わった事件と似た事件が起こるところから始まり、そこに娘が行方不明にもなって、現在と過去の事件がつながっていく。ですから、どんどんと周りにいる人たちが怪しく思えてくるんですよね。それに、実際に悪いことをしている人たちも多くて(笑)。過去の事件を含め、彰太だけが知っている秘密や真相がメインかと思いきや、さらにその上をいく人が多くて驚きました(笑)。

◆(笑)。原作の小説も大変人気ですが、お読みになられましたか?

台本を頂く前に読みました。原作では彰太の過去などがもっと多く描かれていて、より複雑さを感じました。今回ドラマ化するにあたっては、それがややシンプルになり、同時に、全5話ということで時系列にも変化を加えたりして、展開がスピーディーになった印象があります。また、板尾(創路)さんと(杉本)哲太さんの役柄の関係性など、小説とドラマでは違うところもありますので、原作をお読みでない方はぜひ放送後に原作も読んで楽しんでいただければと思います。

◆原作や台本、そして撮影を通して、役に対する変化などはありましたか?

役の印象自体は最初からそれほど大きく変わることはなかったです。ただ、物語が進むにつれて、彰太を取り巻く環境が刻々と変化していくので、そこは気をつけて丁寧に表現していきたいなと思っていました。また、娘が行方不明になり、彼女の身を案じ、“もしかすると命も奪われるかもしれない…”と思う展開はあまりにもつらく、どれだけ想像してもしつくせないものでした。彰太は過去のことに追い詰められながらも、父親としての感情もしっかりと持っている。その2つを絶えず表現していく必要があったので、そこは演じる上でもすごく大変だったのを覚えていますね。

◆彰太はそうした娘への強い愛情はもちろん、過去のことを悔いてしっかりと自分の過ちに向き合いながら、真実を解明しようと奔走します。その姿には誠実さも感じました。

彼が誠実かどうかは…過去の行いを見ると、簡単に「そうですね」とは言えないですね(苦笑)。でも、昔の過ちから逃げようとしない強さは感じました。また、余談ですが、彼が犯した罪は果たしてどのくらいの重さのものなのかということを監督に聞いたことがあったんです。そうしたら、想像していたよりも意外と重たいものだそうで。とは言うものの、よくよく考えたら、彼はうその情報を流しただけで、誰かに犯行を指示したり、直接手を下したわけではないんですよね。ですので、“それでも、(罪は)重くなるのか…”と、ちょっと驚きがありました。

◆むしろ、周りの人間たちのほうがよほど悪どい印象がありましたが…。

そうなんです。みんなすごく自分勝手ですしね(笑)。それに誰もがずっとうそをついていて、隠し通そうとしているから本音や真実が全く見えない。その意味では、たくさんのうそにまみれたドラマですし、ラストまでを見終わった後にもう一度最初から見ると、“ここのリアクションの時はうそをついていたということになるのか…”と、違った楽しみ方ができると思います。中には本当にひどい裏切り方をする人もいますから(苦笑)。全てを知った上で、それぞれの場面場面での反応を見返してほしいなと思います。

◆また、妻・由布子を演じたのは吉瀬美智子さんでした。久々の共演だったと思いますが、いかがでしたか?

これまでにも共演経験があるとは言え、ほとんどセリフの掛け合いもなかったので、しっかりとご一緒させていただくのは初めてでした。現場での立ち居振る舞いがとてもすてきな方だなという印象がありましたね。また、この由布子という女性も大変な役だったので、きっと苦労されただろうなと思いました。由布子は娘がいなくなったことをどのように捉えているかが分かりにくいんです。誘拐と思っているのか、それとも家出をしているだけだと思っているのか…。また、娘がいなくなった原因を知っているのか、そうでないのかもいまいち分からない。そのさじ加減は本当に大変だっただろうなと思います。また、今回は三宅健君との共演も楽しみでした。彰太との絡みは少なかったのですが、彼のパブリックイメージを裏切るような役に挑戦されているんです。彼がどのような演技をしているのか、僕も放送が楽しみですね。

◆なお、藤木さんがドラマWに出演されるのは17年ぶりになります。やはり気持ちも違うものですか?

スタッフさんは以前ご一緒した方が多かったので、そういった意味では慣れ親しんだ現場という印象でした。ただ、今回は岩田(和行)監督がかねてより仕事をしたかったというカメラマンさんをお呼びしていて。映画畑で活躍されている方でしたので、撮り方に少し違いを感じることがありました。例えば、ドラマだと俳優の顔に寄ったカットが多いですが、映画だとそうではないんですね。そのため完成した映像を見ると、全体的に広い画になっているなという印象がありました。やはり小説を映像化するわけですから、“画で魅せる”という強みを大事にされているんだなと感じることが多くて。もちろん、顔のアップで細かい表情を伝えることも大切ですが、それだけではなく、しっかりと作り込んだ映像がたくさん見られるのも今回のドラマの楽しみの1つだなと思います。

◆ちなみに、今回のドラマは「因果応報」がテーマになっています。藤木さん自身、因果を感じることはありますか?

僕はあまり感じることがないですし、考えすぎないようにもしています。強いて言うなら、人生の中で良いことと悪いことがプラスマイナスでイーブンになるのかなと思うぐらいです。だって悪いことが起きた時に、“それは前世の行いがよくなかったからだよ”とか、“子供のころに虫を殺しちゃったからだ…”みたいなことを言い出したら、きりがないですし(笑)。でも、因果応報という言葉で行動を戒めるという意味ではすごく理解できます。“神様が見てるよ”じゃないですけど、道徳的なことも含めて、悪いことをしたら、自分にかえってくるという気持ちを持っていることは大切ですしね。今回のドラマに置き換えてみても、彰太は昔の自分の罪に18年間ずっと負い目を感じていたはずで。だからこそ、どれだけ成功しても、その呪縛から逃げられなかったのではないかと思います。ただ、仮に過去の罪への因果応報を覚悟していたとはいえ、18年たって、かつて自分の身の回りで起こった事件と同じようなことが起き始めたら相当な恐怖ですよね(苦笑)。そうした怖さも含めて、ぜひ怒涛の展開をご覧いただければと思います。

PROFILE

藤木直人
●ふじき・なおひと…1972719日生まれ。千葉県出身。A型。俳優、ミュージシャン。最近の出演作に、ドラマ『エアガール』『姉ちゃんの恋人』、舞台KERA CROSS『グッドバイ』などがある。現在、ドラマ『ボクの殺意が恋をした』、『おしゃれイズム』(ともに日本テレビ系)に出演中。また映画「夏への扉キミのいる未来へ」が公開中。

番組紹介

『連続ドラマW 黒鳥の湖』(全5話)
2021724日(土)後1000~
WOWOWにて放送・配信スタート【第1話無料放送】

STAFFCAST
原作:宇佐美まこと
脚本:小峯裕之
監督:岩田和行
出演:藤木直人、吉瀬美智子、三宅健、服部樹咲、大澄賢也、宅麻伸、板尾創路、杉本哲太、財前直見ほか

STORY
かつて興信所の調査員だった財前彰太(藤木)は18年前に、ある奇妙な事件の調査を依頼されていた。依頼主の谷岡によると、娘が拉致され、ワンピースの切れ端や剥がされた爪が送られてきたという。事件は迷宮入りしたものの、彰太はそれをうまく利用し、現在のザイゼンコーポレーションの社長の座と、美しい妻(吉瀬)や家族を手に入れていた。過去を隠しながら幸せな生活を送っていた彰太。しかしある日、娘が行方不明となり、果ては娘の持ち物が送られてくる。何もかもが18年前の事件に類似していることに気づき、彰太は過去の自分の過ちとの因果に悩み始める…。

 

photo/映美 text/倉田モトキ hairmake/大渡八千代 styling/古田ひろひこ