『下剋上球児』塚原あゆ子監督が明かすアニメーションを取り入れた狙い「最終回までに彼らがアニメの世界に追いついていくようにしたい」

特集・インタビュー
2023年11月26日
『下剋上球児』第7話©TBSスパークル/TBS 撮影:ENO

鈴木亮平さん主演の日曜劇場『下剋上球児』(TBS系 毎週日曜 午後9時~9時54分)の第7話(11月26日放送)を前に、塚原あゆ子監督にインタビュー。球児キャストやアニメーションについて、終盤の見どころなどを聞きました。

本作は高校野球を通して、現代社会の教育や地域、家族が抱える問題やさまざまな愛を描く、ドリームヒューマンエンターテインメント。「下剋上球児」(カンゼン/菊地高弘 著)にインスピレーションを受け企画され、登場する人物・学校・団体名・あらすじは全てフィクションとなる。


◆球児キャスト12人はオーディションで決定されましたが、どのような基準で選ばれたんでしょうか?

まずは野球をできること。プロ級である必要はないですが、運動神経も含めて、やれそうだということが第一にありました。さらに、魅力的な表情をどのくらいお持ちなのかを見させていただきました。オーディションの時はいつもそうなのですが、うまくせりふを言える必要はなくて、相手がしゃべっている時にリアクションが自然に出てくる人にお願いするようにしています。自分のせりふのところにマーカーを引いて覚えるような方が多いので、リアクションが自然にできる方はそんなに多くないんです。なので、そういう方を中心にお願いしたいなといつも思っています。

◆撮影で成長していっている方はいらっしゃいますか?

みんな素晴らしく、それぞれの良さを伸ばしていっています。投手の翔(中沢元紀)と根室(兵頭功海)はこれからライバル関係も描かれていきます。繊細な表情が得意な根室と、身体ごと表現に使ってくる翔のお芝居バトルは見どころになっていくと思います。

◆オーディションで12人からは外れてしまった方々から起用を決めた理由は何でしょうか?

オーディションする過程でどのような役だったらこの人は生きるなという可能性が見えるのが大きいですし、やはり出会いなので、その時に顔を見たということが、次のキャスティングの時に、「あの子もお時間ありますかね?」とプロデューサーたちと話すきっかけになる感じです。やはりストンと決まらないので、A or Bみたいな感じですごく悩みます。彼らの人生のこともありますし、毎回私たちの勝負作と思っているので、その時のベストを探るためにかなり迷います。その迷った時に、「この子はここがいいけど、この子はこっちがいい」となった時の“良かったけど”と“良かった”を伸ばしたい、生かしたいと、逆にキャラクターが生まれます。

◆現場のお芝居が台本に影響したキャラクターはありますか?

たくさんあります。例えば椿谷君(伊藤あさひ)は野球が実はとても上手です。彼にお会いしたからこそ、成長していく2018年のキャプテン像が出来上がりました。伊藤さんは根室役の兵頭さんとも仲が良いのかな?ルックスの感じもきれいできちんとしているのですが、どんどん球児の上に立つ意識で表情が変わっていっています。

日沖兄弟(菅生新樹、小林虎之介)も役が成長していったキャラクターです。壮磨(小林)は奇跡的に小林さんと出会えたのでキャッチャー設定が生かせました。でも、もし小林さんがキャッチャーでなかったとしても、ぜひ菅生さんとやってもらいたかった。芝居の感じが近いし、きっとかわいらしい兄弟になると直感しました。

『下剋上球児』©TBSスパークル/TBS 撮影:Len

◆野球経験のある球児キャストたちと話をして作ったシーンもあると伺いました。

6話はみんなで相談しました。1話、2話でも野球をやっているみたいに見えていたかもしれませんが、キャラクターも覚えていただけたと思うので、もっと分かりやすく野球のシーンが出てきます。ボールを取って、ベースを踏むだけでアウトになる時と、タッチしなきゃいけない時があったり、バットを振っても走らない時と走る時があったり、その辺があまり分かっていなかったりするので逐一聞いています。

◆球児キャストたちと話をしていて得たことはありますか?

野球部ならではのエモさがあるみたいなんです。私は分からないのですが、「椿谷君が後ろにいると、ショートの子は若干深めに守ってやるんですけど、それは愛情なんですよね」と言われて、2話で鈴木さんが「長谷川(財津優太郎)、ちょっとバック」と椿谷を守る陣形にさせて、分かる方は分かるという小ネタは満載に突っ込んでいます。何度か見ていただいてそういう細かいところをチェックしていただきたいです。そして、球児同士が「よっつ」とかの野球用語とかを言っているんですが、それは台本に書いてあるだけではなくて、彼らがあうんの呼吸でやりとりしていたりするので、そういうところも楽しんでもらえるところかもしれないです。

◆リハーサルなど本番以外のシーンも使用されているそうですね。

今はクランクインして3か月ぐらいたっているので、ワンショットでカメラが寄ってもみんなピシッとならずにいるのですが、初めの頃はやはりカメラが向くと緊張で全く別人の顔になってしまうんです。そういった緊張防止で「いつでも回しているよ」と言っていると、だんだんそうじゃない顔になっていくんです。あとは思わず出た表情みたいなところは、たくさんの方に彼らのファンになってもらうために、私が見ていい顔だねと思う顔がちょっとでも皆さんにも出せたらいいなと思って使っています。

◆球児が2代下まで入ってくるということですが、最終話に向けて目立つキャラクターも入ってきたりしますか?

次の代にたくさんスラッガーが入ってきます。それと楡(生田俊平)と壮磨がうまくいったんで、打席が回り出すみたいなのが、彼らが強くなっていった一因だったりします。次の代とその次の代は、先生たちの努力でうまい生徒がスカウトで入ってくるんです。彼らが地道に努力したこと、さらに先生たちが新人を獲得してきたことが、甲子園に行く要因になっていきます。面白いキャラクターだと中世古(柳谷参助)などがいます。己の道を行く侍タイプ。有言実行で「甲子園に行く」が口癖の彼がどんな台風の目になるのかもお楽しみください。

◆本作ならではのこだわりを教えてください。

漫画やアニメにある「すごくカッコいい!」「エモい!」というシーンを大事にしたいなと思っています。なので、子供たちがこうなりたいと思う姿をアニメで見せることで、あと1秒でも早く塁に走り込みたいとか、もっと強くバットを振りたいとかという、1歩先に行く感じを表現したいなと。私は陸上をやっていたのですが、もっと早く走れたらいいのにと想像しながら走る、それは自分ではなくて、どこかのヒーローなんだと思うんです。「スラムダンク」を見てから、日本でやっているプレーを見ると、カッコいいところを自分の脳がアニメ化するんです。こんなことができるんだって、感動するんでしょうね。それが人間から発せられていることも感動なんだけど、その瞬間の美しさとか、それがちょっとの違和感とともにだんだん最終回に向けてなじんでいくように作っていこうかなと。

◆アニメーションのところは時間がゆったり流れる感覚があって、感動を引き延ばしてもらえる感覚があるのですが、監督の狙いの中にもありますでしょうか?

例えばホームインする瞬間というのは、これから結構出てきます。10回分あるとしたら、10回違うように撮ることはなかなか難しいんです。どうしても同じことをやっているみたいになってしまうと飽きちゃうんですよね。やっぱり味付けをしないと。三塁から回ってきてホームベースに走っていくというのを1話だけでも3回やりましたが、そこの部分を劇的にするとか、盛り上がりにひとかみしていただけると、毎回違う味わいにできていくんじゃないかというのがありますね。実際、球の音やピッチャーの振りかぶる手の音は非常にアニメ的なSEで。アニメがちょっと挟まっていく事で今は違和感なく「劇的」ぐらいですんでいますが、なかったら大げさ!って笑っちゃうと思います。実は手に汗握るとおっしゃっていただけている野球表現は音の世界をアニメにしていることも大きいかもしれません。

アニメは石浜(真史)さんという本当にご高名な方に相談させてもらっています。石浜さんの世界の高校球児のきらめきと、私たちができるスーパースローやワイヤーカメラ、ドローンを使った映像との接点が、ちょっとずつなじんできていて、最終回までに彼らがアニメの世界に追いついていくようにしたいんです。夢見心地でやっていることができていく感動ってあるじゃないですか。最後にそうなっていったらいいなと思って、だんだん私と石浜さんもうまくコラボできていったらいいなと。映像表現の新しい形に挑戦するという意味でも、模索しています。

◆後半の見どころを教えてください。

最後の年代に入っていきます。先生でなくなったからこそ、野球に全力で行ける南雲が描かれます。部活動の顧問は実は教師にはかなりの負担だし、それを当たり前に描くことに違和感がありましたが、家族にも応援され監督として寄り添う中で、新しい大人の背中を見せていけるようになります。カッコよく爽快に勝ち進んでいく南雲、山住、地域のみんなも含めた下剋上をぜひお楽しみください。

『下剋上球児』©TBSスパークル/TBS 撮影:ENO

PROFILE

塚原あゆ子
●つかはら・あゆこ…2005年に『夢で逢いましょう』で演出家デビュー。主な監督作品は『最愛』『着飾る恋には理由があって』『MIU404』『グランメゾン東京』ほか。

番組情報

日曜劇場『下剋上球児』
TBS系
毎週日曜 午後9時~9時54分

<キャスト>
鈴木亮平、黒木華、井川遥、生瀬勝久、松平健、小泉孝太郎、小日向文世ほか

<スタッフ>
原案:「下剋上球児」(カンゼン/菊地高弘 著)
製作:TBSスパークル、TBS
脚本:奥寺佐渡子
プロデュース:新井順子
演出:塚原あゆ子、山室大輔、濱野大輝
編成:佐藤美紀、黎景怡、広瀬泰斗

番組公式サイト:https://www.tbs.co.jp/gekokujo_kyuji_tbs/
番組公式X(旧Twitter):@gekokujo_kyuji
番組公式Instagram:@gekokujo_kyuji
番組公式TikTok:@gekokujyo_tbs

©TBSスパークル/TBS 撮影:ENO
©TBSスパークル/TBS 撮影:Len