「渥美清さんは“一瞬の夢”に命をかけた人」中村獅童インタビュー

特集・インタビュー
2016年06月10日

黒柳徹子さんのエッセイが原作のドラマ『トットてれび』(毎週(土)後8・15~ NHK総合 全7回)。中村獅童さんは、本作で昭和の大スター・渥美清役を好演中です。満島ひかりさん演じる黒柳徹子と渥美清の交流が描かれる第6回(6/11)放送を前に、獅童さんが渥美さんへの熱い思い、そして実在の人物を演じることへの苦悩を語ってくれました。

最初は怖くてオファーを断った

――本作で獅童さんは、「男はつらいよ」シリーズで知られる名優・渥美清さんを演じられていますが、オファーが来たときはいかがでしたか?

渥美さんを演じるってやっぱり怖いんですよね。多分、黒柳さんを演じる満島さんも怖かったと思います。だから、最初はできないって言いました。渥美さんは、叔父・萬屋錦之介と映画『沓掛時次郎 遊侠一匹』(1966年)で共演されたことがあったんですが、この作品は最高傑作だと思っていて、時代劇なのに冒頭からド演歌が流れるような、当時からするとチャレンジングな作品。そして、渥美さんの演技がま~うまい! 親父がプロデューサーをやっていたっていうもありますが、『男はつらいよ』以前に、僕の中では “錦之介の叔父と芝居していたすごいカッコいい役者さん”っていうイメージがあります。二枚目役ではないですが、表現がカッコいい。そんな人の役をやってくれって言われたら、普通断りますよね(笑)。できないですよ。

――なぜできないとおっしゃったんですか?

怖いですし、「なぜ僕が渥美さんなんだろう?」と思ったからです。満島さんやミムラさんなどほかのキャストの方も迷っていたみたいなんですが、みんなの共通の思いとして「物まねショーみたいになることだけは避けよう」っていうのがありました。似せることだけにとらわれてしまうと表現の幅が狭まるじゃないですか。だから、思い切って「みんな仲間。自由にやろう、楽しくやろう」という雰囲気で撮影を始めて。プレッシャーはありましたが、物まねではなく、自分たちの力でどこまで見ている方に納得していただけるだろうと思ったんです。そこに向かおうとしたとき、僕は1人じゃないんだと思いました。

――実際に撮影されていかがでしたか?

僕らは渥美さんたちと同じ昭和の時代を生きた人間かもしれないけど、視聴者が求めることは今と昔では違う。渥美さんって泣けるんですよね。演じていて何でだろうと思います。歌は得意なほうなんですが、第6回の撮影のときは全然歌えませんでした。渥美さんへの思いが込み上げてきてしまって。それは中村獅童のリアル。やっぱり、渥美さんに思い入れがあるんだろうと思います。

『トットてれび』は、リアルタイムで見たくなるドキドキ感がある

――渥美さんのことはいつからお好きだったのですか?

子供のときからです。時代の象徴として、いつも渥美さんがいましたよね。僕がまだ歌舞伎でずっと座っている役しかもらえなかったとき、客席にいる渥美さんを見たことがあったんです。プライベートの渥美さんを僕が一方的に見ているだけですが、誰も知らない渥美さんの顔を見ちゃった感覚がありました。「あ!渥美さんが歌舞伎を観てくださってる!」っていうのが第一印象です。

――そのときの渥美さんの様子は?

渥美さんって寅さんのイメージが強いじゃないですか。でも実際は違いました。白いシャツをパリッと着て、チノパンを履いてらして。だから、渥美さんは僕の中ではチノパンに白いシャツのイメージです。服装は地味でしたが、客席の渥美さんは光り輝いていました。その数年後に渥美さんは亡くなってしまいましたが、後から聞いた話で、渥美さんは歌舞伎だけでなく下北沢の裏にあるような小劇場にもパッと入る方だったと知りました。今って、この作品に出てくる昭和のスターたちのような、時代を象徴する人っていなくなってしまった気がします。それは、芸能に夢を求めなくなったからでしょうね。モラルの時代になってしまった。日本は戦争に負け、美空ひばりさんの歌に癒され、芸能に夢を求めた。時代が変わったことを良いも悪いも認めなきゃいけないと思います。だから、『トットてれび』のように夢みたいなドラマは、今の時代への挑戦ですよね。僕はテレビ世代で、テレビでいろんなことを覚えたし、テレビが大好き。家族で決まった番組を決まった時間に見ていた世代です。だから、今回のドラマもリアルタイムで見ています。事前に完パケ(完成した作品)をいただきましたが、1回も見ていません。この作品にはドキドキ感があって、自分が出ている作品で完パケももらっているのに、リアルタイムで見たくなるドラマなんです。

渥美さんは、“一瞬の夢”に命をかけた人

――渥美さんへの強い思い入れがある中で、どうやって役をつめていったのですか?

脚本の前半部分で描かれている、渥美さんや黒柳さんの苦労時代の舞台裏って誰も知らないじゃないですか。やっぱり、そこを想像して作るのが役者の仕事だと思うんです。上辺だけコスプレして物まねすることも大事かもしれないけど、もっともっと大切なこと。「獅童はミスキャストだと思ったけど、渥美さんってもしかしたらこういう人だったの?」って思わせることが僕らの仕事だから、そこに生きがいを感じるし、そこを想像して説得力を持たせることが役者の醍醐味ですよね。僕は渥美さんとしゃべったこともないですから、渥美さんの普段の姿を想像しながら、メイクさんや衣装さんと「渥美さんね、歌舞伎座に来たときこういう格好してたんだよ」って話をしながら役作りをしました。夢のようだし、作られたドラマではあるんですが、どこかリアリティをもたないとまったくのうそになってしまう。そのさじ加減が難しいんですが、僕が一方的に渥美さんを見ていた初見の感覚を大事にさせていただきました。僕なりの渥美さんを演じています。

――今回、渥美さんを演じてあらためて感じたことがありましたら教えてください。

役者になって、人はなかなか笑わないものだと思いました。たとえば一行の面白いせりふがあったとして、知名度がある人がそのせりふを言うと笑ってくれますが、無名の人が同じせりふを言っても「誰だあの人?」ってなってあまり笑ってくれないんです。それを経験して、喜劇をはじめ人を笑わせることは本当に大変だと思いました。だから、渥美さんはすごいと思うんです。つらいことがあっても、渥美さんの映画を観に行ったら笑顔になる。渥美さんは、人生をかけてやっていたんだと思います。やっぱりエンターテインメントって夢ですよね。歌舞伎もそうですが、あの空間に入った瞬間、みんなで同じ空気を吸って、芝居を観て泣いたり笑ったりする。人生のうち、映画やテレビを観る時間って本当に一瞬の出来ごとですよね。一瞬の夢。渥美さんはそこに命を懸けたんだろうなってことが、今回やらせていただいてあらためて思うことです。…僕の想像ですけどね。演じるってことは想像だから。

 

PROFILE

中村獅童
●なかむら・しどう…1972年9月14日生まれ。東京都出身。O型。
渋谷・コクーン歌舞伎 第十五弾「四谷怪談」が、シアターコクーンにて上演中。映画「日本で一番悪い奴ら」「TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ」が、6月25日(土)公開。

 

作品情報

土曜ドラマ『トットてれび』(全7回)
NHK総合 毎週土曜日 後8・15~8・43

<スタッフ&キャスト>
原作:黒柳徹子
脚本:中園ミホ
演出:井上剛、川上剛、津田温子
制作統括:加賀田透 プロデューサー:訓覇圭、高橋練
出演:満島ひかり、中村獅童、濱田岳、吉田鋼太郎、黒柳徹子ほか

<第6回ストーリー>
徹子と渥美清は顔を合わせればケンカを繰り返していた。しかし浅草育ちの渥美が慣れないテレビの世界で悪戦苦闘する姿を見て、徹子は次第に親しみを覚える。「夢であいましょう」で息の合ったコントを演じる2人の仲は噂になり、マスコミにも書きたてられる。渥美が「寅さん」で大スターになってからも2人の交流は変わらなかった。「兄ちゃん」「お嬢さん」と呼び合った徹子と渥美の出会いから別れまでを描く。

公式サイト(http://www.nhk.or.jp/dodra/tottotv/