

金曜ドラマ『イグナイト -法の無法者-』(TBS系 毎週金曜 午後10時~10時54分)で法律監修を担当したKollectパートナーズ法律事務所の現役弁護士・福島健史氏のコメントが到着した。
本作は、日本の訴訟社会化と飽和する弁護士界の実態をテーマに描く、ダークリーガル・エンターテインメント。2000年以降の司法制度改革により、弁護士の数はこの20年で倍以上に急増し、飽和状態となっている。それによって、依頼人からの弁護士費用が主な収入源となる弁護士たちは、弁護士バッジをつけているだけでは食えない世の中になってしまった。そんな時代だからこそ、もしも弁護士が自ら“人々の間に訴訟を起こさせる”存在となってしまったら…。
「Ignite」=“火をつける”。主人公・宇崎凌(間宮祥太朗)が足を踏み入れたのは、その名の通り、“争いの火種”があるところへと潜り込み、人々に訴訟をたきつけ、あらゆる手段を使って原告を勝訴へと導く、界隈では“無法者”として知られている怪しげな法律事務所。まるで弁護士バッジをつけた“法の当たり屋”ともいえる彼らの目的は金か、正義か…。
本作で法律監修を担当し、現場経験に裏打ちされた知見を基に、脚本制作の初期段階から作品づくりに深く関わってきたKollectパートナーズ法律事務所の現役弁護士・福島健史氏。弁護士として、そして1人の視聴者として、福島氏が『イグナイト』に込めた思いとは?
◆企画を聞いたとき、どんな印象を受けましたか?
従来のリーガルドラマは、法律というルールを軸に事件を解決していく作品が多い印象でしたが、『イグナイト -法の無法者-』は「依頼者自身の声」にフォーカスしている点が新鮮でした。弁護士にとっては何より「依頼者が主役」なので、本作のストーリーが依頼者に軸足を置いて進んでいくところに強く共感しました。
◆裁判とは、もっと冷静で感情を出さない場では?
宇崎凌(間宮)たちは依頼者の感情に寄り添いながら、依頼者を“焚きつけ”ています。そして、宇崎たちも焚きつけの過程で自身の傷と向き合い、依頼者から焚きつけられ、両者の想いが法廷の熱量につながっているのだと思います。
弁護士は感情を抑えて案件に向き合うイメージが強いかと思いますが、実際の裁判でも、感情を大切にしているかで書面や尋問の迫力も、依頼者の声が届くかも変わってきます。
◆宇崎というキャラクターの魅力はどこにありますか?
依頼者からすると波風を立ててくるような弁護士ですが、宇崎は、自身の過去と重ね合わせながら、焚きつけの場面で依頼者に“自分自身と向き合う言葉”を投げかけてきます。ど真ん中ストレートなセリフですが、宇崎だからこそ伝わるものがある。そこに魅力を感じます。
◆劇中では訴訟に二の足を踏む依頼者を“焚きつける”ことがしばしばあります。
訴えることには勇気も覚悟も必要で、反感を買うリスクもあります。それでも、声にすることで初めて届くものがあると思います。イグナイトのメンバーたちは、依頼者とともにその一歩を踏み出していく存在です。本作にはアクションやコミカルな要素があり、テンポの速さも魅力のひとつ。「焚きつける」という行為を通じて、過去ではなく未来に目を向ける姿勢が描かれています。その強く尖ったメッセージこそが、この作品の大きな魅力だと思います。
◆法律監修にはどの段階から携わったのでしょうか?
構想段階から関わり、脚本作りから現場で使う書類・証拠の作成までサポートしています。畑中さん、山田(能龍)さんの脚本をもとに、裁判例を調べて事案や争点を設定していきました。ロースクールの学生なら「このフレーズ、どこかで聞いた」と感じる場面もあると思います。
尋問シーンでは、展開や証拠の整合性を何度も検討し、制作チームと緻密に調整しました。「このセリフで依頼者が納得するか」といった細部まで意識して作ってきました。実際、弁護士からは「金曜夜に見ていたのに仕事に戻された気分」と言われたりもします(笑)。ドラマの世界に、実際の法廷の空気感を重ねることを意識しています。
◆撮影現場でのキャストとのやりとりもあったということですが、思い出に残るエピソードはありますか。
宇崎凌役の間宮祥太朗さんは、第1話から第3話までの“攻め”の尋問が続いていたのですが、第4話の牧田和彦(父親役/大石継太)への主尋問シーンでは一転して優しさと希望にあふれた空気に包まれていました。モニター越しでも胸を打たれ、個人的にもとても好きなシーンのひとつです。
轟謙二郎役の仲村トオルさんからは、第1話の予備試験制度に関するご質問を頂きました。初日だったのですが、仲村さんに予備試験制度を説明する日が来るとは思わず、ドキドキしたのを今でもよく覚えています。
伊野尾麻里役の上白石萌歌さんは、第2話の遺書を提示するシーンで、「依頼者がいる場面で提示する際、配慮はありますか?」とご質問をいただきました。その繊細な視点にはっとさせられ、私自身も学ばせていただきました。
高井戸斗真役の三山凌輝さんは、第4話で初めて尋問に臨まれました。「他の3人とは異なり、あえて動かずに臨む」ということで、撮影前に立ち居振る舞いを綿密に研究されていました。
◆俳優の演技を見て、プロフェッショナルとして感じたことはありますか?
1つのシーンをさまざまな角度から繰り返し撮影するなかで、間宮さんをはじめキャストの皆さんの熱量が一切落ちないのは本当にすごいと感じました。何度も繰り返すうちに「ゲシュタルト崩壊しそう」と話されていましたが、それでも集中力を切らさず、常に真剣に向き合っていたのが印象的です。
どのカットを見ても迫力があり、法廷シーンは毎回、長丁場にもかかわらず圧倒されっぱなしでした。気づけば時間が経っていたと思うほど、現場には引き込まれる熱がありました。
◆弁護士の立場から見て本作はどのような印象ですか?
登場人物たちは依頼者と直接会い、現場に足を運ぶ「現場主義」が描かれています。特に第2話や第3話では実際に病院へ赴くシーンがあり、人と人とのやりとりが生まれる様子に心動かされました。
◆登場人物たちは、どこか弁護士らしくない印象もあります。
“弁護士”というと冷静で感情を表に出さないタイプというイメージがあるのかもしれませんが、現実の弁護士にもいろいろなタイプの人がいます。宇崎のように依頼者と深く関わるタイプもいれば、轟のように軍師タイプもいます。はたまた「カメレオン桐石」のように場面によって人格が変化するタイプもいます(笑)。
◆第2話は宇崎と轟という弁護士同士の見解の相違もリアルでしたね。
あれは“弁護士あるある”ですね。事件の主役はあくまで依頼者であり、弁護士は常に「何が解決なのか」を探し続けています。判決か和解か、その内容をどうするかなど、依頼者にとって最善の選択肢を考え抜く。第2話のように判決がすべてではないこともあります。依頼者が本当に“何を求めているか”を丁寧に対話することが欠かせません。
轟が依頼者家族と向き合うラストシーンには、弁護士としての深みを感じましたし、実際、弁護士仲間からも大きな反響があった回です。
◆エンタメに携わるきっかけは何ですか?
エンタメは日常を癒やして、背中を押してくれる力がある。嫌なこと、つらいことがあるときでも、映画やドラマを見ている数時間は忘れられるって本当にすごいことだと思っています。そこに何か力になることができればという思いで、作品に携わらせていただいています。
◆エンタメ業界全体への思いも強いと伺いました。
今回、制作現場にも通い、スタッフの皆さんの熱量を間近で感じながら過ごしました。
それぞれが自分の役割を全うすることで1つのシーンが形になるという現場のリアルに触れ、プロフェッショナルとして学ぶことが多く、心から敬意を抱きました。
日本のエンタメ業界には、これから大きく広がっていく可能性がある一方で、制度的な保障の弱さや担い手の疲弊といった課題もあると感じています。BABEL LABELさんのような旗振り役が牽引する動きの中で、自分もまた、誰かの“楽しい”を支える力になれたらと思っています。
◆視聴者にはどのように本作を楽しんでほしいですか?
ドラマの中で描かれる依頼者たちの「声」は、誰にとっても他人事ではありません。本作が苦しい思いをしている方々にとって何らかの形で支えになるといいなと思います。
番組情報
金曜ドラマ『イグナイト -法の無法者-』
TBS系
毎週金曜 午後10時~10時54分
<出演者>
宇崎凌…間宮祥太朗
伊野尾麻里…上白石萌歌
高井戸斗真…三山凌輝
浅見涼子…りょう
桐石拓磨…及川光博
轟謙二郎…仲村トオル
<スタッフ>
製作、BABEL LABEL TBS
企画・プロデュース・脚本:畑中翔太(『量産型リコ』『お耳に合いましたら。』『絶メシロード』など)
脚本:山田能龍(「全裸監督」「新聞記者(Netflixオリジナルドラマシリーズ) 」「朽ちないサクラ」など)、山口健人
法律監修:福島健史
音楽:森優太
プロデューサー:山田久人、瀬崎秀人、駒奈穂子
編成:松本友香、杉田彩佳
監督:原廣利(「帰ってきた あぶない刑事」「朽ちないサクラ」など)、山口健人(「イクサガミ」『アバランチ』など)、吉田亮
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