映画ライター高橋諭治&森直人が大絶賛!映画『君はひとりじゃない』トークショー開催

映画
2017年07月15日

129707_01_R 第65回ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞した、映画『君はひとりじゃない』のトークショーが行われ、映画ライターの高橋諭治、森直人が登壇した。

 突然、母親を失った娘・オルガとその父親が、絶望から再生する姿を描いた本作。ベルリン国際映画祭、ポーランドのイーグル賞など数々の映画賞に輝き、アメリカでも辛口レビューサイトRotten Tomatoesで88% Freshという高評価をたたきだした話題作だ。

高橋の「僕は昨年の東京国際映画祭で拝見しましたが、その時はセラピーシーンの写真と原題の『BODY』という情報しかなくて何が何だか?と思っていたけれど、観たら震えるような感動を覚えたんです」と作品の感想を交えたあいさつで、イベントはスタート。

本作の邦題のヒントにもなった主題曲“You’ll Never Walk Alone”について、高橋は「これは1960年代に大ヒットした曲ですが、21世紀の今も世界中で愛されている歌です。サッカー好きの人はピンと来ると思いますが、イングランドのリバプールFCのサポーターソングです。直訳すると“君はひとりで歩かない”となりますが、自分が、自分の愛するチームの12番目の選手となって“俺たちがついているぞ”とエールを贈る歌です。劇中では、真夜中に突然ステレオが起動して流れるんですね。これは一種の心霊描写ですが、見えない誰かが『見守っているよ』というメッセージを送っているという解釈もできます」と解説した。

一方の森は「これはホラー的な文体で作られたセラピー映画」と指摘。「もともと映画は霊的なものと親和性が高いわけですが、人の心は超常現象で語れ、と言わんばかりの表現がされているわけです」という森の発言に、高橋も大きく頷き「この映画は断絶した父と娘の絆が再生する物語ですが、絆を描いたものは溢れている。俳優が涙を誘う演技をするものが多い。そればかりが映画なのか、と思うわけです。例えば、心と心のつながりは人には見えないわけですが、それを伝えるために涙を誘う演技をしますね。でもこの映画は、それらを排除して超常現象だけで描いているわけです。瞬間移動やテレパシーなどが描かれるのはホラーとかSFの分野ですよね。でもこの映画はヒューマンドラマです」と続けた。

さらに、話題は心霊描写が散りばめられたストーリーが花開くラストシーンに移り、森は「この奇妙な描写が面白いのは、霊的なものとリアリズムが混ざっていること。娘と父がセラピストに出会って変わる、というアウトラインですが、即物的なものに接しているリアリストな父に対して、セラピストが霊媒師と来た。最初はオーソドックスなセラピーだけど、心霊描写の仕掛けが点在している。肝となるラストシーンで、観ている側の気持ちがついていけるかどうかで反応が変わります」と。高橋は「さりげないけれど、幽霊が3回出てくるんです。その中に、死んだ母ヘレナなのではないかと思う人物がいます。私にはそう見えたけど他は違うかもしれない。その話を宣伝担当の方にしたところ、監督に確認してくれました。監督の答えは、あれがヘレナだと思った人も、思わなかった人もOK、という回答でした。監督がさりげなく散りばめたミステリーでした。納得の答えでした。正解を探す映画ではないですしね」と独自の解釈を披露した。

さらに、劇中、オルガが奇妙な格好をしているシーンが登場することについて森は「楳図かずお的なことだと思いましたが、蜘蛛みたいな……」と興味深い話を始めると、高橋も「あれは『エクソシスト』みたいですね。思春期の少女が悪魔に取り憑かれる映画ですが、あそこから、悪魔を取り払った描写と考えられるのではないでしょうか。あの動きは、オルガの不安定な心理を描写しているのだと思います」とともに終始作品を絶賛し、イベントは幕を閉じた。

 映画『君はひとりじゃない』は、7月22日(土)より全国順次公開。

【作品情報】
『君はひとりじゃない』
7月22日(土)よりシネマート新宿、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
©Nowhere sp. z o.o., KinoŚwiat sp. z o. o., D 35 S. A., Mazowiecki Fundusz Filmowy 2015 all rights reserved.
■監督:マウゴシュカ・シュモフスカ
■出演:ヤヌシュ・ガヨス、マヤ・オスタシェフスカ、ユスティナ・スワラほか
■配給:シンカ

<STORY>
突然、母親を失ったオルガ(ユスティナ・スワラ)とその父(ヤヌシュ・ガヨス)。オルガは心身を病んでしまいちと屋に対して心を閉ざす。ヤヌシュは喪失感を拭えず、検察官として事件現場に立つも人の死に対して何も感じなくなっていった。オルガは父を、そして自らの体を嫌悪し、日々、やせ細っていく。父と娘の間には埋められない溝ができていた。そんな娘を見かねた父親がセラピストのアンナ(マヤ・オスタシェフスカ)の元に通わせる。オルガはそこでリハビリを行っていくが、アンナのセラピーは、普通では考えられない方法だった――。