瀬戸さおりインタビュー「“挑戦してよかったな”と思える作品」映画「愛の病」

特集・インタビュー
2018年01月06日

2002年に起きた「出会い系サイト殺人事件」を基に描かれている「愛の病」で主人公・原田エミコを演じた瀬戸さおりさん。実在する人物を演じるにあたっての役作りについて、また撮影中のエピソードを伺いました。


現場で生まれる空気感や感情を大切にして演じました

瀬戸さおりインタビュー

◆本作は2002年に実際に起きた事件を基に描かれた男女の愛憎劇です。台本を読んだ際の作品の印象を教えてください。

お話を頂いてから一番初めに事件のことを調べました。「どうしてこういった事件が起きてしまったのか」と理解し難い部分が多かったですし、調べれば調べるほど分からなくなっていって。でも逆に彼女がどういう気持ちになって事件を起こしてしまったのかというところに興味を持ちました。

◆演じられたエミコは、シングルマザーでお金欲しさに出会い系サイトのサクラを始めたことにより、取り巻く環境が変わっていきます。実在する人物ということもあり、役作りがすごく難しい役だと思うのですが、どういった部分を意識して演じられましたか?

エミコ自身が本能で動いている人だと感じたので、役作りをするというよりは彼女や共演者の方々、そして自分が今まで積み重ねてきたことを信じて演じていこうと。エミコが真之介(岡山天音)と会う時やひと目ぼれするアキラ(八木将康)に出会ってから変化する表情や感情は、撮影現場で生まれることが多かったです。撮影前にも、監督と何度も打ち合わせを重ねて準備をしていきましたが、それに加えて、その現場で生まれた感情や空気を大事にしようと思っていました。また、撮影が進んでいく中で、自分だけの力ではなく、周りの環境や支えてくださった方々がいるからこそ、エミコのような表情や感情が湧き出てくるんだと、今回の現場を通じて経験させていただきました。

瀬戸さおりインタビュー

◆さらに映画初主演で、今まで見られなかった表情をされているなと感じました。そちらの芝居に対してはいかがでしたか?

真之介を演じる岡山君と対峙している時の方が体を張ったなと思います。エミコの心の動きも多かったですし、感情も複雑に絡んできているシーンでした。さらに撮影する順番も台本どおりではなくて、初日にラストシーンを撮ったりしたので、そこまでに心情を持っていくのに苦戦しました。エミコの心情や周りの環境、さらに真之介との関係性を、何よりも体当たりで演じていました。撮影が終わった時に、全部出し切った感じでしたね。出来上がった作品を見て「挑戦してよかった」と思える作品になりました。

◆瀬戸さんから見て、エミコはどういう女性だと思いますか?

最初は彼女のことを理解できなかったのですが、演じてみて、彼女が抱えていた孤独や愛情を求めていたこと、また男性と出会うことで生まれた強い愛情があったことを感じました。エミコは寂しい人で、だからこそ誰よりも愛を求めていたんじゃないかなと。エミコとは反対に、私は両親や友達から愛情を感じて支えられているので、エミコに近づくために撮影期間は誰とも連絡を取らないようにしていました。仕事上では連絡取るんですが、プライベートでは友達と会わないようにして1人の時間を作るように心がけてました。

◆誰とも連絡を取らないというのは、大胆ですね。

そうですね(笑)。家族全員仲がいいので、撮影期間は役作りも含めて自分との戦いでした。話を聞いてほしいのに、誰もいないし誰にも話せない…というのは寂しいですし、話さなくてもただそばにいてくれるだけで安心する人ことってあるじゃないですか。そういうことをも断たれたときに「あぁ、私一人なんだ。これが孤独か」と強く感じました。でもその時にエミコのことを初めて理解できたというか、彼女が持っていただろう感情も知ることができたんだと思います。

◆先ほど、現場で生まれた感情を大事にされていたということですが、現場の雰囲気はいかがでしたか?

すごく良かったです! 監督もスタッフさんも含め、全員がこの作品を良いものにしようとしていたし、皆さんが作品を愛してくださっていることをひしひしと感じました。なので、撮影期間はとても充実した日々でした。だからこそ、私はエミコを生きるということだけに没頭できたんだと思います。特に思い出として残っているのは、ある暑い日にスタッフさんがアイスを差し入れしてくださって、みんなで日暮れを待ちながらアイスを食べる時間がすごくほっこりして。リフレッシュできた時間でした。

◆メリハリって大事ですね。

本当にそうですね。あとエミコの娘役・らんちゃんがすごく自由で愛らしくて。撮影の合間にみんなで勉強を教えてたりして、コミュニケーションをとっていました。らんちゃんと接しているときもリフレッシュできてましたし、らんちゃんが「愛の病」での癒やしでした。あと、こうやって1つの作品に全員が力を注いでいるのが、みんなで作り上げていくんだと感じて。なかなかこういった現場は少ないと思うので、その現場でいろんなことが経験できて本当に幸せでした。

瀬戸さおりインタビュー

◆本作は“愛”が題材になっていると思います。瀬戸さんが愛情を注げるものは何ですか?

家族です。愛情を受けている分、私も愛情を返したいと常に思っています。私が家族からもらった愛情をいろんな人に伝えられたらなと思っています。その気持ちが、この仕事で感動を届けたり、見てくださっている方の気持ちを前向きにすることができたら、この上ないと思います。

◆この作品のオファーを受けた時にご家族に相談されましたか?

作品に向き合うに当たり、母には相談しました。でも「あなたがやるんだから。あなたの人生なんだから自分で決めなさい」って言われた時はすごく心強かったです。だからこそ役にぶつかろうと決意できましたし、作品を少しでも良いものにしていくために頑張ろうと思えました。兄からは「主演おめでとう!」って連絡がありました。役者として認められた気がして、そのひと言だけでもすごくうれしかったです。

◆最後に作品の見どころを教えてください。

作品を見た方によって捉え方も違うと思いますし、感じるものや受け取るメッセージが大きく変わってくると思います。ですが、きっとどこかに共感できる部分があると思います。例えば、愛を求めている、孤独がイヤという部分は共感していただけるんじゃないでしょうか。あと、あるシーンに監督も出演しています。絶対に編集して切られないように試行錯誤されていて、撮影した後には「いい演技だった」って絶賛してました(笑)。…というのを監督から「見どころとして話して」って言われたので、ぜひ探してみてください!(笑)

 

■PROFILE

●せと・さおり…1989年9月19日生まれ。福岡県出身。2013年女優デビュー。主な出演作はドラマ『ドS刑事』(日本テレビ系)『トットちゃん!』(テレビ朝日系)、舞台「君が人生のとき」(演出:宮田慶子)、てがみ座「風紋~青のはて~」(脚本:長田育恵)ほか。本作で映画初主演を果たした。

公式サイト:http://www.watanabepro.co.jp/mypage/20000014/
Twitter:@saori_seto0919

 

■番組情報

「愛の病」
2018年1月6日(土)シネマート新宿ほかにて公開

監督:吉田浩太
脚本:石川均
出演:瀬戸さおり/岡山天音/八木将康/山田真歩/佐々木心音/黒石高大/藤田朋子ほか

公式サイト:http://ainoyamai-movie.com/

<ストーリー>
出会い系サイトのサクラとして働き始めた若きシングルマザーのエミコ(瀬戸さおり)は、工員の真之助(岡山天音)に目をつけ、金を貢がせることを思いつく。エミコに入れ込んでいた真之助を騙すのは容易く、「私はヤクザの組長の娘。結婚を認めてもらうには組への登録料が必要」などと騙し、大金を毟りとることに成功する。しかし、金は元夫からの恐喝や生活費に消えてしまい手元には残らない。そんなある日、エミコは、解体作業員のアキラ(八木将康)と出会い一目惚れ。身も心も捧げるが、アキラには重度障害の姉・香澄(山田真歩)がいることを知る。香澄の存在に煩わしさを感じ、いっそ殺してしまいたいと思ったエミコが連絡した先は、真之助だった…。
 
●photo/中村圭吾 text/宮西由加