前田敦子インタビュー「映画の世界でここまでやらせてもらえることは想像できなかった」映画「葬式の名人」

特集・インタビュー
2019年09月18日

川端康成の作品群をモチーフにした青春群像ファンタジー「葬式の名人」。大阪・茨木市ロケを敢行した本作で、28歳のシングルマザーを演じた前田敦子さんに撮影時の思い出や女優としての“今”についてインタビュー。

前田敦子インタビュー

◆初めての母親役ですね。

年齢的には別に母親役はおかしくはないので、「いいタイミングで、そういう役をもらえた」と思っていました。子役の(阿比留)照太君とは会って、すぐにお芝居する感じだったんです。しかも照太君は本格的にお芝居するのは初めてだったにもかかわらず、コミュニケーション能力が高くて人懐こかったですね。私のせりふもしっかり覚えていたし、逆に私が助けられました。

◆照太君とはどんなコミュニケーションを取られましたか?

私より先に現場にいた高良(健吾)さんと車の話で盛り上がっていて、エンジンの音を聞くだけで車種が分かるぐらい詳しかったですね。10歳の男の子って、ひょっとしたら一番物知りな年ごろなんじゃないかと思ってしまうほどでした。まるで博士みたい!釣りが好きらしく、私にいろんな魚の話をしてくれるのに、実際は何も釣ったことがなかったようで、もうかわいすぎます!

◆ちなみに、関西弁の役を演じるのも初めてですね?

私と高良さん以外は、ほとんど関西の方ばかりの現場で、高良さんから朝ドラ(『べっぴんさん』)の時に苦戦したと聞いていたんですが、ちょっとした発音が難しかったです。照太君にも教えてもらいましたし、舞台の茨木市の高校出身者である脚本の大野(裕之)さんに、台本にリズムの上げ下げを矢印で書いてもらったりして覚えました。

前田敦子インタビュー

◆本作で一番大変だったことは?

短い撮影期間の中、一連の流れで撮るシーンが多く、それだけ集中力が問われることが一番大変でした。樋口監督は「その状況を第三者が見ているような作品」を目指されて、そういう撮り方をしたようで、完成した作品を見た時に、それが腑に落ちました。撮影の時の大変さがプラスに働いたというか、報われた感じになりました。それが映像作品の面白いところだったりするんですが、今回はそれを強く感じました。

◆雪子というキャラに共感できるところは?

雪子が日々の生活を淡々と頑張ることができるのは、子供の存在以外ないと思いますね。撮影の後に、自分も実際に親になって分かりましたが、子供の存在ってすごいんです。それまでは全く感じたことのなかった “沸き上がる何か”を与えてくれる。雪子を演じながら「子供がいるって、こんな感じなんだ!」と思っていたのですが、実際はその比ではないぐらいですね。

前田敦子インタビュー

◆今年公開作だけでも、本作のような主演作、「町田くんの世界」のような助演作、「コンフィデンスマンJP -ロマンス編-」のようなカメオ出演作という、さまざまな立ち位置での出演作が続いています。

2年前に、初めて1か月程度のお休みをもらったんですが、その時に「休むべきではないな」と思ったんです。それで「役の大きさに関係なく何でもやってみたい」と事務所に言ったら承諾してくれて。それをきっかけにいろんな役を頂けるようになり、演じられることが楽しくてしょうがないです。

◆女優デビューから12年、AKB48卒業から7年。この状況は想像できましたか?

自分が好きな映画の世界で、ここまでやらせてもらえていることは想像できなかったですね。最初は「映画に出たい!」と言い続けて、それが「1年に2本出るにはどうしたらいいのか?」みたいな考えに変わっていったのですが、あの時の自分に「良かったね!」と言ってあげたいですね。当時は「映画が好きなんです!」「いろんな映画を見たいんです!」って、映画に興味があることを周囲にとにかく伝えていました。そして恥ずかしがらずに「(映画を)教えてください!」と言っていたことが大きかったんだと思うんです。それでAKB48を卒業したぐらいのタイミングで、「好きな恋愛映画のDVDコレクション」をプレゼントしてくれた犬童一心監督や本作の樋口尚文監督など、周りにいた監督さんたちが「この映画はどう?」といろいろ教えてくれました。そのうちに、現場に呼んでくださったりして。あのとき、1人でこそこそ見ていたら、今の状況はなかったと思いますね。

■PROFILE

前田敦子
●まえだ・あつこ…1991年7月10日生まれ。千葉県出身。A型。ロカルノ国際映画祭クロージング上映作「旅のおわり世界のはじまり」が現在公開中。

■映画紹介

「葬式の名人」

「葬式の名人」
9月20日(金)全国公開

<STAFF&CAST>
監督:樋口尚文
原案:川端康成
脚本:大野裕之
出演:前田敦子、高良健吾、白洲迅ほか

<STORY>
10歳の息子と暮らすシングルマザーの雪子(前田)の元に、高校時代の同級生の訃報が届く。高校卒業から10年、久しぶりに顔を合わせた雪子と大輔(高良)らが参列した通夜は、これまで体験したことのない奇想天外なものだった。

©2018 “The Master of Funerals” Film partners

●photo/金井尭子  text/くれい響 hair&make/熊谷美奈子 styling/高阪あやか