【インタビュー】映画「幼獣マメシバ 望郷篇」に出演!佐藤二朗インタビュー

特集・インタビュー
2014年09月18日

どんな小さなシーンでも抜群の存在感を発揮し、今や日本のエンターテイメント界になくてはならない存在といえる個性派俳優・佐藤二朗。初主演作「幼獣マメシバ」では、冴えないがどこか愛らしい中年ニート・芝二郎を演じ、笑いと感動を届けてくれた。
そんな彼が挑む最新作、映画「幼獣マメシバ 望郷篇」では二郎に新たな出会い、そして高い壁が立ちはだかる。マメシバシリーズを愛した佐藤が、作品に対する思いや役者としてのこだわりを明かしてくれた。

人間と動物のリアルな距離感が“マメシバ”の強み

――“マメシバ”シリーズも今回の映画『幼獣マメシバ 望郷篇』でついに第4弾と、ロングヒット作品になりました。佐藤さんの意気込みもひときわ違うそうですが。

そうなんですよ。今まで3作やってきたんですが、「規模も大きくないし派手なことも起きない、地味な作品だけれども見てください」みたいな遠慮がちな宣伝をこれまではしてきたんですよ。
でも4作目になって、ちょっと今回は素直に、正直に言おうと思って。ほかの日本映画にはないものが埋まっている作品だし、観ないと損をします! いや、本当にね(笑)。
だから、不運にも今までこのシリーズを知らなかった人にも知らせてあげたいし。
知らないでいる人たちを救済するためにもこのシリーズは続けていきたい、それくらい自信を持っているわけですよ。

――ほかの動物作品とは違うんだぞ、と。

そうそう、まず単純に動物映画としてこんな人間と動物のリアルな距離感を描いている作品もほかにないと思うんですよ。それから、僕が主役ってのもね(笑)。僕を主役にしてくれた勇気と、思い切りのよさ、選球眼のよさには僕は一万票入れると思うし。
それから、主役がここまでアクの強い癖がついているのも特徴じゃないかな。“主役は濃いことはしないで脇役がやる”みたいなのが多い中でね。まぁ、それはそれで素敵なことだとは思うんだけど。
中年ニート、引きこもり、口だけ達者っていう役だったけど、そこに濃ゆ~い癖をプラスしていって。だから、いろんな側面でほかの日本映画にないものがこの作品に埋まっているっていうことなんです。

――“マメシバ”で初の主役というのも、特別な思いがあるんでしょうか?

芝居をやるときには主演とか脇役とか、特に意識の差はないかな。
でも2009年からドラマ、映画でマメシバがスタートして5年近く芝二郎を演じてるから感慨深いところはありますね。
この作品は原案者の永森裕二さんが僕に当て書きしたものなんですけど「佐藤二朗のパフォーマンスをもっと前面に出せないか」と考えたのが始まりで。そこで“中年ニート”を思いついたそうなんですけど、それとまた別で進んでいた“子犬のマメシバ”の企画とドッキングさせてできたものなんですよ。最初、僕がNGだったらこの企画自体をなしにしようってくらいの意気込みで書いてくれたということだったのでうれしかったですね。

――芝二郎はまさにハマり役ですよね。5年間同じ役を演じるというのも初めて?

そうなんですよ。僕が最初…40歳かな。芝二郎が35歳。で、4作目の芝二郎は40歳。僕は今、45歳です。2作目ぐらいにね、白髪が僕のアップで見えたの。でも監督が「やっぱり母の庇護の元で、ぬくぬくと親のスネをかじっている引きこもりが白髪だとちょっとね」ってことでNGにしたんですけど。もう僕も45歳じゃないですか。芝二朗も不惑の40歳なんでそれも含めていいか、ということで白髪もOKになって。だからよ~く見ると白髪があったりするんですけど(笑)。そういう変化も、ひとつの役で5年もやってると出てくるわけでね。

Twitterなんかでも、今まで見てきた方から「芝二郎成長したね」という感想をもらったりするので。このドラマは彼がいきなり弁護士になったりとかしないけど、でも見てる人はちゃんと成長を感じているっていう。もしかしたら自分の5年と重ね合わせてる人もいるかもしれないしね。それくらいの成長のほうがリアルだし、作品のテイストとも合ってるんじゃないかなと思います。

――ご自身のプライベートにも変化が?

もちろんありましたよ。一番僕のプライベートで変わったことは、子供ができたこと。2歳半の男の子がいるんだけどね。父親になったということよりも、作ろうと思えたっていうのがこの5年で変化していて。
それまでは、他人の命に責任持つなんていうのは面倒だし大変なことなのでそこは見ないようにしてたんだけど。どういうきっかけでそうなったかは分からないけど5年の間に他人の命に責任持ってみるか、と思えたことが佐藤二朗の中での変化で。微妙な変化ではあるんだけどね。でもそこがまた芝二朗とリンクしてて。

彼も今回初めて能動的に自分で家を出てるんですよ。相変わらずいろんな人に巻き込まれるんだけど、今回は自分から巻き込まれにいってるわけですよ。人にもまれて巻き込まれることもやってみようか、ということもできたのが非常に些細な成長だけど僕と近い感じがして。そういうのもおもしろいよね。だけど、僕はあまり成長の部分は意識せずに、癖もそのままに演じているんだけど。

役者・佐藤二朗が絶対にゆずれないポリシー

――それから、芝二郎のセリフの数々も作品の魅力のひとつですよね。
佐藤さんご自身が感銘を受けた言葉はありましたか?

胸打たれる言葉はたくさんありますよ。この言葉の数々も見どころですからね。とにかくセリフに“詩”がある。僕が好きなセリフなんかもね、映画のポスターに書かれているんですよ。
「人生箱崎ジャンクション」なんてのもね、すばらしい名セリフじゃない? あとこの「低空飛行しとけば落下時に軽傷で済む」とかね。まぁ~、しかし後ろ向きですね(笑)。味のあるセリフだなぁ。
僕がつけている芝二郎独特の癖っていうのもね、こういったセリフがあるからやっていて、セリフという土台があってこそなんですよ。
脚本の永森さんもそれを見てさらに進化させていったと思うし。でも本当にこの本、このセリフは永森さんにしか書けないもので、芝二郎のセリフは僕にしか言えないと思う。そういう感じはありますね。

――それほどキャラクターにぴったりハマったとはいえ、役作りの苦労というのはなかったんですか?

う~ん…そんなに苦労が多かったってことはないかな。まず、永森さんのセリフに僕自身がとても「共鳴」できたから。それから、僕が俳優をやるのにすごく大事にしていることは“かも”ということなんですよ。つまり、「こんな人いるかも」「身の回りにはいないけど栃木県ぐらいにはいるかも」「こんな先生、昔小学校のときにいたかも」とかね(笑)。微妙なラインを狙うのをすごく大事にしていて。
「こんな人いるわけない!」ってなったら、見ている人はマッハの速度で引いちゃうんですよ。興味がなくなっちゃう。

――なるほど。佐藤さんって本当にいろんなキャラクターを演じていらっしゃいますが、ぶっ飛んでる役でもどこか現実味があるような気がします。

例えば刑事をやるにしても、「オーソドックスな刑事ではないけどこんな刑事どっかにはいるかも」と思わせたくて。芝二郎の(アゴを抑えて)うん、うん、ってやる癖の人もそんなにいないはずなんですよ。だけど、「どっかには芝二郎がいるかも」って思わせる。そう意識して芝二郎の役はこういう風に作り上げてったんですよ。まぁ、この役以外でも“~かも”はどんな芝居でも気にしてるんだけどね。

――それと作品のもうひとりの主人公、マメシバの一郎君についてなんですが…。もともと佐藤さんは犬に興味がないそうですね(笑)。

好き嫌いとかじゃなくて…、別に…関心がないんだなぁ(笑)。一郎はもう9匹目なんですけど、まぁ毎回てこずりますよ。犬と一緒にやるってのは。
最初のころは「犬も言うこときいてくれればいいのに」って思ってて。実際聞いてもらえると順調に撮影も進むんだけど、犬という不確定要素がこんなに高い俳優はいないわけでしょ? だったらどうなるかわかんないってのを楽しまなきゃ損だなと思って。
映画の中でも、セリフをしゃべってるときに犬が僕の足の裏をなめちゃう場面があったんですよ。役者が一息で言えるような言葉だったんだけど、ずっとその間に足をなめてるからいったん切って。
「お、ちょっと一郎。こそばゆい」って言ってセリフに戻ることをしたわけ。それも本番だけ足をなめだしたから。動物は間合いを崩してくるわけじゃない? だから、そういう不確定要素を楽しむってことが動物映画をやる役者の醍醐味だと思います。

ゆるくてかわいいだけじゃない「幼獣マメシバ」

――ほかの共演者の皆さんとはいかがでしたか?

最近、若い俳優さんたちが中心の作品が多いので、45歳だと現場で「うわっ!俺、最年長じゃん!」ってなことが多かったんですが、今回の作品は久々に自分より年上ばかりだったんです。そりゃうれしいですよ(笑)。
若い子たちとわーわーやるのも楽しいんですけど、またそういうときは「自分がムードメーカーになんなきゃ」という気の使い方もするじゃないですか。「あんまり無表情でいると若い子たちが緊張しちゃうかも…」とか。でも、年上とやるときは一切気を使わず甘えられるので。
今回、僕が子供のときから芝居をいろいろ見てきた田根楽子さんに出演いただいているんです。
現場でね、田根さんが「私こんな芝居したことないんだけど、大丈夫かしら」って俺に相談してきたくらい監督にいろいろ演出をつけられて、今までにないような芝居を田根さんはしているんですよ。
そういうのも見どころだと思いますし、僕はそういう俳優たちの芝居を受ける側になるので“受けの芝居の楽しさ”もありました。

――映画ではロケーションもまた違いますしね。

そうですね。これまでは埼玉の街中とかで撮ってたんですけど、今回はじめて自分から旅に出るということで島で撮影しました。缶詰になって泊り込みでやったんだけど、非常に都会に比べると時間がゆっくり流れてましたね。情緒というか、そういうのも作品にすごくいい風に影響していると思うし。そこに、芝二郎がああいったセリフを言うのとかは相変わらずで。こういう島で彼がどういう風に人と接していくのかは気になると思いますよ。

――最後に、映画を楽しみにしていらっしゃる皆さんへメッセージを!

これまでは“犬が出ているかわいい脱力系のドラマ”と言ってたけど、決してそんな脱力系ではないと僕は思っています。芝二郎は「頑張るなんてナンセンスだし、一生懸命なんて…」とか言っちゃう、一般的に見たらなかなかどうしようもないやつなんですよ。僕もそうだし、みんな負の部分を抱えていて、それを受け流したりして生活しているんだけど、「頑張るなんてナンセンス」と言ってる彼が、それでも半歩でも前に進むために歯を食いしばって「頑張る」。
映画ではそういう姿をすごく感じられると思うので、僕は決してゆるくてかわいいだけじゃないと思います。
そして何度でも言いますけど(笑)、ほかの日本映画にはないものがこの作品には埋まっています。あなたは観ないと損をする! この映画が発信するさまざまなメッセージを、ぜひ受け取りにきてください。


PROFILE

佐藤二朗●さとう・じろう…1969年5月7日生まれ。愛知県出身。
近年ではドラマ『勇者ヨシヒコ』シリーズや『めしばな刑事タチバナ』での主演、映画『ボクたちの交換日記』『女子ーズ』ほか数々のヒット作に出演。個性的なキャラクターを演じる名脇役として人気の一方で、ドラマ『家族八景』や『吉本興業100周年特別企画~だんらん~』などで脚本家としても活躍している。
映画「幼獣マメシバ 望郷篇」が9月20日(土)に公開されるほか、10月23日(木)からはじまるジョン・バカン原作の舞台「THE 39 STEPS」に出演。

「幼獣マメシバ 望郷篇」公式サイト(http://mame-shiba.info/

 

●photo/中田智章 text/多田メラニー