芋生悠「日本映画の良さを世界の人に伝えたい」映画『ソワレ』

特集・インタビュー
2020年08月25日

芋生悠

映画「ソワレ」で、ある事件をきっかけに逃避行するヒロイン・タカラを演じた芋生悠さん。「TVer(ティーバー)」のCMでも話題の日本映画界の新星に、撮影裏話や好きな映画について伺いました。

◆今回のタカラ役は、100人以上から抜擢されたそうですが、どのようなオーディションだったのでしょうか?

翔太役の村上虹郎さんがオーディションに立ち会われていたので、あるシーンのお芝居をご一緒できました。虹郎さんとはその時が初めましてだったのですが、真っすぐで輝く目がとても印象的でした。その時のお芝居の感触から、「やっぱり、タカラを演じたい!」と感じながら、家に帰ったのを覚えています。

映画「ソワレ」
映画「ソワレ」

◆ちなみに、タカラ役は過去にトラウマを持った役柄です。

この仕事を始めて「自分は役者として生きる」と言っていたものの、どこか中途半端なものを感じていたんです。それがやっと「私は役者です」と胸を張って言えるようになった時に『ソワレ』のオーディションだったので、かなり覚悟がいる役とはいえ、絶対にチャレンジしたいと思っていました。

◆オーディション合格後、脚本を読んだ時の率直な感想は?

「タカラがもっと報われるように、幸せになるように物語を変えられないのか?」と思ったぐらい、とても孤独でかわいそうな子に見えました。これまでもタカラのように大変な思いをする役を演じたこともありましたが、役に振り回されることで我を忘れることもありました。今回はタカラに寄り添い、一緒に歩んでいきたいといった感覚でした。

◆そのため、役作りも大変だったのでは?

タカラはたくさん汚れたものを見ているため、一見とても弱い子に見えるかもしれません。でも、自分の脚でしっかり立っている強い子でもあるので、その芯の強さを出せたらいいなと思っていました。外山文治監督も私の意見を取り入れてくださり、タカラを見守ってくれましたし、虹郎さんも私が迷っている時に、そこにいてくれる存在でした。そのため、お芝居的にもぶつかりにいくことができ、タカラを演じ切ることができました。

芋生悠

◆ちなみに、一番苦労されたシーンは?

タカラは全編通してトラウマを抱えた役なので、そこからずっと逃れられないんですが、翔太君と逃避行をすることで不思議と生きることの幸せや喜びを感じてくるんです。そのため逃避行が始まる前、ドキュメンタリータッチで撮られた序盤の撮影は精神的にもキツかったです。ただ、プロデューサーの豊原功補さんや小泉今日子さんも常に現場にいらっしゃって、プロデューサーというよりは役者目線で現場を見守ってくださったこともあり、とても有難かったです。

◆そんな苦労の結晶ともいえる作品を最初に見た時の感想は?

涙が止まらず、座席から立ち上がることもできませんでした。そして横にいらっしゃった外山監督と目を合わせた瞬間、無言で握手をしたことを覚えています。その後、この映画の関係者の方だけじゃなく、これまで自分が出会い、お世話になった人たちの顔がパッと浮かび上がり、また泣いてしまいました。その人たちに絶対見てほしい気持ちが沸いてきたのだと思います。

◆「ソワレ」は芋生さんにとってどのような作品になったと思いますか?

自分の役者人生における序章のラストを締めくくる、特別な立ち位置の作品になったと思います。そして、これから新たに始まる自分の役者人生が楽しみになりました。また、純粋に「映画っていいな」と思えるきっかけの作品にもなったので、多くの方に映画館で見ていただいて、映画を好きになってもらいたいです。

芋生悠

◆芋生さんが思う映画の魅力を教えてください。

どこか限りある時間のようなものがとても魅力的に感じています。物語は上映している間に限定されていて、その後の物語は想像するしかないですし、大人たちが現場に集まって、本気で遊んでいるような限られた時間も好きです。だから、切なくて美しい気がします。

◆ちなみに一番お好きな映画は?

ウォン・カーウァイ監督の「ブエノスアイレス」です。学生時代は空手やバスケなど、スポーツ漬けの日々を送ってきて、あまり映画を見たことがなかったんです。それで18歳の時に勉強のために見始めたうちの一本ですが、こうして話す間もニヤついてしまうほど好きなんです。撮り方もおしゃれで見やすいのですが、とても人間臭かったり、剥き出しの人間模様や真っすぐな愛が描かれていることが好きです。日本映画なら「ジョゼと虎と魚たち」が好きです。

◆現在公開中の「#ハンド全力」では女子ハンドボール部のエース選手を、「HOKUSAI」(21年公開予定)では花魁とさまざまな役柄を演じています。

これまでシリアスな役が多かったとは思いますが、どんな役でもやっていきたいです。お笑い好きなので、「恋するふたり」のようなコメディもやりたいですし、体を動かすのが好きなので、アクションもぜひ! 今までの私を知っている人が見たら「えっ?」と思うぐらい、いい意味でどんどん裏切りたいです。学生役はお話があれば、まだまだ頑張りたいです(笑)。

◆今後、女優としての目標は?

今は英語を勉強していて、将来はハリウッドに行くという目標のようなものはあります。でも、その前に日本映画の良さを世界の人に伝えたいという気持ちが強く、海外の方が日本に行ってみたいと思えるような作品に、たくさん出演したいです。また『SPEC』や『ごくせん』が好きだったので、ドラマにも積極的に出てみたいです。

PROFILE

●いもう・はるか…1997年12月18日生まれ。熊本県出身。B型。近年の主な出演作に映画「37seconds」「#ハンド全力」など。今後の出演作に「HOKUSAI」が2021年公開予定。

映画情報

「ソワレ」
2020年8月28日(金)よりテアトル新宿、テアトル梅田、シネ・リーブル神戸ほか全国公開

<STAFF&CAST>
監督・脚本:外山文治
プロデューサー:豊原功補
共同プロデュ-サー:前田和紀
アソシエイトプロデュ-サー:小泉今日子

出演:村上虹郎、芋生悠、
江口のりこ、石橋けい、山本浩司ほか

<STORY>
俳優を目指し上京するも結果が出ず、振り込め詐欺に加担して生活費を稼ぐ翔太(村上)。ある日、故郷・和歌山に帰った翔太は、高齢者施設で働くタカラ(芋生)と出会う。数日後、祭りに誘うためタカラの家を訪れた翔太は、刑務所帰りの父親から暴行を受けるタカラを目撃する。

©2020ソワレフィルムパートナーズ

●photo/中村圭吾 text/くれい響 hair&make/YOUCA styling/末吉久美子 衣装協力/koll、GOLDY、Daniella & GEMMA