矢部浩之がサッカー愛を込めて語る「子供たちの成長期という見方もできるすてきな映画です」「映画 さよなら私のクラマー ファーストタッチ」

特集・インタビュー
2021年06月11日

611日(金)公開の「映画 さよなら私のクラマー ファーストタッチ」で応援隊長を務めている矢部浩之さん。なんと本編では矢部先生役で声優にも挑戦! そこで、収録のエピソードとともに、本作の見どころや少年時代のサッカーの思い出話などをたっぷりとお聞きしました!

◆今作で声優に初挑戦されています。オファーがあった時はどんなお気持ちでしたか?

最初は「この映画の応援隊長になってください」というお話だったんです。僕もサッカーが大好きなので、「ぜひやらせていただきます!」とお返事したのですが、気がついたら本編にも声優として出ることになっていて。まるで予想していなかったので、「どういうこと?」って言ったのを覚えてますね(笑)。

◆そうだったんですね(笑)。でも、作品を締めくくる、見事な役回りでした。

ははははは!「扱い方がうまい!」と思いました(笑)。僕のシーンがなくても問題なく成立しますから(笑)。そこはもう、“ありがとうございます!”という気持ちで。それに、ある意味で目立ちますし、中には僕の存在に気づかずに劇場を後にする方もいると思うんですよ。それもまた、ありがたいなと(笑)。

◆実際のアフレコはいかがでしたか?

今回が声優初挑戦という言い方をさせてもらっていますが、実のところは、番組の企画で経験したことはあるんです。フジテレビの27時間テレビ内で放送した『サザエさん』に出させてもらったり。その時は本人役だったんですけど、それでもすごく難しくて。ですから今回も、相当時間がかかるやろうなぁ”“うまくできるかなぁと思ってスタジオにいったら、あっさりと一発で(笑)。せりふの数が少なかったというのもありましたけど、逆にえっ、いいんですか?って感じでしたね(笑)。

◆矢部さんとしては、やや消化不良だったんですか?

そうですね(笑)。“もう一回録り直していただいても…”とも思ったんですけど、「全然、大丈夫です!」と言っていただいて。というのも、僕の中ではちょっとリハーサルっぽいテンションだったんです。生意気にもね(笑)。きっとも2〜3回はやるだろうから、最初はやや抑え気味にして、次はもっと声を張っていこうと。そしたらまさかのOKで。まぁ、とは言っても、僕には抑え気味か張り気味の2パターンしかないので、今回は抑え気味が採用されただけのことなんですけど(笑)。

◆なるほど(笑)。では、作品についてもお伺いします。応援隊長ということで、既に本編をご覧になったかと思いますが、どのような印象を持たれましたか?

僕もずっと子供のころからサッカーをしてきたので、感情移入するところが多かったです。この作品はのんちゃん(恩田希と呼ばれている中学生の女の子が男の子に交じってサッカーをするというお話で、体の成長とともに、どうしてものんちゃんは男子に力で負けてしまうんですよね。僕も高2の時に大阪府選抜の選考のためのトレセン(トレーニングセンター)に招集されたことがあるんですが、そこで落とされた理由が体の線が細すぎるということだったんです。だから、のんちゃんの気持ちが痛いほど分かって。悔しくて仕方がないという彼女の思いも、すごく伝わってきました。“自分が出れば戦力なのに!”っていう自信も実力もあるのに、けがをしたら危ないという理由で試合に出してもらえない。ただ、それでものんちゃんは諦めないんですよね。…そこは僕と全然違うところでしたから、違う意味で心が痛かったです(苦笑)。

◆と、言いますと?

僕はぬるま湯で育ちましたから(笑)。僕の場合は同じ男子同士であったにも関わらず、背の高い選手にフィジカルで負けて、選抜を落ちて、腐ってしまって。のんちゃんに共感はしましたけど、一緒にしたらアカンなと、ちょっと恥ずかしくなりましたね。

◆では、のんちゃん以外で気になったキャラクターは?

昔は泣き虫だったのに、久々に再会したら体がすごく大きくなっていたナメックくん(谷安昭)。彼の成長もこの作品の1つのポイントかなと思いました。実際、急に成長する子っていますよね。考え方や立ち居振る舞いが大人っぽくなっていて。その意味で言えば、この作品はサッカーの物語というだけでなく、少年少女の成長期という見方もできる映画だなと感じました。あとは、やっぱり先生も気になりましたね。きっとつらい選択を迫られていたんやろうなぁって。のんちゃんを試合に出せばきっと得点率が上がる。そこは先生も認めているし、出してあげたい気持ちもある。でも、男子に交じることで選手生命にかかわるけがをするかもしれなくて。

◆大人の目線で見ると、先生の気持ちもよく分かりますよね。

そうなんです。僕も似たような経験がありましたから。逆の立場でしたけど、中学生の時に吹田選抜に僕ともう1人の子が選ばれるはずだったんです。でも、先生から「おまえは選ばない」と言われて。それも先ほどと同じ理由で、体ができていなかったからなんです。その時に「悔しい気持ちは分かるよ」と言われて。きっと先生もつらかったんやろうなと思います。ただ、その先生はすごく厳しい方だったんですけど、「おまえのボール扱いは通用するから、体を鍛えて高校で頑張れ」と励ましてくれたんですよね。それに、練習でみんなの前で手本を見せる時には必ず、「矢部が一番うまいから」と僕を指名してくれたりして。選抜には行かせてもらえなかったですけど、それはすごくうれしかったですね。

◆すてきな思い出ですね。矢部さんの子供時代と今とでは、指導の仕方に違いなどはあると思いますか?

今、うちの子供もサッカーを習っているんですけど、コーチの教え方を見ていると、やっぱり全然違うなって思います。もちろん、部活かサッカースクールかによって教え方も異なるんでしょうけど。それに、僕らのころは結構ゆるかったですね。僕の周辺は小学5年生からじゃないと公式戦に登録できなかったんです。でも、3年生で出してもらえましたから(笑)。先生に「出たい?」と聞かれたから、「出たいです!」と答えたら、「じゃあ、5年生で登録しておくから、5年生の顔をしとけ」って言われて(笑)。そんなん無理やろって思いましたけどね(笑)。当時からただでさえ体が小さかったし、多分バレていたと思いますよ。そういうのも含めて、今だったらあり得ないことですよね。仮に試合で勝ち抜いていたら、どこかで大問題になっていただろうし(笑)。でも、そうやってでも試合に出たいという気持ちはすごくあって。そこはまさに、今回の映画ののんちゃんに近いものがありますね。

◆ちなみに、矢部さんがサッカーのコーチをするならどんなチームにしたいですか?

理想はオフェンシブですね。パスを回して、人とボールを動かしていくバルセロナのようなサッカーはやっぱり楽しいなと思いますから。ただ、現実はディフェンシブになるかもしれないです。やはり守備あってこその攻撃だと思うので。日本代表の試合を見ていても、一番結果を残しているのは超ディフェンシブの時ですしね。とは言え、点を取られても絶対に取り返せるぐらいの攻撃力があればオフェンシブのチームにチャレンジしたいです。いま、長男が6〜7歳の子供に交じってやっているんですけど、めちゃめちゃうまい子っているんですよ。“どこで覚えたん?”って思うくらいの(笑)。ボールの扱い方って教わってできることに限界がありますから、きっとセンスなんやろうなと思いますけど、そういう子がチームにいれば、オフェンシブのチーム作りを目指したいです。

◆最後に応援隊長として、今サッカーに励んでいる少年少女たちにメッセージをお願いします!

10代のうちは、どんな状況になっても腐るな!と言いたいです。僕自身が、選抜に落ちたりして、ふてくされて腐ってしまいましたので。それに、今になって思うのは、10代のころって、どこで自分が一番伸びるか分からないんですよ。僕は中3まで160cmないぐらいでしたけど、高1で172cmまで伸びましたから。それに伴って筋力もついて、長距離も短距離のタイムも伸びていって。だって長友佑都選手や中村憲剛選手のように、アンダーの選抜にも入っていなかった選手が、プロになってさらに伸びるという例もありますからね。人間が成長するタイミングはバラバラですし、コーチもそこをしっかりと見てくれていると思うので、焦らず、自分を信じてできることをやり続けてほしいなと思います。

PROFILE

矢部浩之
●やべ・ひろゆき…19711023日生まれ。大阪府出身。A型。岡村隆史とナインティナインとしても活躍。『アウト×デラックス』(フジテレビ系)、『FOOTBALLPROGRAM やべっちスタジアム』(DAZN)に出演中。

作品紹介

「映画 さよなら私のグラマー ファーストタッチ」
2021611日(金)より全国公開

STAFFCAST
原作:新川直司
監督:宅野誠起
脚本:高橋ナツコ
キャラクターデザイン:伊藤依織子
アニメーション制作:ライデンフィルム
出演:島袋美由利、若山詩音、内山昂輝、逢坂良太、土屋神葉、白石涼子、遊佐浩二、矢部浩之

STORY
女子中学生サッカープレーヤー・恩田希は、誰よりも練習し、誰よりも努力してきた。それでも、彼女は試合になかなか出してもらえなかった。藤第一中学校、男子サッカー部──。それが、彼女の今いるフィールドだ。中学2年生となった希は、監督に「新人戦の1回戦に出たい!」と何度も願う。その理由は、対戦相手にあった。一緒にサッカーを続け、小学4年生で転校していった、幼なじみのナメック谷安昭がいる、江上西中学校なのだ。「サッカーはフィジカルだ。体のデカイ俺に、女のおまえが敵うわけがない。男というだけで俺は──おまえを超えたレベルにいるんだ」。再会したナメックから受けたその言葉を、希は試合に出て、勝つことで、はねのけたかった。「上等だわ。見せてやろうじゃない。私に何ができるのか」。希の孤独なチャレンジに、いま、ホイッスルは鳴らされた!

©新川直司・講談社/2021「映画 さよなら私のクラマー」製作委員会

photo/干川 修 text/倉田モトキ