大竹しのぶが挑む社会派作品「差別などの社会問題だけでなく、世の中に巻き起こっている風潮をテーマにした深みと繊細さのある舞台」 パルコ・プロデュース2021「ザ・ドクター」

特集・インタビュー
2021年10月29日

大竹しのぶ「ザ・ドクター」インタビュー

イギリスで2019年に発表され、数々の演劇賞に輝いた話題の舞台「ザ・ドクター」がついに日本で上演。ある少女の死をきっかけに、医師のルースの頭上に降りかかる宗教やジェンダーなどの問題。やがて彼女は、人間として、そして医師としての自分と向き合っていく…。主演を務めるのは、名実ともに日本を代表する女優・大竹しのぶさん。自身にとっても思い入れのあるこの作品に、果たしてどう挑むのか。本番前の胸中を伺いました。

 

◆大竹さんは2年前にイギリスで上演されたこの舞台を、現地でご覧になられたそうですね。

一番前の席に座って見ていました(笑)。とても評判が高く、現地の友人から「絶対に観たほうがいい」と言われ何とかチケットを取ったら、まさかの最前列だったんです(笑)。ただ、始まる前にざっとあらすじを調べただけでしたので、理解できない部分もありました。それでも、役者さんがみんな素晴らしくて、中でも主演のジュリエット・スティーブンソンがとても魅力的で。“言葉が分からないのに、どうしてこんなに面白く、役者から目が離せないんだろう?”と思ったのを、よく覚えています。

◆確かに、医療の現場を舞台にした物語で、宗教や差別、それに格差社会などセンシティブな問題も扱っているだけに、ネイティブのせりふで全てを理解するのは難しそうです。

翻訳されたものでも、解釈が簡単ではないところがありますからね。でも2年前に観劇した時は、せりふを言っていないまわりの役者のリアクションで主人公が何を考えているのかが伝わってきて。そうした役者さんたちのレベルの高さにも驚きました。

◆それほど印象的だった舞台にご自身が出演することになって、驚いたのでは?

想像もしてなかったです(笑)。マネージャーから「『ザ・ドクター』という舞台の出演依頼がきているんですけど…」と言われた時、「えっ、『ドクター』!?」って聞き返しちゃいましたから(笑)。そこからあらためて小田島(恒志)さんが翻訳された台本を拝読したのですが、思った以上に深みがあり、繊細な戯曲だなと感じました。

大竹しのぶ「ザ・ドクター」インタビュー

◆とはいえ、この戯曲で描かれている宗教や差別問題などは、日本人にとってそれほど馴染みがない印象もあります。

そうなんです。そこをどう伝えていくかも課題だと感じています。ただ、宗教や差別の問題だけでなく、その奥にあるメディアの報道による暴力であったり、病院という小さな社会で起こる出世争いなども同時に展開していくので、必ずどこかにひっかかるものがあると思います。しかも、問題提議の仕方が多面的で、見る側が簡単に善悪で区別できない部分もある。登場人物たちのそれぞれに正義があり、“自分にとって正しいこと”への温度差なども丁寧に描いていますので、その意味でも関心を持ってご覧いただけると思います。

◆序盤から一気に物語が動き出しますが、1つの事件に対して外野が騒ぎ出し、問題の本質があらぬ方向に向かってしまう展開は、現代が抱える大きな闇が浮き彫りになっているようでした。

誰かが放ったひと言が賛否を巻き起こし、署名運動が始まって、やがてネットを騒がす社会的な問題に繋がっていく…。何者かも分からない匿名の書き込みであっても、それを正義だと賛同する声が大きくなると、当事者たちが何を言っても否定されたり、潰されたり。本当に怖い世の中ですよね。ちょっとした失敗や過ちで、その人の人生が全て否定されていくような風潮もありますし、これって一体何なんだろうなと思います。

大竹しのぶ「ザ・ドクター」インタビュー

◆主人公のルースもまさに、一体何を咎められているのか分からない状況にどんどんと陥っていきます。

否定や反論をしようとすると揚げ足を取られ、今度は目の前にある問題とは全く別のことで叩かれたりして、どんどん不利になっていく。ルースのように、そうやって人生がダメになってしまった人って、現実世界でもたくさんいるんじゃないのかなと思います。先日、安部公房の「友達」という舞台を観たのですが、それは一人暮らしの男性の家に、突然見知らぬ大人数の家族が押し寄せてきて、「あなたのためだから」と居座られてしまうという物語だったんです。随分前にこの作品を観た時は、ただただ“怖い話だな”と思っていたのが、今の時代だと“ありえる話かもしれない”と思えてしまって。さすがに見知らぬ人が家に転がりこむことはないでしょうけど(笑)、他人から価値観を押し付けられ、説得させられてしまうことって、今の世の中だと決してない話ではないですよね。

◆この舞台を観終わったあとに、自分の中でどのような感情が生まれるのか興味があります。

それが演劇の大きな力であり、魅力だと思います。観劇後に、作品に込められたテーマやメッセージなどを深く考えるきっかけを与えてくれる。もちろん、映画やドラマがそうではないとは言いませんが、劇場まで足を運び、目の前で役者が登場人物の人生を背負い、いろんな思いをぶつけることで、観る側には作品の想いがリアルに伝わってくる。そこは演劇にしか味わえない醍醐味ですよね。

大竹しのぶ「ザ・ドクター」インタビュー

◆では、今回の稽古で楽しみにされていることはありますか?

今作の共演者は明星(真由美)さん、益岡(徹)さん、村川(絵梨)さん以外の方とは、初共演になるんです。ですので、きっと新鮮な稽古場になるだろうなと思っています。また、この作品は会話の流れがとても大事になってくるんですね。私は海外作品の舞台に出演する機会が多いのですが、翻訳劇は日本独特の会話の間を意識するというより、“私はこう思う”と頭の中に浮かんだ言葉をポンポンと投げかけることが多いので、そうしたテンポ感やリズムを共演者の皆さんとしっかり作り上げていけたらいいですね。そのためにも、いろんな意見を忌憚なく言い合える関係性を築いていきたいと思っています。

◆演出は、これまでに何度もお仕事をされている栗山民也さんです。今年上演した「フェードル」でもご一緒されていますが、その時に今回のお話などはされたのでしょうか?

そういえば、「フェードル」の時には今作の出演が決まっていたのに、何も話してないですね。あれだけ長い時間一緒にいたんだから、いろいろ聞いておけば良かったです(笑)。ただ、「フェードル」は本当に大変な作品で。スポーツの試合のように、毎日「よっしゃー、やったるぞ!」と気合いを入れないと挑めないほどだったので、目の前のことに必死で(笑)。きっと栗山さんも同じだったから、「ザ・ドクター」について会話をする余裕がなかったのかもしれません(笑)。

大竹しのぶ「ザ・ドクター」インタビュー

◆では、あらためて大竹さんが感じる栗山さんの演出の魅力は、どんなところだと感じていますか?

戯曲の読解力がとにかく素晴らしく、“この作品で何を伝えたいか”ということを常に深いところまで考えていらっしゃる方です。それに、舞台上に立つ役者たちの見た目のバランスをつけるのが本当に見事で。例えば、「今の立ち位置から少しだけ上手(かみて)のほうに立って、体をこちらに傾けてください」といった細かい指示を出されることがあるんです。最初は“何を言ってるんだろう?”と分からなかったのですが、自分が出ていないシーンを客観的に見た時、ステージ上にいる役者たちのフォーメーションがものすごくきれいで驚いて。そうした美しさのセンスは、2002年に初めて「太鼓たたいて笛ふいて」で栗山さんの演出を受けた時から、いつも感じていますね。今回の「ザ・ドクター」のイギリス版も同じように役者たちの動きが印象的で、“きっとこれが日本で上演されることがあれば、演出は栗山さんなんだろうな”と勝手に思っていたほどです。今作でもきっと美しい演出をつけてくださると思いますので、ぜひ皆さんも楽しみにしていてください。

PROFILE

大竹しのぶ「ザ・ドクター」インタビュー

大竹しのぶ
●おおたけ・しのぶ…7月17日生まれ。東京都出身。最近の出演作にドラマ『監察医 朝顔』、劇場アニメ「漁港の肉子ちゃん」、舞台「夜への長い旅路」「フェードル」「女の一生」など。

作品情報

大竹しのぶ「ザ・ドクター」インタビュー

パルコ・プロデュース2021「ザ・ドクター」
2021年10月30日(土)〜31日(日) 埼玉・彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
2021年11月4日(木)〜28日(日) 東京・PARCO劇場
ほか、兵庫、豊橋、松本、北九州にて上演

(STAFF&CAST)
作:ロバート・アイク
翻訳:小田島恒志
演出:栗山民也
出演:大竹しのぶ/橋本さとし、村川絵梨、橋本淳、宮崎秋人、那須凜、天野はな、久保酎吉/明星真由美、床嶋佳子、益岡徹

(STORY)
イギリス最高峰の医療機関・エリザベス研究所の創設者であり所長のルース・ウルフ(大竹しのぶ)は、救急で運び込まれた14歳の少女を看取ろうとしていた。そこへ、「少女の両親に、彼女のそばにいてほしいと頼まれた」とカトリックの神父、ジェイコブ・ライス(益岡徹)が現れる。しかし、面会謝絶であり、両親や少女自身の直接の依頼がないことから、病院の規則にのっとりルースは彼の入室を拒否する。やがて、少女が死を迎えたことを受け、神父のライスは宗教上の差別で典礼を拒絶されたと怒り、この事実をインターネットで発信するのだった。

公式サイト:https://stage.parco.jp/program/doctor

 

photo/映美 text/倉田モトキ styling/新井克英

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