映画「ピンクとグレー」行定勲監督インタビュー「僕の中では必然だった」

特集・インタビュー
2016年01月12日

NEWSの加藤シゲアキの原作小説を中島裕翔、菅田将暉ら注目の若手俳優を迎えて映画化した『ピンクとグレー』でメガホンを執った行定勲監督にインタビュー。『GO』(2001年)以来、久々に青春映画となった本作への想いを伺いました。

原作から感じた雰囲気を核にしようと思った

――最初に原作を読まれたときはどのような印象を持たれましたか?

ある種の鮮烈さがある小説だと感じました。芸能界を肌で感じている作家が、どこかでメタフィクション的な要素も併せ持ちながら、ちゃんと自分の青春とも向き合っている。
生命力とかそういう要素が立体的に感じられる小説だなと思いました

――映画化に当たってどんなことを考えましたか?

鮮烈さっていうのは作家自身にあるわけです。映画にするときに、僕が感じた雰囲気だけは大切な核にして持ち込もうと思いました。
鮮烈に映画化する、立体化するっていうのはどういうことかなって考えたんです。原作の加藤シゲアキ氏ほど僕は若くないわけで、かつては青春小説の映画を撮ったりしているけど、そのときよりは明らかに時間がたっていて、年もとっている。“青春”とはどういうことかとか、何かに抗って生きることだとか、そういうことがどういう意味を成すかということは、この年になれば分かっているわけで、結果を知ってるわけです。
だとしたら、もっと突き放したほうがいいなって思ったというところが正直あって。
若いころに自分が描く青春映画だと、自分がその中に入り込んでいる。その真ん中にいて、抗っている姿とかそういうものについてダイレクトに感じていたり。
若いときは、青春映画を撮れるのは若い時期なんだってどこかで自分の中で思い込むくらい、一緒になって登場人物の気持ちになって抗っていることに対して苦悩したり、突き抜けたりしようとするっていうのがあったんです。
でも、年をとってみると案外そうでもないなというか。彼らがどんな状況かもっと引いた目で見ている。作家と同じ年代、若い世代の監督がもし撮ったらきっとこの映画にならなかったと思います。僕は年代が違うから違う道が見えてくるというか。

加藤シゲアキの原作に火をつけられた

――物語の中心となる中島裕翔さん、菅田将暉さんは役者としていかがでしたか?中島さんは本作が映画初主演となります。

すごくよかったですね。素直なんです。若さの特権って素直じゃないところにあるって気がするんだけど(笑)その逆。その素直さがいいんですよ。
すごく若さを感じるんだけど、ポテンシャルが高くて、スキルも兼ね備えている。演じるっていう意味で。器用といえば器用だし。

――監督から演技のアドバイスはされたんですか?

いや、ないですよ。
僕には『GO』っていう映画があってその経験があるから、『GO』のときはどうだったっけなというのがあって。やっぱり窪塚洋介っていう才能が明らかに鮮烈だったんですよね。
それにも似た空気が彼らから感じられるようにしなきゃいけないし、そういうふうに持っていかなきゃいけないなと思ってたんですけど、ほっといてもその空気が彼らの中から放たれているというのを感じましたね。自由度が高いし、衝動的にできる子たちだって。そのポテンシャルを信じていました。

――原作小説を映画的表現に作り替えるときに注意した部分はありますか? 本作には“ある仕掛け”が施されていますが…。

小説を読んだ時に、映画的な構造を持っていると感じたんです。これは映像化を意識されている感じもなくはないですよね。いまの世代の若い人たちは、映画特有の構造を小説化しているといってもおかしくない感じがする。そういう小説も多々見られるのは、映画の影響だろうなと思うことがあるんです。新しい世代の人たちには、映画からのフィードバックした小説っていうのがあるんだなと思って。
しかし、映画化するんだから、映画ならではの大胆さがないといけないことと、一番の問題は非常にめんどくさいことをやっている小説なので、そこの問題が解決されないままでは映画化できない。でも、それをあんまり言葉で説明したところで観客にはどうでもいい話だから、この手しかなかったんです。僕の中では必然だったんですね。この仕掛けしかこの小説を面白く映画化出来ない(笑)これが原作で起こったことを一番美しく魅せる最大の構成だったんです。自分では今までの中で一番うまくいった原作小説の映画化だと思います。

――監督としてもチャレンジだったんですね。

チャレンジはチャレンジですよ。(ほかのアイデアを)考え付かないわけじゃないから。でも、これは絶対に真似できない唯一無二のものになったと思います。
一番怖かったのは、この小説を知らない、ただ映画を見に来た人たちに「何だ、行定やらかしてるな」って思われるのはいやだった。そう思ってたんだけど、この年になってあえてそこに踏み込むのは悪くない。意外とそういう欲望はかなえたほうがいいなって。

小説で加藤君がやっていることは並大抵のことじゃないですよ。アイドルが書いてるってレッテルを張る人もいるけど、相当難しいことをやっている。それで僕も火をつけられて、もっと難しいことやってやろうって(笑)。挑戦するってことがよかったですよね。

「ピンクとグレー」で新しいことがやれた

――これまでたくさんの作品を撮り、年を重ねてきたことで変化したことはありますか?

『GO』のときに深作欣二監督が試写で見てくださって、僕はすごく緊張しながら外で待ってたんです。もちろん評価なんかされるもんじゃないって思ってたし、「お前、青いな」って言われるのは覚悟の上だった。でも、深作さんが出てきたとき、でっかい声で「いい写真だったな。いい映画だったよ」っておっしゃったんです。「いい写真だった」って言われて胸が震えて。
それで深作さんにご挨拶にいったら「いいの撮ったな」って。「でもな、俺が撮ったら柴咲コウはもっとええぞ」って言われたんです(笑)。「何でかっていうと、あんた若いだろ。若いからこれが撮れるだけど、年取ったら若さがああいうふうに見えないのよ」って。「俺はもっと違う角度でエグく描くな」っておっしゃったんです。
もちろん、今の僕は当時の深作さんよりも若いですけど、この「ピンクとグレー」を作って仕上げているときにその言葉を思い出して。「確かに昔よりは(主人公たちに)寄り添ってないな」って思ったんです。もっとドライにとらえているというか、だからこそ彼らが生き生きしてるなって。抗って這い上がろうとするとか、こんなんじゃないと思ったり、落ち込んだりとか。生きることが見苦しい、というのが青春映画だって思ったんですよね。

僕の年になっても何で青春映画が見ていられるのかっていうと、みんなが通った経験値が基にあるから。根本に見え隠れする想いとか、恋心とか、失意とか、絶望とか、そういうみんなの想いが小説になっているというか。この青春時代を通り過ぎた人たちは、大小あるとしても絶望みたいなものは感じてるんだなって分かるのが青春映画だから。そういう人たちにも見てほしいなって気持ちになったんです。

深作さんが「年を取って青春映画を撮るのは悪くない」って言った感じが、ちょっと分かった気がするんです。年を取ったから社会派を撮らなきゃいけないっていうわけじゃないんだなって。
久々の青春映画で、昔の手練手管を出してこの「ピンクとグレー」を描けばいいのかなって最初は思ったんですけど、新しいことがやれた。深作さんはこのことを言ってるんだなと思って。
そういう意味ですごく感謝しています。

 

PROFILE

行定勲●ゆきさだ・いさお…1968年8月3日生まれ。熊本県出身。
2000年長編第一作『ひまわり』が第5回釜山交際映画祭の国際批評家連盟賞を受賞。2001年公開の『GO』(第25回日本アカデミー賞作品賞・最優秀主演男優賞・最優秀助演男優賞・最優秀助演女優賞)で一躍注目を集め、以降『世界の中心で、愛をさけぶ』『北の零年』『春の雪』などヒット作を生み出し続ける。また、テレビドラマ、CM、ミュージックビデオ、演劇と幅広いジャンルで活躍中。


作品情報

映画「ピンクとグレー」
全国大ヒット公開中

監督:行定勲
脚本:蓬莱竜太、行定勲
原作:加藤シゲアキ「ピンクとグレー」
出演:中島裕翔、菅田将暉、夏帆、岸井ゆきの、小林涼子、柳楽優弥ほか

公式ホームページ(http://pinktogray.com