竹中直人×藤井道人監督インタビュー「高級パスタ屋さんで野武士がずるずる音たてながら食べているそれだけで最高」Netflixオリジナルドラマ『野武士のグルメ』

特集・インタビュー
2017年01月10日

『孤独のグルメ』『昼のセント酒』などを生み出してきた久住昌之のグルメエッセイ「野武士のグルメ」を原作にした同名漫画を映像化したNetflixオリジナルドラマ『野武士のグルメ』が3月17日(金)より世界190か国同時ストリーミング開始。仕事一筋で生きてきた主人公が定年を迎え、時間を持て余す中で心に住むもう1人の自分“野武士”に従い、自由に時間を使い飲み食いすることで、主人公やその周囲の人たちの心もおなかも満たすささやかな至福の時を描く。主人公・香住武を竹中直人が演じ、香住の心の“野武士”を玉山鉄二が演じる。第10話「焼肉モラトリアム」の撮影現場におじゃまして、撮影後、竹中さんと藤井道人監督にお話を伺った。

『野武士のグルメ』

◆藤井監督と竹中さんにそれぞれにこの作品の魅力をお願いします。

竹中:野武士が自分の理想として現れるところじゃないですかね。気の小さな男ですからね、香住は。僕の変わりに野武士が僕の心の深いところを表現してくれるからやっぱり面白いです。時代劇の人が突然現代の中に現れるなんて最高です。この間なんて吉祥寺の結構高級なパスタ屋さんで、僕は音とか立てちゃいけないんだろうなとか思いながら少し緊張ぎみにドキドキしながら食べようとしたら、うまいって大きな声が聞こえて。見たら野武士がいて、ずるずる音を立てながら箸で食べているんです。もう最高。そのシーンだけではなくて、香住の気が小さいからこそ思っていることを野武士が実際に行動してぶち壊してくれる。その野武士を玉山君がやっている。玉山君が楽しそうにやっているんで、それを見ているのも僕は楽しいです。

藤井監督:香住さんがどうしようどうしようってなっているときに現実として野武士が現れて、成敗してくれていろんなことを解決していって、それによって香住も一歩踏み出そうとするっていうところがこの物語の一番大事なところだなと思います。スタッフもそこを大事にしつつ、漫画とエッセーの中で実際のお店とか料理を作ってくださる方にお願いをして、そのまま作品の中に出ていただいたりしています。その現実とフィクションの狭間に、香住が存在しているっていうところを僕は大事にして撮影をしています。

◆『野武士のグルメ』ということで食べるシーンが重要になってくると思うのですが、監督としてこだわっているところ、俳優としてこだわっている部分はありますか?

竹中:それはもう監督に従うだけです。こだわりというよりは本当においしく食べるってことが大切なことだと思って、おいしそうに食べています。自分の芝居を絶対に自分で見たくないのでモニターチェックとかはしていないです。あと見る人によってその人の人生観でどうとでも解釈されるものだとも思います。全然うまそうに見えないなっていう人とうまそうに見える人と分かれるから。だからやっぱり自分もおいしそうに食べたいですよね。ただ、いろんな監督がいて、いろんな道具で撮るじゃないですか食べるシーンも。どうつないでもいいように。そういうときはいっぱい食べなきゃいけないんで、おなかパンパンで(笑)。あーもうおなかパンパンだって思ってもおいしそうに食べないといけないから。それが大変です、いっぱい食べたときがね、本当に苦しいんです。あと、まずいお店っていう設定のお店で食べたラーメンが本当にまずかった(笑)。よくその店もオッケーしたなと思うんですが、本当はおいしいラーメン屋さんなんですよ、でもまずそうにつくらないといけないから見た目もまずそうに出てくるんですよ。まずいものを食べるとさみしい気持ちになるっていうのをしみじみ感じました。これから先は、おいしいものしか食べたくないです(笑)。

藤井監督:調理のシーンがあるんですけど、そこのお店のシェフの方に実際に料理をしていただく。それを香住さんに食べていただくようにしています。あとはシズルかなと思っていて、例えば“焼肉”の場合は、肉が網に乗ったときにどういう煙が出るのか、音が出るのかってことで食べ物の魅力が映像で見たときにより深まるなと思っています。煙も出ていなくて、さーって音が出ているのを香住さんが食べているのを撮るよりはじゅーって映像としてそういうのを体験してもらうことを意識して演出しています。

◆焼肉以外でシズル感を大事にされたシーンはありますか?

藤井監督:食べ物に関してはいつも大事にしているんですけど、基本となるのはやはりビールかな。一番最初に撮影した煮込みは、厨房まで香住さんは見られないときもあるので、香住さんがイメージするときにやっぱり人の目じゃ寄れないぐらい寄ったりとか。ぐつぐつ煮ているところを撮影していますね。煮込みだったり、魚料理だったり。火が出るとか。ぶくぶく湯気が立つとか。みんながそれを見ておいしそうだなと思えるものをスタッフと試行錯誤しながら作っていますね。でもチームの皆さんは『孤独のグルメ』の方たちなので頼りにしてやっています。

『野武士のグルメ』

◆竹中さんは以前から久住さんのファンだとおっしゃっていましたが、その久住さんの作品に出演されるということで実際に撮影はいかがですか?

竹中:本当に楽しいです、いろんな街に行けるから。そして食べるシーンもね。久住さんが撮影現場に来てくださることもあってうれしかったですね。いつものようにニコニコしながら現場にいらして、怒ったことないんじゃないかって思うぐらいにニコニコされていて。吉祥寺の現場にいらしてくれたときには久しぶりに一緒に飲みましたね。久住さんのこれまでの作品の話をいっぱいしました。もっともっと映像や映画にしていきましょうよと盛り上がりましたね。ものすごく楽しかったです。ずいぶん前に久住さんの作品をやりたいと自分から企画を出したこともあったんです、プロデューサーに。だから『野武士のグルメ』はやっと念願がかなったという感じです。ただ、実際に決まってみると、俺でいいのかっていう感じだったけど…よかったんだからいいんだろうと思って。

◆衣装で靴はスニーカーを履かれているのが印象的だったのですが、それも何か役作りの部分があるのですか?

竹中:役作りなんてするわけないじゃないですか。今日は久しぶりに姪っ子に会うっていうシーンだから革靴って設定だったんだけど、僕は外反母趾なんです。革靴との相性が合わないと大変なんです。だからだいたいスニーカーです。あと香住は定年退職をした男ですからね。まさか僕も自分が60歳になったなんて驚きです。公園でおじいちゃんがウォーキングしていて、そのおじいちゃんを香住は追っていくシーンがあったんですが、おじいちゃんがだんだん早くなっていって、走ってついていくんだけど、途中で香住はへろへろになっちゃって崩れるように倒れる。そのときは身に沁みましたね、もう俺も年を取ったなぁって(笑)。

◆そんなことはないと思いますけど?

竹中:そう思っているのはあなただけです。今日は焼き肉の七輪での熱とけむりで目がやられちゃって。ただでさえ老眼なのにね。あと体中焼き肉のにおいがしみ込みました。いろんなお店に行くのでそのお店のにおいが体につく。この間もモツ煮込み屋さんにいったら、そのお店はモツ煮込みもやりつつ焼き鳥も焼いているのでその熱がすごいんですよ。もうヘロヘロです(笑)。

◆竹中さんも野武士の姿をしてみたかったとかはありますか?

竹中:最初、思いましたね。一人二役、でも大変では?いちいち着替えたり、リメイクしたりするのも(笑)。

◆8月から撮影されていていろんなお店に行ったかと思うのですが特にうまかったなと印象に残るお店はありましたか?

竹中:意外に素朴な味が多かったですね。いろんなロケ地に行けたのが本当に楽しかったです。

◆最後に、『孤独のグルメ』をはじめ、1人飯を描く作品が多くなっています。そんな中で『野武士のグルメ』は配信という形で一挙配信になるということですが、作る上で意識したことなどがあれば教えてください。

藤井監督:毎週見てもらうものじゃなくて、いつどこでも自分の好きなタイミングで作品を見られるっていうところを意識しています。一番よく言われたのは、1話でつまらないと思われたら視聴者は離れてしまうっていうことですね。僕ら監督陣ではテンポ感みたいなものは大事にしようと話しています。次から次へと物語が展開して、香住っていう人間をずっと見守りたい、次も見たい次も見たいと思わせるような編集の技術や脚本で進んでいくというか。脚本の段階と編集の段階ではすごく意識をしてやっています。

 

■PROFILE

竹中直人
●たけなか・なおと…1956年3月20日生まれ。横浜市出身。俳優、映画監督、西友、歌手、多摩美術大学美術学部グラフィックデザイン学科客員教授。現在、舞台「磁場」が上演中。

藤井道人
●ふじい・みちひと…1986年8月14日生まれ。東京都出身。映画監督、脚本家、映像作家。長編映画「オー!ファーザー」(2014年)、「7s」(2015年)などを手掛ける。

 

■作品情報

『野武士のグルメ』『野武士のグルメ』
出演:竹中直人、玉山鉄二、鈴木保奈美
原作:久住昌之「野武士のグルメ」画・土山しげる(WEB「幻冬舎plus」で連載中)
監督:藤井道人、宝来忠昭、星護
脚本:田口佳宏、和田清人
制作プロダクション:共同テレビジョン
エピソード:全12話

2017年3月17日(金)世界190か国同時配信(ストリーミング)決定

https://www.netflix.jp

第10話「焼肉モラトリアム
香住の食事:焼肉
撮影協力先:ホルモン焼 幸永 西武新宿店