オークラ監督インタビュー「ベースにあるのは、人を笑わせたいということ」ドラマ『漫画みたいにいかない。』

特集・インタビュー
2018年01月09日

 東京03、三代目J Soul Brothersの山下健二郎さん、山本舞香さんが出演し、Huluで配信されたシットコムドラマ『漫画みたいにいかない。』が、日本テレビで1月10日(水)より地上波放送スタート。売れない漫画家の悲哀に満ちた日常を描いたこの作品で初監督を務めたのが、元お笑い芸人で放送作家のオークラさん。バナナマンと数々タッグを組んできたことから“第3のバナナマン”とも呼ばれ、『ゴッドタン』などのバラエティから連ドラ『素敵な選TAXI』『住住』の脚本まで手掛ける奇才が、漫画みたいにいかなかった(!?)監督デビューを振り返る。


若手じゃねえかってくらい徹夜しました(笑)

オークラ監督インタビュー

◆子供のころはどんなテレビ番組をご覧になっていましたか?

それはやっぱり、『ドリフ』『ひょうきん族』ですよね。で、中学・高校時代になってとんねるずさん、ダウンタウンさん、ウンナンさんとかが出てきて、僕は同級生よりも見入っていたと思います。今、僕と同じ世代でお笑いに関わっている人間は、みんなそうなんじゃないですかね。当時のそういったテレビの世界が、今の僕の血となり、肉となっていることは間違いないです。

◆もともとお笑い芸人になられたのも、そのあたりにきっかけがあるのでしょうか?

そうですね。僕は関東の人間ですから、お笑いが身近な関西の人間とは違って、そういう世界に入ろうなんて考えてませんでした。でも当時、とんねるずさんが言わば“クラスの人気者がそのままテレビに飛び出したようなタイプ”だった一方で、ダウンタウンさんが“クラスで目立ってるわけじゃない、そういうタイプの連中にだって面白いやつはいるんだぞ!”みたいなことをおっしゃったんですよ。それに思いっきり啓蒙されて、「俺にもできるんだ!」と思い、芸人を目指すようになりましたね。

◆今では放送作家や脚本家としてもご活躍されていますが、もともとそういった方面にもご興味が?

それは、芸人になってからですね。同期にバナナマンやアンタッチャブルがいて、一緒に舞台に立つと、やっぱり演者として全然勝てないんですよ。そりゃあそうですよね。今のお笑い界の一軍メンバーですから(笑)。でも当時は、こんなに売れてない、どこにでもいるような人たちより自分は劣っているのかと痛感させられました。そんな中で、自分で書いたものを自分で演じるよりも、そういう人たちに演じてもらった方が面白いことが分かって、俺はそっちの方が向いているのかもしれないと思い始めて。ちょうど、三谷(幸喜)さんとか作り手側がフィーチャーされていた時で、そのすごさを知って興味を持ったのもあって、それでそっちの道へ進むことにしました。

◆『漫画みたいにいかない。』では脚本だけでなく、初監督も務められています。

正直、監督って面倒くさそうだなと思っていて(笑)。でも普段、自分の台本をいろんな演出家さんに撮ってもらっていると、「こうなったか!」って予想以上になることもあれば、「こうしちゃったかぁ…」って逆のパターンになることもあるんですよ。だから、一回自分でどんなものか経験してみるのもいいかなと。それに、台本を書いても演出家さんがなかなか見つからないこともあるので、そういう時に自分でできたら早いなと思って。このご時世、そういうフットワークの軽さも必要ですからね(笑)。

◆実際に監督を務められて、“漫画みたいにいかない”という瞬間はありましたか?

2017年はいろいろ仕事が重なって常に何かに追われている状態だったんです。自分の中でちゃんと整理ができないまま、東京03さんとの舞台から直結してこの作品に突入してしまったので、まず脚本作りは大変でしたね。原作のない、オリジナルものというのもあって余計に。それと、撮影期間が1か月しかなく、その間に全10話を撮らなきゃいけなかったんです。相当過密スケジュールでしたね。だから、一気に書き上げて、一気に撮りきったという感じ。もうね、若手じゃねえかってくらい徹夜しましたよ(笑)。

◆一方で脚本と監督、兼任だからこそのやりやすさもありましたか?

そうですね。やっぱり自分で監督するとなるとどんどんこだわりが出てきちゃって、そういう時に脚本も兼任しているとスムーズに事が運ぶんですよね。もちろん大変でしたけど、これは楽しいなと思いました。


東京03さんは1人ひとりが台本の行間を読む力が非常にある

オークラ監督インタビュー

◆そもそもこの作品は、どんなところに着想を得たのでしょうか?

まず僕はシットコムをずっとやってきたので、今回もそうしようと自分の中で決めていて。じゃあどこを舞台にするかと考えたときに、当時僕がイラストレーターのニイルセンの作品をよく使わせてもらっていたので、これをドッキングさせたらどうなるだろうか、と。それで“シットコム×イラスト=漫画家の日常の物語”という結論に至ったわけです。

◆角田晃広さん演じる主人公の漫画家がバツイチだったり、飯塚悟志さん演じる定食屋のマスターはみんなのことを俯瞰で見ているけどたまに暴走したり、豊本明長さん演じる編集者が女性にだらしなかったり…と、完全に当て書きですよね(笑)。

そうですね(笑)。シットコムだから画変わりはしないし、登場人物も東京03さんと山下健二郎君、山本舞香ちゃんの5人がベースで、たくさん人が入り混じるわけではないので、そうなったらある程度当て書きしないと見ていて活き活きしてこないと思うんですよ。

◆東京03さんとは先ほどおっしゃっていた舞台も含め、付き合いが長いですよね。撮影を通して、あらためて東京03さんのすごさはどんなところにあると感じましたか?

自ら前に出ることもさることながら、周りを生かす脇役にもなれる。そして、これは僕との相性もあるかもしれませんけど、1人ひとりが台本の行間を読む力が非常にあるんですよ。だから、僕にとっては非常にやりやすい役者さんです。

◆東京03さんはじめ、キャストからは監督の“長回し”にかなり苦戦したというコメントがありましたが、その狙いは?

今回は舞台っぽくしようと、セリフ1つひとつにもテンポやリズムを意識して、演者がしゃべっていて楽しくなるように書いているんです。長回しにするとそこにグルーヴ感が加わって、より舞台っぽくなるかなと。あとは、先ほども言ったように撮影期間1か月で、1日で2本撮りしなきゃいけない時もあったので、物理的な問題として長回しせざるを得なかったんです(笑)。でも、それがいい方向に転がったんじゃないかと思います。

◆長回しと言うと『ゴッドタン』の“キス我慢選手権“にも通じる部分があるのかなと思ったのですが。

もともとは僕がシットコムでずっとやってきたことで、それを『ゴッドタン』などのバラエティに多用したんです。それで今回また戻ってきた、という感じですかね。

◆独特のセットや衣装にもこだわりを感じました。

やっぱり僕も年齢を重ねてきて、どうしても大人目線になってしまう。そうすると作品も凝り固まって、しみったれてもくると思うので、“ファンタジー”で包み込んだら面白いんじゃないかと。それでセットはヨーロッパ風に、衣装も普通の人があまり着ないようなものにしました。

◆もしまた監督のオファーがあったら、どうされますか?

もちろんやりますよ。しばらくはまだシットコムをやりたいですね。ただ、別に僕は監督になるのが目標じゃなくて、ベースにあるのは“人を笑わせたい”ということ。その上で今回、監督をやらせていただいたら楽しかったので、またできたらいいなとは思っています。

◆今春には『漫画みたいにいかない。』の舞台版を同じキャストで上演されるということで、とても楽しみです。

2018年はいろんな舞台が立て込んでいるんですけど、『漫画みたいにいかない。』の舞台版に関してはワンシチュエーションのガッチリした、ストロングスタイルのオールドタイプなシットコムにしたいと思っています。ドラマ同様、そちらもぜひ注目していただきたいです。

 

■PROFILE

オークラ監督インタビュー●おーくら…1973年12月10日生まれ。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげでした』『ゴッドタン』などのバラエティや、ラジオ『おぎやはぎのメガネびいき』『バナナマンのバナナムーンGOLD』を担当。連ドラ『素敵な選TAXI』『住住』などの脚本も手掛けた。今春上演の舞台版「漫画みたいにいかない。」でも引き続き脚本・監督を務める。


■作品情報

『漫画みたいにいかない。』

Huluにて独占配信中
※オークラ監督が新たに編集したディレクターズ・カット版も配信

日本テレビ
1月10日(水)スタート
毎週(水)深0・59~ 全10話

出演:角田晃広、飯塚悟志、豊本明長、山下健二郎、山本舞香
脚本・監督:オークラ
イラスト&アニメーション:ニイルセン

“ビッグになるんだ!”と漫画家になるも、ヒット作は生まれず、うだつの上がらない毎日を過ごすオサム(角田)。そんなオサムを中心に、幼なじみの定食屋の店主・鳥飼(飯塚)、担当編集者の足立(豊本)、アシスタントの荒巻(山下)、そして一人娘のるみ(山本)との日常を描く。
 
●photo/関根和弘