
TVアニメ『呪術廻戦』第3期「死滅回游 前編」(MBS/TBS系 毎週(木)深0・26~0・56)が1月からスタートした。主人公の虎杖悠仁の死刑執行人として登場したのが、乙骨憂太。『呪術廻戦』の前日譚として2021年に公開された『劇場版 呪術廻戦 0』の主人公であり、虎杖同様に五条 悟を師に持つ特級術師だ。乙骨を演じている緒方恵美さんに話を聞いた。
◆「死滅回游 前編」は放送に先駆けて、第1・2話がTVアニメ第2期でのエピソード「渋谷事変」の特別編集版と併せて『劇場版 呪術廻戦「渋谷事変 特別編集版」×「死滅回游 先行上映」』として上映されました。ご覧になって、いかがでしたか?
「渋谷事変」と「死滅回游」が半々の時間になると聞いていたので、正直、それで「渋谷事変」をまとめられるのかなと思っていたのですが、よくこんなにうまくまとめられたなと衝撃を受けました。「渋谷事変」の終盤の虎杖君のセリフを冒頭に持ってくることで、彼の視点で物語を追う形になっていて。「死滅回游」への流れも非常にスムーズでした。ここまでが「渋谷事変」、ここからが「死滅回游」と明確に区切らず、一本の作品として通っている感じがして。「渋谷事変」がテンポよく進むのに対して、「死滅回游」はちょっと落ち着きますが、それすら計算しているような…もちろん、そうなんでしょうけど、その構成もハンパなくて、一本の映画として素晴らしく、すごく面白い仕上がりになっていました。

◆「死滅回游」での乙骨にどんな印象を持ち、どう演じようと?
最初に漫画で読んだ時は怖い顔だなと思いましたが、中身までそうなるようなキャラクターではないだろうと。実際、基本的には人格もあまり変わっていなかったので、『0』の時のままのイメージを持って収録に入りました。ただ、物語は『0』から1年くらいが過ぎ、「死滅回游」までの間に乙骨はいろんな研鑽を重ねているはずで。その跡が見えるなということは思いました。人間何かを1年研鑽すれば技量だけでなく、もっと精神的なもの…安定や洞察力の深さとかも加わってくる。そういう部分を1年分足している以外は、全く変わらずに臨んでいます。
●『0』で最初に乙骨を演じた時は、どんなことを意識していましたか?
冒頭での乙骨は完全に心を閉ざし、人を拒絶して近づかないようにして殻にこもっていました。でも、終盤では夏油から「そうくるか!! 女誑しめ!!」と言われるようなセリフをしゃべるわけです。「失礼だな 純愛だよ」というセリフがまさにそうで。ただそれっぽく口にするだけなら浅いままできますが、乙骨はそうではない。あの言葉を何のてらいもなく出すということは物語の中で人間的なレベルが上がり、育っていなければならない。殻にこもっていた少年がオープンになって、めちゃくちゃ強い相手を目の前にしても堂々としながら、ブラフではなく、浅さもなく、自分の中で消化した上で普通に「当然でしょ? 何か疑問がありますか?」というくらいのテンションであの言葉を扱えるまでに成長していなければならなかったんです。そのためには成長のスピードを相当早めなければならないですし、一つ一つのシーンで、ここでレベルが上がったんだ、ここでまた上がったんだ…とお客さんに分かっていただかなければならない。どこの段階でどこまで上げるのか。逆にここではちょっと落ちるとか。そうやって積み上げる必要があったのですが、あまり余裕がなくて…それは乙骨にということではなく、私自身がどのシーンも無駄にはできないという意味で。でも、そこがちゃんとできないと終盤の境地にたどり着けませんし、セリフがうそっぽくなってしまう。いろいろ考えながらも何でもないように見せて、緻密でありながらも芝居をする時は全部捨てる。積み上げながらそれをする作業が難しかったです。
◆そこで積み上げたものが「死滅回游」でもベースとしてありつつ、研鑽を足していると?
そうですね。とはいえ、『0』でのあの終盤の境地は瞬間最大風速みたいなもので。仲間たちが夏油にやられて死にそうになっている状態で、「この野郎!」という火事場の馬鹿力が働いたからこそあそこまで行けたのであって、冷静に戻ればダウンする部分もあるでしょうし。そういう意味では「死滅回游」の乙骨はあの時とはまたちょっと違いますが、1年の間に研鑽はあったんだなと感じました。

◆TVアニメでも引き続き乙骨を演じるに当たって、特にブランクもなく?
ゲームでも演じていますし、イベントに出たりもしていましたからね。横浜でもイベントがありましたし、ロサンゼルスや韓国にも乙骨として登壇して。なので、そんなに空いているという感じはありませんでした。
◆虎杖のことは、乙骨はどう捉えていたと想像しましたか?
「渋谷事変」を経ての虎杖君は、いつもの虎杖君ではない。乙骨はそれは分かっていた。だからこそ「君は悪くない」と言うのであって。自分も似たような境遇ですしね。自分が大切な人が大切にしているから、という彼のセリフ通りの気持ちで、仲間としてみていたと思います。
◆その虎杖に、乙骨は死刑執行人として戦いを仕掛けました。
あのバトルシーンはモノローグの応酬で、会話はほとんどなくて。収録では画もまだ出来ていなかったので、どんなことになっているかよく分からなかったんです。でも、実際に完成した映像を見たらめちゃくちゃ動いていて。MAPPAさんの作品は大体どれもそうですが、特に『呪術廻戦』はスピードが早いので、動体視力がすごく必要なんですよね(笑)。だから収録でも、画があっても大変ですし、なかったらなかったでもっと大変なのですが、想像をはるかに上回るすごい映像になっていて感嘆しました。

◆虎杖役の榎木さんとのお芝居もそこまでがっつりとは…。
そうなんですよ。序盤のシーンに関して言えば、榎木君と劇中での会話をほとんどしていないんです。しかも、先ほども言ったように虎杖君は普段の虎杖君ではない状態。気持ちの落ちている虎杖君に対して一方的に話しかけることはありましたが、あとはモノローグの応酬のような形で。やっと話せると思ったら伏黒くんがきてしまったので(笑)。
◆物語は「死滅回游」という殺し合いへと発展していきます。
正直、最初はルールがよく分からなくて。大きな流れは分かったんです。なるほど、こういう風に結界(コロニー)に分かれて戦うんだねと。だけど、細かい部分が…ルールを追加できる? 追加? みたいな。ひとまず乙骨に関わるところは理解したので、あとは収録しながら私も役と一緒に理解していこうと思っていました。
◆アフレコはどんな雰囲気でしたか?
「死滅回游」は回によって出る人が結構バラバラなんです。ゲストばかりいてレギュラーは私だけ、みたいな回もあって。多分それは私だけではなく、他のキャストもみんなそうだと思うんですけど。虎杖君だって仲間だった人たちみんなと別れて…まぁ、伏黒君は来てくれましたが、常に2人というわけではないですし。だから、毎回新しい感じ。初めましての方たちをお迎えしながらやっていくような作業でしたが、みんなストイックに、丁寧に向き合っていく空気はどの回でもあり、刺激的でした。

◆天元役の榊󠄀原良子さんのお芝居に感銘を受けたそうですね。
すごかったです。天元様ってラスボスみたいな存在感じゃないですか。世界の全てを知っているという役どころ。そういう役って普通、淡々としたお芝居をするというのがテンプレ的なイメージとしてあったのですが、榊󠄀原さんは全然違うお芝居をされて。ゾワッとしたというか、震えが来ました。監督たちも一度、「もっと淡々とやってみてほしい」とオーダーしていたんです。そしたら榊󠄀原さんは「それはナレーションみたいにするということですか?」と。榊󠄀原さんはナレーションも務めていらっしゃいますから。で、アニメスタッフと榊󠄀原さんで方向性を検討する中で、「そうではないんですけど、でももっと淡々と…」(監督たち)みたいなやり取りになって。榊󠄀原さんは、天元は全てを知っている役であり、全てを内包している役でもある。それを芝居にしたいとおっしゃられたんです。全てを知っている存在として上に立った目線であれば淡々とするかもしれないけど、天元は今でもいろんなことに悩んで、揺れていると。確かに天元様って達観した天上人ではなく、今も他のキャラクターたちと同じところで生きていて、俗物的で、恐れとかいろんなことを抱えている。だから榊󠄀原さんがおっしゃったことにとても共感しました。何度かご一緒させていただいていますが、こんな芝居をされる先輩がまだいてくださるんだと感銘を受けました。49話の最後のひと言だけでも私はかなり震えましたから。榊󠄀原さんに「勉強させていただきました。ありがとうございました」とあいさつさせていただいてから現場を出ました。50話で天元様が「死滅回游」のルールを説明するシーンでは、それを聞いて私自身よく分かっていなかったところが、あ、なるほどと腑に落ちたことがあって。そうか、面白いじゃないかこれ、と。乙骨ごと私も納得させられたというか。榊󠄀原さんのお芝居でそうなれたので、本当にすごいことだと思います。
◆偉大な先輩から刺激を受けながらアフレコされたんですね。
声優に限らず、どんな職業でもある程度続けていると自分の経験則だけで判断してやってしまうところがある。お芝居で言えば、この役はこんな感じだろうと決め打ちになりがちな中で、榊󠄀原さんはそうではなかった。普通はこうかもしれないけど、このキャラクターはそうじゃないということを積極的に探って、監督たちからのオーダーに対しても真摯にきちんと向き合って答えていらっしゃって。自分の意見をただ通そうとするのではなく、作品や役を理解して、そのために新しさを生み出そうとする。俳優としての矜持を感じる機会になりました。そういう先輩は職業を超えてもそんなにたくさんはいらっしゃらない。今回榊󠄀原さんとご一緒できて本当に幸せだなと思いました。
PROFILE
緒方恵美
●おがた・めぐみ…6月6日生まれ。東京都出身。B型。『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズの碇シンジ役をはじめ、代表作多数。
作品情報
TVアニメ『呪術廻戦』 第3期「死滅回游 前編」
MBS/TBS系 毎週(木)深0・26~0・56
<STAFF&CAST>
原作:芥見下々
監督:御所園翔太
シリーズ構成&脚本:瀬古浩司
制作:MAPPA
声の出演:榎木淳弥、内田雄馬、緒方恵美、浪川大輔 ほか
©芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会









