沼る人が増殖中! 野間口徹主演『VRおじさんの初恋』はなぜ多くの視聴者を魅了しているのか

ドラマ
2024年04月17日
『VRおじさんの初恋』野間口徹©NHK

昨今、テレビドラマ離れが叫ばれている中、4月から放送開始された夜ドラ『VRおじさんの初恋』(NHK総合 毎週月~木曜日 午後10時45分~11時)は一線を画している。最近はドラマを見ていなかった層も“沼る人”が増えているようだ。何がこれほどまで視聴者の心をつかんでいるのか、ドラマを振り返り、分析していこうと思う。

本作は、暴力とも子の人気漫画が原作のため、当初原作ファンからは「このクオリティを実写化できるの?」「演じる俳優によっては駄作になり得る」と不安の声が寄せられていた。しかし、第10話(416日)の放送が終わった時点で、出演者の演技を絶賛する声や本作を称賛するコメントであふれている。ここで、これまでの放送を振り返っていく。

第1週(4月1日~)

主人公・直樹は、言わずと知れた名バイプレーヤー(野間口徹)が演じる。直樹は遅刻常習者で年下の上司から日々注意されているような、さえない中年会社員。他人と付き合うことが苦手で、唯一の楽しみは、VR(仮想現実)世界で過ごすこと。毎日、VRゲーム「トワイライト」にログインし、制服姿の女の子・ナオキとして、自分だけの時間を静かに楽しんでいた。

このナオキを演じるのが、新人女優の倉沢杏菜。彼女の演技が「しっかり野間口徹が話しているように感じるのはすごい」「おじさんの演技をしてるんじゃなくて、女の子を被ったおじさんの演技してて、声の沈ませかた上手すぎる」「中年の直樹の、あまり人と関わりたくない感じを表情でも表している」と話題になっている。

ある日、ナオキがお気に入りの丘の上から景色を眺めていると、VRの操作に不慣れな美少女・ホナミが現れ、「ここは景色がとてもきれいで、なんて美しい世界。このさみしい美しさを共有できるあなたと出会えて良かった」と、ナオキの心を動かし始める。このホナミは井桁弘恵が演じ、天真らんまんなキャラクターを見事に実写化、体現している。「ホナミの衣装をここまで自然に着こなせるのは、井桁しかいない!」「井桁ちゃんの陽キャな感じが、ホナミそのものだわ」と、原作ファンからもお墨付きだ。

「トワイライト」の世界を案内しながら、一緒の時間を過ごすうちに、ナオキは今まで感じたことのない不思議なときめきを覚える。第3話のお祭りでは、浴衣姿で花火を見物するなか、ホナミがナオキに「あなたの優しさと実直さ、そういうところがすてきです」と頬にキスをする。この時のナオキの表情の機微、眼球の動き、挙動不審ながら喜んでいる感じが、直樹と同一人物のアバターであるということを演技で魅せている。

VRの世界でデートを楽しむなか、“隠しワールド”行きのチケットを懸けたゲームが開催されていることに気付き、ホナミはショットガンの圧倒的な腕前を見せ、見事優勝する。オーディエンスに囲まれ、もてはやされるホナミを見て、スネるナオキ。その場を去ったナオキを追いかけ、本当の気持ちを尋ね、お互いが好きと知った2人はキスを交わす。直樹にとっては初めての経験だった。

SNSでは「ピュアな百合」「かわいすぎて死にそう」や、「一人に慣れたナオキが心を乱される姿が、見ていてツラくなるほど共感できる」といった声があがり、視聴者の心もかき乱されているさまが分かる。

原作ファンからも「直樹は漫画とイメージは違うが、世の中に対する諦めみたいなのがにじみ出てて、ナオキが醸し出す静かな悲しみとベストマッチ」「ナオキの心の声をドラマでははっきりと口にしているんだけど、これは原作とドラマの直樹の見た目や展開の違いもあって、“似てるけどちょっとだけ違う雰囲気”が面白い」と好評価を得ている。

『VRおじさんの初恋』左から)井桁弘恵、倉沢杏菜©NHK
第2週(4月8日~)

現実世界で、直樹は突然上司の澤田(細田善彦)に呼び出され、希望退職について考えてほしいと言われてしまう。そんな現実を忘れるがのごとく、VR世界でホナミとあらゆる地を訪れ、2人は楽しい時間を過ごす。行きついたリゾートホテルではごちそうを食べながら、トワイライトの作者の人物像を予想する。ナオキが共感しているという“孤独”に「それは強さ、すてきです」と褒めるホナミ。素直に「ありがとう」と口にするナオキに、出会った頃からの変化が垣間見える。

その後、ホテルの部屋に移動し、くつろごうとしたところ、ホナミが「今日は初めてのお泊りですね」と笑顔で言い放ち、ナオキは足がガクガクに。6話はナオキの足が震えるカットで終わり、次の7話では、直樹の足が震えるカットで始まるため、この両カットの比較がとても笑えるシーンに。視聴者からも「VRの世界もすてきだけど、現実世界でゴーグル付けてる野間口さんの演技がまた、VRとリンクしていて、大変面白い。いじらしい」「現実と仮想の狭間で揺れる肩身狭くて寂しそうな野間口さんの演技、絶品」と、野間口の演技が絶賛する声が上がっている。

ベッドに入った後、ナオキは子供時代にいじめられていた話を始める。「笑っていた女子達を見て、俺より人生楽しいだろうな~って思った」と。ホナミは「だからこっちの世界で女子高生を選んだのですね」と気づく。続けて、「嫌な思い出とそんなふうに上手く付き合う人、初めて知りました。そっちに行ってもいいですか?」と、ナオキと同じベッドに入り、笑顔で見つめる。翌朝、現実世界で寝不足の直樹の姿もほほ笑ましい。

そして、ホナミが「来週、隠しワールドに行きましょう!」と提案する。ナオキは“これで最後になってしまうかもしれない”と気が乗らないが、ホナミの望むようにと、隠しワールドへの旅が始まった。すると突然、列車が空中を爆走しだし、目を開けるとそこには、宇宙の世界、満点の星空が広がっており、「銀河鉄道の夜」みたいだと喜ぶホナミ。到着した先には無数のイルミネーションや、平衡感覚がおかしくなりそうな乗り物、黄金郷のようなお城、メリーゴーランドなどが存在し、2人で隠しワールドを満喫する。

列車に戻り「また次にしましょう」と別れるも、次が最後になるかもしれないと、直樹は思い切って、会社の同僚・佐々木(堀内敬子)にプレゼントの相談をする。プレゼントとして青いバラを準備し連絡を待つも、前回から3日の日にちが過ぎていた。

そんな第2週のラストでは、病室に入る男性の後ろ姿が映りこみ、視聴者からはえっ、ホナミはあの年下上司くんじゃないの?」「隣の席の佐々木さんかと思ってた」とホナミを考察していた視聴者がざわついていた。

『VRおじさんの初恋』野間口徹©NHK
第3週(4月15日~)

数日後、ホナミから「ナオキにお話ししたいことがあります」と連絡がくる。直樹も、青いバラを持って、告白の言葉を何度も練習していた。特別列車の次の行先は“約束の場所”。宙に浮かぶ十字架とロウソクに囲まれた祭壇で、ナオキは「この世界の最後を一緒に見届けよう。俺はホナミのことが…」と思いを切り出すも、ホナミに遮られてしまう。そしてホナミが、「私はもうここに来られない。来週、手術します。別の自分で生きられる場所、最期を迎えるのに行くべき場所に思いました」と打ち明ける。

ホナミの言葉にショックを受けるも、「ホナミのことが好きなんだ、生きてきて、初めて好きになった人なんだ。初恋なんだ!」と思いの全てを言い切った。しかし、ホナミは感謝の気持ちを伝えるものの、自ら“発動停止”状態となり、トワイライトから去ってしまった。

突然の別れにぼう然自失となった直樹は、3日も会社を休んでしまい、あらためて希望退職を進められる。仕事でもミスをしてしまい、気分を変えてバイクでもと後輩に勧められ、海に向かうことに。しかし、海辺のカフェでもホナミの妄想を見てしまう。ナオキはとぼとぼ、ホナミと行った誰もいない神社へ向かい、1人ぼっちで花火を眺める。ホナミとの思い出が走馬灯のように蘇り、ナオキと直樹の目から、大粒の涙があふれていた。この姿に、視聴者からは2人の演技が身に染みいる」と反響を呼んでいる。

また、制作陣の“原作愛”を感じられるところも、原作ファンの心をつかんでいる。実写化に伴い、いろいろ変更されていたり、オリジナル要素が追加されている(コンビニ店員の荒井優⼈など)のだが、「スタッフがかなり高い解像度で咀嚼し、再構成している」「めちゃくちゃ作品を大事に思っているのが伝わってくる」「ドラマ版のVRおじさんの初恋って根底にやさしさを感じる」など、大きな支持を得ている。

このドラマがなぜこんなにも視聴者を魅了しているのか。それは野間口、倉沢、井桁のキャスト陣が、原作ファンをも唸らせる名演技を至るところで繰り広げているから。そして、制作陣の「VRおじさんの初恋」という作品への愛が、至るところに感じられるからと言えるだろう。直樹はこのまま諦めてしまうのか、ホナミは現実世界ではどんな人物なのか…。今夜放送の第11話も見逃せない。

『VRおじさんの初恋』野間口徹©NHK

番組情報

夜ドラ『VRおじさんの初恋』
NHK総合
毎週月~木曜日 午後1045分~11

番組公式HPhttps://www.nhk.jp/p/ts/GXWGM1YQG1/