門脇麦「自分で責任を負わないと先に進めないというか自由が生まれない」映画「世界は今日から君のもの」

特集・インタビュー
2017年07月14日

引きこもりという社会派なテーマをガーリーな世界観で描いた映画「世界は今日から君のもの」が7月15日(土)より全国順次公開される。主人公の女の子が新たな人たちとの出会いや社会との触れ合いを通じて、少しずつ自分らしい一歩を踏み出し、前進していく姿が映し出される。主人公・真実を演じた門脇麦さんに、本作の魅力を聞いた。そこにいは“女優・門脇麦”としての仕事への向き合い方、捉え方など覚悟があった。

門脇麦インタビュー

◆出来上がった本作をご覧になっていかがでしたか?

とってもいとおしい映画になったなと思います。私とは正反対の性格かもしれませんが、真実ちゃんが自分の大事なものをずっと大切に大切に壊れないように守ってきているという、そんな女の子だったので。演じている私が真実ちゃんを守りたくなるというか、誰にも手出しさせたくないというような、いとおしさを感じていたので、そのまんま映画になったなと思いました。

◆尾崎監督は、真実は門脇さんを当て書きされたとおっしゃっていましたが、演じた真実はどういう女の子でしたか?

いえ、それは逆で、この役は尾崎さんそのものですよね。尾崎さんの分身だと思いました。私に当て書きしたと言いつつ、監督は真実の中に自分を探していらっしゃるんだろうなという感覚が演じていてすごくありました。真実の姿勢や歩き方とか細かい指示があってそのとおりに演じると、まるで尾崎さんのしぐさになっていて。尾崎さん本当にかわいらしい方なんです。質問とかをすると30秒後ぐらいに返事がくるとか。尾崎さんの中ではその間、すごくいっぱいいろんなことを考えていらっしゃるんだと思います。真実ちゃんに感じるいとおしさは尾崎さんに感じているいとおしさと同じなんです。だから、真実ちゃんを暗い子にはしたくなくて。真実ちゃんの周りには好きなものがあふれていて、その中にいる彼女が私はうらやましくも感じていました。監督からは動きの指示はありましたが、心情についての指示などは少なかったと思います。以前ドラマでご一緒させていただいたことが大きいと思います。今回が初めてだったらお互いつかむまでが大変だったかもしれないんですけど。本作は私の尾崎さんへの愛の現れです(笑)。

◆この作品では真実のモラトリアムな時期が描かれています。門脇さんご自身は真実のような気持ちとの距離感があった時期ってありましたか?

ありますよ。私は本来活発な性格で、小学生のときは休み時間を誰よりも楽しむような、チャイムがなったら速攻校庭に出ていくような女の子で。バレエもしていて、常に熱中するものがありました。部活も入らず、学校よりもバレエでの友達のほうが深い仲の子が多かったので、学校にあまり重きをおいていなくて。そうこうしているうちに、どうやって人と仲良くなるのか、どうやって1歩踏み込むのか、親友って何?みたいな、人との関係がうまく取れなくなってしまったんです。その期間が長くなってしまって。そんな中で仕事を始めて、誰よりも人に関心があって人が好きなのに、どう表していいか分からない時期がありました。最近ようやくなくなってきたんですけど、真実ちゃんのそういう部分は分かりますね。中学でバレエをやめてしまって、高校で次の目標を見つけなきゃ、どうしようって。ダンスレッスンに通ったり、ひたすら映画を見たりしていました。あ行から順番に1日、4、5本映画を見る。で体力も有り余っているから、自宅近くを1時間走ったりしていました。もともとストイックな性格なのでアスリートみたいな引きこもりでした。

◆真実に共感できる部分があったんですね。

自分が大事なものを大切にしたいっていう気持ちは共感できました。そういうものって努力して大事にしていないと、意外と忘れてしまったり流れてしまったりすることって結構あると思うんです。社会に出るとなお。自分の中の小さな感情とかちゃんと目を向けてあげないと、自分がすっからかんになっちゃうと思うので、そこは努力して向き合っているつもりです。

◆共演した三浦貴大さんの印象をお聞かせください。

実は以前ドラマで三浦さんを殺しているんですよね(笑)。だから今回は平和な役でよかったねってお話をしました。三浦さんは物腰が柔らかい方です。一緒にいるとすごく落ち着きます。本当に素敵な役者さんでものすごいプロフェッショナルだと思います。頑張るのは当たり前かもしれませんが、三浦さんすぐに疲れたとか頑張れないとか言うんですけど、誰よりも頑張っているんですよ。大好きです。三浦さんは全部を受け入れていらっしゃる監事があって、強いですよね、私、現場の居方とか考え方とか三浦さんの影響を受けている分群、あると思います。劇中の三浦さんとマキタスポーツさんの屋台のシーンが好きなんですよね。絶妙なほっこり感。あのやりとりが好きです。

門脇麦インタビュー

◆真実は自身を受け入れることで1歩前に進めたように感じました。それは大きな1歩ではないかもしれませんが、これまで何も言い出せなかったお母さんへの言葉や走り出す真実になっているのかと思います。

受け入れるということは自分で責任を負うということで。でもやっぱり自分で責任を負わないと先に進めないというか自由が生まれないと思うんですよね。つい最近まで“私、この仕事が好きだからやっています”とは言えなかったんです。恥ずかしさとか自信のなさとか、仕事を頂くたびにすみませんとか、私でごめんなさいとか、何で私なんだろうとか、期待に応えなきゃとか、高評価残さなきゃなとか、上手に演じなきゃとか、監督に満足してもらえるようにしなきゃとかそんなことばっかり思ってしんどくなってしまった時期がありました。でもそれって受け身というか、やらせてもらっているじゃないですけど、どこか逃げている感じがずっとありました。自分がやりたいとか、私が好きだからやりたいと言うとすべてが自己責任になる。でもそうしないともう1歩先には進めないなと気づいてからは変わる努力をしました。今はとても気分も楽になりましたね。楽しむのって筋力が必要だと思います。楽しむって意外と難しいと思うし、楽しいことをやるのは楽しいかもしれないけど、そうじゃないことを楽しむこともできるなと気づいたんです。ものの見方や、考え方を変えると景色が変わってきますし、言葉で表せば“役を頂きました、やらせていただきます”じゃなくて“やります、やりたい”とかそれだけでもパワーの出方が違う。でもやりたいっていうのはすごく勇気がいるし、私の責任になるから、その考え方になるまでに時間がかかってしまいました。

◆ストイックに自分を追い込まれるとのことですが、子供のころからストイックだったんですか?

バレエしていたんですが体が硬かったので開脚して寝たりしていました(笑)。好きなんですよ、自分の体をいじめるのが。苦しいが楽しいみたいな(笑)。でやりすぎて戻ってこれなくなるというか。バレエをしていたときは朝6時に起きてストレッチしてバーレッスンしてそのまま学校に行って、学校が終わってバレエに行ってそれから帰ってきて、レッスンして、開脚したまま寝るとか…ただのMです(笑)。

◆特に同世代の年代の女性には思うところがたくさんあるのではとないかと思います。それではあらためて見どころをお願いします。

今の世の中は、いろんな情報にあふれていて、本当の自分が分からなくなってしまいやすい時代だと思います。いつの時代もあると思うんですけど、憧れているメイクをしている自分、でも本当の自分はそのメイクが好きなのかとか、流行っているから手を出しているけど、それは本当に好きなのかとか。それがごちゃごちゃになってしまう。情報があふれている中で自分のことを見つめたときに、本当に何が好きで何を大事にしようと思うのか。真実は、そういう主流ではなくて、どちらかというと僻地にいる女の子だと思うんですね。でも真実には大事なものが分かっているからある意味とても強いと思うんです。どうしても立ち位置とかで人は見られがちだけど、そういうことじゃない。社会から見たら小さな存在で普段スポットライトを浴びていない存在かもしれないけど、誰よりも強い存在だと思います。この映画を見てそういうことを考える一日になったらいいですね。

◆タイトルもいいですよね。

「世界は今日から君のもの(仮)」と台本に(仮)がついていてずっと決まっていかなった気がします(笑)。ぴったりでいい題名ですよね。さっき彼女が強いって話をしましたけど、自分の大事なものを壊れないようにするのも大切だけど、やっぱり人と共有することで育っていくものもあると思うし、自分を開かないと友達は作れないのかな。私、友達は少なかったんです。でも最近お酒飲むようになったりして、フットワークが軽くなってきたのかもしれませんが、友達が増えてきたんです、自然と。だから私も変わってきてるんだなぁ、楽しいなぁって思います。

 

■PROFILE

門脇 麦
●かどわき・むぎ…1992年8月10日生まれ。東京都出身。B型。ドラマ、映画、舞台、CMなど多数出演。主な出演作に連続テレビ小説『まれ』、映画「愛の渦」「二重生活」など。2017年には「彼らが本気で編むときは、」「こどもつかい」「世界は今日から君のもの」「ナミヤ雑貨店の奇蹟」(9/23(金・祝)公開)がある。

 

■作品情報

映画「世界は今日から君のもの」『世界は今日から君のもの』
7月15日(土)より渋谷シネパレスほか全国順次ロードショー

<ストーリー>
小沼真実(門脇)は、高校のころから5年間引きこもりとなり、自分の部屋で好きな漫画やイラストをひたすら正確に模写することで現実逃避をしていた。父の英輔(マキタスポーツ)と母の美佳(YOU)は離婚し、真実は父との2人暮らし。心配性の父の勧めでゲーム会社のバグ出しの仕事を始めるが、ひょんなことからそのゲーム会社に勤める矢部遼太郎(三浦貴大)が担当するゲームのイラストに手を加えたことで真実の絵の才能が認められる。ある日、遼太郎から「自由に描いていいから」とゲームキャラクターのイラストを頼まれ、彼へのほのかな恋心もあり遼太郎の役に立ちたいと描くことに向き合おうとするのだが…。果たして真実は自分の殻を破り、自分らしい一歩を見つけることができるのか?!

監督・脚本:尾崎将也
出演:門脇麦、三浦貴大、比留川游、マキタスポーツ、YOU ほか
配給:アークエンタテインメント

公式サイト:sekakimi.com

©クエールフィルム
 
●photo/木川将史 hair&make/藤垣結圭 styling/岡本純子
衣装協力/ENFOUD、カシケイブラウンダイヤモンド、BEAUTIFUL SHOES