『向こうの果て』松本まりかインタビュー「役をやり遂げたというより、“この瞬間を生き切った”と思えた」

特集・インタビュー
2021年05月16日

◆律子は民謡歌手の娘という役柄。三味線を弾くシーンもありますが、三味線を弾いてみていかがでした?

楽器が全くできないので、たくさん練習しました。練習するほどどんどんできるようになるのが面白かったです。稽古に何度も通い、本当に頑張ったので「私、なかなかできるじゃん!」と思っていました。そしていよいよ本番! 公平と一緒に弾くシーンだったんですが、松下さんがすごくうまいんです。弾く前に「3回しか稽古してないんだよね」と言っているのを聞いたので、「それで本当にできるの?」と思っていたら私より全然うまくて。その瞬間ばかりは、役の気持ちが途切れましたね。三味線の先生やプロデューサーの方に、「すごく出来ています」「いいですね」と言われて、私、自分で才能あるかなと思っていたんですね(笑)。でも松下さんの演奏を見て、「え、ちょっと待って」と目を見開きました。だって教えてくださる先生が入れてくるような、ビブラートのような技を入れてくるんです。「松下さん、うまいですよ」と誰も教えてくれなかったし、すごく恥ずかしいと思いました。ショックでした(笑)。

◆一瞬、役のことを忘れるくらいショックだったんですね(笑)。

それまで私は松下さんが歌手をされていることも知らなかったんですね。その現場には、ピアノがあってふとした瞬間に、彼が弾きだしたんです。その風貌が尾崎豊さんみたいで、「尾崎豊さんみたいだね」と言ったら、「I Love You」を口ずさんでくれたんです。それもすごくうまくて。律子を演じている間は、共演者ともスタッフさんともほとんど話さないくらい不安定で、松下さんともほぼ目を合わせていませんでした。でも彼が優しくピアノを弾きながらぼそぼそっと「I Love You」を歌ってくれている姿を見た時に、こういう瞬間が律子と公平にもあったんだって感じたんです。松下さんとはDVのシーンばかりだったので、それが初めて癒やされた瞬間だったというか…律子と公平にリンクした瞬間でした。そんなたわいもないことも含めて、全ての時間が栄養になった気がします。

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