『向こうの果て』松本まりかインタビュー「役をやり遂げたというより、“この瞬間を生き切った”と思えた」

特集・インタビュー
2021年05月16日

 

WOWOWオリジナルドラマ向こうの果て』で放火殺人の容疑がかかるミステリアスな女性を演じる松本まりかさん。後編のインタビューでは、愛する人に日常的に暴力を加え、最終的には殺してしまう…そんな律子という女性を演じて感じた魅力などについて語ってもらいました。

◆演じてみて律子という女性の魅力はどんなところだと思いましたか?

律子ははたから見れば、男性に依存して生きている女性ですよね。律子は12歳の時にある事実を知り、一度そこで死んでしまったんです。だから死にながら生きているというか、ただ生活のために生きているような人生であり、魂を捨てた人。子供のころに自分ではどうしようもない運命を決定づけられて、地を這いつくばって生きた女性なんです。だから汚れた部分もあるけれど、そういうところを全部はがしてあげると、ものすごく美しくて、純粋な魂がある。一見、本質が全く見えないし、何なら関わりたくない女なんだけど、その奥にはキラッとした、美しく純粋なものがあると私は思いました。深くまで探さないと見えないけれど、ものすごく美しい魅力のある女性。だからこそミステリアスで吸引力がある。誰もが「この人を知りたい」って思わせる奥深さが魅力なんじゃないかと思います。

◆律子は青森の津軽出身ということで津軽弁のせりふもありますが、イントネーションなど難しそうですね。

方言のせりふのほうが思いを伝えやすい気がするんですよね。私は留学した経験があって、拙い英語をしゃべっている時のほうが本当の言葉になるんです。一生懸命伝えようとするから。標準語だとニュアンスで伝わるとか考えたりもするけど、方言は下手だから純粋に伝えたいって思いがある言葉になる気がします。だから私は方言を話すのは好きですね。感情が乗りやすいかもしれないです。

◆律子は民謡歌手の娘という役柄。三味線を弾くシーンもありますが、三味線を弾いてみていかがでした?

楽器が全くできないので、たくさん練習しました。練習するほどどんどんできるようになるのが面白かったです。稽古に何度も通い、本当に頑張ったので「私、なかなかできるじゃん!」と思っていました。そしていよいよ本番! 公平と一緒に弾くシーンだったんですが、松下さんがすごくうまいんです。弾く前に「3回しか稽古してないんだよね」と言っているのを聞いたので、「それで本当にできるの?」と思っていたら私より全然うまくて。その瞬間ばかりは、役の気持ちが途切れましたね。三味線の先生やプロデューサーの方に、「すごく出来ています」「いいですね」と言われて、私、自分で才能あるかなと思っていたんですね(笑)。でも松下さんの演奏を見て、「え、ちょっと待って」と目を見開きました。だって教えてくださる先生が入れてくるような、ビブラートのような技を入れてくるんです。「松下さん、うまいですよ」と誰も教えてくれなかったし、すごく恥ずかしいと思いました。ショックでした(笑)。

◆一瞬、役のことを忘れるくらいショックだったんですね(笑)。

それまで私は松下さんが歌手をされていることも知らなかったんですね。その現場には、ピアノがあってふとした瞬間に、彼が弾きだしたんです。その風貌が尾崎豊さんみたいで、「尾崎豊さんみたいだね」と言ったら、「I Love You」を口ずさんでくれたんです。それもすごくうまくて。律子を演じている間は、共演者ともスタッフさんともほとんど話さないくらい不安定で、松下さんともほぼ目を合わせていませんでした。でも彼が優しくピアノを弾きながらぼそぼそっと「I Love You」を歌ってくれている姿を見た時に、こういう瞬間が律子と公平にもあったんだって感じたんです。松下さんとはDVのシーンばかりだったので、それが初めて癒やされた瞬間だったというか…律子と公平にリンクした瞬間でした。そんなたわいもないことも含めて、全ての時間が栄養になった気がします。

◆律子を演じている間は不安定だったとおっしゃっていましたが、そんな中でも気が休まる瞬間はありました?

ありませんでした。キツかったです。でも後になって内田監督が「あえて不安にさせた」とおっしゃっていました。内田監督とのお仕事は安心感もあるし信頼していますが、その中で私の不安定な状態を放置していたそうです。それも全部含めての演出なので、私がどれだけ苦しんでいようと「まりか大丈夫?」みたいな気遣いは一切ありませんでした。私をそのままにしていたほうがいい演技につながると思い、現場で厳しくいるのが内田監督の優しさだったと思います。いい芝居を引き出すために最大限のことをしてくださったんだと思いますし、それで全然良かったです。ただ拠り所が全くないってこういうことか…という心もとない感じはありました。家に帰っても不安で心細かったですね。

◆そんな不安に潰されそうな中で演じて、クランクアップの瞬間はどんな心境になりました?

なんか…ワナワナしました(笑)。最後は柿澤勇人さんと山野海さんと一緒で、柿澤さんから取り調べを受けるシーンだったんです。そこは柿澤さんにすごく引き出してもらった気がしていて、奇跡的な瞬間もありました。柿澤さんともほとんど話さず、その中で奇跡的な時間を共有できて、この研ぎ澄まされた時間はなかなか経験できないだろうなと思いましたね。だから「終わった!」感がすごくありました。役をやり遂げたというより、「この瞬間を生き切った」と思えました。あまりそう思えることってないのですが、大洪水のように全ての感情を出し切って。ちょうど律子の心を全てはがされていくシーンだったので、すごくいい瞬間でした。清々しい気持ちにもなりましたね。

PROFILE

松本まりか
●まつもと・まりか…1984912日生まれ。東京都出身。B型。主な出演作にドラマ『ホリデイラブ』『竜の道 二つの顔を持つ復讐者』『妖怪シェアハウス』『先生を消す方程式。』など。現在は『最高のオバハン 中島ハルコ』(フジテレビ系)に出演中。

番組紹介

WOWOオリジナルドラマ向こうの果て』
2021514日(金)放送・配信スタート

WOWOWプライム、WOWOWオンデマンド 毎週(金)後1100 放送・配信(全8話)(第1話無料放送)
TELASAでは各話終了後配信スタート

STAFFCAST
原案:ゴツプロ!第六回公演『向こうの果て』
監督:内田英治 脚本:竹田新
出演:松本まりか、松下洸平、柿澤勇人、加治将樹、渋川清彦、豊本明長、宇野祥平

STORY
昭和60年、東京のマンションの一室で放火殺人が発生。逮捕された池松律子(松本)と被害者の君塚公平(松下)は幼なじみであった。担当検事の津田口(柿澤)は、事件の真相を追って、過去に律子と関わってきた人物と接触する。その証言で彼女の数奇な人生が明らかになるが、彼女を取り巻く男たちによる律子の印象は全て違っていた。事件を追うほどに津田口は律子という人物に傾倒していく。やがて津田口は、律子と公平が子供時代を過ごした昭和30年代の青森・津軽に殺人事件の真相を解く糸口を見つける。

photo/金井尭子 text/佐久間裕子 hairmake/千吉良恵子(cheek one) styling/コギソマナ(io) 衣装協力/under the rose、ダイアナ

 

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