「受け入れられなかったら考える…(笑)」浜野謙太インタビュー『ディアスポリス‐異邦警察‐』に出演

特集・インタビュー
2016年04月08日

熱狂的な支持を得ながらも、際どすぎる世界観から実写化不可能と称された伝説の漫画「ディアスポリス‐異邦警察‐」を、4月からMBS・TBS“ドラマイズム枠”にてドラマ化、さらに夏には映画化される。ドラマ版では冨永昌敬、茂木克仁、真利子哲也、熊切和嘉の日本の映画界を担う4人の監督がメガホンを取った。
本作は、東京にいる密入国外国人が、自分たちを守るため作り上げた秘密組織「異邦都庁(通称:裏都庁)」にある異邦警察「ディアスポリス」に所属する、松田翔太さん演じる警察官・久保塚早紀の活躍を描く。久保塚の助手で元銀行員の鈴木を熱演する浜野謙太さんに、役作りについて、ドラマに対する思い、撮影現場の裏側などを聞きました。

鈴木は日本代表みたいな感覚で演じました(笑)。

『ディアスポリス‐異邦警察‐』

――本作は人気漫画が原作ですが、読まれたことはありますか?

僕は特に漫画が好き、というわけじゃないんですけど、すぎむらしんいち先生の漫画がすごく好きで。連載も読んでいたので、この話を頂いたときには二つ返事で受けました。できることがあれば何でもという感じでした。実際に演じてみて良かったなと思ったのは、漫画とは全然違う作りだったこと。“実写化不可能”といわれていたから、開き直ってたんですよね(笑)。そこに4人の監督たちのアイデアが豊富に詰め込まれていたので、すごくよかったです。僕が演じる鈴木もキャラ的には近いところにいたけど、原作の鈴木とは違って、文脈や容姿は近くなくていいというふうに言われたので、好きにやれてよかったです。

――出演者のほとんどが外国人という現場の中で、日本人の鈴木は普通のキャラクターのようにも見えます

鈴木は日本人だけど、この場になじんじゃだめというか。日本においては“異邦警察”自体が異物っていうのが重要なポイントだと思うんですけど、鈴木は逆に、その異邦警察の中の異物みたいになったらいいなと思ってやりました。いつも外国人の人を外側から日本人は見ますけど、逆に僕は外国人の中に鈴木っていう日本人が入っちゃったっていうふうに見えるのがいいなと思っていて。外国人と接すると、どうしても外国に合わせた外国人ナイズされるというか。鈴木はそういう技能も持ってない、合わせることもできない、でも周りにいる外国人とつながらざるを得ない。そうするとやっぱり臆病だったり臆病だからこそ優しいのって、まさに日本人のいいところだと思うんですよね。鈴木が活躍する回はそんなところが出ている気がします。日本代表みたいな感じで演じてたのかもしれません(笑)。

一番強いのは鈴木じゃないかという説もありました(笑)

――激しいアクションシーンも登場しますが、いかがでしたか?

鈴木は鈴木なりにハードコアでした。飛び込むとか、切り刻まれるとか、何回か血だらけにもなりました。ビール瓶で殴られるシーンはジャストミートしちゃって、額にリアル傷ができたり(笑)。「日本の撮影用の瓶はすぐ割れちゃうんですけど、これアメリカの瓶で…」って聞いて、じゃあしょうがないですねって(笑)。でも割れ方が全然違うんですよ。日本の瓶は飴細工のように割れるんですが、アメリカの瓶は痛かったけど割れ方がすげーかっこよくて。そういうところに自分の役者魂を感じましたね(笑)。あとは鉄のテーブルみたいなものに裸でくくり付けられたり、ブリーフ姿にもなりましたね、何回か。僕、乳毛が剛毛なんですけど(笑)、「裸になってもいいんですか?」って何回も確認したし、「こういう感じなんですけど」って見せたんですけど、「むしろ使います」って言われちゃって。その懸念は必要なかったみたいですね、この世界観には。

――お話を聞くとかなり大変な撮影現場だったと想像しますが、これだけは過酷だった!という撮影はありますか?

監督のリーダーシップもあったし、まとまらなくなると翔太君がきゅっとしてくれるところもあるし、だから実は全然苦じゃなかったんです。「何これ、今何の時間?」というのがなかったので。過酷っぽいですけど、そんなに苦しいということではなかったですね。あー、でもちょっと過激なこと言っといたほうがいいのかな…(笑)。そうだなぁ…。ネズミが鈴木の部屋で大量発生して、そのネズミと一緒に部屋から出てくるっていうシーンで。本物のネズミと一緒にいたんですけど、めちゃくちゃ臭くて…。あとは裸で鉄のテーブルにくくり付けられたのは、やっぱり痛かったです。半日くらい同じ状態のままですごく寒かったし、鎖もしっかり結ぶので痛くて。いつも血だらけだったり、どっかに飛び込んでいたので慣れてきたという感じでした。あとはアクションですね。 『仮面ライダー』のときに少しアクションがあったので、初めてではないんですけど、アクションは怖いじゃないですか…(笑)。あと怖かったのは、不法滞在者が集う居酒屋みたいなところで、そこにいる全員にわーっと担がれて追い出されるシーン。担ぎ上げられた僕の目の前は天井で…それはすごい怖かったですね、外国人の方もみんなノリノリになっちゃって、楽しんじゃっているからそれがもう爆笑でした…(笑)。

――そんな鈴木の見どころはどこですか?

鈴木は不死身だということです。一番強いのは鈴木じゃないかっていう説が撮影中にも出ていて(笑)。人が目の前で殺されたくらいじゃ驚かないんじゃないかって思うんですけど、新鮮に驚く(笑)。「うそつけ! だいぶ修羅場くぐっているのに!」と思いますけど、意外とそういう不死身感も日本っぽくていいなと思います。

男の意地というか、熱い感じでした

――松田(翔太)さん、柳沢(慎吾)さんと共演されていかがでしたか?

『ディアスポリス‐異邦警察‐』

慎吾さんはどんな人にも好かれます。“柳沢慎吾”という共通語があるというか。外国人にも大ウケするし、すぐ友達になっちゃうし。イラン人は「柳沢さんの大ファンなんです! 親もファンで、イランのテレビでも流れていますよ! 良かったです!『おしん』!」とか言われて、「『おしん』出てないんだよ!」っていうニアミスがあったり(笑)。それでも何となく慎吾さんを知っているっていうのがすごいというか。

翔太君は、自分と違う人間が好きなんじゃないかな。外国人でも対等というか、普通にやり合ってたし、監督相手でも思ったことはちゃんと言えるし、翔太君こそすべての人に平等でした。不思議なもんで、僕の俳優関係の中では一番じゃないかなってくらい、翔太君と仲良くなったんです。僕のキャラクターをすぐ汲み取っていじってくれて。言うなればもう1人の監督のようでした。いろんな人が大勢いる中でも、いい感じにコミュニケーションを取っていける。その中で自分がやらなきゃいけないことも分かっているし、だから「ハマケンの役割はここだから、ハマケンから意見を聞かなくても別にいい」みたいな感じもあったと思うんですけど(笑)。翔太君と監督がぶつかって、むしろ作品自体がいい方向に向かっていくっていうのを場の人間は何となく分かっていた気がします。なので、逆に監督に「松田翔太に負けんじゃねぇよ!」って言ったりしました(笑)。がちゃがちゃした世界観というだけに、みんなが「ここに向かっていく」という目標みたいなものがしっかりあって、まとまっていてよかったです。

――「ここに向かっていく」という共通目標があったようですが、具体的にどんな目標だったんですか?

「これをやるからには妥協しない」ということでした。妥協すると主役に置いていかれる(笑)。翔太君がまずめちゃくちゃ燃えていて「僕はこれを何とか自分の俳優人生の中のポイントにしたいんだ」と言ってくれて。監督さんたちも本当にこれからもっと認められるべき人たちだし、俺も含め、もっと今よりもっともっと活躍したいという感じなので。「これをポイントにしたい」という言葉に胸を打たれて負けずに走ったというか。男の意地みたいな、熱い感じでしたね。女もたくさんいましたけど(笑)。

そっち側に未来はないから、こっち側に来いよ…(笑)

――みんなのこだわりが詰まった本作のカッコいいポイントを教えてください

ドラマとかっていろんなコンプライアンスがあって、画に映るものを排除しなくても大丈夫なもので構成しようとしてギリギリで形を成しているものが多いですけど、『ディアスポリス』はそういうことしてたら何もなくなっちゃう。まず登場人物がいなくなっちゃうので(笑)、“排除されるべきもの”たちで構成された汚い街をかっこよく撮っていると思うんですよね。そんなアンダーグラウンドな世界観というか、登場人物が着ている服もごちゃっとしてるし、でも受け入れてもらえるのかな…(笑)。

――最後にドラマを見られる視聴者へメッセージをお願いします

俺はこの世界観がかっこいいと思うんですけど、これが受け入れられなかったら俺ちょっと今後の進退を考えなければいけないな…(笑)。このドラマは放送されれば勝ちというか。不法滞在者たちだけでドラマを作っているのですが、これ見たらすごい楽しいと思うので、まず見てほしいですね。絶対はまると思うので、ぜひこっち側に来てほしいですね。こっち側に来いよ、みたいな。そっち側にはもう未来はないから、こっち側に…なんて…(笑)。

 

PROFILE

浜野謙太●はまの・けんた…1981年8月5日生まれ。神奈川県出身。O型。
バンド・在日ファンクのボーカル兼リーダーで、昨年解散したSAKEROCKの元トロンボーン担当。俳優、タレントとしても映画、ドラマ、CM、バラエティなど多数出演し、その独特な存在感と強烈なキャラクターで世間の注目を集めている。映画「婚前特急」で第33回ヨコハマ映画祭・最優秀新人賞を受賞。


作品情報

『ディアスポリス‐異邦警察‐』

『ディアスポリス‐異邦警察‐』(全10話)
MBS・TBS“ドラマイズム” 枠にて放送開始
TBS…4月12日(火)スタート 毎週(火)深25・28~25・58(初回は深25・43~26・13)
MBS…4月17日(日)スタート 毎週(日)深24・50~25・20(初回は深25・15~26・15 ※1話、2話放送)

原作:「ディアスポリス‐異邦警察‐」脚本…リチャード・ウー 漫画…すぎむらしんいち(講談社『モーニング』所載)

監督:冨永昌敬、茂木克仁、真利子哲也、熊切和嘉

出演:松田翔太、浜野謙太、康芳夫、マリー/柳沢慎吾ほか

ストーリー:東京にいる密入国外国人、約15万人。悪い奴もいるが、難民認定を受けられず貧しい生活をしている者も大勢いる。そんな彼らが自分たちを守るために秘密組織「異邦都庁(通称:裏都庁)」を作り上げた。そこには金融庁の関与しない銀行、厚労省の認可しない病院、そして異邦警察「ディアスポリス」が存在した。そんな裏都庁で働く警察署長であり、国籍不詳の男・久保塚早紀の活躍を描く。

公式サイト…(http://www.dias-police.jp/

(C)リチャード・ウー,すぎむらしんいち・講談社/「ディアスポリス」製作委員会

●取材/田代良恵
ヘアメイク/HAMA
スタイリスト/関 敏明