「バラエティとドラマをかけ算する企画は多くの作り手が夢想するもの」『横道ドラゴン』総合演出・橋本和明×脚本担当・上田誠インタビュー

特集・インタビュー
2023年09月08日
『横道ドラゴン』場面カット ©DMM TV

DMM TVのオリジナルバラエティ『横道ドラゴン』の配信が、2023年8月11日よりスタートした。本作は、真実にたどり着くためなら非道な捜査も厭わないアウトロー刑事・反田龍児と、エリート街道を進む敏腕刑事・由良歩、橘陶子が龍児のバディとなって事件の解決に挑むサスペンス。しかし、各話に用意された捜査シーンは台本一切なし。メインキャストは誰がゲストなのか知らないまま本番に挑み、アドリブで物語が進行するという。

そんなチャレンジングな本作について、企画・総合演出を担当した橋本和明さん、脚本を担当したヨーロッパ企画の上田誠さんにインタビュー。『有吉の壁』『マツコ会議』などを立ち上げた橋本さん、映画「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」日本語版台本を担当した上田さん。20年近く業界で活躍するヒットメーカーのふたりでも、企画の立ち上げからゲストのキャスティング、そして実際の収録と、すべてが「新鮮だった」と語る本作が秘めるエンタメの可能性に迫る。

(左から)橋本和明さん、上田誠さん

◆捜査パートがオールアドリブ劇という『横道ドラゴン』。挑戦的な本作を企画した理由やきっかけを教えてください。

橋本:劇団ひとりさんと仕事をしてみたかったというのが、そもそものきっかけでした。そこから、ひとりさんと言えばアドリブ芝居だと思い、「サスペンスでアドリブはできないのかな」と思ったんですよ。そうすることで制作者の想像を超えた物語が作れるのでは、という期待もあり、この企画を書きました。

◆先日行われた発表会では、劇団ひとりさんに企画の説明をしようとしたときに「もっとオールアドリブ劇にしたいと言われた」とおっしゃられていました。

橋本:そうなんです。事前に上田さんとストーリーや設定を詰めてから、ひとりさんのところへ行ったんですよ。で、あらすじを説明したいとお伝えしたら「聞きたくない」って(笑)。登場人物などを紹介しようとしても、「それも聞きたくないです」「共演者が誰かも現場に行ってから知りたいです」「どこで撮影するのかだけ知りたいです」と言われまして……。絶望しました(笑)。

◆絶望……!

橋本:でも、ひとりさんと話している途中から、何だか楽しくなってきちゃって。加えて、ひとりさんとガッツリ仕事するのが僕は初めてだったのに、そこまで信用してもらえるのがありがたいことだなと思うようにもなりました。もし何かあれば、最後はひとりさんのせいにしちゃえばいいかって(笑)。上田さんに電話でどう伝えようかということだけは、ずっと考えていましたね。

◆上田さんは橋本さんから電話で状況を聞いたとき、どういうお気持ちでしたか?

上田:逆に腹が決まりました。こちらも反射神経でやっていくことになるので、準備していくこともないのかと思ったくらいです。

橋本:こういう作家の方はなかなかいないと思います。普通は怒るか、途方に暮れてしまう気がします。

上田:実は以前からバラエティとドラマって、もっと両立できるものにならないかなと思っていたんです。コメディの劇団をやっている僕としては、バラエティとドラマって感覚は近いのに、分化し過ぎている気がしているんですよ。だから、打ち合わせしながら「本作はドラマとバラエティの領域を混ぜたものを作れそうだ」と感じて、ワクワクしました。

◆ドラマとバラエティはどういったところで領域が近いと感じていますか?

上田:日本ではお笑いが異常発達して、ひとつのジャンルになったという感覚が僕のなかにはあります。でも本来コメディというのは、笑いと物語の要素がひとつになれるはずのものだと思っていて。ふだんコメディの劇団で脚本を書いているなかでも、それはひしひしと感じています。笑いと感動は両立すると思っているんですよね。

橋本:日本のお客さんは物語と、出演者が即興で何かを言われて困っているんだろうなという素の表情を同時に楽しめる人が多い気がしていて。リテラシーがちゃんと育っていると思うんですよ。『横道ドラゴン』って、まさにそういう作品なんです。上田さんが言っていた「お笑いが発達している」ことは、この企画の立ち上げと密接に繋がっている気がします。

上田:立ち上げた結果、すごく可能性を秘めた普遍性のある企画になったと感じています。

橋本:本当に新しいものになりましたよね。僕も本作の映像を編集しているとき、「こういう番組ないよな」と不思議な感覚になったんです。アドリブをちょっと交えるくらいの企画なら、こんな感覚にはならなかったでしょうね。当然、上田さんにお任せすれば、いい物語に仕上がっていたと思いますが、ここまで変な質感にはならなかったと思います。

上田:そうだと思います。

◆以前に劇団ひとりさんにインタビューした際、「この作品はプロフェッショナルが誰もいない現場だった」とおっしゃられていました。今の橋本さんの「変な質感」という話は、通ずる部分がある気がします。

橋本:作り方が分からないものを作っているときって、すごくドキドキするし、やっぱり面白いんですよね。長くこの業界で仕事をしていると、経験や知識の引き出しっていっぱいあるんです。ふだんの仕事って、そのなかから「今回はどれを引き出そうか、組み合わせようか」で終わっちゃうこともあるんですよ。でも本作は、その場で考えて作っていくしかなかった。新鮮でしたね。

上田:一方で、確かに新しいものではあるんですけど、突飛なことではないとも思っていて。今回みたいなバラエティとドラマをかけ算する企画って、実は多くの作り手が夢想していることなんじゃないかな。ただ、思い付いてもちゃんと取り組む人は少ないし、上手く活かせる人はもっと少ない。だから橋本さんみたいに、バラエティとドラマを繋いでいらっしゃる作り手の方を僕はすごく尊敬しています。

『横道ドラゴン』場面カット ©DMM TV

ゲストの方には「役も物語も決まっていませんが出てほしい」とオファー

◆一話から相当カオスな展開になっていて、今後がどうなっていくのか、全く予想できませんでした。

橋本:こっちは一応サスペンスを想定していたのですが、捜査がぜんぜん進まない(笑)。それどころか痴話げんかが始まって、SFPっていう謎の組織だけ出てきて。こういう展開になるとは全く想定していませんでした。でも、だから面白いとも思って。だって、こんな本、絶対に書かないですよ。書いたとしても「何やっているんだ」「ちゃんとセオリー通りやれ」と、怒られる気がします。

上田:特に最初はどうなるのか分からなかったですね。途中からはなんとなく感覚をつかんで、事前に気構えをして臨めました。

橋本:それでも、上田さんが脚本を書くスピードには驚きました。本作はアドリブの演技が終わった後、それを受けて上田さんがその場で脚本しドラマパートを撮影、そしてアドリブの演技が再び始まるというサイクルだったんです。上田さんは1時間くらいで、ドラマパートの脚本をあげてくれました。しかも的確なんです。アドリブ劇で展開した物語のなかでいらないものを広げちゃうと、取っ散らかって大問題になりかねません。だから、ここは活かして、ここは捨てるという判断を瞬時にして物語を作っていった上田さんはすごいです。

上田:どう着地してもいい物語なら取っ散らかっても大丈夫だと思うんです。でも本作は、事件が起きてそれを解決するというサスペンスゆえに、ちゃんと着地させなきゃいけなかったんですよ。だから、出演者のみなさんも解決に向けて動いてくださると思っていたのですが、序盤は取っ散らかって終わりました(笑)。まさか、真木よう子さんがあんなにもリングに上がらされるとは。

橋本:しかも、そのリングから降りない。野糞の話をされたら嫌でしょ(笑)。あれでも、降りないんだよなぁ。それがすごい。

上田:ドラマパートは俳優さんが引っ張って、アドリブは芸人さんが引っ張るみたいな構図になるのかなと想定していましたが、アドリブこそ俳優さんの輝きが類を見ないものになっていました。逆にひとりさんの平場でのお芝居のすごさも光っていましたね。

橋本:他の俳優さんも、誰も役を降りなかった。やっぱり俳優さんって、肝が据わっているんだなと思いましたね。

◆本作は、毎回多数のゲストが登場します。ゲストのキャスティングについては、最初からある程度決まっていたのでしょうか?

橋本:何となく決めてはいました。ただ、どんな話になるのか分からないから、どういう役をやってもらうのかは、決まっていなかったんですよね。だから「出るとは思うんですけど、どういう役でどういう設定なのかは決まっていません。5日前くらいにお伝えすると思います。台本は特にありません」という無茶苦茶なオファーの仕方になっちゃって(笑)。それで受けてくださったみなさんに感謝です。こんなスケジュールの押さえられ方は、恐らく初めてだったでしょう。

◆ゲストの方は、アドリブ劇に出演すれば面白くなりそう、化学反応が起こりそうと感じた方にお声がけした?

橋本:もうどうなるのか本当に分からなかったので、かもめんたるのう大さんやヒコロヒーさんみたいに自分で物語を生成できる人、狩野英孝さんやランジャタイの国崎(和也)くんみたいな、一か八かだろうなという人どちらも入れようと思って。あとは、ひとりさんが「こうきたか」と思ってもらえるようなキャスティングをしたという感じです。

上田:ゲストの芸人さんがふだん絶対にやらないだろうという役を相談しながら決めていくのが、面白かったですね。

『横道ドラゴン』場面カット ©DMM TV
『横道ドラゴン』場面カット ©DMM TV

◆だれも予想が付かない、エンタメの新しい可能性を秘めていた本作。それでも、今日のお話を聞いている限りは、ちゃんと物語は完結すると考えて大丈夫?

橋本:SFになっていくし、思っていた方向とは全然違うところにたどり着いたんですけど、一応、完結しました。完成した作品を見たら不思議なもので、ひとりさんや真木さんや門脇さんの演技と音楽によって、登場人物が愛おしく見えてくるんですよね。上田さんをはじめとするスタッフを含めて、みなさんが本気で臨んで、作ってくれました。人間ドラマとして見られる作品に仕上がっていると思うので、最後までご期待ください。

◆(こんな質問も!)おふたりが読者の方々に推したいエンタメは?

上田:僕は今取り掛かっている作品がミステリーの話ということもあり、古き良きミステリー、英国ミステリーを読んでいます。ミステリーもお笑いと似ていて、異常発達したジャンルなんですよね。発達の仕方や歴史を知るだけでも面白いんです。最近は取り掛かっている作品の兼ね合いもあって、「シャーロック・ホームズ」の短編集をすごく興味深く読んでいます。

橋本:ヨーロッパ企画さんとタッグを組んでいるチョコレートプラネットのライブツアーが、すごく面白かったです。チョコプラのコントの世界はどんどん進化しているなと感じました。チョコプラもそうですが、最近は物語性を強くしたコントなど、それこそドラマとバラエティの垣根を越えていくようなものが増えている気がしています。こういうコンテンツが元気なのがめちゃくちゃうれしいですし、エンタメの可能性を感じています。そういう作品を、私も上田さんと一緒に作っていけたらいいなと思っています。

『横道ドラゴン』場面カット ©DMM TV

作品概要

横道ドラゴン
DMM TVにて2023年8月11日より配信中。毎週金曜更新(全6話)

<出演者>
劇団ひとり 真木よう子 門脇麦
岡田義徳 永野宗典
小手伸也、岩崎う大(かもめんたる)、小峠英二(バイきんぐ)、ヒコロヒー、ふせえり
狩野英孝、真空ジェシカ、国崎和也(ランジャタイ)、大久保佳代子(オアシズ)
錦鯉、光石研、酒井貴士(ザ・マミィ)、小宮浩信(三四郎)、東ブクロ(さらば青春の光)
ベッキー、井口浩之(ウエストランド)、春日俊彰(オードリー)、かが屋
平子祐希(アルコ&ピース)

<スタッフ>
企画・総合演出:橋本 和明
脚本:上田誠(ヨーロッパ企画)

DMM TV
https://tv.dmm.com/vod/

©DMM TV