山田裕貴、演じる忠勝が家康を“認めた”瞬間語る 主演・松本潤との撮影秘話も…『どうする家康』

特集・インタビュー
2023年11月19日
『どうする家康』山田裕貴©NHK

誰もが知る歴史上の有名人・徳川家康の生涯を脚本家・古沢良太が新たな視点で描く『どうする家康』(NHK総合ほか 毎週日曜 午後8時ほか)。ひとりの弱き少年が、乱世を終わらせた奇跡と希望の物語だ。第44回(1119日放送)では、関ヶ原の戦いで天下を取った家康(松本潤)が征夷大将軍に。ついに徳川幕府を開幕させ、国づくりに励む中、本多忠勝(平八郎/山田裕貴)と榊原康政(小平太/杉野遥亮)との別れ、2人のラストシーンが描かれた。

そしてこのたび、徳川四天王として家康を守り続けた戦国最強武将・忠勝を演じた山田さんにインタビューを敢行。忠勝の人物像や“殿(家康)”への思い、名ぜりふ「俺は認めん」にまつわるエピソードなど、撮影秘話をたっぷりお聞きしました。


◆自身が演じる忠勝をどのような人物だと捉えていましたか?

忠勝が身に着けているものや大切にしているものを見つめていると、 助けてもらった存在に対して敬意を持っており、人を思うことを大切にする人なのだなということを感じられるんです。例えば、道を迷っていた時に鹿に導いてもらったことで、「わしを守ってくれるのは鹿じゃ」と兜に鹿の角を付けたといいますし、自分が殺した人も失った人も全てを背負って戦うという意味合いで数珠を着けているそうで、忠勝がそういう人であるということは第1回から頭に置いて演じていました。当初は武士なのだから涙は見せぬもの、と思っていましたが、他人のことをそこまで思える人なのであれば誰かのために涙を流すことも当たり前にできたんじゃないかな、とも。忠勝には豪傑のイメージをお持ちの方が多いと思いますが、きっと繊細で、いろんな人の思いを受け止めて戦っていたんだろうなと感じています。なので、僕が映らないカットでも殿を見つめる目を大事にしていましたし、ひと言もしゃべらないシーンでも殿を見る目というのはこだわってやっていました。

◆忠勝としてクライマックスを迎えるに当たり、どのような心境で臨んでいましたか?

忠勝は殿のそばにいることが多かったので、 どのように殿の隣にいるべきか、ということはいつも考えていました。ただ、思いを吐ける場面があまりなかったので、たたずまいや目の動きだけで殿への思いを見せなくてはいけない難しさをずっと感じながらやっていました。(忠勝は)関ヶ原の戦いでは前線にいるものだと思っていたのですが、あの時も誰より殿の近くにいて…。きっとそれは誰かに裏切られた時に殿を守るためそこに布陣していて、なによりも殿の命が大切なんです。その思いを吐きだせない苦しさもありました。そういう意味では、娘の稲(鳴海唯)とのシーンは忠勝が一番本心を出せた場面なのかな、と思っています(笑)。

『どうする家康』左から)山田裕貴、松本潤©NHK

◆まさに第43回では関ヶ原の戦いが描かれ、天下分け目の大戦が展開されました。忠勝にとっては最後の戦となりましたが、撮影を振り返っていかがでしたか?

小平太は真田を相手にしていたのでおらず、(井伊)直政(板垣李光人)も第15回からの出演なので、 第1回から出ていた家臣団メンバーはあの場に僕しかいなかったんです。他は豊臣方の武将や新たに入られたキャストさんばかりだったので、どこか寂しさもあり、殿と一緒に「違うドラマみたいだね」と話したりもして…。ただ、殿としては(大森)南朋さんや松重(豊)さん、音尾(琢真)さんといった先輩方のほうが相談しやすいと思いますし、僕で力になれているのかなと申し訳なさも抱えながらやっていたんです。そんな中、一度だけですが「ここの言い方、もっとこうしたほうがいいかな」ということをポロッと聞いてきてくださったことがあって、その時は本当に救われましたし、すごくうれしかったですね。殿に何かあったら寄り添おう、何か聞かれたら真剣に考えて答えようと、僕自身もまさに家康と忠勝のような感覚でやっていました。 

◆忠勝は第1回の「俺は認めん」というところから第44回にたどり着くまで、家康への思いに徐々に変化が生じたように見えます。山田さんは物語の中で言うと、どのエピソードがそのきっかけになったと感じていますか?

ある種の明かしにもなりますが、第2回の大樹寺でのシーンです。これは台本に書かれていたわけでなく、僕が思い立ってやったことなのですが、殿が腹を斬ろうとした時に目に虎が宿ったように見え、忠勝が1歩だけ下がっているんです。足の寄りのカットがあったわけでなく、本当にちょっとした動きなのですが、殿が寺の門を開けて出ていく時にも、その気迫に1歩下がっていて。武田信玄(阿部寛)や織田信長(岡田准一)を前にしても動じず、自分を1歩退かせたのはこの男だけ、というのをそこで味わったことにしようと思っていました。だんだんギアが上がっていったのかと思わせておいて、実はあの段階で認めていたんです。殿を守って死ぬことが夢なら、あの時点で心打たれていないといつまでたっても「俺は認めん」と言いながらそばにいなきゃいけなかったので、それは苦しいなと思って。勝手にあそこで認めたことにしていました(笑)。

『どうする家康』山田裕貴©NHK

◆忠勝が最期を迎えた第44回でも、名ぜりふである「俺は認めん」が登場しました。この言葉は、山田さんのアドリブがきっかけで印象的なせりふになったとお伺いしています。

僕、アドリブでやったことをその後も作品の中で活かしていただけることが多いんです。特に、本作の脚本の古沢(良太)さんは、物語をご自身だけで描かれていないところがすごいなと思っていて。叔父上(本多忠真/波岡一喜)亡き後に僕が「(叔父上の)ひょうたんを付けたい」と言って付け始めた後もひょうたんで酒を飲むくだりがト書きに入っていたり、“僕が考える忠勝”を引き取って描いていただけて本当にありがたかったです。「俺は認めん」というのも、第1回の最後で家臣団が殿に「どうする!?」と詰め寄る場面でカットがかからず、ずっと殿を見ていたらなんだか言いたくなってしまって。殿や南朋さんからも「狙っていたんでしょ」と言われるのですが、本当に何の計算もしていないんです(笑)。そういう台本を超えられた瞬間、僕が一番やりたいと思っている“役を生きる”ということができたんだな、と喜びを感じます。 

◆忠勝と康政の“平平コンビ”も高い人気を集めましたが、山田さんにとっての杉野さん、そして康政はどのような存在でしたか?

僕と杉野君は個性といいますか、魂の根底にある感覚みたいなものが全く別のところにあるんです。杉野君は戦国の時代に自分が向いていないと思っているようで、「僕は戦う“気”を持っていないけれど、山田君はその“気”を持っている」ということをよく言っていたのですが、僕が火ならきっと彼は水で。「お前にはお前の役割がある、だから頑張るんじゃ」というのは、僕も平八郎も同じ思いだと思います。現場では、僕も彼も並行して他の作品をやっていたので、互いに励ましながら撮影していました。個性が役にも出ていると思いますし、“平平コンビ”と呼んでいただけるのはありがたさを感じます。

『どうする家康』左から)山田裕貴、杉野遥亮©NHK

◆忠勝を演じるに当たって、僕がやるならこういう形がいいのかなというイメージで演じていると以前おっしゃっていましたが、山田さんが体現していた忠勝像とは?

忠勝って、強そうな肖像画であったり、今まで他の方が演じられてきた忠勝像から、ある程度イメージが固まっていると思うんです。実際、僕自身もゴツゴツしていて体が大きいイメージを持っていたので、自分が選ばれた理由が分からなくて。でも、クランクイン前に岡崎城へ行った時に、案内してくださった武将隊の方が「忠勝の肖像画って、本人が8回描き直させてるんです。なので、もしかすると山田さんのようにスラッとした人だったかもしれませんね」と言ってくださって。その時に「もしかしたらそうだったかも」と思えて、自分が忠勝をやることに自信が持てたんです。歴史って何が真実か分からないし、イメージなんてその人の空想だし、特に人の感情なんて実際に体感した人にしか分からないよね、と。それを疑似的ではありますが僕は体感できるわけで、僕が思う忠勝を演じられたらいいなと思えたので、 武将隊の方には本当に感謝しています。
そこで、僕がやりたい忠勝ってどういう人だろうと考えた時に、柔軟で繊細で、きちんと人の心を受け止め背負える人かな、と。殿が悲しければ自分も悲しいし、苦しければ自分も苦しくて、反発するのもその思いが分かるがゆえといいますか、きっと「わしが強くいなければこの殿はダメかもしれん」という思いで強く立っているんですよね。叔父上との別れの時(第18回)も、本当は泣きたいし、逃げ出したいし、一緒に死にたかったと思います。

◆第1回からこれまで、印象深いシーンを挙げていただくと?

先ほどお話した大樹寺でのシーンと、やはり叔父上との別れです。叔父上とのシーンは波岡さんと互いに演技プランを提案し合い、僕からは撮影前に「(平八郎の)最初で最後の傷にしたいので殴ってほしいです」ということを監督と波岡さんにお願いして。そこからさらに、叔父上が殴った後に突然抱きしめてきて、その瞬間演じてもいないのに忠勝の幼少期の映像が頭の中に流れ込んできたんです。不思議な体験といいますか、役を生きていないとそこには達しなかったでしょうし、 きっと忠勝が見せてくれたんだなと思っています。

『どうする家康』山田裕貴©NHK

PROFILE

山田裕貴
●やまだ・ゆうき…1990918日生まれ。愛知県出身。O型。2011年、『海賊戦隊ゴーカイジャー』で俳優デビュー。2022年、エランドール賞新人賞を受賞。主な出演作に「HiGHLOW」シリーズ(1619)、「燃えよ剣」(21)、「余命10年」(22)、「鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー」(22)、「耳をすませば」(22)、「夜、鳥たちが啼く」(22)、「ブラックナイトパレード」(22)、『女神の教室~リーガル青春白書~』(23)、『ペンディングトレイン8時23分、明日 君と』(23)、「東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編運命決戦」(23)、「キングダム 運命の炎」など。映画「ゴジラ-1.0」が現在公開中。 

番組情報

大河ドラマ『どうする家康』
NHK総合 毎週日曜 午後8時~
BSプレミアム/BS4K 毎週日曜 午後6時~ほか

●text/片岡聡恵

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