草彅剛、手話という自身初の“言語”で臨んだ撮影を語る「僕の中から新たな表情があふれ出た」『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』

特集・インタビュー
2023年12月22日
草彅剛 ©NHK

“読書の甲子園”と言われる全国高校ビブリオバトルでグランドチャンプ本に選出された、丸山正樹による小説「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」を実写化した本作。根強い支持を得る作品群の中から今回実写化されたのは、人気に火を点けた1作目だ。

 仕事や家族を失い人生に迷う男性が、自分の唯一の技能である手話を生かして「手話通訳士」になり、新たな人生のスタートを切る物語が、殺人事件をめぐるミステリーと共に繰り広げられる。

 そんな本作で、主人公・荒井尚人役を演じるのは草彅剛さん。耳の聞こえない両親をもつコーダ(Children of Deaf Adults)を演じるに当たり、数か月に渡って手話の猛練習を重ね、本作に挑んだという草彅さんに、撮影時のエピソードや言語への思い、本作に感じる魅力などを聞きました。


◆演じる尚人は“コーダ”ということでハードルの高い役かと思いますが、オファーを受けた時のお気持ちを教えてください。

作品のお話を頂く時には、いつも深く考えすぎずにやりたいと思うタイプで、今回もそんなに難しさを感じず、すんなりと演じることができました。監督をはじめ、皆さんが引っ張ってくださったのも大きいと思います。手話は初めてでしたがかなり量があったので、練習を重ね、演じつつもどんどんイメージを膨らませていき、最終的には大成功だったのではないかなと。今回は手ごたえを感じています。

◆おっしゃる通り、劇中では全く違和感のない手話を披露されていますが、手話でお芝居をする難しさは感じられましたか?

みっちり指導もしていただきましたが、本当に難しかったです。例えば、感情を出す時に大きな声を出すなど、声で表現することもお芝居の醍醐味だと思うのですが、今回はそういうところとは全く逆で。僕自身からあふれる“デフ・ヴォイス”を皆さんに感じていただけたらいいな、と思いながら臨んでいました。手話の先生が細かくチェックしてくださり、なんとかコーダの方に見えるようなところまでたどり着けたのかなと思っています。

草彅剛 ©NHK

◆尚人のキャラクターについてはどのように作り上げていったのでしょうか。

脚本が素晴らしく、コーダとして生きてきた尚人がこれまで抱えてきたものがそこにきちんと描かれていたので、尚人について監督と深くお話をするということはあまりありませんでした。ただ、僕が手話の練習をする時には監督も毎回来てくださり、細かく手話の先生方と打ち合わせをしてくださっていて。手話を通して尚人のキャラクターを共にどんどん作り上げていった感覚がありました。とても熱心で懐の温かい方で、監督の思いもお借りして僕は尚人になれたのだと思います。

◆劇中ではろう者の方と共にお芝居をしたとお聞きしました。

ろう者の方と共にお芝居をするというのは1つの大きな挑戦でしたが、それによって僕の中からあふれ出てくる新たな表情があったのかなと思います。また、「こうお芝居しよう」と考えていなくても、皆さんのお芝居の吸引力や空気感に引き込まれ、自然とどんどん気持ちが乗っていくんです。なので、手話の形だけ覚えていくような感覚で、あとは現場で受けたものをそのまま表現するということを大切にやっていました。

◆撮影現場もきっと温かな雰囲気だったことが伝わってきます。

いい意味でドラマの現場ではないような雰囲気でした。僕は手話の練習で忙しいけれど、他のみんなは遊んでいるのかな、と思ったこともあるくらい(笑)。今回、エキストラさんなどもろう者の方にお手伝いいただいたのですが、聞こえる人との垣根を越えて、手話や身振り手振りで伝え合い、みんなで一緒の方向を向いてシーンを作り上げようとする、とても温かな現場でした。

草彅剛 ©NHK

◆草彅さんは手話の練習をどのように進めていかれたのでしょうか。

なかなか覚えられず、練習は本当にたくさんやりました。先生が3人付いてくださり、こまめに部屋を貸し切ってはスパルタで教えていただいて(笑)。特に、(前編で)レストランを訪れた尚人がろう者のことを悪く言う青年たちに向かってやった手話はすごく難しかったですね。ひどいことを言っているせいか、あまり手は映っていなかったのですが(笑)、実はあそこのシーンだけで練習に10時間以上費やしていて。なので、完成したものを見た時に「(手ではなく)顔のアップかよ!」とは思いましたが(笑)、手話を完璧にできたからこそあの表情が生まれたのだと思っています。なので、あれは“10時間フェイス”です(笑)。

◆練習期間としてはどのくらい…?

撮影中の2か月くらいは細かく長く、スケジュールを調整して、大阪で『ブギウギ』を撮りながら練習を続けていました。移動中の新幹線でもやっていて、大阪まで片道3時間、往復6時間ずっとやっていたことも…(笑)。でも、やらなければできないことですし、やるのが当たり前なので。なにより、ろう者の方や先生方と共に時間を過ごすことができ、仲良くしていただいて、本当に楽しい体験ができました。皆さんに感謝していますし、皆さんが僕を尚人にしてくれたのだと思います。

◆皆さんご存知の通り、草彅さんは韓国語も達者ですが、今回は手話に挑まれ、“言語”についてはどのような思いがおありですか?

僕の場合はまず日本語がままならないので、言語にはあまりこだわりがないんです(笑)。手を使って言葉を伝えるという意味では韓国語とは少々異なりますが、“人に分かってほしい”という気持ちはどの言語でも同じだと思っていて。楽しみながら言葉を伝えること、同じ感情を分かち合うことが何より大切だと思っています。今回、手話で皆さんと通じ合うことができたことはもちろん、新しいことを覚えられたことがうれしかったです。あらためて学ぶことの大切さを知ることができました。

草彅剛 ©NHK

◆草彅さんがこのドラマに感じる魅力は?

当初は原作を知らなかったこともあり、手話を扱った作品と聞いてストレートに感動できるストーリーなのかなと思っていたのですが、意表を突いてミステリーというところがいいなと思いました。犯人にたどり着くまでの道筋も面白く、僕自身途中で誰が犯人だったか分からなくなってしまうこともあって…(笑)。普段、ミステリー作品を見ていると「あれはどうだったかな?」と何度か見てしまうのですが、この作品もそのように皆さんに楽しんでいただけると思います。また、ミステリーでありながら、その対極である家族愛を描くシーンや美しいシーンもあって。これまでこのような作品に出演したことがなかったので、新しい作品を皆さんと作れたことをうれしく思っています。

◆“家族愛”もこの作品の軸のひとつかと思いますが、草彅さんご自身は家族への思いに変化などはありましたか?

そこはあまり変わらないですね。ただ、尚人はコーダとしてこれまでいろいろなものを抱えてきて、ひとつ殻を破りたいとずっと思っていながらなかなか踏み出せないという、尚人にしか分からないナイーブなところがあって。でも、恋人のみゆき(松本若菜)さんはそんな尚人のそばにずっといてくれて、やはり人は1人では生きていけないのだと、家族をはじめ、そばにいてくれる人の大切さをあらためて感じました。

◆本作について、稲垣吾郎さん、香取慎吾さんとは何かお話を?

忙しかったのもあり、全くしていないです。ただ、吾郎さんは『罠の戦争』の1話終わって以降から見ていないと言っていたので見てくれるか…(笑)。吾郎さんの「正欲」も最高でしたね。一方の慎吾ちゃんは『罪の戦争』も全部見てくれていて、2人にも届けたい素晴らしい作品なので、ぜひ見てもらいたいです。

◆最後に、2023年が草彅さんにとってどのような1年だったかを教えてください。

ずっとせりふを覚えていた1年でした。今も覚えているのですが、この仕事をやっているうえではそれが一番幸せなことだと思います。あとは大阪に行ったり、京都に行ったり、とにかくぴょんぴょんぴょんぴょん跳ねていました。なので、“うさぎ(卯)賞”を僕にください(笑)。来年は辰年ということで、龍がついたスカジャンをたくさん着たいと思います!

草彅剛 ©NHK

番組情報

『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』 

NHK総合/BSプレミアム4K(全てのせりふに字幕をつけて放送)

前編:20231216日(土)午後10時~
後編:20231223日(土)午後10時~
※リモコンなどで「字幕」表記の選択をする必要はなく、通常放送として音声日本語(しゃべりぜりふ)と手話に字幕あり。 

Eテレ(手話をつけて放送)

前編:202424日(日)午後345分~
後編:2024211日(日・祝)午後345分~
※すべてのせりふに対して「手話」を画面上に表示する。 

出演:草彅剛、橋本愛、松本若菜、遠藤憲一ほか

●text/片岡聡恵