松尾幸実インタビュー 女優は「ミスユニバースのときよりよっぽど緊張」

特集・インタビュー
2016年08月12日

モデルから女優へ。2013年ミス・ユニバース日本代表に輝いた松尾幸実さんが、『グ・ラ・メ!~総理の料理番~』(テレビ朝日系 毎週(金)後11・15ほか)でドラマデビュー。天才シェフのくるみ(剛力彩芽)を総理の料理番に抜擢した政務担当総理大臣秘書官の古賀(滝藤賢一)の部下、桜井あすか役に挑んでいる。ドラマではかなりクールな役どころの松尾さん。しかし、実は“イラストレーター”の肩書きもあり、意外な一面も。異色の経歴を持つ彼女の素顔に迫ります。

“漫画を描くためには、もっと人生を深めていく必要がある”

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――松尾さんの描かれたイラストを何点か拝見させていただきましたが、とても完成度の高い作品ですね。ツイッターのヘッダーのイラストもご自身で?

そうなんです。今年の暑中見舞いにと思って描いたものなんです。

――そのツイッターのプロフィール欄にはひと言“オタク語しか喋れません”とありますよね(笑)。

はい(笑)。ツイッターは自由に伸び伸びとやらせてもらっています。フォロワーさんの中には私がオタクだと知る昔からのファンの人も多いので、そこだけは免罪を受けて(笑)。

――漫画の世界に目覚めたきっかけや作品は何だったんですか?

私の母が、漫画も含めて読み物がすごく好きなんです。一番最初に母から薦められた作品って何だったろう。たぶん、萩尾望都先生ですね。それから漫画を読むことの魅力に取りつかれていきました。

――強いて“人生を変えた一冊”を挙げるなら?

 大学生になるかならないかくらいのとき、週刊少年ジャンプに連載されていた「家庭教師ヒットマンREBORN!」という漫画にハマってて、そのころ初めて漫画を一緒に描く友達ができたんです。同い年で、今でも私の絵の師匠というか、絵を描く上でのベースを作ってくれた人です。
彼女はタイで暮らしていた帰国子女で、まだ日本のことが全然分からなかったので、私がいろいろ教えてあげているうちに、一緒に「REBORN!」とかにもハマるようになって。漫画のことだけじゃなく、世の中のいろんなものを見ては、「何でこのポスターはこの色彩にしたんだろう?」とか「何でこのオブジェは変な形しているのにこんなにセクシーに見えるんだろう?」とかたくさん語り合ったりして、初めて絵を描いていてよかったなって思ったんです。だから、絵を描くのが楽しくなったきっかけとして「REBORN!」は私にとって大きな作品ですね。

――読むだけでなく、なぜ自ら描こうと?

もともと運動音痴で、勉強もあまり得意なタイプではなかったんです。親戚が多いんですけど、みんなスポーツ万能で、頭もよくて、私だけどちらも苦手だったんです(笑)。「何で君だけこんなに何をやらせてもできないのか」と言われてました。だけど、絵だけは違ったんです。小学生のときの絵のコンクールでも賞をもらったりして、私の個性なのかもしれないって思ったのがきっかけですね。

――WEB連載の話もあったとか。

そうなんです。ミス・ユニバースを受けるか受けないか、というときでした。実はそのとき、モデルを辞めようと思ったんです。漫画を真剣にやりたくて。でも、当時私の担当だった方が、受けたほうがいいって後押ししてくださったんです。「漫画を描くためには、幸実ちゃん自身がもっと人生を深めていく必要がある。今のままじゃ説得力に欠けるし、描きたいものもすぐに尽きてしまう。漫画はいくつになっても描けるから、今しかできないことをしたほうがいい」って。その言葉は今でも私の中に深く残っていて、いつかその気持ちに応えたいなと思っています。だからこれからも、漫画を描くことは諦めたくないですね。

――いろんな経験が漫画を描くことに還元できる、ということですね。

はい。「幸実ちゃんが芸能界でどんなことを見てきたのか、そういうサクセスストーリーも読んでみたい」というようなこともおっしゃってくださって。だから今は1つひとつ丁寧に思い出を作っていかなきゃと思ってるところです。毎日が思い出作り、毎日が青春です!

――ちなみに、漫画のキャラクターの中で理想の男性はいますか?

ミス・ユニバースになったときにも答えたんですけど「HUNTER×HUNTER」のレオリオです! 自分の中にある正義をブレさせずに持ってる人がすごく好きなんです。

――年齢はあまり関係ないですか?

そうですね。「天 天和通りの快男児」という、「アカギ」のスピンオフの元になったマージャン漫画があるんですけど、それに50歳の赤木しげるというキャラクターが出てくるんです。その赤木もすごく好き。だから、年齢はあまり関係ないですね。

――(マネージャーさんより)「名探偵コナン」のあのキャラも好きなんでしょう?

安室透くん! その話しちゃいます? 今日、終わらなくなりますよ?(笑)。

――“バーボン”ですよね。(※安室のコードネーム)

そうです!!! 安室くん目当てで、今年公開された『コナン』の劇場版も合計14回見に行きました(笑)。好きになったきっかけは、安室くんがFBIに向かって言い放った「僕の日本から出ていけ」っていうせりふですね。安室くんの愛する日本に私が住んでるっていうのが、もうたまらなく刺さって。「私、安室くんに守られてる!」みたいな(笑)。

――安室のビジュアルもタイプなんですか?

そうですね。もともと褐色が好きなわけでもなかったし、金髪やタレ目が刺さるというわけでもなかったんですよ。でも、気がついたら彼のすべてが好きでした(笑)。

漫画を描くこととモデルは、同じ“好き”でも、私の中では全然違う

――では、ここからはモデルのお仕事についてもお伺いさせてください。漫画が大好きだった女の子が、なぜモデルの道へ?

 私が漫画ばっかり描いて、毎日1人でスカイプで画面に向かってしゃべってるもんだから(笑)、見かねた母から「お願いだからもう少し外に出て、人と関わってほしい。今後あなたがどういう職業を選ぶかはあなた自身の問題だけど、今のうちに外の世界を見ておくに越したことはない」と言われて。とはいえ当時、アルバイトをしていたので外には出ていたんです。でも、半年くらいの単位でころころ仕事を変えていて。で、母に相談したんです。ずっと続けられて、毎日いろんな人と関われて、いろんなものを見ていける職業はないかなって。昔、母がモデルをやっていたこともあり、母からモデルを薦められたのです。
ただ、そのころの私は化粧の「け」の字も知らないような女の子で。髪の毛も眉毛もぼさぼさで、服もよれよれ。だけど、その事務所に行ったら「君はニコニコしてるから大丈夫だよ。可能性なきにしもあらず」って言われて(笑)。じゃあ、怖がらずにやってみようと思って飛び込むことにしたのが、モデルを始めたきっかけです。でも、モデルって誰も何も教えてくれないですからね。

――独学で努力したり、人のを見て研究するわけですか。

そうです。モデルを始めて2年くらいは、100オーディションを受けて1受かればいい、くらいの感じでしたね。

――漫画を描くのってこもりがちで孤独な作業だったりしますけど、モデルは人前に出て行くわけじゃないですか。正反対にも思えるんですけど、苦労しませんでしたか?

 最初は相当苦しみましたね。ファッションショーとかいろんな現場に行くと、たくさんのモデルの女の子たちが控え室とかに集まってにぎやかになるじゃないですか。私、7年間ぐらいモデルをしていて、1人も友達できなかったですから(笑)。常に1人で絵を描いてましたからね。
毎日鏡に向き合うのが苦痛で、すごく嫌だったし、つらかった。本当に苦しみながらやっていた仕事です。でも、それを乗り越えてきた分、私にとってモデルはすごく愛しいものなんです。だから、よく「漫画を描くのもモデルもどっちも好きなんでしょう?」って言われるんですけど、同じ「好き」でも、私の中では全然違うものなんです。

――途中で心が折れることはなかったんですか?

何度も折れましたね。モデルを始めたばかりのころはまだアルバイトしてたんですよ。普段イラストばっかり描いてて体もなまってたので、それで一生懸命稼いだお金が、漫画じゃなくて、全部モデルの化粧代に消えていくわけですよ。今は化粧にお金をかけることも楽しいと思えますけど。よくあのとき辞めなかったなって、今でも自分を褒めたいです。

――そこまでの思いをしながら辞めなかった原動力は何だったんでしょう?

たぶん、途中で辞めるのが悔しかったんでしょうね。私、小学生から中学生までずっと水泳をやってたんです。それもすごくキツかったんですよ。ムキムキの鬼コーチにとにかく厳しくシゴかれて、毎日辞めたい、辞めたいって言ってて。柱にしがみついたりもしたくらい。そうすると足を引っ張られて、漫画のように体が横に垂直になって。朝6時ぐらいですよ。合宿に強制連行されて、たくさん練習させられて。

――地獄ですね…。

 そのときに母に言われたんです。「水泳を楽しめるようになったら辞めてもいい。嫌だと言ってるうちは、絶対に辞めさせない」って。もう諦めましたね(笑)。その後、水泳で結果を残せるようになってきて、ようやく楽しいなって思い始めたころに高校受験のシーズンと重なって、自然と辞めることになっちゃったんですけど。だからそのときに、1つのことをやり始めたら途中で挫折してはいけないっていうことを母に教え込まれてるんですよ。それが根幹にあるのかなって思います。

――ミス・ユニバースに臨まれたときの気持ちは?

 最初は記念受験っていう思いや、漫画の取材にもなるかなくらいのわりと軽い気持ちでした(笑)。でも、やっていくうちにその気持ちは変わっていきました。中途半端に終わらせたくないというか、こんな生半可な気持ちで結果も残せずに終わったら絶対に悔しいから嫌だ!って思って。誰にも負けたくなくて、誰よりも勉強しましたし、誰よりもボランティアに行きましたし、誰よりもPR動画を撮ってネットで流すようにしました。そうしたらありがたいことに結果を残せたという感じですね。

――漫画のネタにと思っていた松尾さんにとって、その努力するっていうのはものすごく大変だったんじゃないですか?

もちろん大変でしたけど、すごく楽しかったです。当時25歳だったんですけど、普通その年齢だったら、会社に貢献するために働いてるときじゃないですか。そんなときに1年っていう長い期間で、徹底的に自分と向き合えたわけですからね。

――ミス・ユニバースへの挑戦で一番経験になったのはどんなことですか?

セルフプロデュース力ですかね。全部自分でプロデュースしていかないといけないんですよ。どんな服を着て、どんなことを話して、私はこういう人なんだっていうのを伝えるために自分で書き起こして、プレゼンして。それはすごくタメになりました。

――前に突き進む強さはどこで身についたのですか。

母からの教えでもあり、私としては力強くというよりは“常に柔らかくいよう”って思っています。自分がガチガチに固まってると、相手も傷つくし自分も傷つく。硬いものと硬いものがぶつかったら怪我しちゃうから、あなたが柔らかければどっちも怪我しないでしょうって母に言われ続けてきたんですよね。

初ドラマで最高のスタートを切らせていただいた

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――今、スタイル維持のためにやっていることはありますか?

 今年2月から空中ヨガを始めたんですけど、それが結構自分には合っていて。空中ヨガは柔らかいハンモックの中で、ハンモックの力を借りて体を伸ばしていくんですね。で、最終的には足をハンモックにかけて逆さに宙ぶらりんになって。これを1時間半くらいかけてやっています。

――食生活では、何か気をつけているのでしょうか?

鶏肉はよく食べてますね。野菜はミキサーにかけて飲むようにしています。いつも気がついたら肉とスパイシーなものばっかり摂っちゃうんですよ。だから、それだけは気をつけるようにしています(笑)。

――ご自身でも料理されるんですか?

はい。家庭料理が好きで、煮物とかは割りとよく作りますね。

――現在出演中のドラマは、まさに“料理”がテーマです。

国家レベルの来賓を官邸にお迎えして、そこに出される官邸料理人たちの料理、そしてその料理に込められるメッセージ。私もいち視聴者として、すごく面白いなと思いながら楽しんで見ています。毎回、本当においしそうな料理が次々出てくるんですよね。それに普段、世の多くのお母さんたちも私たちの健康を気遣っていろんなメッセージを込めてご飯を作ってくれてるんだろうなって、あらためて感謝できるドラマだなって思います。

――主演の剛力彩芽さんとの共演はいかがですか?

すっごく優しくて、明るい方です。剛力さんが現場に入られると、雰囲気がぱーって明るくなるんですよ。で、「あれ見た?」「これ見た?」「あれ食べた?」とか、そういう話題でみんながわーって盛り上がる。そうやって明るくみんなを引っ張っていってくださる、リーダーシップのある方だなと思います。本当にすてきな人です。

――初めてのドラマの現場で、緊張しませんか?

すごく緊張しました。ミス・ユニバースのときよりもよっぽど緊張しましたね(笑)。ミス・ユニバースのときは高いヒールで、前に出て踊ったりしてたのに、今は低いヒールで立ってるだけでもすごく足が震えるんです(笑)。でも、こんなに実力派俳優の皆さんと共演させてもらえて、目の前でその演技を見られるっていうこの空間は本当に貴重ですし、初ドラマで最高のスタートを切らせていただきました。

――桜井あすかを演じる上で心がけていることはありますか?

台本を読んだとき、私は桜井あすかのことをきれいで愛想のいい女性だと思っていたんです。にっこり出迎えてくれて、印象良かったなって思ってもらえるような。そう思って臨んだんですけど、監督からできるだけ無表情、無感情でやってほしいと。私はまだまだだなって、すごく思い知りましたね。監督がおっしゃる桜井あすか役のイメージは絶対に面白いし、それを聞いてより“桜井あすか役をやりたい”って思えました。

――無表情、無感情だとキャラクターが読みにくくて、逆に難しくはなかったですか?

あすかには容姿端麗という設定があるんですけど、恐らく彼女はそういうものを武器にしているとすぐに足を引っ張られて転がり落ちてしまうような、厳しい現場で働いてきた女性で、一切隙を見せずにここまで上り詰めてきたんだろうなって想像したら、自分の中でしっくりきたんですよね。でも、私自身は正反対の性格なので、それがふとしたときに出ちゃうんです。例えば、無意識に気を使うようなしぐさをしてしまったり。あすかは絶対にそういうことはしませんからね。官邸での仕事がスムーズに進めばそれでいい、周りの意見は関係ないみたいな、そういうキリっとした女性じゃないですか。私はできるだけ円満にいけばいいやっていう、へら~っとしたタイプなので(笑)。その辺のスイッチの切り替えをしっかりやらないと、素の自分が出てきてしまうので、気をつけながら演じています。

――女優という仕事は今、楽しいですか?

楽しいです! ただ今後、もっと壁にぶつかって泣いていかなきゃいけないことが出てくると思いますけど、それも覚悟しています。一生の仕事にしていけたらと思っています。

――では最後に、あらためてドラマの見どころをお伺いできますか。

はい。料理に込めるメッセージというのは、それに気づけたら、作る人も食べる人ももっと幸せになれるんだろうなっていうのをあらためて感じさせてくれるドラマです。かわいい女の子とイケメンもいっぱい出てくるので、そういうビジュアル的な部分ももちろん(笑)、普段なかなか知りえない、政治の世界での食事のシーンっていうのを想像するのも楽しいと思います。とにかく見どころがたくさんあります。桜井あすかのアピールポイントとしては、愛想のない、かわいげのない、絶対に一緒に仕事したくない女性だなって思ってもらえたら最高です(笑)。

 

PROFILE

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松尾幸実
●まつお・ゆきみ…1987年10月20日。京都府出身。B型。
イラストレーター兼モデルとして活動し、2013年にはミス・ユニバース日本代表に選出。今春、所属するオスカープロモーションの『女優宣言』に和田安佳莉、田中道子、中川知香と共に選ばれ、女優へ転身することを発表した。

 

番組情報

『グ・ラ・メ!~総理の料理番~』
テレビ朝日系 毎週(金)後11・15~深0・15ほか
原作:「グラメ~大宰相の料理人~」作・西村ミツル、画・大崎充
脚本:菱田信也ほか
出演:剛力彩芽、滝藤賢一、高橋一生、新川優愛、内藤理沙、松尾幸実、三宅弘城、小日向文世ほか

 

●photo/中村圭吾 text/甲斐 武