お笑いコンビ・トンツカタンの森本晋太郎さんがTV LIFEで連載中のコラム「トンツカタン・森本晋太郎のネクストブレイク紀行」。「今年売れる」と言われ続ける中での出来事や本音が綴られた“飛躍を夢見る芸人の備忘録”をwebでも公開します。今回は、M-1グランプリ準々決勝の楽屋での話。(TVLIFE 2024年12月11日発売号より転載)
赤ちゃんを始めるのに遅すぎることなんてない
もう何度目の負けだろうか。
先日のM-1グランプリの予選を以って我々の今年の賞レースが終了した。キングオブコントとM-1グランプリ、どちらも準々決勝敗退という結果で終わった。ここ数年は基本的にこの辺りで毎回力及ばず、ただひたすら辛酸を舐め続けているのが現状だ。もう舌が麻痺して辛味も酸味もわからなくなってきた。しかしながら戦績は変わらずとも、その実は少しずつ進歩していると信じてまた新たにネタを作っていこうと思う。
M-1グランプリ準々決勝の楽屋でスタッフさんからのインタビューに応えるネコニスズの舘野さんをお見かけした。舘野さんといえば芸歴21年目にして赤ちゃんになりきるという大胆すぎるキャラクター変更を決行し、周りの芸人やお笑いファンを今なおざわつかせ続けている。
どうにかM-1に関するいいコメントを引き出そうというスタッフさんを尻目に、僕と目が合った舘野さんは両手の人差し指を左右の頬に押し付けるポーズを見せてきた。どうやら集中力の無さまで赤ちゃんになってしまったようだ。
その後インタビューを終えたのを確認し、改めて挨拶をしに近づくと舘野さんはご自身の鼻の下を指差し
「鼻水でた」
と伝えてきた。あまり41歳の男性から鼻水の報告を受けたことがないので戸惑っていると、追い打ちをかけるように
「拭いてほし」
と言ってきた。僕はいつからこんなに懐かれていたのだろうか。いくら先輩で赤ちゃんとはいえ鼻水を拭くのは気が乗らないので近くにいた相方のヤマゲンさんを指差し「そういうのは相方さんに拭いてもらった方がいいんじゃない?」と提案するとヤマゲンさんが
「じゃあ赤ちゃんは俺か森本どっちに拭いてほしいん?」
「…森本くん」
人生を賭けたM-1の予選でやるやり取りじゃない。結局赤ちゃんの鼻水を拭かせられた僕はせめてもの思いを込めてネコニスズのおふたりに「頼むからウケてください」と懇願した。その後Xでお客さんの感想を見ると大爆笑をかっさらっていたという声が多く、鼻水を拭いてあげた甲斐があった。
ただ、準決勝に駒を進めた30組の中に僕ら同様ネコニスズさんのお名前はなかった。もちろんワイルドカードシステムにより復活する可能性は残しているものの、ここでいったんM-1の幕は閉じた形となる。そう思うとネコニスズのおふたりに限らず、先輩方の多くは僕らよりも敗北の味を知っているにも関わらずまだまだ貪欲にお笑いを追求していく姿を背中で見せてくださっている。そんなかっこいい敗者たちが周りにいるのだから、僕らも立ち止まっているわけにはいかない。今回の負けも必ず成長に繋がっているから。
まあ、赤ちゃんが成長したらまた舘野さんに戻ってしまうのだけど。
森本晋太郎
●もりもと・しんたろう…1990年1月9日生まれ、東京都出身。お笑いトリオ「トンツカタン」のツッコミ担当。プロダクション人力舎のお笑い養成所・スクールJCA21期を経て、現在はテレビやラジオで活躍中。趣味でもあるツッコミに特化したYouTubeチャンネル「タイマン森本」も好評。