【暇つぶしきっかけで小説家に!】「ネット小説大賞」受賞・功野涼しが語る、異色の創作術

特集・インタビュー
6時間前

『姫プレイ聖女』

そこまで読書経験もなく小説家志望でもなかった一人の会社員が、趣味で書いた作品で「ネット小説大賞」を受賞しデビュー……そんなシンデレラストーリーを体現したのが、先日初の著書『姫プレイ聖女』を発売した小説家・功野涼しさんだ。

コロナ禍の暇つぶしで小説を書き始めたというとんでもないデビュー秘話を持つ功野さんに、その独特な創作スタイルと、本業と執筆を両立させる「タスク管理術」について聞いた。

功野涼し

功野涼し(こうの・すずし)
コロナ禍をきっかけにネット小説の投稿を始める。はじめは王道ものを書こうとしていたが、いつの間にか男の娘の物語が増えて今に至る。第11回ネット小説大賞にて受賞し、書籍化デビューを果たす。九州生まれ、趣味はおもしろそうなものに触れること。広く浅くたまに深くがモットー。

執筆のきっかけは「暇つぶし」。プロットなし、同時並行で生まれる物語

功野さんの小説家デビューは、意外なきっかけで始まった。

「ちょうどコロナ禍で、時間に余裕ができたんです。端的に言うと、暇だった(笑)。いろいろなアニメやドラマをひたすら見続けているうちに、その原作の多くがネット小説だと知り、そこからいろいろなサイトの小説を読み始めました。そのうちに、『自分もちょっと書いてみようかな』と思ったんです。これが、小説を書き始めたきっかけです」

幼い頃から小説家を目指していたわけでも、特に本好きだったわけでもない。もちろん、本格的な執筆経験もなかったというから驚きだ。

「わりと凝り性なので、一度始めたらハマり続けるところがあるんです。暇つぶしと思って書き始めた執筆活動ですが、自分に合っていたんですかね。小説を書き始めて以来、基本は1日1話2,000文字くらいの作品を小説サイトで公開しています。毎日更新を課しているわけではないんですが、自然と書き続けていますね。もう5年くらいになるので、これまでの趣味に比べるとずっと長く続いています」

創作スタイルもまた、既存の概念にとらわれない。物語のざっくりとしたゴールはあっても詳細なプロットは作らず、「書きながら決めていく」のが功野流。そして、さらに驚くべきは、常に3〜4本もの作品を同時並行で執筆しているという点だ。

「一つの作品を完結までずっと書き続けるのではなく、最低でも2本、多いときで4~5本の作品を同時進行で書いています。何かふとアイデアを思いついて、でもその物語には盛り込めないなと思ったら、別の物語で採用する。そうして、新たな作品を書き始めているうちに、いつのまにか複数の物語を同時で書き進めていました。

少し執筆に行き詰まったら、他の作品を書き始めることで、自然とモチベーションを維持させているのかもしれません。おかげで、『書くのが嫌だ』と思ったことは一度もないんです」

本業と執筆活動を両立させる「功野流・アイデア管理術」

普段はまったく別のジャンルの仕事をしている功野さん。じつは、今回の作品『姫プレイ聖女』の電子版特典として、読み切りショートストーリーを収録しているのだが、担当編集が依頼した3日後には納品されたとのこと。一体どのように執筆時間を捻出しているのだろうか。

「仕事が終わってから、夕食後に1〜2時間程度書くことが多いです。やれるときに集中してやるというスタイルですね。執筆のために無理に時間を作るというよりは、空いた時間に一気に書き上げるという感じです。

ただ、アイデアに関しては、毎日の生活の中で『何かしら作品に繋がらないかな』と常に考えていて、思いついたらメモ用紙に書き留めています。それを後で組み合わせて、物語を構築していきます。スマホに入力することもありますが、仕事中のちょっとした空き時間に浮かぶこともあるので、結局はメモになっちゃいますね」

メインの執筆はノートPCで行うものの、アイデアのメモだけでなく、あえて手書きで執筆を進めることもあるという。

「車の中など、場所を変えて書いたりもします。タブレットもあるんですが、適当な用紙にペンで文章を書いていくことの方が多いですね。殴り書きみたいな感じですが、結構筆が進むんです。あとでその用紙を見ながらパソコンで清書をしていきます」

デジタルツールが主流の時代に、あえてアナログな手法を取り入れることで、脳を刺激し、インスピレーションを引き出す。この「自らの手で書き記す行為」自体が、功野さんの創作にとって重要な要素となっているようだ。

物語の根底に流れる「やさしい世界観」と今後の展望

『姫プレイ聖女』
功野さんの世界観にベストマッチした書籍内のイラストにも注目

初の書籍化にあたり、編集部から大量の赤字や修正指示を受けたという功野さんだが、これを「書き方や表現の仕方を学ぶ機会」として心底楽しんだと笑顔で語る。また、今回の経験を通じて、自身の創作の根源にある「世界観」がさらに明確になったようだ。

「根底にあるのは、“全員が生きている”という実感が得られるような物語を紡ぎたい、という想いです。主人公のために他のキャラクターが存在するのではなく、それぞれが自分の人生を生きていて、お互いに影響を与え合っている。だから、明確なモブキャラは存在しない。そんな物語を大切にしています」

今回の作品『姫プレイ聖女』も、主人公の意思とは裏腹に周りが勘違いしながらも助け合い、物語が進んでいくという物語。やさしさや温かさが溢れる内容になっている。

「ただ、その想いが溢れすぎてしまって、登場人物全員に名前をつけていたんですよ。ほんの少し出てくる人にもすべて。そうしたら、編集さんから『名前が多いから、少し減らしましょう』と指摘されて、数人の名前を削りました。たしかに、読者の方にしてみれば、主要人物以外の名前を覚えることは、あまり意味はないですよね。そのあたりのさじ加減が難しいなと感じています」

最後に、今後の展望を聞いた。

「『自分の頭の中にある物語を言語化し、表に出したい』という一心で毎日執筆しています。次の作品も出せるのであれば、どんどん出していきたいです。本業との両立は続けますが、いつか本業と副業が入れ替わることもあるかな……。

まだ実績もなくこれからですが、今後も物語を書き続けていきますので、応援してもらえたらうれしいです。まずは、今回の『姫プレイ聖女』が売れないと、出版社の方や編集さんたちに悪いなと思っています(笑)」

功野さんのデビュー作『姫プレイ聖女』は、読んでいて気分が良く、ほっこり温かい気持ちになれる一冊。それもすべて、功野さんの人柄が表れているようだ。異色のデビューを果たした功野さんの物語は、私たちに「本当に好きなことに没頭する大切さ」と「趣味を仕事に繋げる可能性」を教えてくれた気がする。

●text/水谷花楓

書誌情報

『姫プレイ聖女』

功野涼し『姫プレイ聖女』(ワン・パブリッシング)

 “姫プレイ”ד聖女”の異色設定!
銀髪の美少年がひょんなことから“聖女”として活躍! 王道ファンタジーに勘違いコメディのニュアンスを絶妙に込めた、今までにない物語。タイトルでもある“姫プレイ”は、ゲーム用語で初心者が経験者に庇護されるプレイスタイルを指しますが、本作ではそんな姫プレイが世界を救う兵法に! 王道ファンタジーに今までにない設定とストーリーギミックを融合させた、唯一無二のストーリー。

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