観光庁主催「サステナブルな旅AWARD」大賞は“千年の草原”をサステナブルに活用した阿蘇温泉観光旅館協同組合によるツアー

エンタメ総合
2023年10月27日
左から)観光庁審議官・石塚智之氏、阿蘇温泉観光旅館協同組合副理事長・永田祐介氏、審査員長・小林英俊氏

観光庁主催の「サステナブルな旅 AWARD」受賞発表式が10月27日(金)に開催された。

日本における持続可能な観光を浸透させることを目的として創設された観光庁主催の「サステナブルな旅AWARD」では、「ツーリズムEXPOジャパン 2023」(大阪)で受賞式を開催。2023年4月4日〜8月31日の期間に旅行業者から募集したサステナブルな旅行商品について、観光業界における有識者が審査を行った上で、受賞商品を選定した。

受賞発表式では、大賞、準大賞、その他特別賞を受賞した旅行商品の発表及び表彰が行われた。まず、観光庁審議官・石塚智之氏が「本アワードを契機として旅行業者と地域の多様な関係者との連携を強化し、我が国の自然、文化などその土地ならではの魅力を生かした旅行商品の造成販売を促進することで、旅行会社が観光地の持続可能性を支えるための取り組みをけん引していくことを期待しています。また、ツーリズムEXPOジャパンという機会を生かし、旅行業界のみならず、広く一般の旅行者、国民における持続可能な観光に対する意識にも機能できればと考えています」とコメントした。

観光庁審議官・石塚智之氏

特別賞に選ばれたのは、クラブツーリズム株式会社「台東区の歴史・文化・魅力を再発見!“江戸の匠・職人”を撮る~第3弾~」、株式会社やまぼうし「日本遺産・箱根八里で古の旅路の追体験」、株式会社 HOME HOME NIIGATA「2泊3日十日町棚田トレッキング」、濃飛乗合自動車株式会社「気ままなバス旅『レールマウンテンバイク Gattan Go!!』プラン」の4商品。

準大賞の一つ目は、Tricolage 株式会社の「Connecting to Yatsugatake」。「せわしない都会から少し離れて大地の恵みをゆっくり感じたい」「サステナブルに旅行がしたい」と感じている人に向けた、旅全体を通して持続可能な土地“Yatsugatake”を体験し、自ら責任ある旅行者として地域に寄与できる旅で、パーマカルチャー農業体験、ナチュールワイナリー見学、ヨガランチ、文化乗馬体験などの特別アクティビティーにより、八ヶ岳の生活に触れる。

二つ目は、株式会社かまいしDMCの「漁村集落の小さなお宿交流と漁民が守りつなぐ海山体験」。廃園した元保育所の園舎をリノベーションし、地域みんなで見守る地域型民泊としてスタートした「御箱崎の宿」。津波で民宿を流された女将を中心に、町内住民が協力して収穫する新鮮な海の幸と地元の郷土料理で地産地消をかなえ、サステナブルかつ高質なおもてなしと温かな交流を実現している。同ツアーで楽しめる、陸域の「千畳敷トレッキング」、海域の「漁業見学体験」は、いずれも三陸復興国立公園内で体験でき、守るべき希少な環境資源であるとともに、漁民自身が大切に守り続けている文化そのものであり、観光を通じて地域へ貢献している。

そして、大賞は阿蘇温泉観光旅館協同組合の「特別な許可を得て草原体験!噴煙を上げる阿蘇中岳火口と『千年の草原』E-MTB ライド」に決定。同ツアーは、これまで農業により守り受け継いできた「千年の草原」を観光でもサステナブルに活用することで、次の千年に守り伝えていくために生まれたもの。一定の研修を受けたガイド「牧野ガイド」が同行し、普段は立ち入れない草原を安全・安心に保全・活用していくためのガイドラインを遵守しながら案内していく。また、ツアー参加代金の一部は草原の保全料として、野焼き等の草原の保全活動に還元している。

左から)観光庁審議官・石塚智之氏、審査員長・小林英俊氏

審査員長を務めた北海道大学観光学高等研究センター客員教授・小林英俊氏は、選考ポイントについて「特に優れている点は、ツアー実施のための仕組みが地域社会の中に組み込まれていることです。牧野(草原)は阿蘇の大きな魅力ですが、一般人の立入は禁止です。人口減や産業構造の変化等から牧野は減少を続けています。そこで、牧野を観光的に活用することで社会課題を解決しようというのがこの企画です。特別に立ち入りが許される牧野ガイド認定の仕組み、活動ガイドラインの策定、牧野保全料をツアー価格に組み込むことでの安定した資金還流の仕組み等が次々と実現しています。旅行者は人数制限された牧野をゆっくりと楽しみ、地元は新しい収入源の確保につながり、牧野の環境も保全されるという『三方良し』の循環モデルの創出です」と評価した。

受賞した阿蘇温泉観光旅館協同組合の永田祐介氏は「このような素晴らしい賞を受賞できましたことを関係者一同非常にうれしく思っています。私たちが宿を営む阿蘇という地は広いカルデラの中に存在しています。またその中に草原というものがあるのですが、それが年々縮小していっている、そんな日常があります。そこで、私たちは観光というものをフックにして草原の再生に賦与できないかということを日々考え、今回このようなツアーを作らせていただきました。ぜひご興味ある方は阿蘇の地まで訪れていただいて、ぜひ参加していただければと思います」と語った。

阿蘇温泉観光旅館協同組合副理事長・永田祐介氏

また、受賞式の後半では、文筆家・塩谷舞氏とフードエッセイスト・平野紗季子氏を交え、今後の日本におけるサステナブルな旅についてのトークセッションも開催。海外での暮らしの経験をもつ塩谷氏は“文化”と持続可能な旅のつながりに絡めたエピソードを披露。「コペンハーゲンに住んでいる友人夫婦が2週間日本に遊びに来た際、アテンドして回っていました。彼らは畳や着物、障子などを探していたのですが、ことごとく、こんなにも明確に欲しいものがあるのにそれが手に入らないというケースがあって。結局(ニーズをかなえた製品を作っている)デンマークの会社にお金をすごく落としていて。そういったものを求めている方は顧客となって、いろいろなものを取り入れたいということできっと何回でも日本に来てくださると思うんです。でも、その上で一番大事な壁と床が手に入らない…。ニーズに応えるのは諸外国の方が上手だったりするので、検索して上位に出てくるのが日本のものでないんですよね。欲しいものに応えられている場がないことを残念に思いました」。

一方、食を切り口に日本各地を訪れている平野氏は「ガストロノミーツーリズム」を紹介。「その土地の文化や歴史によって育まれた食を楽しみながら旅をするというものです。こういった視点で旅をしてみると、その旅自体が物語のようにつながっていくイメージがあって。レストランを扉として、まずそこで食事をする。そこから生産者さん、酒蔵、器の職人さんを訪ねてみよう…と、数珠つなぎに楽しんでいけるのが魅力なのかなと。そして、そういったレストランに関わっている方には思想家的な方が多いように感じます。生き方のようなレベルから感銘を受けることがあるので、たった一泊二日の旅であっても人生観さえ変えていただけるような旅になったりして、すごく面白いなと思います」。

左から)塩谷舞氏、平野紗季子氏

そんな“つながり”の話を受けて、塩谷氏も「友人が金沢でやっている『香林居』という宿があって、そこがすごくすてきなのですが、自然と町のことにいざなわれるというか。朝ごはんからそれを作っている料理屋さんにたどり着いたり、鍵を作っているのが地元の作家さんだったり。地域のことを思っているホテルの方は、地域を盛り上げようとしているので、ホテルやレストランなどで人に尋ねる、かつバッファーを開けておくことができると満足度は全然変わっていくと思います」と語った。

「サステナブルな旅 AWARD」受賞商品

【大賞】「三方良し」の循環モデルの創出

受賞者:阿蘇温泉観光旅館協同組合
商品名:特別な許可を得て草原体験!噴煙を上げる阿蘇中岳火口と「千年の草原」E-MTB ライド

<ツアー概要>
本ツアーは、これまで農業により守り受け継いできた「千年の草原」を、観光でもサステナブルに活用することで、次の千年に守り伝えていくために生まれました。一定の研修を受けたガイド「牧野ガイド」が同行し、普段は立ち入れない草原を安全・安心に保全・活用していくためのガイドラインを遵守しながらご案内します。
また、ツアー参加代金の一部は草原の保全料として、野焼き等の草原の保全活動に還元しています。

<選考ポイント>
審査員長・小林英俊先生より

「大賞」を獲得した阿蘇温泉観光旅館協同組合の「特別な許可を得て草原体験! 噴煙を上げる阿蘇中岳火口と『千年の草原』E-MTB ライド」が特に優れている点は、ツアー実施のための仕組みが地域社会のなかに組み込まれていることです。牧野(草原)は阿蘇の大きな魅力ですが、一般人の立入は禁止です。人口減や産業構造の変化等から牧野は減少を続けています。そこで、牧野を観光的に活用することで社会課題を解決しようというのがこの企画です。特別に立ち入りが許される牧野ガイド認定の仕組み、活動ガイドラインの策定、牧野保全料をツアー価格に組み込むことでの安定した資金還流の仕組み等が次々と実現しています。旅行者は人数制限された牧野をゆっくりと楽しみ、地元は新しい収入源の確保につながり、牧野の環境も保全されるという「三方良し」の循環モデルの創出です。


「サステナブルな旅 AWARD」

【準大賞】旅行者と地域をつなぐサステナブルな意識

受賞者:Tricolage株式会社
商品名:Connecting to Yatsugatake

<ツアー概要>
「忙しない都会から少し離れて大地の恵みをゆっくり感じたい」「サステナブルに旅行がしたい」と感じている方に向けた、旅全体を通して持続可能な土地“Yatsugatake”を体験し、自ら責任ある旅行者として地域に寄与できる旅。パーマカルチャー農業体験、ナチュールワイナリー見学、ヨガランチ、文化乗馬体験などの特別アクティビティにより、八ヶ岳の生活に触れることができます。

<選考ポイント>
サステナブルツーリズム分野において日本で初めて国際認証を取得した旅行会社がサステナブルな意識を軸に旅行者と地域をつなぐ企画です。旅行スタート時に旅行者には「責任ある旅行者ガイドライン」誓約書へのサインをお願いし、終了時に宿泊費の一部を3つの寄付先候補(選択肢)から選んでもらいます。宿泊も国際認証を受けた宿泊施設で、趣旨に賛同する地域住民が体験プログラムに参画しています。


「サステナブルな旅 AWARD」

【準大賞】サステナビリティをテーマに漁村の震災復興

受賞者:株式会社かまいしDMC
商品名:漁村集落の小さなお宿交流と漁民が守りつなぐ海山体験

<ツアー概要>
廃園した元保育所の園舎をリノベーションし、地域みんなで見守る地域型民泊としてスタートした「御箱崎の宿」。津波で民宿を流された女将を中心に、町内住民が協力して収穫する新鮮な海の幸と地元の郷土料理で地産地消をかなえ、サステナブルかつ高質なおもてなしとあたたかな交流を実現しています。
本ツアーで楽しめる、陸域の「千畳敷トレッキング」、海域の「漁業見学体験」は、いずれも三陸復興国立公園内で体験でき、守るべき希少な環境資源であるとともに、漁民自身が大切に守り続けている文化そのものであり、観光を通じて地域へ貢献しています。

<選考ポイント>
サステナビリティをテーマに地域が一体感を持って震災からの新しい魅力づくりに取り組んでいます。元保育所をリノベーションして地域の皆が見守る地域型民宿としてスタートさせ、ここを拠点に地元民が地域の自然・文化をガイドする体験プログラムを開発しています。漁村のサステナブルかつ高質なおもてなしが滞在者とのあたたかな交流を生み出し、アクセスの不便さを凌ぐ魅力となっています。


「サステナブルな旅 AWARD」

【特別賞】旅行業者のノウハウが生む匠の新たな輝き

受賞者:クラブツーリズム株式会社
商品名:台東区の歴史・文化・魅力を再発見!“江戸の匠・職人”を撮る~第3弾~

<ツアー概要>
2021年よりスタートし、今年度で3作目となる「シリーズ企画」である本ツアーは、普段は撮影できない「職人の姿」を撮影する機会を提供する高付加価値型の企画。職人撮影の機会提供だけでなく、仕事へのこだわりや店の歴史など「職人の生の声」を聴く場面を設け、伝統文化や技術の継承への理解を深めることができます。また、ツアーには浅草寺周辺や上野公園周辺といった有名観光地以外の場所にある工房を行程内に組み込んでおり、台東区の課題であるオーバーツーリズムの問題にも配慮しています。

<選考ポイント>
地域に密着し自社の持つノウハウや強みを活用して地域に残る魅力的な匠・職人の文化を再編集しています。多くの旅行者から注目されることで自信や誇りが生まれ、後継者探しにもつながると期待されています。
旅行会社の新しい役割を考える好事例です。


「サステナブルな旅 AWARD」

【特別賞】地元民の語りが深める箱根の歴史と文化

受賞者:株式会社やまぼうし
商品名:日本遺産・箱根八里で古の旅路の追体験

<ツアー概要>
本ツアーでは、箱根八里の歴史を紐解きながら、かつて幕府のあった江戸へと向かう途中、大名をはじめ多くの旅人たちが旅の疲れを癒したこの地の魅力を再発見することができます。単なる歴史探訪ツアーではなく、深い知識とネットワークを持つ地元ガイドの案内で箱根のキーパーソンを訪ねながら、伝統工芸品に触れる体験をする他、宿場町である箱根が長い年月にわたり大切に培ってきた地域の歴史・文化・自然を通じて箱根の原点を感じることができる内容となっています。

<選考ポイント>
自社の人的ネットワークを活用して現地の人との交流を図り、サステナビリティの観点から箱根の歴史・文化を深く理解する企画です。この会社はガイド研修を手伝うなど箱根観光全体のサステナビリティレベルを上げるためにも貢献しています。


「サステナブルな旅 AWARD」

【特別賞】棚田がつなぐ雪国里山の暮し

受賞者:株式会社 HOME HOME NIIGATA
商品名:2泊3日十日町棚田トレッキング

<ツアー概要>
本ツアーでは、ブナ林トレッキング、古民家宿泊、伝統料理作りなどが体験できます。ツアー開催を通して、棚田の耕作者の収入増加、地域内の雇用創出、里山の環境保全、地域コミュニティの維持と持続可能な観光の実現を目指しており、ツアー収益の一部は地域の棚田基金や集落へ寄付します。

<選考ポイント>
棚田の文化的背景を丁寧に伝えることでインバウンド客にもその価値理解を促しています。棚田をアイコンに雪国の里山の暮しを歩いて理解してもらうことで、地域コミュニティの維持と持続可能な観光の実現を目指しています。


「サステナブルな旅 AWARD」

【特別賞】地域の足を守る新たな需要発掘

受賞者:濃飛乗合自動車株式会社
商品名:気ままなバス旅「レールマウンテンバイクGattan Go!!」プラン

<ツアー概要>
「レールマウンテンバイクGattan Go!!」は、自転車と廃線後の鉄路を組み合わせた新感覚のアクティビティ。
“渓谷コース”と“まちなかコース”があり、この企画ではお客様の希望に合わせてコースや時間を選べるようになっています。JR高山駅の高山バスセンターから飛騨市神岡町の最寄りバス停間の路線バスと、バス停からレールマウンテンバイク乗り場間のタクシー、そしてレールマウンテンバイクGattan Go!!の利用券をセットした着地型旅行プランです。

<選考ポイント>
廃線を利用したレールマウンテンバイクは景色の良い山間部を楽しめて人気ですが、自家用車利用以外には足の便が無い。路線バスと乗合タクシーを組合せた個人向け商品が新たな需要を掘り起こし、バス路線の維持や宿泊客増にも貢献しています。

WEB

「サステナブルな旅 AWARD」
特設WEBサイト:https://www.mlit.go.jp/kankocho/sustainable_award/