賀来賢人インタビュー「コメディとは思わずにやりました」ドラマ『アフロ田中』

特集・インタビュー
2019年07月05日

脱力系青春グラフィティの金字塔と名高いのりつけ雅春さんの人気漫画が原作の『アフロ田中』で主演を務める賀来賢人さん。演じるのは、アフロヘアがトレードマークの主人公・田中広。見た目のインパクトとは裏腹に、22歳にして女性とキスもしたことがないという童貞の役柄だ。賀来さんと言えば、昨年放送の『今日から俺は!!』で金髪ヤンキーの高校生を演じ、抜群のコメディセンスを発揮していたのが記憶に新しい。今作も笑いの要素は満載だが、賀来さんの向き合い方は大きく異なっている。30代を迎えた心境や子を持つ父としての一面まで、たっぷりと語ってくれました。

田中は、ただただ一生懸命なんです

◆アフロヘアがとてもお似合いですね。

そういうお声をたくさん頂きます(笑)。実際すごくフィットしていて、何よりかぶるだけでいいのでヘアメークが楽なんです。衣装もスウェットなので、だるだるな生活の延長みたいな(笑)、そんなリラックス感がありました。僕自身くせ毛で、実生活でアフロになる瞬間もあるので、「分かるよ」「大変だよね」という気持ちでいっぱいでしたね(笑)。

◆原作はご存知でしたか?

もともと知っていて、前に少し読んだことはあったのですが、今回あらためて読ませていただいたら、一瞬でさらっと終わってしまうくらい面白くて。田中の日常と恋と成長という単純明快な物語で、何気ないただの会話もドラマチック。それを繊細に描くには、ドラマ化はぴったりだなと。台本や座組も拝見させていただいて、すごく面白いものができそうというか、新しいものが作れるんじゃないかという直感がして、すぐにやりたいですとお返事させていただきました。

◆本作の情報解禁時に「挑戦し甲斐がある」とコメントされていましたが、それはどんなところに感じたのでしょうか?

田中はああいう身なりですけど、すごく真っ当で純粋。真剣に恋をして、真剣に生きている。視聴者の方々はそのギャップを一見コメディのように思うでしょうけど、見進めるうちに「純粋な青春ラブストーリーだったんだ」と思わせられたら勝ちというか。いい意味で、視聴者の方々を裏切れると思ったんです。

◆賀来さん自身もコメディではなく、青春ラブストーリーとして臨まれたわけですか?

そうです。僕はコメディとは思わずやりました。田中は思ったままに発言したり行動したりしているだけであって、面白さを狙ってやっているわけではない。ただただ一生懸命なんです。だから僕もその一生懸命さを大事に演じて、それで視聴者の方々がくすっとなればいいなと。「笑わせる」のではなく「笑ってもらう」という感覚ですかね。物語は1話から最終話まで、ちょっとずつ進展したり後退したりしていく。その抑揚や、地上波ではできないことも含めてやり甲斐を感じました。

◆地上波ではできないこと、と言いますと…?

下ネタもちょいちょいあったり、あとうんちと戦ったり。うんちと戦うなんて、地上波ではなかなかできないですよ(笑)。

◆アフロヘア以外にも原作を意識した部分はあったのでしょうか?

あまり原作にとらわれすぎると実写にした意味がないので、現場では一度忘れて演じました。例えば原作の田中は大きな表情やリアクションをしますけど、それをそのままやってしまうとドラマとして成立しなくなってしまうので、実写なりのリアルさを出して。そうやって“そぎ落とす”という作業もしながら、臨機応変に演じました。

◆石田雄介監督とは、どんなディスカッションがあったのでしょうか?

最初はいろいろ話しましたけど、監督の求めているものが分かって、それからはあうんの呼吸でできました。だから、全くストレスがなかったです。お互い同じものを目指していましたから。

◆同じものとはつまり、青春ラブストーリーとしての面白さですか?

そうです。そして、田中は一生懸命であるということ。そこはブレずに最後まで演じました。

僕もクラス全員が童貞のライバルでした(笑)

◆同じ男として、田中に共感できますか?

できます。男はみんな最初は童貞ですからね(笑)。女性に悶々としたり、男同士で相談して間違ったアドバイスを受けて、それを信じて盛り上がるという非常に危険な感じだったり(笑)。男なら誰もが経験あると思うんです。

◆賀来さん自身もそういうご経験が?

ありますよ。鈴木さん(小澤征悦)みたいにモテる先輩もいれば、西田さん(松尾諭)みたいに全然参考にならない先輩もいましたし。でも、その時は分からないから真剣にアドバイスを聞いてしまうんですよね(笑)。もっと言えば、クラス全員が童貞のライバルでしたから(笑)。だから、全部共感できました。

◆田中が恋に落ちるのが夏帆さん演じるヒロインのマキですが、2人のシーンでキュンとしたものはありますか?

それもキュンと、というより、分かる分かるという共感のほうが大きかったです。ちっちゃなシーンなんですけど、田中がマキとエレベーターに乗ったらカップルが手をつないでいて、自分も真似ようとするんだけど緊張してできない感じとか。あと、せっかく付き合ったのに何したらいいか分からなくて、逆にちょっと距離が生まれて気まずくなってしまう感じとか、イイとこ突いてくるなぁと思いました(笑)。

◆告白を決意した田中の前で、マキがラーメンを思いっきり吹き出して浴びせてしまうシーンも楽しみです(笑)。

すごかったですよ、夏帆ちゃんは。ラーメンを吹き出すプロなんじゃないかというくらい噴射の圧や角度が完璧で、そのシーンの撮影が終わった後も「お疲れ様でした~」と颯爽と帰っていかれて。悟りを開いたかのようでしたね(笑)。

◆小澤さんや松尾さん、高橋役の白石隼也さんとの共演はいかがでしたか?

皆さん役そのままみたいなキャラクターで、“男同士の会話”になると松尾さんがもう生き生きしちゃって(笑)。年齢はばらばらなんですけど、みんなで子供みたいにずっとわちゃわちゃしていて、その空気感が楽しくてしょうがなかったです。最終話で3人とフラッシュモブをしているんですけど、エキストラの方々にも100人くらい参加していただいた壮大なシーンで、それもすごく印象に残っています。

◆見どころがたくさん詰まっていますね。

田中の成長を応援したくなる作品になっていると思います。“観客全員一体応援型ドラマ”として(笑)、1話から最後の10話まで田中を見守っていただけたらうれしいですね。

2才の子供がかわいくて、笑っちゃいました

◆賀来さんは7月3日で30歳を迎えられて今作が20代最初の放送作品になりますが、どんな感慨がありますか?

今までいろんなことをやらせていただいて、途中ちょっと遠回りだったかなと思った時もあったんですけど、結果的に無駄な時間は1つもなくて、全てが確実に身になっているという実感はあります。その上で今の自分がある。今作に関して言えば、力を抜くことの大事さみたいなものを学べました。今まで肩肘張ってた部分もあったんですけど、これくらいフラットな気持ちで現場に入るとこういう感覚になるんだなと。なので、完成が楽しみです。

◆原作ものの実写化はどうしてもファンの賛否両論がつきものですが、そのあたりはどう考えていらっしゃいますか?

僕はやっぱり、100賛成する人はいないと思うんです。ファンの方々それぞれのイメージがありますし、それにそぐわなければ「えー!?」となるのは当然で。だから、ビジュアルとか声とか芝居とかで補って納得してもらうしかない。役者として、やり甲斐はありますよ。『今日から俺は!!』も、最初はどうなんだみたいな感じでしたけど、ふたを開けてみたらある程度納得していただけたのかなと思っています。そのためには、もちろん原作をリスペクトしつつ、作り手の気合とか自信とか、自分たちにしかできないことをやろうっていう気持ちが一番大事だと思うんです。

◆その『今日から俺は!!』、そして今作と、主演という立場も増えていますが、現場での居方は変わるものですか?

基本的にやることは変わらないですけど、作品の顔になるわけですからやっぱり緊張しますし、責任も大きい。自分の居方次第で空気が変わってしまうのでそこは注意しつつ、こういう宣伝も含めて、とにかくすべてを背負うつもりで覚悟してやっています。もちろん主演だけやるわけではないですし、そういう機会を頂けるのはご褒美だと思っています。

◆この先、どんな俳優でありたいですか?

変わらず1つひとつのことを大切にして、あと自分の中で勝手に可能性を狭めないようにしたいです。ちょっとでも興味があるものはもちろんやりたいですし、周りの意見…例えばマネージャーの意見を聞いてやってみるのも大事なのかなと。自分だけじゃ分からないこともあるので、そこは柔軟にやっていきたいです。

◆ちなみに、この作品でも大いに笑わせてくれるであろう賀来さんが、逆に最近笑わせられたことはありますか?

何だろうなぁ…あぁ、うちの子供の発する言葉が面白くて。2才になったんですけど、最近嘘をつくんですよ。この間も「寝んねだよ」って寝かせようとしたら、「おむつを変えたいからあっちへ行きたい」みたいなことを言いだして。でもそれはただの口実で、本人はまだ遊んでいたいらしく、後でおむつを確認すると変えた形跡がなくてすぐバレるという(笑)。そういうちょっとした嘘が面白いです。あと、「ママに〇〇って言ってきてごらん」と言うと「うん、分かった!」ってぱぱぱぱって走っていくんですけど、途中で目的を忘れちゃうみたいで、いざママのところまでたどり着くと急にモジモジし始めるんですよ。それがすごくかわいくて、笑っちゃいましたね。

■PROFILE

●かく・けんと…1989年7月3日生まれ。東京都出身。O型。映画「最高の人生の見つけ方」(10月11日(金)公開)、「AI崩壊」(2020年1月31日(金)公開)が待機中。7月5日(金)から舞台「恋のヴェネチア狂騒曲」(新国立劇場・中劇場)にも出演する。

■作品情報

『アフロ田中』
7月5日スタート
WOWOWプライム
毎週(金)深0・00~0・30

<STAFF&CAST>
原作:のりつけ雅春
監督:石田雄介
出演:賀来賢人、夏帆、松尾諭、白石隼也、小澤征悦ほか

<STORY>
見事なアフロヘアを持ちながら、いまだに女性とキスしたこともない青年・田中広(賀来)は、クビになった会社の社長から仕事を紹介され埼玉から上京。トンネル工事会社で汗を流す健全な日々を過ごしていた。ある日、田中は同じ寮に住む班のリーダー鈴木(小澤)から合コンに誘われる。先輩の西田(松尾)や同い年の高橋(白石)と参戦したその合コンで、田中は丸の内OL・マキ(夏帆)と運命的な出会いをする。(第1話)

©のりつけ雅春/小学館
©2019 WOWOW

●photo/関根和弘 hair&make/Toshihiko Shingu(VRAI Inc.)styling/SHINICHI SAKAGAMI(ShirayamaOffice)