【コラム】なーはるのすっぱレビュー『青天を衝け』大河ドラマでお金にまつわるタメになる話を学ぼう

特集・インタビュー
なーはるのすっぱレビュー
2021年03月19日

ドラマフリークのコラムニスト&イラストレーター・柳澤なーはるが、注目ドラマに愛あるツッコミを入れる「なーはるのすっぱレビュー」。第3回は、吉沢亮主演の大河ドラマ『青天を衝け』(NHK総合 毎週(日)後8時~8時45分)。

大河ドラマ『青天を衝け』~イラスト・吉沢亮~

「日本経済の父」と呼ばれた渋沢栄一を描く『青天を衝け』。このドラマは、お金にまつわるタメになる話を学ぶことができる。今回は第3話をとりあげよう。

栄一(吉沢亮)の生家の渋沢家は藍染めに使う藍玉を作る農家。藍葉の不作を補うため、栄一は父親(小林薫)の不在中に一人で藍葉の買い付けに行く。最初は相手にされなかったが、「この藍葉は肥やしが少ないな。茎が太すぎる」などと栄一が目利きをすると、藍農家の村人は顔色を変えて村中の藍葉を持ってきた。

そう、作り手ってのは、目利きができる人、つまり自分の商品の価値を言い当ててくれる人に売りたいものなのだ。

「この藍葉は厚みもあり色も濃くて上等だから1貫100文」「こっちは干し過ぎて赤みが出てるから30文」と次々に査定しながらどんどん買い取っていく栄一。しかも、売り物にならない藍葉までまとめて買い取った。「この代金で肥やしを買えば、来年は良い藍葉が倍とれるだろ」。そういうことか! そして「来年も必ずうちに売ってくれよ」「もちろんだ!」と村人たちとすっかり意気投合。おい、すごいな栄一!

恥ずかしながら、私、商売とは「安く仕入れて高く売る」「経費を抑えて儲けを出す」ものと思っていた。けど、違うんだね、栄一は肥やしの分を高く払ってるが、それは作り手の「やる気」を引き出す「心の肥やし」でもあるんだね。いや勉強になったわ。

おまけに、何と「1貫60文の価値の藍に125文払っちゃった」栄一を父親が褒めたからまたびっくり。「良い肥やしを買って来年良い藍を作ってくれりゃあそれでいい」「よくやった」って、こりゃまいった。お父さんがすごかったんだ。

小さい栄一に母親(和久井映見)が言い聞かせていた「皆がうれしいのが一番」ってのは、こういうことだったんだね。なんか涙出そう。これ、小中学生に見てもらいたいよね。いい教育になるよ。

と、いうわけで、お待たせしました。

ここからが本題です(え、今から?)。

小中学生と違って大人はこの話の奥を読まなきゃいけません。どういうことかというと、こういうことだ。

栄一が藍葉を買った村の人たちは、いつもは誰に売っていたのか?

その村には、毎年、別の買い付けの人が来ていたはずだ。今年、栄一の後に来たその人は、藍の葉が1枚も残ってないハゲ山のような畑を見て血の気が失せたに違いない。せめて来年の約束を取り付けようとしても、もう既に栄一が「来年もうちに売ってくれよ」「もちろん!」と”独占契約”を結んでいるのだ。

怖っっ!!

そう、渋沢栄一は両親のしつけにより「皆の幸せ」を考える商人に育ったが、同業他社にはめっちゃ厳しいのだ。血も涙もない血洗島の栄一なのだ(笑)。いったん渋沢親子のような商人が現れたら、他の商人は死活問題なのだ!

だけど、渋沢親子は決して同業他社を廃業に追い込もうとしてるわけじゃない。なぜ彼らが「1貫60文の価値のものに125文」出すのかというと、それは「志(こころざし)」が高いからだ。栄一の父親は江戸の神田紺屋町の藍問屋へ出向き、「武州藍をよろしく」と頭を下げていた。おそらく武州藍を阿波藍に負けないブランドにしたいのだろう。彼にはそういう「志」がある。良いものを作りたいと思っている。だから、藍葉の作り手に良い値段を払うのだ。

これを読んでいるビジネスパーソンのあなたはどうだろうか?

あなたに栄一の父のような「志」はあるか? あなたがもし買い手であるなら、渋沢親子のように取引先(作り手)に良い値段を払っているか? 安く買い取ることに慣れていると、少しの値上げでも「もったいない」気持ちになるだろう。高く払うのは勇気がいることだ。払いたくなくて「予算の都合で~」「今コロナ禍で~」「社内の規定に従って支払っています」みたいな言い訳も出そうだ。

『青天を衝け』第3話にはそんなビジネスパーソンへのメッセージが込められている。

つまり、もしあなたの取引先がこの第3話を見ていたら、あなたと渋沢栄一を比べるようになるのだ。あなたは栄一のように「厚みもあり色も濃くて綺麗で上等な藍葉だから1貫100文」と正しく目利き(査定)できてるだろうか? これからは、あなたの”査定ぶりが査定される”のである。

あなたの同業他社も第3話を見たかもしれない。そして渋沢栄一モードになって、お金をたっぷり持って、あなたの取引先と”独占契約”しようとするかも。それを上回る待遇をあなたは用意できるだろうか?

今、「アフターコロナ」と言って、コロナ後の経済について語られることが多いが、その前に、「アフター青天を衝け第3話」について考えるべきだ。これを見た後は、価値観がガラッと変わる。それに付いていけるかどうかが勝負の分かれ目だと思う。

あなたの渋沢栄一力(しぶさわえいいちりょく)が試されるのである(笑)。

大河ドラマ『青天を衝け』
NHK総合ほか
毎週(日) 後8・00~8・45

文・イラスト/柳澤なーはる