声優・櫻井孝宏の初エッセイ集「自分と向き合い、振り返ることで、知らなかった自分に出会えた」

特集・インタビュー
2021年10月27日

◆エッセイを書く楽しさについて、《これまで考えていたことや言いたかったことを文字にしてみたら、知らなかった自分に出会えた》とあったのが、とても印象的でした。

私はずっとラジオ番組をやらせていただいているので、喋りで何かを表現することには、それなりの経験値や自分の方法論があるんです。でも、あまり本に触れてこない人生でしたし、ましてやこんな本格的なエッセイ連載を持つなんて考えたこともなかったので、最初は何をどう書けばいいのか分からなくて。それでも、エッセイを書くにあたって自分を掘り起こす作業をし、これまで何となくうやむやにしていた考えや後回しにしていた答えなどに向き合っていくうちに、楽しさを感じるようになっていったんです。「あ、自分はこう思っていたのか」とか、「意外とまじめにいろんなことを考えていたんだな」って(笑)。そうやって楽しみながら連載を続けていくうちに、少しずつラジオとはまた違うアウトプットの仕方を覚えていったような気がしますね。

◆普段、執筆する時のスタイルは?

パソコンの前に座ってゼロから集中して書く、という感じではないです。というか、それが全くできない(笑)。毎回お題が決まってからは、ずっと頭の片隅でどんな内容にするかを考えていて、いい言葉やネタが浮かんだらスマホのメモ機能に残し、あとでそれをパソコン上に広げてまとめていく。家で書いている時も、たまにてっぺん(深夜0時)を超えるとガソリンが切れるので、お酒を飲んだりして(笑)。でも、酔って書いたものは翌日にだいたい消します。使えないものが多いので(笑)。ただ、一度だけお酒の力を借りて、すごく面白いものが書けたことがありまして。その成功体験が私を誤ったほうへと導いてしまったんでしょうね…(苦笑)。最近はもう、ちゃんと書けないことが分かっているので我慢してますけど。

◆特に書きやすかったテーマ、逆に難航したテーマはありましたか?

書きやすかったのは…あったかなぁ?(笑) あ、昔の知人に会ったような気がしたことを綴った話(第十二回 『あなたの名前は』)は比較的早かったですね。大変だったのは書き下ろし(『おじさん道中 故郷・岡崎編』)。私が生まれ育った岡崎に行って、そのことを書くことが決まっていたので、小学校などを訪れて懐かしくエモい旅になるだろうなと思っていたんです。そうしたら、当時のことを全然覚えてなくて(笑)。“これ、何を書こう?” “困ったぞ”という状況に陥ったんです(笑)。それでも最初は、自分の心象風景をそれになりに美しく、靄のようにまぶしながら書いていたんですが、次第に立ち行かなくなりまして(笑)。最終的に何とか形になったのですが、基本的に書いていることは“あんまり覚えてなかったです”というだけの話なので、“大丈夫なのか、これは?”とちょっと不安ではあります(笑)。

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