森山良子インタビュー「るいを見ただけで込み上げてくるものが」『カムカムエヴリバディ』

特集・インタビュー
2022年04月07日

現在放送中の連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(NHK総合ほか)で、アニー・ヒラカワこと安子役を演じる森山良子さん。

アニー・ヒラカワは、ハリウッドのキャスティングディレクター。4月5日放送の第109話では、ラジオ番組を通して自身が大月るい(深津絵里)の母親、つまり安子であることを明かした。

アニー、そして安子を演じることが決定し、自身との思わぬ“縁”に「なんとも言えない本当に胸が詰まるような思いになりました」と語る森山さん。演じる上で意識したことや、役柄を通して感じたことをお話しいただきました。

森山良子 インタビュー

◆出演が決まった時の気持ちを教えてください。

ひとことでは言い表せないような気持ちです。ストーリーを伺った時に、なぜ私のところへ依頼をくださったのかしらと、本当に不思議でたまりませんでした。というのも、私の父(森山久)がジャズミュージシャンでトランペッターだったからです。そして、ルイ・アームストロングの大ファン!
父は日系2世で日本語より英語のほうがずっと上手だったものですから、ルイ・アームストロングが日本に来るときに羽田まで自分の車を運転して迎えにいったんです。ただ、大好きなだけなのに(笑)。サッチモもすごく心を開いてくれて、父の車で宿泊するホテルに入り、いろんなおしゃべりをして…というエピソードを、私は小さいときからたくさん父から聞いてきました。
サッチモが生きていた当時は差別がひどかったと思いますが、そんな中でも人に笑顔しか見せない人だったそうです。父はサッチモのことが大好きだったので、今回のことも天国で喜んでいると思います。そんな繋がりがあるルイ・アームストロングは、私にとっても子供の頃からとっても特別な人でした。出演が決まった時は、私もこの作品にえも言われぬご縁を感じて、なんとも言えない本当に胸が詰まるような思いになりました。

◆アニーを演じる上でどんなことを意識されましたか。

「あまり感情過多になりすぎないように」と、そこだけ気を付けました。英語のせりふが多いですが、幼少期の経験が支えになっています。小学生くらいの時に、アメリカンポップスというかオールディーズが流行っていたんですが、音楽に合わせて歌っていると父に呼ばれて、8小節を1時間くらいかけて直されるんです(笑)。英語の発音も直されて、また電蓄(電気蓄音機)のあるところへ戻って歌い始めると、また呼ばれて直されて…。もう、鼻歌も歌えない状況でした(笑)。
小さい時から「私は歌い手になる」と言っていたので、父も母も私がシンガーになるだろうということを察して直していたんでしょうね。そのころの父のダメ出しが、今こうして歌を歌うのに役立っていますが、アニーの英語のせりふを話すうえで「言葉」としても役立っているのはすごくうれしいです。

◆では、安子の場合はいかがでしょう。

役作りのためにしたことは、ドラマの中の安子(上白石萌音さん)を見ていたこと。どういうふうに育って、どういういきさつでアメリカに行ったかということや、安子がしゃべる雰囲気とか、そういうところを見ていました。でも、結局自分っぽくなっちゃうものですからね。真似ができるというものでもないですし、50年、60年のあいだに人も変わると思います。
逆に、安子がアメリカに行ったあとの放送は見ていないんです。「お、ちょっとこれ見ちゃいけない」と思って、途中で視聴を止めました。私が知る必要がない内容だと思ったんです。安子はアメリカに行って、あえて日本に背をむけている。だから、ドラマで描かれている出来事をあまり情報として自分の中に入れてしまわないほうが、そのまま安子が年をとってアニーになった感じが出せると思ったんです。
だから、演じていて安子の気持ちのままで日本に戻って、アニーになっているような感覚です。

◆森山さんが思う安子の印象を教えてください。

安子は生まれてアメリカに行くまで、家柄の差や戦争など、いろんなことに阻まれてスッと生きてはこられなかった。それを思うと、本当にせつないです。稔さんのことも、ずっと大事だったと思います。一番最初に好きになった人とようやく一緒になれた喜びと、その大切な人があっという間に戦争に行って帰ってこなかったせつなさは本当にやるせない。
言葉に表せないくらい辛かっただろうと思うし、そういう方たちがあの当時たくさんいらしたんだろうなと思います。これだけのつらい思いをした人がたくさんいた、という戦争に対するメッセージにもつながっていますよね。人の気持ちや人の歩んでいく道筋、心向きが繊細に描かれているので、ひとつひとつのセリフに感動しています。

◆撮影で印象的だったシーンを教えてください。

るいとの再会のシーンが最初の撮影だったんですが、るいを見ただけでとても込み上げてくるものがあって、るい役の深津絵里さんを何度も抱きしめたほど。るいに再会できてすごくうれしかったと言うと変ですが、母である安子の思いがとてもよく理解できて、私の中に安子が存在していることを感じました。
るいへのせつない気持ちはずっとありましたね。深津絵里さんはすごくすてきな女性だなと思いました。母親と離れて生きてきたことを感じさせる、凛とした美しさと佇まいというか、強さというか、そういうものがものすごく感じられてとても感動しました。
他にも、甥のジョージから岡山に行くことを促される場面で、アニーは明日ここを発ってもう2度と日本には戻ってこないと強がりを言うんです。その言葉の背景にはここで自分がみんなの前に出ていったら、せっかく今みんなが幸せにしているものを台無しにしてしまう、私は私でアメリカで幸せになっているんだからこれでいいんだと自分に言い聞かせている気持ちがあるんだと思います。
自分の一番大切な娘のことですから片時も忘れていないんですが、自分から身を引くところに胸が詰まってしまいました。なんでこんなに強いの? 安子! って思うくらい。昔の日本の女性の慎ましくもたくましい一面を感じました。

◆物語やひなた役の川栄さんの印象を教えてください。

この壮大な100年の物語は、それぞれの登場人物の細かい心情が丁寧に描かれていて、全部のせりふが人生や生き様、いろんなことにリンクしていくような感じです。もちろん計算されていると思うんですが、計算されているとは気づかないかもしれないような網目の中をくぐっていくせりふのやりとりというのが、本当にすばらしい。
ただ立ち尽くして、唖然とするシーンがあったんですが、それだけで「おおお〜!」と、感動して本当に涙があふれてきたこともありました。私、家でも「エモーショナル良子」と呼ばれていて、なんでも「きゅっ」ときちゃうほうなんです。
ひなた役の川栄さんは、とても頑張り屋さんです。日本語も英語も膨大な量をあの体の中に全部インプットしてこの役に臨まれています。いっぽう、私は3行ぐらい覚えるのに「うわああ〜! 覚えられない! 覚えられない!」と言っています(笑)。それくらいすさまじい努力をなさっていると思いますね。

◆視聴者の方々に向けてメッセージをお願いします。

100年に渡る壮大な家族のドラマです。人それぞれのご家庭があると思いますが、いろいろな人、いろいろな出会い、ひとつひとつが全て大事なシーンであるし、すべてが大事な出会いであるし、生きているということは本当に毎日が大事なんだなと、本当にそういうふうに思う作品です。どうぞ最後までご覧ください!

番組情報

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
NHK総合ほか
毎週(月)~(土)前8・00~8・15ほか

©NHK