久保史緒里インタビュー「築山殿事件の結末に向かって、五徳が何を考え何を選択していくのか」『どうする家康』

特集・インタビュー
2023年06月25日
『どうする家康』©NHK

大河ドラマ『どうする家康』(NHK総合ほか)で、徳川家との関係を深めるため、幼くして家康(松本潤)の嫡男・信康(細田佳央太)に嫁いだ信長(岡田准一)の娘・五徳役を演じる久保史緒里さん。そのミステリアスな佇まいは劇中のスパイスとなり、多くの視聴者の話題をさらってきた。

家康そして五徳の歴史を語る上でも大きな事件のひとつである築山殿事件の放送が近づく中、久保さんに五徳を演じるに当たって感じたことや得た経験、撮影時のエピソードなどを聞きました。


◆本作に出演が決まった際の心境は?

五徳役に決定するまで何度かスタッフの皆さんの前でお芝居をさせていただく機会があったのですが、これまで大河ドラマに出演した経験がなかったこともあり、まさか自分に決まるとは思っていませんでした。なので、いい意味でリラックスして臨むことができ、私なりに台本から読み取った五徳の人物像を、その場でしっかり表現できた感覚があって。そんな中で、五徳役に決まったという連絡を頂いた際は震えと緊張感を感じたのと同時に、脚本の古沢(良太)さんが五徳にまつわる一連の事件をどのように描くのだろうと楽しみな気持ちが湧き上がってきました。

◆久保さん演じる五徳が初登場した第17回を見た際の感想を。

五徳が初登場する日というのは、1分1分、自分の出演シーンの時間が来るまでテレビの前でとてもドキドキしながら待っていたのを覚えています。(幼少期の五徳ではなく)私演じる五徳が登場するというのは、視聴者の方々が「築山殿事件が近づいてきたんだな」と感じる瞬間でもあると思い、そういう意味での緊張感もありました。

◆出演に当たって、乃木坂46メンバーの反応は?

第1回からずっと見ている子もいて、毎週この作品を楽しんでくれています。みんな「あのシーン見たよ」などと声を掛けてくれるのですが、特に同期の(向井)葉月は出演が決まってから会うたびに「いつから出るの?」と聞いてきて(笑)。初登場後も「すごくカッコよかったよ」と感想を送ってきてくれました。

『どうする家康』©NHK

◆自身が演じる五徳に感じた印象は?

五徳について勉強を始めたときに目に入ってきたのは、築山殿(瀬名)や信康様との関係性をはじめ、あまりいいとは言えない一面ばかりでした。そんな中で、五徳役に決まったときに、演出の方やプロデューサーさんから「五徳はきっと優しい人だったと思う」というお話を頂いて。正直、私はそれを飲み込むのにすごく時間がかかってしまったんです。結局、その優しさというのが自分の中で定まらないまま現場に入ったのですが、家康様をはじめとする徳川家の皆さんと向き合っていく中で、五徳の優しさというのがどんどん浮き彫りになっていきました。

◆そこから彼女の印象が変わっていった?

はい。同様に脚本を読み進めていくことでどんどん新しい解釈が浮かんできて、今となっては当初私が考えていたよりずっと人間味があり、他者を思える人だったのではないかなと考えています。ただ、これは自分ひとりで考えていたときには決してたどりつけなかった部分で、周囲の皆さんに引き出していただいたもの。そういった感覚を初めて得られたことはとても大きな財産になりましたし、感謝の気持ちでいっぱいです。

実際に五徳を演じるに当たっては、織田方との間で揺れ動いているということもあり、あまり彼女のそういった部分が表立って見える瞬間はないのですが、常に根底に優しさを持ちながらお芝居することを意識しています。また、徳川家の中に織田方からひとり入っているということで、どこか異質さを出せていたらいいなと思っていて。築山殿事件の結末に向かって、五徳が何を考え何を選択していくのか、それを皆さんに感じさせないよう表現するというのはとても難しい作業でもありました。

◆久保さんが感じた五徳の心情の変化について。

徳川家に来たばかりのころの五徳は“織田信長の娘”というプライドを強く持っていましたが、徳川家の人々と時間を共にしていくうちに“松平信康の妻”というプライドも同じぐらい強くなっていったと思っています。なので、第22回で「徳川家の連中を見張れ」と信長様から言われたときは、きっと気持ちが大きく揺らいだはず。実は、五徳は徳川家のような家族の形をずっと求めていて、いつしか憧れも感じながら共に過ごすようになったのかなと。今まで寂しさを抱えて生きてきたんじゃないのかなと感じています。

◆五徳の心情が徳川側に寄った瞬間はどのシーンだと捉えていますか?

この瞬間かなと思うシーンはたくさんあるのですが、中でも現場の皆さんとも意見が一致したのは、瀬名さんから「そなたも三河のおなごであろう!」と叱られたシーン(第20回)です。それに対して、自身の幼さやプライドから五徳は激高したものの、あの瞬間に徳川家に嫁いだ女性としての自覚が芽生えたんじゃないかなと感じていて。このような、脚本には描かれていない「もしかしたら五徳はこう感じていたんじゃないか」という部分も、現場の皆さんとお話しながら共に繊細に作りあげていきました。

◆第22回では、岡田准一さん演じる父・信長との緊迫感あふれるシーンも。

岡田さんご自身はとても優しい方で、リハーサルのときも「ごめんね。嫌だったら言ってね」などと声を掛けてくださっていたのですが、いざ撮影が始まると、その威厳に敵わない存在であることを実感しました。(羽柴秀吉役の)ムロツヨシさんから「リアクションは準備しておかなくても大丈夫だよ(笑)」ということを冗談交じりに言われていたのですが、まさにあのときの五徳のおびえた表情というのは岡田さんに引き出していただいたもの。正直に言うと、本当に怖かったです…(笑)。でも、あのシーンが信長様と五徳が劇中で最も関わる瞬間であり、織田家の家族の形を表す大切なシーンになったと思います。

『どうする家康』©NHK

◆家康役・松本潤さんとのエピソードや、座長ぶりについて感じたことは?

松本さんは演者さんやスタッフさんなど、誰とでも分け隔てなくお話される座長です。現場で写真を撮ることがはやっていたのですが、私と有村(架純)さんがお話しているところを撮影してくださるなど、さまざまな形でコミュニケーションを取っていただいて…。私は初めての大河の現場ということもあってとても緊張していて、自分から皆さんに話しかけることができなかったので、そんな松本さんの心づかいに救われていました。

撮影中、特にうれしかったのは、松本さんが「家族写真を撮ろう」と有村さんや細田さんに声を掛けていたときに、「私は入っていいのかな…」と思っていたら、皆さんが私を真ん中に入れてくださったこと。徳川家の皆さんが大好きだなとあらためて感じた瞬間でした。

◆瀬名役の有村さんとは、よくコミュニケーションを取られていたとのこと。

はい。現場に入る前は五徳と築山殿の史料上の関係性からお話ができるか不安だったのですが、初めてリハーサルに入ったときに「私も最初はすごく緊張したんだ」と有村さんから声を掛けていただいて、そのおかげで緊張が少しほぐれたんです。それから同じシーンの撮影になると毎回声を掛けてくださって、長時間緊迫したシーンが続くとリフレッシュのためスタジオの外に連れ出してくださったり、有村さんの存在が支えになっていました。

◆信康役を演じる細田さん、そして信康の印象は?

信康様は優しさにあふれる人物ですが、それは細田さんが演じられていたから感じられた部分も大きいと思います。同世代ということもあり、撮影の合間には好きなアニメの話など、たわいもない会話ができたこともうれしかったです。五徳と信康様は形としては戦略結婚ですし、ぶつかり合いもしてきましたが、次第に自分にないものを持っていることへの憧れや、母や妹のことを思って行動を起こす姿に尊敬の念がどんどん湧いてきたのではないかなと。実は、五徳は信康様に影響を受けている部分も多くあると思います。

◆今後、個人としての目標や夢は?

女優業をもっとやっていきたいと思っていたタイミングでこの作品に挑戦させていただき、今まで感じたことのない感情をたくさん味わいました。特に、自分の中でいくら考えても出なかった答えが現場に入ることで生まれた体験というのはとても貴重なことだなと感じましたし、これからもそういう瞬間を重ねていけたら、と。そして、私を通じてグループのことも知ってもらえたらこれ以上にうれしいことはないですし、この作品で出会った皆さんとまたいつかご一緒させていただけるよう頑張っていきたいです。

『どうする家康』©NHK

PROFILE

久保史緒里
●くぼ・しおり…2001年7月14日生まれ。宮城県出身。O型。乃木坂46のメンバーで、「Seventeen」専属モデルとしても活躍。

番組情報

大河ドラマ『どうする家康』
NHK総合ほか
毎週日曜 午後8時~8時45分ほか