「いつか胸を張って入国できる日が来ますように」トンツカタン・森本晋太郎のネクストブレイク紀行【第13回】

特集・インタビュー
トンツカタン・森本晋太郎のネクストブレイク紀行
2024年01月09日

お笑いコンビ・トンツカタンの森本晋太郎さんがTV LIFEで連載中のコラム「トンツカタン・森本晋太郎のネクストブレイク紀行」。「今年売れる」と言われ続ける中での出来事や本音が綴られた“飛躍を夢見る芸人の備忘録”をwebでも公開します。今回は、賞レースの話。(TVLIFE 2023年9月13日発売号より転載)


いつか胸を張って入国できる日が来ますように

今年もまた、敗北の夏を免れることができなかった。

お笑い芸人がブレイクするための一番の王道である賞レース。その中でも我々が最も照準を合わせていたキングオブコントの準々決勝で敗退した。手応えとしては当確というほどでもなかったし、スケジュールの都合で出演しているライブの本数も少なくなってきてるので一丁前に悔しがる権利もないだろうと思ったりもする。でもいざ落ちると悔しさは例年と変わらない。

思えば芸人になってから毎年夏になるとこの負の感情が付き纏ってきた。そういう意味ではここ10年僕は心から夏を満喫できていないのかもしれない。まあ学生時代も一人でひたすらパワプロをしてたら夏が終わってたこともあるので、お笑いをやる前から充実した夏なんてなかったのだけれども。

10年ほど前、バナナマンの設楽さんが『芸能界パスポート』という持論を展開されていたのをラジオで聴いたことがある。目には見えないパスポートを芸能の神様が発行していて、人によって違う条件をクリアするとそれがもらえて、それを続けていくうちにうまくいけば永久パスポートとなって芸能界で不動の地位を確立できる…といったような話だ。

このお話が僕の中でかなり印象に残っていて、多くのお笑い芸人にとって賞レースがパスポート発行のきっかけなのは間違いない。喉から手が出るほど欲しい『芸能界にいてもいい理由』を求めて年に一度しかない超低確率のギャンブルに身を投じる。パチンコ台に置き換えたらカイジの沼くらい劣悪な設定ではあるが、それでも我々は自分たちのおもしろを信じて立ち向かう。その分反動も大きく、賞レース敗退をきっかけに解散や引退を選択する芸人が多いのも頷ける。

だけどここ数年で状況はガラリと変わってきているような気もしていて、今はパスポートの発行場所が徐々に増えていると感じる。YouTubeや各種SNSなどから輩出された人たちが見たことのない色のパスポートを持って芸能界を駆け上がっていくのを目の当たりにしてきた。万年賞レース落ちの僕からしたら彼らはとてもキラキラして見えたし、お笑い芸人を辞めなくてもいい理由を提示してくれているような気がして大きなモチベーションに繋がっている。

そんな僕もありがたいことに最近少しずつメディアの露出が増えている。手元にはパスポートによく似たサイズのキャンパスノートしかないのだが、心優しい税関の方が「今回は特別だぞ」と言って入国させてくれる。たまにゴールデンの番組に出させてもらうと共演者の方からそれこそ不法入国者みたいな視線を感じることはあるが、今のところなんとか追い返されずに済んでいる。

来年こそ賞レースでパスポートを発行してもらえることを祈りつつ、その一方でいつかこのキャンパスノートがパスポートに変わる日も夢見ている。なんなら愛着すら湧いてきたこのキャンパスノートを握り締め、今日も芸能界に恐る恐る入国を試みる。


森本晋太郎
●もりもと・しんたろう…1990年1月9日生まれ、東京都出身。お笑いトリオ「トンツカタン」のツッコミ担当。プロダクション人力舎のお笑い養成所・スクールJCA21期を経て、現在はテレビやラジオで活躍中。趣味でもあるツッコミに特化したYouTubeチャンネル「タイマン森本」も好評。