高梨臨インタビュー「出会いが夢をつないでいく」映画「種まく旅人」主演

特集・インタビュー
2016年11月09日

「日本の第一次産業を元気にしたい」。映画「種まく旅人」シリーズは、故・塩屋俊監督のそんな願いから生まれた。シリーズ最新作「種まく旅人~夢のつぎ木~」が全国公開中。舞台は岡山県赤磐市。ある桃農家を通じて、人のぬくもり、家族の愛、夜の桃畑に広がる防蛾灯の赤磐ならではの美しい景色…日本の原風景を色鮮やかに描く。本作の主演を務めた高梨臨さんに本作への思いを聞いた。

出会いが夢をつないでいくんだなと思います

高梨臨インタビュー

◆最初にこの話を頂いたときの感想を教えてください。

最初に台本を頂いて読んだんですけど、1人ひとりが丁寧に描かれていて、とても温かい作品だなと思いました。緑が豊かな自然のあふれた場所で佐々部(清)監督が人間関係を描いたらすごくすてきな作品になるんだろうなってイメージしました。

◆高梨さんが演じる彩音は女優になる夢を諦め、故郷の赤磐に戻り、市役所で働きながら桃を育てる兼業農家として必死で両立させています。

最初に彩音を読んだときに、キャラクターのない人だなという印象があって、それがすごくいいなと思ったんです。人間らしいというか、まるでそこにいるかのように描かれているのですごく血の通った人物だなと思いました。私自身がプライベートでは妹なので、姉として、彩音のように妹と生活するというのは役作りとしては難しい部分になるかなと思っていたのですが、監督から彩音と臨ちゃんの中間でいてくれればいいからと言われていたので、その言葉を信じて特に役作りを意識せずに私は岡山に来ましたっていう感じの気持ちで入りました。

◆わりと素の高梨さんを垣間見える作品と思っていてもいいのでしょうか。

そうですね。本当に私がもし赤磐市の職員で桃農家をしていたらこんな人でしたみたいな、境遇が違うだけで感情的にはそのままですね。もちろん、彩音のようにかぶりものとかも喜んでやったかもしれないです(笑)。

◆斎藤工さん演じる、農林水産省・木村が赤磐を訪れ、彩音とギクシャクしながらも少しずつ心を通わせていきます。2人の微妙な距離感も特に印象に残ります。

斎藤さんとはこれまでにも結構共演させていただいて、初日から久しぶりって感じだったので、気さくに話ができました。年上感を感じさせないというか、私が彩音のようにそのままツッコミとかもできるような空気を出してくださる方なので本当にやりやすくしていただきました。斉藤さんとしゃべっているときにそのまま“よーい、スタート”ってできるぐらいの感じでしたね。

◆木村を「真ダコが確定申告している」と表現するところなど、笑える要素もちりばめられています。木村のお風呂のシーンは現場での思いつきだったそうですが、現場で決まることもあったのですか?

そうなんです、お風呂のシーンは監督が現場で思いついたんです。そういうのは結構多かったですね。佐々部監督がその場でアイデアを出される方なので、物語のキーとなっている“ここはどこですか?”“赤磐です”っていうせりふも、最初は1、2回ぐらいしか台本に書いていなかったのですが、それを佐々部監督が増やして物語のキーのせりふになりました。木村を真ダコと表現するのも最初は違うものだったんですけど、それが現場になくてあるもので一番似ているのはどれだって話になって、真ダコでよくないってなったんです(笑)。その後、ちゃんと斎藤さんに報告しました。斎藤さん、真ダコに変わりましたって(笑)。

高梨臨インタビュー

◆彩音の妹・知紗役の安倍萌生さんとはいかがでしたか?

萌生ちゃんはあまりお芝居の経験がなかったからかリハーサルのときからすごく緊張していたんです。なので積極的に話しかけたり、斎藤さんと一緒にお昼ご飯を食べにいこうとか、早く終わったから夜ごはん食べにいこうとか、なるべく一緒にいたりしました。びんたのシーンは本当に当たっているので、そういうシーンのときに遠慮をなくしてもらえるような関係性を作りたいなと思っていたんですが、実際にすごく仲良くなれました。びんたのシーンは本番だけ当てることになっていたんですけど、私がリハーサルを本番だと勘違いして思いっきりたたいてしまって…。でも萌生ちゃんも思いっきりたたき返してくれて(笑)。すごく痛かったですけど(笑)、ちゃんと肌に手を当てることで感情も生きてきてすごくいいシーンになったと思います。

◆劇中では赤磐市のおいしそうな果物やグルメがたくさん出てきます。撮影中に赤磐グルメも楽しめましたか?

お店に行って食べることは少なかったんですが、赤磐市のお弁当屋さんが佐々部監督のファンの方で、毎日すごくすてきなお弁当を作ってくださってそれが楽しみでした。あと、赤磐市の方がフルーツの差し入れを毎日のように持ってきてくださったので何て幸せな現場なんだろうって(笑)。桃もマスカットもいただきました。私の一番のお気に入りは “もも太郎マスカット”っていうマスカット。どれもすごくおいしかったです。

◆先日、高梨さんは赤磐市の1日市長も務められていました。撮影から約1年たった今、赤磐市の方々の反応はいかがでしたか?

撮影中もたくさんの方にエキストラで協力していただいて、市役所の方とご飯食べにいったり、家を貸してくださった方ともすごく仲良くさせていただいたり、温かい場所だなと思っていたんです。今回のプロモーションで1年ぶりに赤磐に行って、桃畑の家を貸してくださった方にも会いに行ったんですね。そしたら“おかえりー”みたいな感じで桃畑を貸してくださった方も市役所の方も迎え入れてくれて。赤磐に帰ってきたって思える場所でした。役者という仕事をやらせていただいていく中で、いろんな職業や人を知れたり、いろんな景色を見られたり、いろんな場所に行けたり、人間として深くなっていく気がします。今回まるまる3週間、赤磐で撮影させていただいたこともなかなかできない機会だったので私の中でとても大きな経験をさせいただきました。

◆赤磐市で特に印象に残っているロケ地は?

桃農家の方の家と畑なんですけど、畑までの道が1本ばーとなっているんです。夜明け前に撮影の準備をしていると、そこを日が昇っていくように見えてすごく幻想的で。ほのかに桃の香りが漂っていている中で畑までの道を歩いていくのが印象的でした。

◆彩音は女優になる夢を諦めますが、赤磐市に戻って兄の夢を引き継ぐ形で再び夢に向かって頑張ろうとしています。本作を見て、夢はそのときどきで形で変えていくものかなとも思いました。

女優になる夢を諦めて赤磐に帰ってきたときは、彩音は正直うまくいっていなかったと思っていて、兄のことを言い訳にして帰ってきた部分もあるんじゃないかなと考えていたんです。でも彩音は、女優になることを続けていたら花が開いたかもしれないけど、いろんな事情があって帰らなきゃいけない。そして帰ってきたときにだらだら引きずらないでその環境の中で夢を見つけていく。その姿はすごくすてきだなと思います。桃作りの中で挫折しそうになったときに、木村に出会い、赤磐の皆さんの力を借りて夢を続けていこうとするんですけど、例えば東京で女優を諦めなかったとしたらと…思うと、彩音を通じて出会いが夢をつないでいくんだなと思いましたね。夢がかなっている人ばかりではないだろうし、でもその中でまた種をまいてつぎ木のようにつないでいってそこからまた新しい夢をどんどん広げていく姿はいいなと思います。

高梨臨インタビュー

◆高梨さんの今の夢は?

この映画をやらせてもらって思ったのが、まず人との出会いを大切にしようと。私がこの映画の中で言っているせりふに、“今から夢をかなえるために種をまいていこう”というのがあるんですが、今回佐々部監督に出会えて、またいつか佐々部監督と一緒にお仕事できるように頑張ろうという夢が1つできました。それがつぎ木のようにつながっていくので、そこからいろんな出会いが広がって新しい夢ができていくのかなと思います。

◆それでは最後に見どころをお願いします。

この映画は、ぱっと見てキャッチーな映画には見えないと思うんですけど、すごく人間の温かさにあふれていますし、感情が揺さぶられるというよりは優しく語りかけてくれるような映画になっているので、たくさんの方に見ていただきたいなと思います。今は夢を語るのは恥ずかしいとかカッコ悪いとか言われがちなんですが、この映画を見て夢に向かって一生懸命に、そしてそれを口にして語っている人たちはすごくいいなと思いました。人と人の絆をすごく感じられる作品になっています。

 

■PROFILE

高梨臨インタビュー高梨 臨
●たかなし・りん…1988年12月17日生まれ。千葉県出身。A型。2008年「GOTH」に主演し、スクリーンデビュー。2012年、アッバス・キアロスタミ監督によるカンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作「ライク・サムワン・イン・ラブ」に主演。そのほかの出演作に、映画「KILLERS/キラーズ」「醒めながら見る夢」「わたしのハワイの歩きかた」、ドラマ『花子とアン』『まっしろ』『Dr.倫太郎』『ヒガンバナ』『不機嫌な果実』など。11月18日(金)より、Huluオリジナル連続ドラマ『代償』が日米同時配信開始。『不機嫌な果実スペシャル~3年目の浮気~』2017年1月にスペシャルドラマで放送。


■作品情報

「種まく旅人~夢のつぎ木~」「種まく旅人~夢のつぎ木~」
11月5日(土)より全国公開

監督:佐々部清
脚本:安倍照雄
出演:高梨臨、斎藤工、池内博之、津田寛治、升毅、吉沢悠、田中麗奈、永島敏行、井上順ほか

「種まく旅人~夢のつぎ木~」公式サイト:http://www.tanemaku.jp/

©2016「種まく旅人」製作委員会

 
●photo/中村圭吾