山田裕貴×矢崎広インタビュー 舞台「宮本武蔵(完全版)」

特集・インタビュー
2016年08月16日

8月19日(金)~29日(月)に、東京・池袋の東京芸術劇場シアターイーストで上演される舞台「宮本武蔵(完全版)」で、主演を務める山田裕貴さんと佐々木小次郎役の矢崎広さん。監督、脚本家、演出家として活躍する前田司郎さんが率いる劇団・五反田団で2012年に上演された、最後までヒーローらしくない宮本武蔵、つまりは人間・宮本武蔵を描いた舞台「宮本武蔵」の改訂版としてユーモラスな現代会話劇に挑戦するお二人に、“前田演出”の魅力やこの舞台への思いを伺いました。

矢崎さんのことをずっと意識していました(山田)
山田くんのことをずっと意識していました(矢崎)

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――同じ舞台に立つ形での共演は初めてですね。

矢崎 そうですね、実は山田くんとは2012年に同じ朗読劇(「緋色の研究」)の違う回に出演していて、その打ち上げで一緒の席になってお話したことがあって。

山田 はい!

矢崎 やっぱ一度そうやって出会ってしまうとどうしても気になって、山田くんの活躍を見るたびに「すてきな役者さんだな~」「お芝居の緩急があって面白いな~」と思っていました。本当に緩急の付け方が上手いんですよ…ナチュラルでもあるし、やるところはやる。無意識なのか意識的なのかその使い分けをすごくしている方で。

山田 ……(うれしそうに矢崎を見ている)。

矢崎 今、そのままその魅力を感じながら稽古をしているところです。どんどん次々と魅力が出てくるんで、自分もこっそり「あ、それ面白いな」って勉強しているような感じで…。

――あの…さっきから山田さんがめっちゃうれしそうに矢崎さんのことを見てらっしゃるんですが。

矢崎 !?(笑)

山田 アハッ…そんなふうに思って頂いていたんだと思ったら! 僕もその朗読劇の打ち上げで会ってから矢崎さんのことを同じように意識していたし、僕が観劇しに行く舞台に矢崎さんは絶対いるって思うくらいたくさん出演されている感覚があったんです。それに比べて僕はまだ舞台3本目だし、まだまだ未熟な部分がたくさんあるんだろうな~と思いながら矢崎さんが稽古されているところを見ると、すごい安定感があってどっしりしているというか。でもその安定感にも気づかせないくらい涼しい顔でやってらっしゃるところに経験値の違いを感じて「あ、すごいな~」って。もう!

矢崎 ありがとうございます…何か恥ずかしいですね(笑)。

山田 あまりこういう話をしたことなかったですよね。そういえば(笑)。

宮本武蔵で面白いことをするのではなく、
宮本武蔵を面白いと感じる作品(矢崎)

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――今日現場に入られたときはペアルックかと見紛うようなファッションでしたが、雰囲気が似ていると言われたことはありませんか?

矢崎 あぁ(笑)、山田くんはテレビ局で間違えられたことがあるみたいです。

山田 はい、もうこのくらいの距離で「あ、矢崎くん!」って。そこから10秒くらい矢崎くんだと思ってずっとお話しされた経験があります(笑)。

矢崎 自分たちじゃ分からないんですけど…衣装の件はマジでたまたまです!

山田 (矢崎に)すみません、撮影でカブらないようにわざわざ着替えていただいて…。

矢崎 全然大丈夫! そういうこともあろうかと、2着持ってきておいたから(笑)。

――(笑)。さて、この舞台は、山田さんが演出の前田司郎さん(五反田団)のワークショップに参加したところから実現したそうですね。

山田 はい。いろいろ思うところがあって、道場破りみたいな気持ちで演出家さんや監督さんが開催するワークショップに参加していた時期にご案内を頂いたんです。僕、元々前田さんのセリフなのかアドリブなのか分からないリアルな脚本がすばらしいな~と思っていて、自分の映画ノート(=鑑賞メモ)にも「横道世之介」「ジ、エクストリーム、スキヤキ」のことを書いていたんです。それで10日間のワークショップに参加したら、“イケメン俳優に偏見を持っている”と仰っていた前田さんが、「イメージが変わった」と言ってくださって…それがきっかけで、僕主演でやってみようということになったんです。やるなら「宮本武蔵」だな、と前田さんが選んでくれました。宮本武蔵ってすごくかっこよくて強いイメージのある剣の達人ですけど、前田さんは例え宮本武蔵でも人間は根本の部分では変わらないんじゃないかという視点を持っているんですよね。人斬りの時代だからといって本当に人を斬りたくて刀を振り回していたわけじゃないとか、宮本武蔵であることで狙われてしまうとか、人と距離感がうまく掴めず友達もいないとか(笑)。殺陣を見せたりセリフで悩みを打ち明けたりせず、会話劇の中で見せていく人間の悲しさとか迷いとか葛藤がすごい面白い宮本武蔵になっているな~と思いました。

――矢崎さんはこの作品についてどういう印象を持たれましたか?

矢崎 歴史的に宮本武蔵っていうと巌流島の物語の印象が強いんですが、台本は“面白い”宮本武蔵だったんですよね。でもそれは「宮本武蔵を題材に何か面白いことをする」ということじゃなくて、「もしかしたら宮本武蔵はこうだったのかもしれないな」って歴史を読み解くみたいな面白さ。僕が演じる佐々木小次郎も「大きな刀を背負った強い剣豪」というのが巌流島におけるイメージなんですけど、この作品では当時はまだなかった新しい考えを持った人という見方を示していて。名を上げるために商業的に人を集めて戦略的PRみたいなことを考えていて、面白い宮本武蔵たちと出会うことでその戦略が変わっていく…もちろん今は当然の手法ですが、もしかしたらその先駆けだったのかもしれないなと思いながらやっています。

全ての文字列に意味がある台本に
責任とプレッシャーを感じます(山田)

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――お二人とも初“五反田団”ですが、実際稽古に入られていかがですか?

山田 驚いたのは、稽古が終わるとそのままみんな稽古場で飲むんですよ。

矢崎 うん、ここ(稽古場)でね(笑)。

山田 (隣接している)前田さんのお宅に上がらせて頂いてみんなでご飯を食べることもあります。

矢崎 本当に劇団の中に入れてもらってる感じですね。

山田 共演者の皆さんも面白いんですよね~。もう心折れそうになるくらい面白いんですよね~。何て言ったらいいんだろうな~。

矢崎 本当に強者揃いですね。僕は「黒いハンカチーフ」「ロボ・ロボ」「フランダースの負け犬」と、劇団で上演した作品のリメイクものもわりとやらせて頂いてきたんですけど、経験上やっぱり難しいんですよ。何故なら、そもそも劇団のオリジナル作品って劇団の役者さんに当て書きしていることが多いので、そのニュアンスを再現したいという気持ちが役者にあるので。

山田 ですね…前田さんがたまに他の役のセリフを読むことがあるんですけど、やっぱり面白くて。初演では前田さんが宮本武蔵を演じられていたんですけど、聞いた話によると前田さんは自分のやった役を人に譲ったことがないと仰っていたらしくて…僕も前田さんが演っていた宮本武蔵を目指したいので、いい意味で言えば責任、悪い意味で言えばプレッシャーを感じています、ハイ。

――作品に対しての発見などはありましたか?

矢崎 前田さんの台本の言葉って一文字一文字が生きてるんですよね、無駄がないっていうか。具体的に言うと台本に入っている「え」「あっ」「や、」「あの…」「いやそうじゃなくて、ここ…」という言葉に無駄がないんですよ。

山田 それがとにかく難しいんですよ! 本当に「え」「いや」「それ」「ほんと」「ど、どんな」「え、どんな」全部に意味があるし、そこがこう、1つずつこう…(突っ伏しながら)。

矢崎 そうだね、ほんと針に糸を通してるみたいな…。でもそれが完全に僕らのガイドだし、それが伝わってくる本を書ける前田さんってすごいなって演出を受けながら思います。もし感情の流れが分からない部分があっても、前田さんのニュアンスで読まれたら「あ、そっちかそういうことか!」って一発で解決できるんですね。今まで難しかったことが、前田さんという言葉のフィルターを通して全て理解できる。

山田 だから逆に言うと少しでもセリフを言うテンションだったり、言い方が違ったらそういうふうに聞こえない。といって、ただひとつの感情で言ってない。感情を表に出していいところと、それを隠そうとして言っているところと、そこの読み解きが本当に難しくて。だから逆に解けていけば解けていくほどどんどん面白くなるし、正解を当てはめていけばどんどんどんどん面白くなるんで、そういう「あ、ちょっと掴んだな」って思える日と思えない日がすごくはっきりしていて。主演がこの状態では「あ~いかんな」と思うんですけど。でも他の皆さんそういうふうに苦しんで考えぬいてやってらっしゃるから。

矢崎 うん、強者揃いの皆さんがさらにそれぞれのシーンで各人が自分なりに闘ってらっしゃるので、山田くんが焦る気持ちも分かるし、逆にそれこそが本当にすてきなメンバーが揃ったなって思える瞬間でもあるというか。真ん中にずっといなきゃいけない山田くんの大変さは計り知れないですけど、また新しい宮本武蔵が山田くんを中心に出来上がるんじゃないかなという予感がすごくあります。それぞれ違うアプローチで一緒のところに向かおうとしている感じが今とても楽しいし、「宮本武蔵」は絶対に面白くなるなっていう気持ちがずっとあって、先輩たちを見ながら「もっと面白くしたい!」って自分たちを奮い立たせているところです(笑)。

イメージとか第一印象とかで物事を
決めつけちゃダメなんですよ!(山田)

――この作品を通して発見したことや、今回初体験になりそうなことは?

山田 普通に自分の人間としての話になるんですけど、見えているものだけ見ても本当につまらないなってことですね。もう今やイメージが前にでる世の中じゃないですか、偉人だったらすごいんだ、みたいな。そういう簡単なところではない、より物事を深く見るようになりました。人間関係においても見えないモノを追い求めたいというか、見えているものだけを信じていてはダメだなって思いましたし、イメージとか第一印象というものが、より嫌いになって、ちゃんと人とコミュニケーション取りたい、イメージだけで物事を決めるということを本当にやめようと思いました。

矢崎 前田さんというか五反田団、つまりこの作品は…ちょっと言葉が難しいですけど、“繊細なお芝居”が求められているなと思います。映像のお芝居というと語弊がありますけど、商業的なミュージカルや大きな舞台とはまた違った、体だけじゃなく心を動かすお芝居が求められている。ちょうどミュージカル「ジャージー・ボーイズ」をやりながらこっちの稽古に来始めて、その落差がすごいんですよ!(笑)でも、今まで出てきたお芝居と違うと思ってたらそうでもなくて、今までやってきたものの感覚をすごく今研ぎ澄ませてもらっているんだなって感じています。今までいろんな演出家に「お前はここがダメだ」「ここが足りてない」と言われてきた自分が今持っているものを、さらに前田さんに細かく教えてもらって、台本と台本の間の感情をどうやって埋めていくか、どう存在していくか、自分が身につけたい課題をブラッシュアップしてもらっている感じです。

山田 前田さんのご指摘の仕方ってすごく例えが上手いというか、分かりやすくてよく伝わってくるんですよね。

矢崎 うん、作品の向かうところが違うだけで、おっしゃっていることは基本的に他の演出家の皆さんと一緒なのかなと思うんですけど、前田さんのディレクションは役者にとってすごく分かりやすいんです。ここの感情でこうなって、ここでこうなるから次の感情にこうなってほしいって説明をちゃんとしてくれるので「あ、なるほどな!」「こういうことってあるな」って理解がまず自分に起きるんですね。そうなったらもう自分の中でインプットされるので、すごく親切だと思いますし、こういうことをどんどんどんどん気付ける役者になろうって思う。何か前田さんに対しての憧れがあるというか。

山田 分かります!

山田くんの「宮本武蔵(完全版)」を
ぜひ一緒に体感してください(矢崎)

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――では、初演を観た方、初体験の方の両方に向けたPRをお願いします。

山田 初演から比べると、今回で登場人物が増えたり、違っている部分があります!

矢崎 最初に読んだ本とは全然違って、五反田団ファンや初演を観た方もまた新しい見方ができるんじゃないかと思います。前田さんが僕たちに合わせて書き直してくれている部分もあるので、オチというか、選ぶ道の方向も少し違っていて、本当に“山田くんの武蔵”っていう感じ。

山田 なので、僕がこの台本で感じたことが伝わればいいなと思います。この「宮本武蔵(完全版)」を見たらこれからの物事に目が変わりますよ!「あぁ、宮本武蔵って本当に人間なんだ」っていうその人間らしさがすごく面白いし、人間関係とか恋愛とかで悩みながら(笑)、“一生懸命”生きてるだけなんですよ。その人間の、ラストに向かっていくうちの人間の儚さ、寂しさ、本当は一人なのかもしれないみたいなことをすごく感じて頂けるかと思います。とは言いつつ、そこを押し付けて観せている作品ではないので、本当にいろいろ感じてもらえる本当にすごく面白い作品だと思うので、ぜひ観に来て頂きたいです。あと、これは本当に個人的な話なんですけど、僕、この「宮本武蔵(完全版)」を成功させられたら、本当に俳優としてまた進化できそうだなって感じています。なので、ぜひ観来てください!

矢崎 今、新しい「宮本武蔵(完全版)」というものをみんなで今つくり上げてる最中なので、初演をご覧になった方、五反田団のファンの方、どなたが見てもまた新しい発見ができる舞台になっているんじゃないかなと思います。メッセージも新しい見方もたくさん詰まっていて面白いですし、見終わった後にいろんな考えが生まれる作品でもあると思うので、そういうことをお客様に届けられたらなと思っています。舞台でしか味わえない臨場感やライブ感、ナマ感を共有しに、ぜひ劇場にいらしてください! お待ちしてます。

 

プロフィール

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山田裕貴
やまだ・ゆうき
1990年9月18日生まれ、愛知県出身。
2011年『海賊戦隊ゴーカイジャー』(テレ朝)のゴーカイブルー/ジョー・ギブケン役で俳優デビュー。
その後、映画「ストロボ・エッジ」や『HiGH&LOW』シリーズなど出演作多数。前田司郎監督作品には映画「ふきげんな過去」にも出演している。現在NHKプレミアムドラマ「受験のシンデレラ」(毎週日曜日22:00~)が放送中の他、8月20日(土)には出演映画「青空エール」、9月22日(木・祝)には「闇金ウシジマくんPart3」、12月17日(土)には「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」等が公開される。

オフィシャルサイト(http://www.watanabepro.co.jp/mypage/10000042/

矢崎 広
やざき・ひろし
1987年7月10日、山形県出身。
舞台「MACBETH」(初単独主演)、ミュージカル『博桜鬼』シリーズ、「ジャンヌ・ダルク」、「女中たち」、「ドッグファイト」、「ジャージー・ボーイズ」など出演作多数。また、TVアニメ『僕等がいた』『ヒロイック・エイジ』では主演声優を務める。
今年10月~11月に舞台「スカーレット・ピンパーネル」が東京、大阪で、来年1月~3月にはミュージカル「ロミオ&ジュリエット」が東京・大阪で上演予定。

オフィシャルサイト(http://tristone.co.jp/actors/yazaki/

 

作品情報

「宮本武蔵(完全版)」
8月19日(金)~29日(月)
東京芸術劇場シアターイースト
チケット:全席指定6000円

作/演出:前田司郎
出演:山田裕貴 矢崎 広 遠藤雄弥 金子岳憲 鮎川桃果 大山雄史(五反田団) 山村崇子・ 内田慈 志賀廣太郎

公式サイト(https://musashi-stage.themedia.jp/

公式ツイッター(https://twitter.com/musashi_stage

 

●取材/坂戸希和美