米本学仁「(山田八蔵は)自分の命を燃やすべき場所を心の奥底で求めていたのでは」『どうする家康』

ドラマ
2023年05月28日
『どうする家康』©NHK

松本潤が主演を務める大河ドラマ『どうする家康』(NHK総合ほか 毎週日曜 午後8時ほか)で、山田八蔵役を演じる米本学仁からコメントが到着した。

大河ドラマ第62作は、誰もが知る歴史上の有名人・徳川家康の生涯を脚本家・古沢良太が新たな視点で描く『どうする家康』。ひとりの弱き少年が、乱世を終わらせた奇跡と希望の物語だ。

米本学仁 コメント

『どうする家康』©NHK

◆山田八蔵をどのような人物と解釈されましたか。

たくさんあるのですが、山田八蔵として一歩目を歩む上で大切にしていたのは「不安と迷い」でした。

お話を頂いてからまず八蔵の足跡をたどるために、愛知県に向かいました。山田八蔵の塚と云われている場所を訪ねてみたら、こんもりと土が盛られていて、一本の道が二つに別れる場所でした。そこで、手を合わせ、八蔵の塚をじっと眺め、一つ一つの呼吸をかみ締めながら佇んでいると、この道で良いのか、何をするべきか、八蔵は常に迷っていたんじゃないかな、そんなことを感じました。優柔不断と言えばそうなのですが、最後まで不安の中に居て、迷いながらも進んだ八蔵。大岡弥四郎、仲間たちの凄惨な死にざまは、決して忘れられるものではなく、その上で自分の命を燃やすべき場所を心の奥底で求めていたのではないでしょうか。

八蔵だけでなく築山殿、そして徳川信康さん縁の地にも足を運びました。築山殿の人物像には諸説ありあまりいい描かれ方をしていないこともあります。けれど八柱神社で出会えた「築山御前首塚」の石碑に書かれていた「…されど生害に値するほどの罪悪であっただろうか…」この一文から石碑を建てた人たちの想い、築山殿に向けられるまなざしに触れることができた気がします。それが山田八蔵を生きる上で一つのコンパスとなりました。八蔵が常に抱いていた不安や迷い、その苦悩に寄り添ってくださる築山殿の人となりを感じました。

◆大岡弥四郎をはじめ、クーデターを起こそうとする家臣たちと、徳川への忠義との間で揺れる八蔵の心をどのように捉えて演じられましたか。また、第20回において、特に印象に残っているシーンはありますか。

終わらない戦乱の世。失われていくことが当たり前の命。ドクドクと脈打つ深い悲しみ、荒くなる息。そんな不条理をぶち壊したい。切なる想いを共にする弥四郎。いろんな想いが巡る中「死にたくない」「生きて帰りたい」「会いたい」そんなシンプルだけど強い欲求が真ん中にありました。

弥四郎や他の仲間たち。そして彼らの家族たちとも過ごしたこれまでの日々を何度も思い返すことで八蔵の苦しさ、後ろめたさがより深く大きくなっていくのを感じました。クーデターを実行するその夜、弥四郎と目線を交わしたり、仲間たちと進む中も心の中でずっとずっと謝っていました。「すまぬ、すまぬ…」と。

特に印象に残っているのは武田勝頼軍との戦に敗れ、けがを負い城に戻って来るシーンです。たった一つしかない命を軽んじられること。またそんな状況に八蔵自身も慣れて麻痺していた部分もあったと思います。誰にも分け隔てなく手当てして下さるお方様。戦乱の世の不条理が五徳さんのぜりふに現れる中、烈火のごとく怒る瀬名さんの言葉たちに涙が流れました。最後まで迷いながらも裏切りを決めていた八蔵にとってその姿は驚きそのものであり、自分の命と心に温度を取り戻しました。そして瀬名さん、信康様をはじめたくさんの人たちの命をいとおしく大切に感じてしまいました。
迷いながら、不安と共にまた一つ裏切りを重ねる山田八蔵が生まれた瞬間でした。

◆第20回では、瀬名と八蔵のシーンが複数描かれました。瀬名に対する八蔵の思いを、どのように捉えて演じられましたか。また、瀬名役・有村架純さんとのご共演はいかがでしたか。

身分や立場の上下が決して覆らない時代に分け隔てなく接してくれる瀬名さんの存在は違和感。ただ命の価値があまりにも低い戦乱の世を生きる者にとって、それが当たり前で何の疑いも持ち得ない八蔵たちが現状を打破するには力によるクーデターしかないと思い込んでいました。そんな中、山田八蔵はこれで良いのかと迷い続け、疑問を捨てられません。そして瀬名さんも同じ苦悩を生きられたのだと思います。

同じ問いと真正面から向き合い続けてある決意に至った瀬名。「八蔵、頼みがある」と真っすぐこちらを見る瀬名には正直、恐さを感じました。誠実で真っすぐで腹が決まったその姿は強さそのもので、暴力よりも強力な力を感じました。何かを変える人は優しさと怖さを同時に持つ人なのかもしれません。

有村架純さんはとても不思議な方でした。飄々と淡々としているようで、一度動き出すと感覚の塊がそこにあるようでした。合間にお話させていただいた際もとっても面白くて忌憚のない方で、接していてしみじみ好奇心が湧いてくるような。

ある日、前室で待機している間、有村さんと古川琴音さんと3人で話していたのですが、ふと有村さんが居なくなって、不意に戻られた時に「これどうぞ」とデコポンを僕と古川さんに下さいました。それが本当に本当にうれしくて大げさでなく頬擦りしながら泣けてきました。家に帰っても何度も手に取り惜しみながらも大切にそのデコポンを頂戴しました。甘さも酸味もギュッと詰まった最高においしいデコポンでした。劇中でも貝殻に詰まった軟膏、それを包んでいる手拭いを頂戴しました。身体が痺れるくらいうれしかったです。劇中に下さいました軟膏と手拭い、撮影の合間に頂いたデコポン、どちらも山田八蔵、米本学仁にとって格別なものとなりました。

『どうする家康』©NHK

◆前作『鎌倉殿の13人』で演じられた工藤茂光に続き、2作連続の大河ドラマご出演となりました。ご出演が決まった時のお気持ちはいかがでしたか。そして、無事収録を終えられた今のお気持ちはいかがですか。

まず率直にうれしかったです!大河ドラマで演じられること、日本全国、老若男女たくさんの人に届く作品を生きられるのは幸せなことです。そんな大河ドラマの中に必要とされるのが本当にうれしいです!おっきな「アイラヴユー」をまた一つ頂戴しました!

『鎌倉殿の13人』に続き、今回も歩き方を大切にしたいと思い役に向き合いました。日本刀を手に、差しながら歩くこと、その上で迫力を失わないことをどう両立させられるのかは簡単ではありません。迫力は一つの結果ですが、それは同時に想いや決意の表れでもあるので、山田八蔵の想いを損なわず、どう歩くのか(考証の先生に)ご相談させていただきました。こういう問いに深い考察を経たお答えを受けられること、答えて下さる先生方がおられるのが大河ドラマのすごさの一つだと思います。

『どうする家康』では山田八蔵を生きさせていただきました。とことん独りで生きることもありつつ、つくづく一人では生きていないんだと感じられることもたくさんありました。米本学仁から産まれる汗や重さ、大きさを生かしてくださり、時には台本にない動きが湧いて出て来たのを助監督さんが「こういうことやりたいんじゃない?」と感じ取ってくれたり、監督も「それやってみましょう」と背中を押してくれることがありました。

そして松本潤君、殿が合間に掛けてくれた「頑張ってね!」にグッと来て勇気をもらいました。
そんな皆さんに米本学仁は生かされて山田八蔵を精いっぱい、いやそれ以上に生きることができました。なんか今書きながら泣けてきます。そんな当たり前ではない愛を届けてくれた『どうする家康』の皆様に感謝です。

番組情報

大河ドラマ『どうする家康』
毎週日曜
NHK総合 午後8時~
BSプレミアム/BS4K 午後6時~

WEB

番組公式HP:https://www.nhk.or.jp/ieyasu/
番組公式Twitter:https://twitter.com/nhk_ieyasu

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