『テイオーの長い休日』脚本家・入江信吾が本作に込めた思いを明かす「主戦場を失ってしまったことに対する、この思いをぶつけたい」

ドラマ
2023年06月30日
『テイオーの長い休日』©東海テレビ

船越英一郎が主演を務めるドラマ『テイオーの長い休日』(東海テレビ/フジテレビ系 毎週土曜 午後11時40分~深夜0時35分)より、脚本家・入江信吾のインタビューが到着した。

船越英一郎が、1年以上も仕事がない“2時間サスペンスのテイオー”を演じる土ドラ『テイオーの長い休日』。これまで仕事ほしさにプロデューサーの言いなりになっていた新人脚本家やドラマ志望なのに予算を守れずバラエティ班に飛ばされくすぶっている中堅ディレクターなど、業界で窮屈な思いを抱えている人たちにもスポットを当ててきた。

その生々しい内容と、そんな若者を救う熱護(船越)のせりふには「ものすごく刺さった」「2サスの帝王だけあって言葉に重みがある」と言った声が集まるなど、すべての業界に通じるお仕事ドラマとしても注目を集めている。

明日7月1日(土)放送の第5話では俳優の移籍問題に切り込んでいく。熱護をなんとかドラマの仕事に復帰させようと奔走する敏腕マネージャー・吉田ゆかり(戸田菜穂)。彼女をかつて大手芸能事務所トレランスから“追放”の憂き目に合わせた、宿敵の寿彰(前川泰之)が、熱護たちの所属する小さな事務所に、若手俳優・萩原匠(今井悠貴)の引き抜きという形で本気の揺さぶりをかけてくる。

制作は昼ドラを50年以上作り続けてきた東海テレビ。テレビ業界に渦巻くリアルな裏話をさらけ出すストーリー展開に話題が集まっているこのドラマだが、ついに昼ドラばりのドロドロした局面を迎えるのか。そして、“業界の生キズ”を赤裸々にさらすような本作は、どんな発想から生み出されたのか。企画の立ち上がりから関わる脚本家・入江信吾に、その裏舞台や脚本に賭ける思いのすべてを聞いた。

脚本家・入江信吾 インタビュー

『テイオーの長い休日』©東海テレビ

◆いままでの放送でも、何かと“黒い影”を感じさせてきたトレランスの寿が、いよいよ本格的に動き出すようですが…。

第1話から、“伏線”として出してきた「吉田ゆかりがどうしてトレランスを辞めることになったか」という謎が、ゆかりと寿の確執として明かされる流れになります。大手芸能事務所が、小さな事務所に揺さぶりをかけてくるというくだりも、リアルな業界のあるある話から持ってきて、脚本に入れ込みました。

◆「業界のウラ話さらけ出しドラマ」としての『テイオーの長い休日』が、いよいよ本領発揮ということになってくるわけですね。

寿の動きだけでなく、その他のところにも “業界として痛い話”を盛り込んであります。明日放送の5話の中で、役者になりたての頃の匠(熱護の付き人)が撮影でうまく芝居ができず、監督から「代わりなんかいくらでもいるんだぞ!」と怒鳴られる場面があるんですが、僕自身の生々しいキズか?と問われれば否定はできません。似たようなシチュエーションは何度も経験しているので。この場面を書いているときに、「こういうときに、熱護みたいな人がドンと出てきて状況をひっくり返してくれたらカッコいいよな、うれしいよな」と思いながら、書いてました。実際に、自分で書きながら「熱護、カッコいい~~~!!!」って、心の中で拍手喝采してたりして(笑)。

『テイオーの長い休日』©東海テレビ

◆どうして、こうした業界モノのドラマにしようとお考えだったのでしょうか。

このドラマの基軸は、“崖っぷち俳優” 熱護の再生話です。一回、栄華の時代を築いた人が斜陽産業みたいになってきたところで、もう一回返り咲く、という話なので、必然的に業界内部の話にはなるなと思ってはいました。その上で、僕自身がドラマの脚本家として今まで見聞きしてきたことや、経験してきたことを“そのまま書ける”というのがリアルな業界モノにした大きな理由です。間違いなくリアリティが出せますから。取材をまったくしないでリアリティが出せるのは助かります(笑)。そういう意味でも、ものすごく真に迫った話ができているなとは思っています。

特に2話(工藤遥が新人脚本家・柏木美遊を演じた回。プロデューサーにより不可解な台本の修正を何度もさせられていた)は、自分の体験そのままですね(笑)。結果的には熱護が脚本を守ってくれるのですが、それでは終わらせず、プロデューサーが最後に「じゃ、予算はどうするんですか!」とキレる場面も入れました。プロデューサーも「予算を守る」という視点では正義なんです。悪人は誰もいないのに、携わる人間全員が不幸になる流れになっちゃうんですよね、この業界は…。誰かひとりが悪いわけではないんです。だからこそ難しい。2話もそうですけど、他の回でもかなり赤裸々なことを書かせていただいて“ここまで書いて大丈夫か?” と心配したんですけど、心優しいプロデューサーの皆さんがOKを出してくださったんで(笑)。書いていて、とっても楽しかったです。

◆そもそも、どのような経緯でこのドラマの企画が立ち上がったんでしょうか。

僕が、脚本のお話をいただいたのは、船越さんと長年、2時間ドラマをたくさん作られてきたホリプロの井上竜太プロデューサーから連絡をいただいたのがきっかけでした。僕自身が、2時間サスペンスがまだあった頃に、井上さんとよくお仕事させていただいていたんですけど、その枠自体がなくなり、しばらく連絡がない状態だったんです。それが急にどうしたんだろう、と思ったら…「船越さんに、2時間サスペンスの帝王役をやってもらうドラマなんだよね」とご説明いただいて。大枠は、井上さんと東海テレビの松本プロデューサーがかなり組み立てられていて、そこに僕が参加する形だったんですけど、これは面白そうだな、と思いまして。絶対やりたいと思って、ぜひ!とご返事させていただきました。

『テイオーの長い休日』©東海テレビ

◆入江さんが2時間ドラマを描くようになったきっかけは?

もともと僕は、連ドラとか、トレンディードラマとかを書きたかったんです(笑)。縁があって、研修生として入った東映で鍛えられて…東映は、特撮モノと刑事モノが売り物の会社だったんで、猛勉強して、刑事モノの脚本を書けるようにしたんです。そこで『相棒』というドラマでデビューして、そこからもう、僕の“刑事モノの人”としてのキャリアが決まってしまったような感じでした。その流れで、2時間サスペンスも書くようになりまして。もうなんだかんだで、20本近く書いています。僕にとっての主戦場でした。それが、ある年を境にして急に枠自体がどんどん減っていってしまって。僕が書きだした頃には、もう火曜サスペンスもなくなりかけていました。だから、熱護じゃないですけど…僕自身も、自分の主たる戦場を失ってしまったことに対する、いろんな思いはあり、この思いをどこかでぶつけたい!と今作に臨んでいます。

だから、2時間ドラマそのものをパロディにして、安易に笑いをとろうといった気持ちはまったくありませんでした。2時間サスペンスをモチーフにはするけど、それ自体で笑いを取る、というのではない。セルフパロディというよりは、セルフオマージュ、という感じで書いていますし、そのうえで上質なコメディにしていけるように作っています。最初のプロットを、ああでもないこうでもないと、みんなで練っていたときに、船越さんご本人からも意見をいただいたんです。「今まで2時間サスペンスに対する思いとか、今までやってきたことへの誇りとか、そういうものを大事にしたい」と船越さんがおっしゃったので、“ああ、そうだよな!”と思って…企画の軸がその方向に決まって、それで今の形になりました。

◆ということは、「2時間ドラマ」というものに対する入江さんの思いが詰まりまくった作品になっている、という感じでしょうか。

2時間ドラマがなくなり忸怩たる思いがありました。完全にオリジナルのシリーズ(『釣り刑事』主演・中村梅雀)も手掛けていたのですが、自分でもすごく好きで、ライフワークにしていこうと思っていたくらいなのに、パート7までやったところで枠自体がなくなっちゃって。終わっちゃったのが悔しかったです。自分でずっとやりたかったものなので…。

僕、このドラマの放送と同時進行で、Twitterでつぶやいていたりもするんですけど、ドラマが始まってから “かつて2サスに脇役で出られていた役者の方”とか “2サスを作っていた制作会社にいた方” とかが、コメントをつけてくれたりするんです。それを見て、ハッと気が付いたんです。そうか、この人たちも2サスが無くなったことで影響を受けてしまったんだなって。『釣り刑事』のときの制作会社も2サスがなくなったことで、かなり苦労をしたらしいですし、会社自体がなくなっちゃった制作会社もあったんじゃないかな、あの頃は…。戦場を失ったのは僕らだけじゃなかったんです。そして、このドラマが、“こういった人たちを応援する作品でもある”とあらためて気付かせてもらいました。業界の内輪の話ではありますけど、でも描いている悩みや抗う気持ちはどこの業種でも通じるのではないかなと思っています。

『テイオーの長い休日』©東海テレビ

◆『テイオーの長い休日』は全8回のシリーズですが、脚本の執筆で“ここは大変だった”というところはありますでしょうか。

このドラマは基本的に、船越さんが過去にやった役を生かして、毎回謎を解いていく…事件を解決していくという話になっています。1話は、かなり初期からあの形で決まっていたんですが、過去にサスペンスでやった役…調査官とか、医者とか、弁護士だったり、探偵だったり…を毎回、なにかしら出さなくちゃいけない、ということで、そのシバリが非常に大変でした(笑)。毎回、その役に合った事件やら謎を起こして、毎回、解き明かしていくわけなので、それは大変でしたし、あともうひとつ、ホームドラマの要素もある。吉田家が転がり込んでくる、というところから始まって。そういう部分も含めて、入っている要素が、いろいろ多いので、それを整理整頓しながらやっていくってのは、なかなか大変でした。けれども面白かったです。あと、タイトルが『テイオーの長い休日』なので、熱護の仕事が成立しちゃったら休日が終わっちゃうんですね(笑)。毎回、なんとかして、仕事が成立しなくなるようにしなくちゃいけない。それもまた、大変だったかもしれません(笑)。

◆最後に、視聴者の皆さんへ、入江さんが作品に込めたメッセージをお願いします。

とにかく、熱護のことを、皆さんに好きになってほしいです! 時代にうまく合わせていくのが美徳みたいに言われがちな昨今ですけど、それができない不器用で愚直なオジサンもいるんだ、と。そういうオジサンの、やせ我慢の美学みたいなものは、最近なかなか描かれなくなっただけに、そこをみんなで応援してあげてほしいと思います。見終わった頃には、みんな、熱護が大好きになってくれていると信じてますし、そうなることを願っています!

第5話 あらすじ

ゆかり(戸田菜穂)のマネージメントのお陰で熱護(船越英一郎)の付き人・萩原匠(今井悠貴)がプチブレイクの状況に。しかしなぜか浮かない表情の匠をゆかりは不審に思う。その影には大手事務所・トレランスの寿(前川泰之)の存在があった。寿は匠を引き抜こうとしていたのだ。移籍すれば大ブレイクの道が約束されていた。だが、熱護への恩義もあり、悩む匠。一方、ゆかりは寿の真意を確かめるべく7年ぶりに古巣に足を運ぶ。そこでゆかりと寿の因縁が明らかになり…。そんな中、熱護はなぜかトレランスの人気俳優で匠の友人でもある伊集院(白石隼也)に会いに行っていた。そしてなぜか漆黒の法服をまとい、オリプロの面々を呼び出して…。
「これより、萩原匠移籍に関する審議を行う!」
移籍すべきかせざるべきか。大紛糾の法廷劇が幕を開け、隠されていた真実が明らかに。そして、ゆかりは熱護を理解し、本当のバディになれるのか。それぞれの思いが錯綜する後半戦がスタートする。

番組情報

『テイオーの長い休日』
東海テレビ/フジテレビ系
毎週土曜 午後11時40分~深夜0時35分
※『FNS27時間テレビ』のため7月22日(土)は休止

出演:船越英一郎、戸田菜穂、今井悠貴、宮下結衣、石原颯也、平野絢規/白石隼也、久保田磨希、前川泰之、木場勝己
企画:市野直親(東海テレビ)
脚本:入江信吾、川﨑いづみ、諸橋隼人
音楽:仲西匡(カレント)
主題歌:「素顔」上野大樹(cutting edge)
OPテーマ:「Bumpy」Beverly(avex trax)
ナレーション:大和田伸也
演出:吉川鮎太(ホリプロ)、白川士
企画:市野直親(東海テレビ)
プロデューサー:松本圭右(東海テレビ)、井上竜太(ホリプロ)
制作協力:キャンター
制作:東海テレビ、ホリプロ

WEB

HP:https://www.tokai-tv.com/teio/
Twitter:@tokaitv_dodra
Instagram:dodra_tokaitv
TikTok:dodra_tokaitv

©東海テレビ