寺島しのぶ『女系家族』で宮沢りえと激突! 自身は歌舞伎役者の家に生まれて「“なぜウチは…”と思ったこともありました」

特集・インタビュー
2021年12月04日

『女系家族』寺島しのぶインタビュー

これまで何度も映像化されてきた山崎豊子さんの不朽の名作「女系家族」が、テレビ朝日系の2夜連続ドラマスペシャルとして、12月4日(土)と5日(日)の後9・00から放送される。老舗木綿問屋「矢島商店」を舞台に、女性たちの壮絶な遺産相続争いを描くストーリー。W主演として宮沢りえさんとともに本作に挑んだのが、寺島しのぶさんだ。演じているのは、矢島家の総領娘=長女の藤代。映像表現の多彩さに定評のある巨匠・鶴橋康夫監督の脚本・演出に、寺島さんはどう向き合ったのか。撮影秘話や共演者との思い出などもお聞きしました。

 

◆寺島さん演じる藤代は、莫大な遺産をめぐって父・嘉蔵(役所広司)の愛人・文乃(宮沢)と激しく対立する役どころです。宮沢さんとの共演はいかがでしたか?

文乃との出会いのシーンは、どこか切なかったです。宮沢さんが演じられているので、“父親の愛人はこの人か。こんなにきれいな人だったら、お父さんも惚れちゃうだろうな”という説得力もありました。年齢が藤代と変わらないので、とても複雑ですよね。お父さんは矢島家では絶対に話せない事を文乃には話せるということもあったでしょうね。文乃に安らぎを求めていたというのは理解できますね。

◆宮沢さんは、もしまた寺島さんと共演できるなら仲のいい役で共演してみたいとコメントされていました。

そうなんですね! 仲のいい役…映画「テルマ&ルイーズ」みたいなイメージですかね。あっ、でも、2人で漫才をする役とかも面白そう。阿佐ヶ谷姉妹さんはもうドラマ化されてしまっているから、こまどり姉妹さんをモデルにした作品とかどうですかね。

◆ぜひ見てみたいです! 藤代は文乃だけでなく、妹である次女・千寿(水川あさみ)、三女の雛子(山本美月)とも骨肉の争いを繰り広げます。

千寿は次女のちゃっかりした感じがありますよね。最終的に一番おいしいところをとっていくんです。もし藤代が千寿みたいな性格だったら、そして総領娘じゃなかったら、矢島家はあそこまで揉めなかったでしょうね。きっと藤代自身も性格的に自分には総領娘は合わないと分かっているけど、総領娘になったからにはそう生きざるを得ないので、ぐちゃぐちゃになってしまったんですね。

『女系家族』寺島しのぶインタビュー

◆長女の呪縛にとらわれてしまっていると。

そうですね。藤代はお父さんとろくに会話もしてこなかったので、やっぱり寂しい思いをしていたんじゃないですかね。その点、千寿はしっかりした旦那さんもいて、“これから矢島商店をどうしようか”とちゃんと先のことを見据えている。なので、どう考えても千寿が仕切るのがいいはずなんですけど、藤代は代々の教えもあって“長女がしっかりやらなきゃいけない!”と変に気負ってしまっているんですよね。

◆いっぽう、末っ子である雛子については?

何といっても、雛子には叔母さん(渡辺えり)がバックについていますからね。叔母さんがいなければ、雛子は「私はもう、この家なんかどうでもいいから出ていく」と言ったと思うんです。そっちのほうが伸び伸びできるでしょうし。だけど、叔母さんから「それはダメよ!」と焚きつけられて、相続争いに参加せざるを得なくなった。

◆叔母の芳子は、雛子を操ることで遺産を狙っていますからね。

三姉妹みんな矢島家で戦っているんですけど、藤代がほかの2人と違うのは、1人ぼっちだということ。千寿には旦那さんがいて、雛子には叔母さんがついている。そういう寂しさもあって、藤代は芳三郎(伊藤英明)と恋愛関係になるんですけど…結局だまされてしまう。男を見る目ないんですよね。まぁ、私はそこも長女らしくて好きなんですけど。

◆脚本のト書きにも、“藤代はこの手の男に弱い”と書かれていましたね(笑)。

そうなんですよ(笑)。伊藤君も、これはだまされるだろうなというキラースマイルを何回も見せてきますからね。あのきれいな白い歯にはやられてしまいますよね(笑)。

『女系家族』寺島しのぶインタビュー

◆芳子役の渡辺えりさんとの掛け合いも、見応えがありそうですね。

これまで映像化された『女系家族』では、ここまで叔母さんは前に出てこなかったんじゃないですかね。以前のドラマでは、(芳子を)浅田美代子さんが演じられていました。だから最初、えりさんは「私は浅田美代子さんを意識して演じる」とおっしゃっていたんです。でもいざ現場に入ったら、言っていることとやっていることが全然違うんです。三姉妹よりも存在感が大きくて、全部持っていっちゃう(笑)。あのパワーは素晴らしいですね。

◆さすが渡辺さんですね(笑)。

特に稽古中は、散々笑わせてもらいました。えりさんはやり切る方なので、鶴橋監督もお手上げ状態(笑)。姉妹が主役の話なのに、叔母さんが一番前に出てくるという(笑)。でも叔母さんも、女系家族の中にいて“男に負けず、女が出なきゃ!”というところを読み込んでいるから“我がが、我がが”となるんですよね。だから、すごく説得力があるんです。三姉妹も“我がが、我がが”という感じだから、矢島家に帰ると常にギスギスした空気が漂っているんですけど(笑)。

◆三姉妹と叔母さんが能面をつけているシーンも印象的です。

意図は私にも分からないんですけど(笑)、鶴橋監督のト書きはそういうものなんです。おまけ的な感じでト書きを書くのではなく、監督が本当にやりたくて、映像にしたいことだから書く。必要でないように感じるところをあえて書く鶴橋監督が、私は大好きなんです。いきなり私たちが踊らなきゃいけないシーンなんて、監督が率先して撮影に臨んでいました。でも、撮影が終わった後の監督の満足そうな顔を見て、やっぱりやって良かったなと思いました。

『女系家族』寺島しのぶインタビュー

◆矢島家のような家庭環境は、家族の性格にも影響を及ぼすと思いますか?

思いますね。私は歌舞伎役者の家に生まれて“なぜウチは、男と女で対応がこんなにも違うんだろう”と思ったこともありました。何か、“生まれちゃった”という感じがします。藤代も、長女に“生まれちゃった”。演じれば演じるほど、藤代は本当に長女に向いていないなという思いが強くなりましたから。だけど、総領娘として振る舞わざるを得ないから頑張っちゃって、変な男につかまっちゃって…。でもお父さんは、藤代のそういう性格を見抜いていたんでしょうね。だから、直接伝えることはしなかったけど、藤代に合った指示を遺言として残してくれた。それがお父さんの最後の愛情なのかなと思いました。

◆もしも寺島さんが女系の家庭に生まれていたら、どんな性格になっていたと思いますか?

もう、ピンクの服ばっかり着ていたんじゃないですかね(笑)。私の幼少期は、母が男物みたいな服しか与えてくれなくて。スカートなんて穿いたことがなかったんです。今でも、男の人に囲まれているほうが楽なんですよね。女性らしい人を前にすると照れちゃう。どう接したらいいか、分からなくなっちゃいます。

◆2021年は出演映画も多く公開されました。振り返って、どんな一年でしたか?

作品ごとに新しい監督とお会いできてうれしかったです。若い監督や、面白い作品を撮る方だなと思っていた監督とご一緒できました。「キネマの神様」で山田洋次さんとも初めてご一緒できて、いろいろ挑戦できたのもいい経験になりました。2022年も、また新たな出会いがあるといいなと思います。

PROFILE

『女系家族』寺島しのぶインタビュー

寺島しのぶ
●てらじま・しのぶ…1972年12月28日生まれ。京都市出身。B型。日本アカデミー賞をはじめ、数々の映画賞を受賞してきた名俳優。今年は「ヤクザと家族 The Family」「Arc アーク」「キネマの神様」「空白」と、4本の出演映画が公開された。Netflixシリーズ『新聞記者』が2022年1月13日(木)より配信される。

番組情報

テレビ朝日 2夜連続ドラマスペシャル
山崎豊子『女系家族』
テレビ朝日系
12月4日(土)、5日(日)後9・00~

原作:山崎豊子『女系家族』(新潮文庫刊)
監督・脚本:鶴橋康夫
チーフプロデューサー:五十嵐文郎(テレビ朝日)
プロデューサー:船津浩一(テレビ朝日)、浜田壮瑛(テレビ朝日)、山形亮介(角川大映スタジオ)
出演:宮沢りえ 寺島しのぶ / 水川あさみ 山本美月 ・ 伊藤英明 余貴美子 ・ 渡辺えり 役所広司(特別出演) 奥田瑛二ほか

 

photo/関根和弘 text/林桃 hair&make/光倉カオル(dynamic) styling/中井綾子(crêpe) 衣装協力/ファビアナフィリッピ、TASAKI