『ファイトソング』武田梓P&岩崎愛奈Pインタビュー「最後まで大きく心が動くようなドラマにできれば」

特集・インタビュー
2022年03月14日

『ファイトソング』

3月15日(火)にいよいよ最終回を迎える『ファイトソング』(TBS系 毎週(火)後10・00~10・57)。3月8日に放送された第9話では、2年越しに再会した花枝(清原果耶)と芦田(間宮祥太朗)、そしてついに花枝に本気の恋心をぶつけた慎吾(菊池風磨)など、大きく変化した関係性が描かれた。最終回を目前に、プロデューサーの武田梓さんと岩崎愛奈さんから本作に込めた思いや終盤の見どころを聞きました。

◆清原さん、間宮さん、菊池さんの起用理由と、今の印象を教えてください。

武田:まず若い女の子主演で恋愛ドラマをやりたいという企画があったんです。お芝居がうまい清原さんを主役に置くことで、今までのいわゆる“火曜10時のラブコメ”のテンプレート的な流れが結構あったと思うんですが、その流れをいい意味で裏切ってくれそうというか。説得力のあるストーリーにできるんじゃないかとすごく期待していました。脚本も岡田(惠和)さんが担当されるというのは決まっていたので、ヒューマンな部分もしっかりと描いていけるようなドラマになると思っていて、今すごくうまくいっているのでよかったです。

◆間宮さんについてはいかがですか?

武田:清原さんの相手役ですし、お芝居はしっかりと確かな人でないといけないと思ったんです。そして、芦田っていうキャラクターが普通に演じるとすごく難しいんですよね。リアルになりすぎても良くないですし、芦田のキャラクター感というのがあるので、そういうリアルな人物像と、しっかりとエンターテインメントとしてキャラクターを演じられる、両方できる方にと思って。間宮さんはそのどちらもできる印象があるので、芦田という役を演じていただいてすごく助かっています。

◆菊池さんはどうでしょう?

武田:慎吾に関しては、岡田さんのイメージで、既にオレンジの髪色と書かれていましたし、とてもいい人。主人公に片思いをしていて、そのことを隠さずにどんどん言っていくっていうキャラクターと決まった段階で、キャスティングを考えました。単純に慎吾っていう役がハマりそうな人と考えた時、菊池さんがすごくいいなと思って、現場でもハマり役だなと見ております。期待どおりというか、期待以上で、台本から出てきたみたいな感じです。

◆ラブコメでありながら、ヒューマンドラマの要素もある本作ですが、この題材を選んだきっかけを教えてください。

武田:年齢が若い清原さんにやっていただくに当たって、これから何にでもなれる女の子なんですけど、何かを抱えている役がいいなと思ったんです。最初から決まっていたわけではないんですが、耳が聞こえなくなるかもしれない病気を抱えているという設定を花枝に持たせようとたどり着いて、相手役にはどういう人がいいのかとなった時に、ミュージシャンの人がいいんじゃないかとなりました。1話の最後に「スタートライン」をピアノで弾き語りするシーンは、すごくやりたかったんです。本当は、間宮さんはギターが得意なので、ギターで歌ってもらうことも考えたんですが、女の子に背を向けてピアノの弾き語りをするっていうのがすごくいいなと思って。相手の顔を見ずに不器用な男性がちゃんと背中を押してあげるというか、語りかけるみたいな場面が作れるなって。多くの人が歌に力をもらって頑張れたという経験があるでしょうし、主人公も相手役の設定もすごく特殊なんですけど、そういう音楽に背中を押されるみたいな経験は誰にでも共感できるところなのかなと思って、題材にできればなと思いました。

『ファイトソング』

◆主人公の“恋”について、どのように描こうと思われましたか?

武田:恋愛をしなくても生きているような女の子が自ら積極的に恋愛をしていくというところが狙いです。いわゆる“結婚しなきゃ”、“三十手前だから恋をしなきゃ”みたいな、恋をしないとじゃなくって、恋をしなくても人生を歩んでいける子があえて恋をしてみたいと思って恋をするっていうところがいいなと思っています。だからこそ恋愛以外の部分もしっかり描かないとそれは伝わらないですし、恋愛以外にもその向き合ってる壁みたいなものがあるからこそ、別にしなくても生きていける恋を主軸に置くことで、その恋がすごく輝いて見えるんじゃないかなと思っています。

◆花枝が育った施設の“家族”についてはどのように?

武田:岡田さんと打ち合わせしていくにつれて、主人公が養護施設で育ったという背景を入れたらどうかみたいな話になったんです。そこで、血のつながっている家族ではなくて、一緒に生きていく存在としての家族みたいなところをひとつ焦点に描けたらなと思いました。それこそ直美(稲森いずみ)さんや慎吾たちは、一緒に生きていく人という表現が正しい気がするんですけど、そういう存在を恋愛を通してだけじゃなくて、しっかりと描きたいなとは思うようになりました。

岩崎:家族を描きたいというより、武田が言ったように、大きな意味での愛情というか、それぞれを想い合う気持ち、恋だけじゃなく家族としての愛だったり、仲間としての愛だったり、兄弟のように育ってきた人たちの愛だったり、人物たちの間に流れているその愛情みたいなものをちょっとずつ形は違うけれど、大きな意味での愛みたいなものを描いていけたらいいなっていうのは思ってました。

『ファイトソング』

◆花枝と芦田の初々しい胸キュンシーンのこだわりを教えてください。

岩崎:2人とも恋愛初心者ということを大事にしているので、ピュアな部分は大事にしてます。不器用だけれど、初めて知った恋、“この人を好きだな”っていう気持ちに2人とも初めて遭遇するんです。今まで経験したことがなかった相手をとてもいとおしく思う気持ちとか、それによって心が動く様子をとにかく純粋に描きたいなっていうのを意識しています。普通だったら「キスしていいですか?」と聞いたりしないのかなとは思うんですけども、聞いてしまうかわいさとか、聞いた後にちょっと照れちゃう感じとか、そういった純粋な部分をとても大事にしています。

◆キャストの方にお話を聞いていると、菊池さんから次々とアドリブが飛び出してくるとのことですが、実際の現場の様子を教えてください。

武田:ハウスクリーニングをしているモンタージュシーンが菊池さんのクランクインだったんですが、その時から既に監督から「ここちょっとアドリブで歌いながら掃除してほしい」という指示が入ったんです。そういう歌いながら掃除するというシーンがそこから何シーンか続いて、そこでしっかりと慎吾っていうキャラクターが出来上がったなっていう感じがします。台本には歌いながらとは書いていなくて、ご機嫌で掃除するくらいの描かれ方だったんですけど、慎吾のキャラクターが確立されたので、6話の台本には「キャバクラの歌を慎吾が歌う」と書かれていて、菊池さんがその場で歌を作っていました。

◆慎吾のオレンジヘアやオレンジの服が好きな理由は、花枝がオレンジが好きだからじゃないかという憶測が視聴者の中であるようですが、実際はどうなんでしょうか?

岩崎:なんで、オレンジの髪にしたのか、さりげなく9話で明かされました。慎吾の長年の愛情や思いを感じられる理由があるんです。

『ファイトソング』

◆慎吾が花枝に、凛(藤原さくら)が慎吾に、迫(戸次重幸)さんが直美(稲森いずみ)さんにと、“好き”という矢印が向いていて、見ていてもどかしい気持ちになるシーンもあります。そのあたりはどのように描くことになりましたか?

武田:最近のドラマの傾向なのかもしれないんですが、このドラマもいい人しか出てこないので、自分じゃない誰かと戦うというよりか、自分と戦っている人が多いドラマにできればなと思っていました。そして、何か大きい事件が起こるとかでもないので、もちろん主人公が壁にぶつかることはあるんですけど、各々の心理的な部分をすごく丁寧に描けたらなと思いました。そうすると一人ひとりに好きな人がいて、その好きな人とどう向き合っていくかみたいなのはしっかり描いていければなと。

◆凛と慎吾の関係性がすごくいいなと思ったのですが、お2人のシーンで何か印象的だったシーンはありますか?

武田:凛と慎吾は8話の、片付けをしながら、花枝と芦田の話をするシーンはめちゃくちゃ名シーンで、本当にかわいらしいんです。最初の方はよくあるラブコメであまり者同士がくっついていくみたいな展開を、慎吾がすごく花枝に対して一途なので、そうはなってほしくないなと思いながら作っていました。ですが、やっぱり慎吾と凛がかわいくて、どんどん皆さんからも愛されていて、“この2人にくっついてほしい”みたいな声も意外と大きかったりするんです。それがうれしい誤算だなと思っていますね。あの2人のやりとりもそうですけど、6話のテントの中でのシーンで2人の寝相が一緒みたいなシーンはビジュアル的にもかわいくて、一緒に育ってきたんだなというのが感じられていいシーンだなと思いました。

◆間宮さんの歌声も本作の見どころのひとつかと思うのですが、お2人は間宮さんの歌声を知っていらっしゃったのでしょうか?

武田:朝ドラで歌っていたので、できない方ではないというのは知っていたんです。ただ、ミュージシャンの役ではあるんですけど、一発屋で今はもう売れていない役なので、歌ってもらうのが難しかったら、正直歌うシーンなしで成立させようと思っていました。そこで間宮さんの歌声を事前に聞かせてもらうために、何曲か歌をレコーディングしてもらい、その歌声が、すごく声が良くて歌も上手だったので、これだったらいけるなと感じました。そこから台本を今の感じに、しっかり歌うシーンを作っていきました。

岩崎:視聴者の方と同じく、私たちもあの歌声のきれいさに驚かされたというか衝撃を受けましたし、声質の良さに加えて俳優さんならではの表現力が歌に乗っかっていたので、私たちも心を動かされました。

◆岡田さんが紡ぎ出すせりふに共感できる部分が多いなと感じます。

武田:現場で清原さんも“めちゃくちゃ共感できる”って言われていたのが、4話の冒頭で芦田からキスされそうになった時にパンチで撃退した後に「女の子みんな同じじゃないんだから、そういうので喜ぶと思ったら大間違いだ」みたいなことをばーって語るシーン。そして、ただの胸キュンじゃないという点では、1話の最後に告白されて2話の頭で「好きな歌を歌ってもらった感動が今ので台無しだ」みたいなことをわーって言い返すシーンもそうですね。普通のドラマだとそのまま女の子がキュンとして話が進んでしまうような場面に、このドラマは“いや普通はないよ”というせりふが入っていて、そういうところは岡田さんの台本の良いところで、私たちも共感できるところだなと思いました。

岩崎:せりふに優しさや愛情がすごくあふれているなという瞬間がいっぱいあって。慎吾のひと言に、想いを積み重ねてきたからこそ紡ぎ出される言葉みたいな背景を感じるし、思いがとても乗っかっているのを感じるんです。だから花枝や芦田や慎吾が言っているせりふももちろんだし、それを見守る直美さんや迫さん、葉子(石田ひかり)さん、弓子(栗山千明)さんたち大人の言葉も、泣けてくるような優しさがあります。愛情を持ってそういう言葉を投げかけてくれているという、言葉に背景を感じるせりふっていうのは本当に魅力だなって思います。

◆せりふを提案されたりとかは?

武田:もちろんこういうシーンを入れたいとか、こういうことをこの人に言わせたいみたいなことは打ち合わせでお願いするんですけど、こういうせりふにしたいと一語一句指定することはあんまりないです。例えば、こういう雰囲気にしたいので、ここでちょっと花枝を元気づける慎吾っぽいひと言を言わせたいとお願いしたら、慎吾っぽいせりふがちゃんと返ってきて。それは岡田さんがキャラクターを分かってくださっているので、すごくありがたいです。

◆先ほど、菊池さんが歌うことが台本に反映されたとのことでしたが、他にドラマが放送されてから、キャラクターが踏襲されたところはありますか?

武田:結構ありますね。リアルタイムで撮影しているドラマなので、岡田さんがオンエアを見て取り入れてくださってることがあります。4話で芦田がムササビの真似をして飛ぶところは、間宮さんが現場で生み出した動きなんですけど、編集でそれをしつこいぐらい重ねたところは、すごく面白がってくださったのか、もう1回やってほしいということで6話のキャンプ場でのムササビが台本に落とし込まれていました。

◆岡田さんから感想をもらったシーンは、ほかにもありますか?

武田:4話の最後にカフェで芦田が花枝に曲を聞かせて途中で芦田が寝ちゃうシーンや、それこそ慎吾のアドリブの歌は台本にはないので、「すごく面白いですね」と言ってくださいました。台本にない工夫みたいなところを褒めていただくことが多いです。

『ファイトソング』

◆ムササビをもう一度やることになった時の間宮さん反応はいかがでしたか?

岩崎:ちょっと照れていた気がします(笑)。岡田さんをはじめ、スタッフもムササビを気に入っています。ちょっとスベって気まずそうにしている芦田も含めてかわいいっていう、間宮さんがあの動きとか表情とか全て含めて、すごく上手に作ってくれたと思っています。

◆最終回に向けての見どころをお願いいたします。

武田:我々も最後どういうふうに着地するか、まだ100%決まっていない状態ではあるんですが、最後は見ている人たちがみんな幸せになれればいいなと思っています。登場人物たちもみんなが幸せになれるような結末にしたいので、そこは楽しみに安心してご覧いただきたいです。最後まで大きく心が動くようなドラマにできればなと思うので、ぜひ楽しみにしていただければと思います。

岩崎:私も同じくなんですけど、登場人物に私たちもたくさんの愛情を注いで描いてきたので、それぞれがどんな幸せをつかむのか、どんな未来に向かって歩いていくのかをぜひ見届けてもらえたらうれしいなと思います。

PROFILE

武田梓
●たけだ・あずさ…2016 年にTBSテレビに入社。今作がチーフプロデューサーとして初めて手掛けた作品。

岩崎愛奈
●いわさき・あいな…2017年にTBSスパークルに入社。これまで手掛けた作品は『私の家政夫ナギサさん』『#家族募集します』など。

番組情報

『ファイトソング』
TBS系
毎週(火)後10・00~10・57

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