『クロサギ』プロデューサー・武田梓&那須田淳が語る最終回「黒崎の旅を一緒にたどりながら見てほしい」

特集・インタビュー
2022年12月20日
『クロサギ』©TBS

12月23日(金)に最終回を迎えるKing & Prince・平野紫耀主演の金曜ドラマ『クロサギ』(TBS系 毎週金曜 午後10時~10時54分)。12月16日放送の第9話で桂木(三浦友和)と決別し、日本最大手のメガバンク・ひまわり銀行執行役員・宝条(佐々木蔵之介)を喰うために動きだした黒崎(平野紫耀)。物語終盤、氷柱(黒島結菜)が何者かに誘拐されたところで終わった。最終回を目前に、プロデューサーの武田梓さん、那須田淳さんが、印象に残っているエピソードや見どころを語った。


◆御木本(坂東彌十郎)との戦いに決着が着いた5話以降、黒崎高志郎(平野紫耀)の新たな仇として宝条兼人(佐々木蔵之介)が登場。物語の前半戦と6話以降の後半戦、制作する上で意識したことはどんなことでしょうか。

武田:前作のドラマシリーズでは、まだ原作が完結していなかったこともあり、黒崎が御木本を倒すか倒さないかという展開の中で、結局決着がつかないところで終わっているんです。

今作は原作が完結した上でのドラマ化だったので、その決着までを描くというのを最初から強く打ち出してきました。完全版と銘打ってやるからには、ラスボスである宝条を倒すまでを描くことが結果的に黒崎と氷柱(黒島結菜)、そして桂木(三浦友和)との関係など、それぞれのキャラクターの決着みたいなものを宝条含め描いて、“クロサギ完全版”と言えるのかなと思っています。
視聴者の皆さんがラスボスだと思っていた御木本を黒崎が倒した後の後半戦で、さらなる敵が出くるとなったら、御木本の衝撃に匹敵するインパクトがないといけない。なので、宝条は登場したときにインパクトがあるような存在にしたいと意識していました。御木本は、詐欺師の世界の大物なので、遠い世界の人という印象があったと思います。ですが宝条は、詐欺師の世界に存在する側面だけではなく、実は自分たちの身近に、社会のなかに潜んでいるかもしれない存在であり、巨悪です。視聴者の皆さんがちゃんと心から「こいつ悪い奴だな」と思える存在にしたいと思いました。その方がより宝条にだまされた数々の被害者に共感してもらえるようになりますし、実際にこういう形で泣かされている人は多々いるかもしれないと思うので、“やっつけてほしい”と視聴者の皆さんが黒崎を応援したくなる敵にするということが後半のテーマでした。

那須田:“遠い”とか“近い”というのを違う角度から見ると、御木本の詐欺は、人の欲望を利用して、人のお金を巻き上げる詐欺師としてのダイレクトな動機なんですよね。次に現れた宝条は、お金に固執しているというよりは、お金を得ることで自分の社会に対する野望をかなえようとしている。詐欺はひとつの手段であるけれど、詐欺に頼ることで力を持ち、自分が世の中を変えてやろうという動機なので、そこが違うんです。御木本は彼の個人的な欲望で詐欺をやっているのに対し、宝条がやろうとしてることは、社会を変えてやろうというようなこと。そのためなら手段を選ばず詐欺をし、権力を奪取するのにお金を集めて自分の社会的地位も上げていく、社会の構図の中に宝条も組み込まれているわけです。

黒崎は、御木本のような詐欺師がいる限り自分の家族のように不幸になってしまう人がいるから、クロサギとして詐欺師を喰い尽くそうと思っている。しかし御木本を喰った後、もっと社会の中に根付いている悪い奴がいるということに気づき、戦い方のステージが変わっていくことに、自分の中で葛藤があります。世の中と向き合っていくときに、いろんな若い方々が社会に出ていく葛藤じゃないけど、自分の中でも整理のつかない葛藤と戦っている人たちが世の中にはたくさんいらっしゃると思います。氷柱や神志名(井之脇海)のように、世の中の秩序を守るのは法律に代表されること、例えば「正義」に代表される理想的なことで、それはそれで大事だけれども、その一方で果たしてそれで何ができるのか、全ては変えられるのか、守れるのか…。また宝条も、理想的な手段だけで何かを成し遂げることができるのかと考えているわけですよね。こういう答えの出ないものこそ、世の中に起こっていることとして照らし合わせられるものがいろいろあるんじゃないかと思います。そういうことを考えるきっかけにもなるのがエンタメの力かなとも思っています。

ただ黒崎が葛藤のせめぎ合いみたいなものを背負いながら、新たな敵・宝条をどうやっつけるのか、これらをどうエンターテインメントにしていくのかっていうのは難しいところではありました。ですが、その複雑な背景を背負っている構図をうまく楽しめるようにするのが後半戦の課題でもありましたし、そこでまた新しい形のエンタメができるのではないかと思い制作しました。

◆脚本を担当された篠﨑絵里子さんと最終回に向けて脚本を作り上げていく上で、意識したことはありますか?

武田:平野さんとお会いする前の初期の段階から、篠﨑さんとは『クロサギ』は“自分は一人だ”と思っている主人公の黒崎に、周りの人たちが「一人じゃないよ」と伝えていく物語だとは話していました。ドラマの前半は、その意味をあまり前面に打ち出しすぎずに作ってきたんですが、後半になってくるにつれ、独りで戦っている黒崎に対して周りの人が「一人じゃない」と言葉にせずとも伝えていくようなシーンが増えてきて、それは篠﨑さん自身も意識して書かれていたことなのではと思います。我々も作っていく上で、黒崎の“孤独な戦い”をどう応援してあげられるかというところは、意識していました。

那須田:氷柱が黒崎に発する「一人じゃない」という言葉は、実はものすごく大事なテーマなんですよね。孤独であるからこそ成り立っているような人生を歩んでいる黒崎だって、「一人じゃない」って言ってくれる人がいないといけないと思います。世の中には、まだまだ出会ってはいないけど、同じ思いを持った人たちはたくさんいるはず。「私、ぼっちかな」と思っている人も、社会に生きている限りは独りぼっちなわけじゃないと思うので、その独りじゃないということがどういうことなのかという部分も、ぜひ最終回を見て感じていただけたらうれしいです。ばらばらな小さな思いが、一つになって、力になっていくようなことはあるはずです。そういうことも、登場人物たちのなかに込められればと意識はしています。

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