本木雅弘、石田ゆり子と夫婦役演じた撮影振り返る「平尾(誠二)さんの思いと惠子さんの愛が映像にも宿った」「友情~平尾誠二と山中伸弥『最後の一年』~」

特集・インタビュー
2023年11月10日
左から)石田ゆり子、本木雅弘

現在のラグビー界の礎を築いたと言われる、ラグビー界の伝説“ミスター・ラグビー”平尾誠二さんと、「ヒトiPS細胞」の研究でノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥教授。そんな異なる分野で活躍する2人の知られざる友情物語をドラマ化した、テレビ朝日ドラマプレミアム「友情~平尾誠二と山中伸弥『最後の一年』~」(テレビ朝日系 午後9時~10時54分)が11月11日(土)放送。平尾さんを本木雅弘さんが、山中教授を滝藤賢一さんが演じることでも話題を呼んでいる。

今回は、そんな本作で主演を務める本木さんと、病と前向きに闘う夫を支え続けた妻・惠子役を演じる石田ゆり子さんにインタビュー。撮影時のエピソードや山中教授や惠子さんとのコミュニケーション、平尾さんと山中教授の“友情”から感じたことなどをお聞きしました。


◆最初にドラマのお話を聞いた時のお気持ちはいかがでしたか?

本木:ラグビー界のレジェンドである平尾さんを演じるというのは、まずはやはり畏れ多く感じました。顔が少しばかり似ているということでお誘いいただいたらしいのですが、現実とはあまりに掛け離れているといいますか、軟弱な自分が演じることでイメージを壊してしまわないか、と。実際、誰にも再現できない特異なオーラをお持ちですし、ひとつ時代を動かした偉人ということで、かなり躊躇したというのが正直なところです。

石田:私は、お話を頂いた時に本木さんと滝藤さんが平尾さんと山中先生を演じられるというのをお聞きして、これは素晴らしい作品になるのだろうなと確信し、なんとかご一緒させていただきたいとお返事をしました。ただ実話がベースということと、私が演じる惠子さんは今現在いらっしゃる方であり、こういう役柄を演じるのは毎回とても緊張するんです。皆さんに失礼があってはいけないと、本当に私でいいのだろうかというプレッシャーも感じつつ、ぜひやらせていただきたいなと感じたことを覚えています。

◆本作の撮影に当たり、山中先生が現場にいらしたということで、その際はどのようなことをお話されたのでしょうか。

本木:山中先生は撮影終盤で現場に立ち寄ってくださり、短い時間ではありますがお会いすることができました。カットごとに撮り重ねていくドラマの撮影手法に興味を示されていたというのと、滝藤さんと双子のように並んでいる姿というのは面白かったですね(笑)。僕もいろいろなことを矢継ぎ早にお話させていただく中で、闘病中の平尾さんというのは本当に翳りがなかったのか、時に弱さが垣間見える部分があったりしたのか、とお聞きしたのですが、すると“これがガン患者の病室なのか、というぐらいに本当に最後まで明るい空気だった”とおっしゃられたんです。病と闘う中で、どうしたらそのようにいられるのだろう、とあらためて驚きと敬意を感じました。

◆クランクインの際、本木さんは平尾さんのご家族ともお会いされたとお聞きしました。

本木:はい。本作のクランクインは平尾さんが30年間通った神戸の灘浜グラウンドで迎えたのですが、カメラマンの岡村啓嗣さんがつないでくださり、そこで惠子さんとご子女の早紀さん、ご子息の昴大さんにお会いすることができました。惠子さんは今回のドラマ化を半年以上悩まれ、やっと決断に至ったというような、おそらく複雑な思いもあった中でロケを見に来てくださって…。ひと口にすてきな方で、石田さんともおおいに通じる部分があるなと感じました。しっとりとしてかわいらしく、同時に芯の強さを感じるところの印象が似ているな、と。ある種、平尾さんと同じようにブレなさのある方で、こうして平尾さんを支えられていたのだなというのが見えた気がしました。また、今回平尾さんを演じるに当たり、闘病中も明るく自然体だったということはお聞きしていたものの、それをどのようなトーンで表現したらいいのだろう、と当初から悩んでいたんです。そこで、惠子さんに平尾さんが普段どのような方だったのかお伺いしたところ、“とても優しく、柔らかく言葉を投げるんです”ということを教えてくださって。それが自分の中では新鮮な平尾さんのイメージでしたので、お芝居に取り入れています。

◆石田さんは、惠子さんとお会いする機会はあったのでしょうか。

石田:私もお会いしたかったのですが、実はお会いできていないんです。ですので、人づてに惠子さんにまつわるお話をたくさんお聞きして、自分なりにイメージを膨らませながら演じさせていただきました。中でも、今回副院長役を演じられる賀来千香子さんが惠子さんと以前から親交があり、「私は主人のことが大好き」とはっきりおっしゃるような愛にあふれた方、と教えていただいたんですね。ただ、原作の中では静かに平尾さんのそばにいらっしゃるイメージで描かれていたので、その塩梅をどう表現したらいいのだろうと考えることもあったのですが、現場で本木さんが平尾さんとしていてくださったことで、自然と演じられた気がしています。

本木:僕も、石田さん演じる惠子さんと感情のキャッチボールをする時に、柔らかく、しなやかに交感するという雰囲気をイメージしながらやりました。石田さんの声や気遣いもあり、自画自賛ではありますが、それがごく自然にできていたのではないかなと思っています。

◆夫婦役を演じるに当たって今回、何か意識的にされたことなどはあるのでしょうか。

本木:僕は、撮影中はにわか“ゆりゆりファン”となり(笑)、石田さんのInstagramを拝見したり、大橋トリオさんがプロデュースされたアルバムを聞いたりしていました。平尾さんはとても愛嬌があり、普通の人は照れてしまうようなせりふもサラっと言えるお茶目さがあったとお聞きしていたので、それに倣って…ではないですが、僕も石田さんに喜んでもらえるようアルバムの歌をこっそり覚えまして。あるシーンで車の中に2人でいる時に急にそれを歌いだし、石田さんをハッとさせてみたりもしました(笑)。

石田:そうですね(笑)。そんな本木さんのお気遣いもあり、撮影期間はいつも幸せで、平尾さんから愛されている感覚がありました。

本木:石田さんとは昔ドラマで1度だけご一緒したことがあり、今回が30年ぶりぐらいの共演だったのですが、新しい石田さんを知り、距離感を急激に縮めていくワクワク感というのは、平尾さんと惠子さん夫婦のいつまでも初々しい感じともどこか似ているのかな、と。夫婦って、長年連れ添っていると見つめ合うつもりで実は目線が合っていない、なんてことがあると思うんです。でも、2人の場合はしっかりと最後まで目が合っていて、言葉なくしてもシンパシーが対流している、そんな気がしています。

石田:私から見ても、本当に理想の夫婦ですね。

◆本作を通じ、平尾さんと山中先生の“友情”から感じたことは?

本木:ご本人も驚かれていましたが、もう既に立場のある多忙なお2人が、利害関係なしに友情を結んでいくというのがとてもすてきですよね。お2人とも偉大な方ですが、その分きっと孤独を感じることも多くあり、そういう面でも共鳴するものがあったんじゃないかな、と。そして、原作でも書かれていますが、平尾さんは自然な求心力をお持ちで、さまざまなジャンルの方々と交流を深めました。そんな中、平尾さんは闘病生活を送り人生を締めくくりますが、最後に天から遣わされた使者が山中さんだったんじゃないかな、と。平尾さんが平尾さんらしさを全うできるように贈られた存在だったのかも、というふうに感じています。

石田:この作品は『友情』というタイトルではありますが、決してベタベタな友情を描いているわけではなく、1年間という長くはない時間の中で、何かに導かれるようにひかれ合った2人の不思議な物語でもあると思うんです。そして、これは本木さんなのか平尾さんなのか、滝藤さんなのか山中先生なのか、その境目が分からなくなるような、ゾワゾワとした感覚というのをいつも感じていました。

本木:でも、平尾さんと山中先生だけでなく、惠子さんと(山中先生の妻の)知佳さんという女性たちの友情も描かれているよね。

石田:はい。男女4人の友情物語でもあるのかなと思っています。(知佳を演じる)吉瀬美智子さんとは初めてお会いしたのですが、決してそうではない感覚を覚えましたし、本当にすてきな4人組で、幸せな撮影期間を過ごすことができました。

本木:正直、特別なせりふが出てくるようなドラマではなく、割とシンプルなやり取りで物語が展開するのですが、その言葉の前後に漂っているものこそが、このドラマのエッセンスなんじゃないかなと思っています。

◆劇中で特に心に残っているシーンを挙げていただくと…?

本木:山中先生とのシーンはもちろん、惠子さんとのシーンにも印象深いものが多く、2人で月を眺めたり、結婚28周年の宴を終えてひっそりと2人で寄り添う様子など、このドラマにおけるラブシーンというのが登場します。この作品ではご遺族のご厚意で平尾さんの遺品をいくつかお借りしているのですが、そのうちの1つがこのシーンで着ているフリースなんです。平尾さんが付けていたコロンの香りが残っていて、皮膚のように体温を感じることができる大変貴重なものでしたので、本当に大事な場面だけで使いたいなと考えていて。別のシーンでは全く同じものの新品を使い、本物は惠子さんとのシーンでしか着ていないんです。そのお力もあり、平尾さんの思いと惠子さんの愛が、映像にも宿ったのではないかなと思っています。

石田:私にとっても、そのシーンはとても印象深く残っています。とても美しい夕焼けが出ていた日で、本木さんが着替えてこられた時に、ふわっと私を抱きしめてパワーを分けてくださったんです。演出の藤田(明二)さんのご希望もあり、劇中ではどんなにつらいシーンでも涙を流すことをしていないのですが、その時ばかりは平尾さんご本人に抱きしめられたような感覚がして、涙があふれそうになりました。

◆最後に、読者に向けて本作のアピールをお願い致します。

本木:平尾さんと山中先生が出会ったことがまず奇跡的ですし、そこで結ばれた友情が闘病を伴走する関係性に変わっていったということも含め、平尾さんが生前おっしゃっていた“楕円のボールというのはどこに飛んでいくか分からない、それは人生も同じだ”という言葉につながっていると思います。どんなに理不尽なことが起きても、嘆き悲しむのではなくそれを受け入れ、別の視点から捉えて生きるパワーや気づきに変えていこう、と。平尾さんはまさにそれを体現された方であり、このドラマを通じ、皆さんにも生きる喜びというのを再確認していただけるのではないかなと思います。

石田:このドラマでは、53歳という若さで亡くなってしまったラグビー界の伝説・平尾さんと、「ヒトiPS細胞」でノーベル賞を受賞した山中先生という、とても稀有な才能を持った2人の友情が描かれていますが、おそらくどのような方にも当てはまる物語です。“生きている”というのはそれだけでこんなに美しいことなんだ、ということを誰しもが感じられると思いますし、一瞬一瞬を凝視してしまうようなドラマになっています。すごくドラマチックな展開があるかというとそうでもなく、病気になられて亡くなってしまうという、悲しいけれど誰しもが最後にたどる道のりを描いているのですが、本木さんと滝藤さんをはじめとする皆さんのお芝居が素晴らしく、どのシーンからも目が離せないんです。今生きているこの世の中は決して悪いところではないのだなと、そんなふうに感じていただけたらうれしいです。

左から)石田ゆり子、本木雅弘

番組情報

テレビ朝日ドラマプレミアム
「友情~平尾誠二と山中伸弥『最後の一年』~」
テレビ朝日系
2023年11月11日(土)午後9時~10時54分

原作:山中伸弥/平尾誠二・惠子 著「友情 平尾誠二と山中伸弥『最後の一年』」(講談社刊)
脚本:吉田紀子
チーフプロデューサー:五十嵐文郎(テレビ朝日)
プロデューサー:中込卓也(テレビ朝日)、後藤達哉(テレビ朝日)
山形亮介(KADOKAWA)、新井宏美(KADOKAWA)
監督:藤田明二(テレビ朝日)
制作協力:KADOKAWA
制作著作:テレビ朝日

●text/片岡聡恵 hair&make/原田ゆかり(MARVEE)(本木)、岡野瑞恵(石田) styling/藤井享子(石田) 衣装協力/support surface、SOURCE、himie(石田)