緒方恵美「多くの人を楽しませたいし、力になりたい。そうした《エールロック》の精神を、いつも、いつでも」

特集・インタビュー
2021年06月03日

◆確かに、今回の自伝にも書かれている、『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』の収録後に慟哭したり、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』でラストシーンを録り終えた後にその場に倒れ込んだというエピソードは、声優や役者の仕事の壮絶さを感じ、衝撃的でもありました。

ありがとうございます。でも、あのシーンの(碇)シンジは全てを使い果たしているから、私も使い果たさないとおかしいですよね(笑)。

◆また、話は変わりますが、緒方さんは若手声優のために無料の私塾「Team BareboAt」を2019年に立ち上げました。本書でもそのことについて書かれていますが、設立から2年たった今、どのような手応えを感じていらっしゃいますか?

私塾はいろんな意味でプラスとマイナスがあります。マイナスは、全部私の持ち出しなので主に金銭的なことなんですけどね(笑)。それに、これからという時にコロナ禍になり、精神的にもかなりつらい面がありました。でも、そういったマイナス面を引き換えにしても、若手に何かを教えること、伝えることはプラスの部分がとても大きいと感じています。誰かにものを教える行為は、指先が自分にも向くので、己自身の学びにもなりますから。また、仲のいい演出家であったり、役者やシンガーの友達であったり、志が同じ人たちと一緒に何かをするという経験ができていることもすごくよかった。何より、塾生たちが、日々少しずつ進化していく様子を感じられることが一番です。

◆そして、緒方さんの活動を語る上で欠かせない要素の1つに音楽もあります。緒方さんにとって音楽での表現の場はどのような存在なのでしょう?

音楽一家に育ちましたので、昔から音楽は私の生活の一部でした。それを仕事にし続けたいと今思っている理由は明白で…役者というものは自分で作・演出をしない限り、依頼がないと職業としてはほぼ何もできないのに対して、歌や音楽活動は自分自身の感情や思いを、もっと直接的に形にして届けることができるから。タイムリーに自分が思っている大切なことを音や言葉にし、伝えていける。アルバムもそのような思いの下で作っていますし、特に先日リリースした「劇薬 -Dramatic Medicine-」はコロナ禍の中で制作した一枚ですので、まさに今の私――「生きよう」「生きて今、ここにいてくれてうれしい」という思いが強く投影されています。

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